【11】
ランクアップ出来る場所はフェィオンの中央広場にあった。
観光の目玉なのだろうか? 魔族(人)だかりが結構多かった。
石のレンガで出来た四角い建物。
その上には大きな砂時計の形をしてのが置かれ、砂は静かに落ちていた。
なんでも砂が全部落ち切ると城門を閉じるそうだ。
グゥが張り切ってドアを開け中に入って行き、ウォルガフも中へと入って行く。
そして、俺も後ろから建物の内部へと足を踏み入れようとした時……
危険!! 危険!!
と知らせるかのように身体が、入る事を拒絶していたのである。
それと同時に、この感覚に見覚えがあった。
「どうしたの?」
「うちゅ?」
建物の内部から俺が中に入ってこない事を不思議に思い、心配そうに声をかけてくる二人。
「……グゥさん俺は、この中に入らない方がいいと思います」
「どうしてかしら?」
「魔導師になれるかどうか……確かに試して見たいと思います。でも一歩足を踏み入れると、取り返しのつかない事が起きそうな気がするんです」
「……」
察してくれたのか、グゥはそれ以上追求してくる事はなかった。
ありがたい事だ。
「わかったわ。じゃウォルガフちゃん立ち会ってね」
「うちゅっ!!」
ラジャと言わんばかりのウォルガフ。
俺には、既に中に入っているウォルガフをここから逃げ出さないようにと、念を押したようにしか見えなかったけどな。
ウォルガフとグゥが中に入り、ドアは静かに閉じて行くのであった。
「……」
二人が出てくるまでここで待っていても良かった。
だが、俺の足元で入るタイミングを逃してしまったロジェの姿を発見するのであった。
「ロジェはランクアップしないのか?」
「……俺だって空気は読めるよ」
ロジェは、俺の顔を見上げながら『何言っているんだ、こいつ』的な顔でそう言っていた。
……ロジェは、グゥさんに気を使ったって所か。
確かに二人きりになるって事あまりないしな。
ウォルガフがグゥさんの事をどう思っているのかはわからないが、気まずい雰囲気にならない事だけ祈っておこう。
「じゃ二人が出てくるまで、ここで待っていようか?」
「いや、明日の為に行きたい所があるんだ。一緒に来てくれ」
「??」
どうせ、おやつを買いに行くんだろうなぁ〜
と思いながら俺はロジェと共に商店街へと歩いて行くのである。
思えば、ロジェと共に行動するのはこれが、始めてかもしれない。
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ロジェの行きたいと言う場所は、乗り物屋だった。
ムーンフェイズにある騎獣貸出屋ではなく乗り物屋だ。
どうでもいい話だが、ムーンフェイズには乗り物屋はない。
フェィオンにも騎獣貸出屋はあるが、乗り物屋の方が主に主流との事だ。
店の中は、騎獣はおろか馬すらいない。
木で出来たガラクタにしか見えない物が、所狭しと散乱していたのであった。
本当にここは乗り物屋なのか? と疑問に思ってしまった。
「いらっしゃいませ〜」
ムーンサン族の女の人が俺たちに気がつき、奥の方から顏を出してきた。
「明日の朝一でカルヴァ地域に行きたいんだけど、二人乗り用を二台用意出来る?」
「勿論出来るわよ。帰りはどうするの?」
「帰りはいらないから、乗り捨てで」
「おっけぇ〜」
女の人とロジェの間で、俺にはわからない会話が永遠と繰り広げられていた。
ムーンフェイズで防具を買った時もそうだったが、ロジェは肝心な事を俺には教えてくれない。
俺を驚かせようとしているのか?
