【12】
朝食を食べ終えた俺たちは、早々と宿屋を出て城門へと向かう事にしたのである。
最後まで宿屋の支配人は顔を引きつりながら、俺たちを見送ってくれていた。
朝早く。と言う事もあって城門で見張りをしている兵士は何処と無く暇そうにしていた。
「おっはようございまちゅ!!」
元気良く挨拶するウォルガフに、見張りの兵士も吊られて元気よく挨拶していた。
昨日乗り物屋でもらった『引き取り書』を見張りの兵士に渡すと、城門から少し離れた場所に俺たちを案内してくれるのであった。
約束通り話しを通してくれていたようだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「……マジかよ」
喜ぶウォルガフに、驚く俺。
確かにあの時、ロジェを問い詰めて聞き出さなくて良かったと思った。
「なぁっリュウイさん、楽しみにとっておいて良かっただろ?」
「あぁ……確かにロジェの言う通りだったな」
目の前に置かれているのは、二人乗り用の乗り物であった。
フレームにタイヤ、椅子までもが木で出来ておりステアリングホイール要するにハンドルだな。
更に、右足アクセルペダル・左足ブレーキペダルの3点までもが木を使用しており、さながら木で出来たゴーカートみたい。
と言うのが第一印象だった。
「なぁロジェ、これはどうやって動くんだ」
「そんな野暮な事聞くなよ」
ロジェは呆れながらもそう言ってはいるが、これはこれで好奇心が芽生える。
普通、木で出来たゴーカートなんて物実物で拝見する事などまずないのだから。
良く良く観察していくと、エンジンルームには大きな魔法石がはめ込まれており俺が杖に使っている宝石と酷似していた。
魔法石と宝石は元々魔石と呼ばれる一つの鉱石で出来上がっており、簡単に言えば魔力を溜め込み放出しやすいように拳代ぐらいの大きさに改良されたのが、宝石と呼ばれている物である。
魔法石は、魔石を一回のみ使用できる使い切りタイプと繰り返し使えるタイプがある。
例えるなら、陽が暮れでは灯りを必要としその時に使用するのが、繰り返し使えるタイプの魔法石を使い辺りを照らす光源として使用するのである。
要するに、日常生活に必要な場合は魔法石を使っている。と言うのが一番わかりやすいかもしれない。
だから、エンジンとして使われているのは魔法石である。
しかしこの魔法石は結構大きく、よく見つける事が出来たなと感心してしまう程だ。
魔法石には、魔力が送り込まれている事は見てすぐにわかった。
燃えたぎるような赤色が、出発はまだか? と急かしているようにも見えた。
ゴーカートで出発するのはいいが、帰りはどうするのだろうか? と言う疑問が脳裏をよぎった。
帰りは、帰還の葉でマイホームに戻るか、ポータルの石でここに戻って来た方が一瞬で済むのだが……
「なぁロジェ帰りはどうするんだ? また、これに乗って帰るのか?」
「いや、昨日の時点で乗り捨てで。と言っているから大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか?
乗り捨て?
それは流石に勿体無いだろ。
あぁ、後で昨日のお姉さんが回収に来るのか?
……それもなんか悪いな。
ロジェが教えてくれないので、勝手に結論を出し納得する事にした。
「よちぃっ、リュウイたん行きまちゅよっ!!」
ウォルガフの言葉に、あぁと返事をしながら振り返ると既にウォルガフは運転席に乗り込みハンドルを握りしめていた。
そして、負け時とロジェももう一台のゴーカートの運転席に乗り込んでいたのであった。
「君たち運転出来るの?」
「勿論だっ!!」
「勿論でちゅっ!!」
うわぁ〜超嫌な予感しかしない。
ウォルガフの後ろに乗るか、ロジェの後ろに乗るか……
二人の顔を見ながら考えいた。
ウォルガフはこう言う乗り物は大好物のはずだ。
となれば当然猛スピードで駆け抜けるだろう。
ではロジェはどうだ?
ウォルガフと違い安全運転で進んでくれる可能性は大いにある。
……
だが、ウォルガフの行動にロジェが感化された時どうなる?
