【間話】③
本編とは関係ない番外編として、考えて下さい。
「ねぇ…明日は何の日か知っているかしら?」
ウォルガフとロジェが先に寝静まった頃、俺は二人が食べ散らかした皿を洗っていた。
そして、グゥは手伝いもせずにソファで寛ぎながら俺にそんな事を聞いてきたのであった。
全く見当もつかない話題だな。
そう思いながら、皿を洗う手を休めずに首だけを振って否定したのであった。
「明日はね、こどもの日なのよね」
「……」
こどもの日ぃぃぃ?
魔王の世界になったと言うのに、まだ根強く生き残っていたのか。
「ずぅぅぅっと昔からある伝統行事の一つなのよね」
「ふっふぅ…ん」
昔っからある伝統行事ねぇ〜
それってヒューマンである俺たちプレイヤーが、勝手に盛り上がって作ったイベントだよなぁ。
「だから、明日はウォルガフちゃんとロジェちゃんに思いっきり楽しんでもらわない?」
「……」
グゥさんの本心は、ウォルガフだけ喜ばしいたいんだろうけど……
ロジェの事を忘れていないだけまだマシかな。
「いいですよ」
ウォルガフが喜べば、シャイターン・ポイントも溜まる。
そうすれば、Levelが解放される。
最近、ウォルガフを喜ばす事していなかったし。
一石二鳥かな?
「ですが、具体的にどうやるかグゥさん決めているのですか?」
「うふっ」
グゥの笑みは、実に嫌な笑みだった。
俺がここで嫌だと。
断ればよかったと、今更ながら後悔していた。
グゥは、こどもの日に必要な物を書いた紙を一枚俺に渡してきたのである。
その内容とは……
二人が大好きなご馳走。
それに、鯉のぼり、柏餅用意であった。
「じゃ、リュウイさん頼むわね」
「へっ?」
そう言ってグゥは二階に行ってしまったのである。
おぃ!! まさか、俺一人でこれを用意しろと?! 一緒に準備するんじゃないのか!?
◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎
次の日、渋々俺は二人の為に準備を開始する事にした。
先ずは、鯉のぼりだな。
運良くアイテムボックスの中にあった鯉のぼりを出そうとすると、ウォルガフとロジェが不思議そうな顔をしながら俺を見つめていたのだ。
「ん? どうした二人共?」
「リュウイたん、何をやっているんでちゅか?」
「なにってそりゃ勿論……ぬごっ!!」
言い終える前にグゥの持っていた杖が、俺の脇腹に直撃。
そのまま、首根っこ掴まれて二人から離されてしまったのである。
そんな姿を、ウォルガフとロジェはキョトーーーンと見ていたのである。
「いっ痛いよ。グゥさん」
「何、空気読めない事をしているの?」
「はぁ? 俺は、昨日グゥさんに言われた事をしているだけだよ」
「あのね、二人の目の前でやってどうするのよっ!!」
「……目の前でやるのも嬉しいものだよ?」
「とにかく私がウォルガフちゃんとロジェちゃんを何処かに連れて行くから、その間にやって頂戴!!」
「……」
手伝う気サラサラないようだ……
「いいわねっ!! 陽がくれる前には戻るから、それまでに用意しておいてねっ!!」
「……」
そう言ってグゥは、二人を連れ何処かに行ってしまったのである。
はぁ、何故俺だけで用意しなくてはならないんだ。
言い出したのは、グゥさんなのに。
少しは、手伝ってくれると物凄く助かるのに……
ブツブツと言いながら、再び鯉のぼりの用意をするのであった。
先ず、竿を地面に刺して倒れないように紐で固定。
回転球を取り付け、矢車もつけておく。
紐をひっぱりと、空高く五色の鯉は登っていく……
「まぁこんな物かな」
期間限定イベントで手に入れた鯉のぼりが、こんな所で役に立つとは思わなかったな。
次はなんだっけ……
グゥから昨晩渡された紙を確認しながら次の準備へと取り掛かる。
柏餅とご馳走か……
ご馳走ってもう少し具体的に書いて欲しかったな……
そんな事をかんがえながらも色々と準備をしている間に陽は暮れていくのであった。
「うわぁぁぁぁっ!! なんでちゅか!? あれは!?」
俺が出来上がったご馳走を、テーブルの上に並べているとウォルガフの声が外から元気良く聞こえてきた。
ウォルガフは、帰ってきたらすぐにわかるな。
きっと鯉のぼりを見て大興奮しているんだろうな。
「リュウイたぁぁぁん!!」
ウォルガフに呼ばれがまま、俺は外に出て行く。
「おかえり……ウォルガフ。ってなにやっているんだ!?」
「うちゅゅゅゅゅっ!!!」
ウォルガフは一番高い鯉のぼりにまたがり、歌を歌っていた。
「屋根より高い鯉のぼり〜〜大きくなっちゃぁらぁ、なにになるぅ〜」
定番すぎる………
「俺も登るぅ〜」
「えっ!?」
そう言ってロジェも登り始め、ウォルガフの後ろに座り込んでいた。
ってか布製だぞ? なぜ、落ちずにいれられるんだ!?