それとも説明が面倒いのかどっちなのだろう……
「じゃ明日城門の方に用意しておくから、この紙を見張り兵に渡して」
「うん、わかった」
ドンドンと話しが進んで行くな。
「金額はどれくらい?」
「カルヴァ地域だから、二台で金貨一枚ね」
「リュウイさん、金貨一枚払ってくれるかい?」
ここで漸く俺の出番らしい。
って俺は金払う為だけに連れて来られたのかっ。
まぁ、ロジェのお金も何故か俺が管理しているからいいけどさ。
「お金払うのはいいけど、ロジェ。俺は、説明をお願いしたい……」
「それは、明日のお楽しみにとって置いた方がいいよ」
「うぅ……」
「どうしても今知りたいと言うのなら説明するけど、実物をみた方がカッコイイよ」
「わかった。明日の楽しみにとっておく」
ロジェの後ろ姿は、ルンルンと音符を出していた。
まぁ、楽しそうにしている事から変な物じゃない。
と言うのはわかるが、やはり気になるじゃないか……
金貨一枚支払い、『引き取り書』と書かれた紙を受け取った俺たちは店から出てきたのであった。
「さてと、ロジェこれからどうする? 一度戻ってみるか?」
俺の声かけにロジェは、気がついてはいなかった。
ロジェは、道ゆく親子が持っているクルクル巻いてある食べ物を羨ましそうに見ていたのであった。
「あっごめんリュウイさん。なんだっけ?」
ハッと我に返ったかのようにロジェは、俺の所に慌てて追い掛けてきたのである。
「……ベンチで座ってて」
「?」
ロジェをベンチに座り待っている間に俺は、先ほどの親子が食べていたと思われる露店を見つける事が出来た。
と言うか、すぐ側にあった。
それを二本買いロジェの元へと戻ったのである。
ロジェは俺に言われた通りベンチに座り足をブラブラと揺らし宙に浮かせながら待っていてくれた。
「ほい、ロジェ」
「!?」
食べたかった物が、突如目の前に現れロジェは目を丸くし驚いていた。
「よっよく俺がこれを食べたいって言うのがわかったね……」
「……まぁね」
いやいや、あれだけ物欲しそうな顏をしていたら誰でもわかるから……
ロジェは俺から食べ物を受け取り美味しそう食べ始める。
それに吊られて俺も一口頬張る。
おっ、形は悪いが意外と美味しいなこれ。
あっという間に食べ終わると暇を持て余し始めた。
「遅いな。ウォルガフたち」
「……そうだね」
ロジェはウォルガフみたいにはしゃぎ回らなかった。
絶対ウォルガフなら次はこれが食べたい。あれも食べたいと言うだろう。
ウォルガフの方が年上と言うのを以前聞いてはいたが、ロジェの方が遥かに年上に思えてしまうな。
「あぁぁぁリュウイたん発見〜!!」
ウォルガフの声が後方から聞こえてきた。
「こんな所にいたんでちゅね!!」
「もぅ探したわよ」
どうやら俺たちが場所を離れてしまって、探していたようだ。
あっ戻るの忘れていた……
「ごめん。それで、グゥさんランクアップ出来たの?」
「出来そうだったけど、今は辞めてきたわ」
「へっ?」
グゥはランクアップ条件を満たし、賢者になれるそうだ。
だが、ランクアップすればLevelが1に戻ってしまう。
明日には、カルヴァ地域に行き依頼を達成させなければならない。
だから、それが終わってからまたフェィオンに戻りランクアップ手続きを行い、再びカルヴァ地域に戻りたいとの事だった。
「またここに戻って、また行くの? 随分面倒い事するんだな」
「そう言うと思って、先にこれを買っておいたわ」
グゥが出してきたのは、魔法陣が書かれていた手のひらサイズの小さな四角い石だった。
「なにこれ?」
「これは……」
ポータルの石と呼ばれ一回しか使えない代物だが、これを使えば一瞬で街に戻る事が出来る移動アイテムとの事だ。
各街で売られており、色々と制約がある。
フェィオンで、買う場合。
ムーンフェイズに帰る事が出来るポータルの石は買えない。
フェィオンでは、フェィオンに帰る石しか買えない。
俺が持っている帰還の葉と似ているな。
違いは一回しか使えない事ぐらいか。
ん? まてよ。これを、大量に買い込めば移動が楽になるのでは?