どっちに乗っても変わらないな。
そして、グゥさんはきっとウォルガフの後ろに乗り込むだろう。
となれば……
俺はロジェの後ろに乗り込むのが妥当かな。
そう結論を出し、ロジェの後ろに乗り込もうとしたのであった。
「なんでぇ、ぼくの後ろに乗らないのでちゅか?」
当然俺がウォルガフの後ろに乗り込むと思っていたのだろう。
ウォルガフは不満気に呟ていた。
「いや、ウォルガフの後ろはグゥさんが乗るかと思って……」
そう言いながら、グゥの方に視線をずらすとグゥは乗り込まずに青ざめていた。
「グゥさん?」
「グゥたん?」
「どうした?」
「ねぇっこれって、安全なの?」
グゥの疑問は最もだ。
だが、お金を払っている以上それを商売としている。
だから、当然安全性は確保されていると俺は思っていた。
「これ……ヒューマンの遺産を私たち魔族が改造した物よね?」
「えっ!?
そうなの?」
思わず、ロジェの方に振り向き確認してしまった。
ロジェはバレちゃったと言う顔をしながら俺を見つめていた。
と言うかロジェ、何故そうまでして俺に隠したがる?
「確かにこれは元ヒューマンの乗り物だよ。でも専門の乗り物屋さんが改造して安全に移動出るようになっているから、大丈夫だよ。グゥさん」
「……」
ロジェの言葉にグゥは黙ったまま考えていた。
「はゃくいこぉよぉぉぉ〜」
ウォルガフはもう待ちくたびれてしまったらしい。
「グゥたん、ぼくやロジェたんが運転ちゅるから大丈夫でちゅよ」
「……ウォルガフちゃんがそう言うなら……」
当たり前のようにグゥはウォルガフの後ろに乗り込んで行くのであった。
「おい、ロジェ。道中これについて詳しく説明してもらうからな」
「……わかったよ」
俺もロジェの後ろに乗り込んで行くのであった。
「じゃ出発ちぃまちゅ〜〜!!」
「おうっ」
ウォルガフとロジェの言葉をゴーカートはゆっくりと進んで行く。
馬よりも早いスピードは猛スピードと言う感じではなかった。
全身に当たる風は暖かく気持ち良かった。
ウォルガフとグゥは既にドライブデートムード満載だった。
「風気持ちいいわね」
「うちゅっ!!」
意外だった。
ウォルガフの事だから最初からアクセル全開だと思っていたのだが、紳士的な運転な事に思わず感心してしまった。
ドライブデートムード全開のあの二人は置いておき、俺はロジェを問い詰める事にした。
「……で、詳しく説明してもらおうか?」
「……」
「この乗り物について、ロジェは知っているんだよな」
「まぁ知っているけど…」
「秘密主義もいいけど、程々にしないと俺にだって考えがあるぞ」
「例えば……?」
「おやつ抜きとか?」
「それは困るっ!!」
軽い冗談で言ったのだが、ロジェには冗談では済まなかったらしい。
慌ててこの乗り物について説明してくれたのである。
どうやらこの乗り物の正式名称は『カーウィング』と言うらしい。
グゥが指摘した通りカーウィングは、ヒューマンが滅亡する以前からある物なのは間違いないとの事だ。
その名を、ウィングカー。
「ウィングカーって……」
それは、元々オブジェとして飾られる家具アイテムで、確か限定五個しか配信されなかった最高位に入る程のレアアイテムだ。
俺ですら、実物は見た事はない。
更にロジェの話しを聞いて行くと……
なんでもヒューマンが滅亡した後、建物は放棄され当然誰も手をつける事はなかったのである。
当然長い年月と共に、建物は崩壊し瓦礫と化して行く。
瓦礫と化した後暫くはそのまま放置されていたのだが、収集を目的とした一部の魔族たちは何かここにお宝が眠っているのではないか? と期待を込めながら瓦礫の山を掘る事にしたのである。
すると大量に見た事もないアイテムが発掘され目を輝かせていたらしい。
その中で、魔法都市フェィオンにいた魔族の一人がウィングカーに目をつけ、これは改良すれば馬を超える移動力を秘めているのではないだろうか? と疑問に思ったのである。
それがカーウィングの開発者。
試行錯誤を繰り返しながらもカーウィングは魔力を使って少しずつ動き始め、更なる改良によって今では目的地まで使い切りタイプの魔力を搭載しているらしい。
要するにモデルとなったウィングカーは俺に言わせればただの飾りだった家具アイテム。