幾ら落ちても二人は怪我一つしないのはわかっていても、こんな危ない事グゥさんが許すはずない。
ふと、グゥの姿を探してみた。
グゥは鯉のぼりのすぐ下で、杖を構え魔法を発動していた。
なぜ、ここで魔法??
「グゥさん……あの、何をやっているんですか?」
「勿論鯉のぼりに防御強化の魔法をかけているのよ」
あぁ……なるほど。
だから、布製の鯉のぼりに登っても落ちずにいられるのか……
思わず、感心してしまった。
「でも、そろそろ魔力も限界。二人を下ろしてくれるかしら?」
「えっ?」
俺も鯉のぼりに一緒に座ろうと思って竿を登っている所で、グゥの冷ややかな目が突き刺さった。
いい大人がなにやっている。
そんな目だった。
現実世界では出来なかった事が目の前で出来ているのだ、俺だって一応男の子。
やってみたかったのだが……
グゥの冷たい目に俺は無言で竿から降りる。
「ほっほら……柏餅を届けに行こうかと思って。決して俺も一緒に楽しもうとか思っていないですよ」
「魔力が限界と言っているのにそんな事しないでよねっ!! ここに呼べばいいじゃない?」
「そっそうだね」
なんとか誤魔化せたかな?
「おーい、二人とも柏餅用意したから食べないかぁー?!」
「リュウイたん、ここまで持って来てくだちゃぁーい」
鯉のぼりの上からウォルガフの、無責任な声が聞こえてきた。
「……って言っていますけど?」
キッ!!
グゥの鋭い目線がチクチクと刺さってくる。
「ウォルガフ。そこで柏餅を食べるのは、危ないからダメだ」
「ブーーッ!!」
頬を膨らまさせるウォルガフは、久々にみたせいもあって可愛かった。
「リュウイさん、そんな事言わずにここまで持ってきてくれよぉ〜それに、風が凄く気持ちいいよっ」
そうだよねっ!! うん、俺も行きたい!!
なんて口が裂けても言えなかった……
所詮、子供の頃に出来なかった男の気持ちなんて物は、女の人には理解してもらえないんだと思う。
ってグゥさんにそんな事、言うと怒られるから俺は言わないけどな。
「ご馳走も冷めるし、そろそろ家の中に入るぞ」
「ハイでちゅ!!」
「おぅっ!!」
一瞬にして二人は、俺の足元に立ち片手をあげていた。
どうやらご馳走って言葉に一気に降りてきたらしい。
君たち、どんだけ早業なんだよ。
ご馳走を前にして二人は大喜び。
あっという間に俺が、用意したご馳走を平らげていくのであった。
因みに用意したのは、お子ちゃまが好きそうなハンバーグやエビフライ。
忘れちゃいけないアップルパイなどなどだ。
それを綺麗に平らげた後、柏餅をハムハムと食べ二人は再び鯉のぼりに登ろうとしていた。
流石にグゥにもう無理〜とアイコンタクトを送られ、慌ててしまったのは言うまでもなかった。
歯を磨きが終わった二人は、グゥと談笑している俺に向かって頭を下げてきた。
「リュウイたん、グゥたんおやちゅみぃなちゃい!!」
「おやすみぃ、グゥさんリュウイさん」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい、ウォルガフちゃん。ロジェちゃん」
二階のベットまで競争と言いながら、二人は大きな音を立てて駆け上って行く。
寝る直前までうるさい二人だ。
「リュウイさん、グゥさん!!」
ロジェの声に俺とグゥは真上に顔を向ける。
そこには、二階の吹き抜け部分から顔だけ出して二人の姿があった。
「楽ちぃこどもの日をありがとでちゅ!!」
ダダダダダダダダダッ!!
と言いたい事だけ言って二人は眠りについたのであった。
俺はちっとも楽しくなかったけど、まぁ二人が喜んでいただけ何よりです。
因みに目的であったシャイターン・ポイントは、結構増えていた。