と思ったが、帰る場所が違えば何個でも持てるが、同じ物は一人一個までしか持てないらしい。
「ーーーと言うわけで、一度戻ってランクアップするわ」
「わかった」
ダメと言う理由も思いつかないし、グゥが強くなるのは良い事だ。
「所で、リュウイたんとロジェたんから美味しそうな匂いがちぃまちゅ!!」
「……」
ウォルガフ、お前の鼻はどれだけ鋭いんだっ!!
「何か食べたでちょ?」
ジトォォォォォ……
ウォルガフの眼差しが激しく痛い。
銀貨五枚渡し、先程の露店から食べ物をグゥと一緒に買って来るように伝えた。
すると、ウォルガフはとても嬉しそうに買いに行くのであった。
グゥは二人っきりのデートを楽しむかのように、ウォルガフの手を握りしめている。
はたから見れば、デートと言うより親子にしか見えないのだが……
「買ってきまちぃたぁぁぁぁぁ〜!!」
満面の笑みを浮かべウォルガフは、トコトコトコトコ……と俺の元に走って戻ってくるのだが……
お約束のように目の前で転ぶのである。
食べ物は、地面に落ちもう食べれる状態ではなかった。
何故っ!! と思わず突っ込みたくなる光景だった。
「うっうっ……」
軽く膝を擦りむいていたようだが、それよりも目の前で食べ物が食べれなくなった方が悲しいらしい。
一つは無事だ。
だが、それはグゥの手の中。
「ウォルガフちゃん、泣かないで。私の半分ずつあげますわ」
「うちゅっ……」
コクンっと愛くるしく頷いたウォルガフに、グゥはもうメロメロ。
抱きしめたくなる思いを抑えつつ、互いの肩を少し触れながら二人は仲良く食べていた。
「所でリュウイさん。なぜあの時『取り返しのつかない事が起きそうな気がする』と言ってきたのかしら?」
「あまり大きな声で言いたくないのですけど、あの建物自体が……」
ヒューマン特定装置に思えた。
小声でグゥにそう告げたのである。
そうあの時俺は、そう感じたのだ。
危険!! 危険!! と知らせるかのように身体が、入る事を拒絶。
同時に、ヒューマン特定装置に似た感覚がしてきた。
気のせいかもしれないが、違うとも言えない。
確証がないのだ。
まさかここに、ヒューマン特定装置を設置していますか? と聞くわけにもいかない。
だから、俺は入る事を拒んだ。
「なるほどね……誰にも確かめる事は出来ないわね」
「そうなんですよね……」
ランクアップする場所にヒューマン特定装置があるのだとしたら、俺はランクアップする事は出来ない。
ずっと魔法使いのままだ……
「考えていても、しょうがないでちゅよ!!」
相変わらず、ウォルガフは難しい事を考える事が苦手だな。
「確かに、そうだけど…」
「入って見るのが一番でちゅ!!」
「いやいや、それはまずいよ。あれが本当にヒューマン特定装置だとしたら、入った瞬間俺は電撃を浴びて気絶。その間に人が来て捕まる」
「ふみゅ〜〜」
「確かにその場は、なんとか逃げ切れるかもしれない。だけど、もう二度とフェィオンには足を踏み入れる事は出来なくなるだろうな」
「うん。流石にそれは避けたい」
結局、俺はランクアップ出来るかどうか試さない事にした。
「じゃこれからどうするの? 晩御飯にはまだ早いわよ」
グゥの言う通り、晩御飯にはまだ少し早かった。
陽が暮れるまで後もう少しと言った所だろうか。
「何処か行きたい所ある?」
「うんちょぉぉぉ〜」
考え込むウォルガフ。
「私どこでもいいわよ」
「俺も〜」
他人任せなグゥとロジェであった。
適当に露店を巡る事にした。
「リュウイたん、あれが欲しぃでちゅっ」