それを改良して出来上がったのがカーウィング。
今では、魔法都市フェィオンで大人気となり大量生産されているとの事だ。
「確かに最初に訪れた時、俺のマイホームは何もない空き地だったな」
「あそこは未開の地だからただの風化による物かと……」
「そうか……」
短く答えながらも、アイテムボックスに入れて置けば良かったと後悔していた。
最も、こんな事になるなんて誰も予想出来なかった事だし仕方ないのだけど。
やはり家具に力を入れていた俺としては、消えてしまったと言う事実が悲しい。
納得したかい? と言うロジェの言葉に俺は頷く事しか出来なかった。
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カーウィングは一定の速度でカルヴァ地域を目指していた。
辺りは既に海岸線を走り、右を向けば山。左を向けば広大な海が広がっていた。
そう言えば海に来るのは、始めてかもな。
砂浜でウォルガフはきっと、スイカ割りをしたり波に攫われたりするのだろうか? 等と考えていると、海岸線の水平線上に赤く光輝く物体を目視する事が出来たのである。
「なんだあれは?」
俺の指差す方向にロジェは既に気がついていたようだ。
ウォルガフと話しを始めている。
「ウォルガフ、少し急ごう」
「そうでちゅね」
二人共何が起こっているのか理解しているようだ。
「少し飛ばすよ」
しっかり捕まっていてね。
という言葉が掠れ気味に聞こえた頃、ロジェはアクセルを深く踏み込んでいた。
「ひゃっほぉぉぉぉぉでちゅゅゅゅゅ!!」
ウォルガフもロジェに負けず劣らず猛スピードであった。
なのに……
なぜそんなに楽しそうなんだ!?
後ろにしがみついている俺とグゥには余裕がないと言うのに、二人には何故か余裕の会話を繰り広げていた。
「ロジェたん、先にどっちが着くか競争でちゅ!!」
「負けないぞ!!」
「ぼくだって!!」
更にアクセルを踏み込む二人……
アクセル全開のまま直線を突き進むのである。
時には曲がり角では、スピードを一度も落とす事なく進入。
ガードレールに木の車体を擦り減らしながら……
例えるなら、カンナで木の車体は削り取られて行く。そんな感じだ。
ガードレールなんてあるんだ。と確かに一瞬そう思った。
だが、ウォルガフやロジェみたいに猛スピードで駆け抜けて行く魔族が、たくさんいるから安全の為に設置したに違いない。と勝手に解釈しておいた。
更に……爆走は止まらなかった。
幾度もある起伏をスピードを落とさないで突き進めば、当然車体は宙を浮く。
木で出来ている以上、軽いのだ。
起伏ゾーンでは永遠と空に浮いたり、着地する時に生じる激しい衝撃に身体は揺られていた。
「おっおい、もう少しスピード……落とせ……」
辛うじて言えた言葉だったのだか、ロジェは俺の顔を見もせず真剣な眼差しで前を見ていた。
「ウォルガフには負けられない!!」
「……」
僅か五分間と言う短い走行距離にも関わらず、既に疲れ果ててしまった。
カーウィングから降りた時、足元は定まらずフラフラ状態……
因みに、勝負の結果は同時ゴールである。
「ふぅ〜楽ちぃかったでちゅ!!」
平気な顔をしながら、ピョンと飛びながら降りて来るウォルガフ。
「勝負つかずだったな」
悔しそうな顔をしているロジェ。
「楽しかったわぁ〜」
余裕がないように見えていたグゥは平然と降りて来ていた。
「リュウイたん、次は一緒にドライブちぃまちょうね!」
「……絶対、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶっちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
俺の叫び声と、ウォルガフの叫び声が辺りを響き渡せるのであった。
なんとか目的地としていた、カルヴァ地域の灯台に到着する事が出来た。
先ほど目視した赤く光輝く物体はこの灯台から海の方に向かって光放っているようにだ。
そしてその光は、急速に小さくなっていく。
「来るぞっ!!」
ロジェの声にグゥは戦闘態勢へ。
俺とウォルガフは今だに一緒に乗る、乗らないの口論を繰り広げていた。