あれを買ってほしい。これを買ってほしい。と言うウォルガフは全て食べ物であった。
流石にご馳走が待っているので我慢してもらった。
不貞腐れているウォルガフをグゥが宥めていると、陽もだいぶ暮れ始めたのである。
ウォルガフのお腹の減りが限界に近づき、俺たちは宿屋に戻る事にしたのであった。
当初支配人は、俺たちに気を使い部屋食で……
との事だったが、部屋が汚くなる事と大量に食べる事を考え、食堂で食べる事をお願いした。
「おいちぃちょぉぉぉ〜!!」
豪華な食事に大喜びするウォルガフ。
白金貨払ってまでお願いしたご馳走だ。
遠慮なく頂く事にしようではないか。
ウォルガフとロジェの食べっぷりに厨房は瞬く間にフル稼働。
何ヶ月分と言う食材を全て食べ切ったのにも関わらず、二人はおかわりを要求していた。
俺とグゥは既にギブアップ。
二人の食べっぷりに嫌気が指して来た頃、厨房のスタッフから食材が遂に尽きてしまい打ち止めです。
と言われブーブーと言いながら部屋に戻るのであった。
予想通り高級食材の料理は、白金貨五枚では明らかに足りないようだな。
ーーーーーー
スヤスヤ……
と気持ち良く眠るウォルガフとロジェの寝顔は相変わらず可愛い。
思わず、ウォルガフの頭を撫で回していたら、グゥに思いっきり面白くない顔をされた。
「あっそうだ。忘れていた事があるんです」
「?」
俺は今までの金銭取扱を細かく書いた紙をグゥに差し出したのである。
「なにこれ?」
要するに家計簿だ。
依頼での報酬金額にウォルガフとロジェの使った食事代。
事細かく書かれている。
まぁ、システムが勝手に計算してくれたから俺は楽なんだけどな。
「今、ウォルガフとロジェのお金は俺が預かっています。これがその明細です」
「随分とおやつや食費が多いわね」
「……赤字じゃないだけまだマシかと」
「それで、何が言いたいのかしら?」
「グゥさんはどうします?」
「と言いますと?」
俺が言いたいのは、グゥもウォルガフたちと同様に俺がお金を預かるかどうかだ。
ウォルガフにお金を渡すと、一日でそのお金はおやつに消えていく。
お金を溜めて必要な物を買うという事が出来ないのだ。
だから、報酬金は俺が一旦預かりお小遣いとして二人には渡している。
これだけで、俺のお金の減りは大分減り楽になってきた。
因みにここのホテル代やマイホームは、報奨金からではなく俺のポケットマネーだ。
……どうでもいいな。
「要するに、今後私の報奨金は自分で管理するか、リュウイさんが管理するか? って事ね」
「そんな大それた物じゃないんですけどね……宿屋代とかは今まで通り俺は出すつもりでした。マイホームが出来たので、今後そんなにお金はかかりませんし。やはり、一番お金がかかるのは食費代ですね」
「なんか色々と面倒そうなので、預かっていて下さる?」
「……」
一番トラブルになるのがお金だ。
だから早めに話しして置かなければならないと思って話しをしたのだが……
俺の予想通りグゥもそう言ってきたか……
まぁ計算するのはシステムだし、まぁ二人が三人になるだけだ。
これが五人、十人と増えれば困るがまだ大丈夫。
「わかりました。グゥさんのお金でもありますので言って下さいね」
「わかったわ」
ニコリと笑ってグゥは、隣の部屋に行き就寝したのであった。
一人だけ起きている俺は、ステータスの確認。
装備や魔法Levelを再確認し明日の為にも眠りにつくのであった。
明日俺たちは、カルヴァ地域を目指す事になる。




