【05】
ここに来てから5日経った……
相変わらず、魔力を練る事は出来ずにいた。
魔法力のバランスという奴は、今だに戻ってはいないようだ。
初日に壊してしまった洗濯の回転羽は、俺が必要な材料を用意した事により次の日には出来上がっていた。
なので……
ひたすら、渦を作りながら洗濯物を永遠と回す。
これのみだった。
「気長に待てと言われてもなぁ〜 」
取っ手に魔力を送りながら、思わずぼやいてしまった。
最初は意外に楽しいなとは思ったが、5日もやり続けていれば流石に飽きて来る。
途中で魔力を送るのをやめてしまうと、回転羽は壊れてしまう為魔力が尽きるまで永遠と回し続けなければならなかった。
俺の魔力は結構高いらしい……
普通なら一時間程で尽きるのが、五時間は永遠と回さなければならなかった。
流石に、辛かった……
ウォルガフやロジェ、グゥは魔力を練る組だ。
取っ手を回しながら羨ましく眺める事しか出来なかった。
この5日間で三人は、魔力をひたすら練り続けていた。
その改もあり、ウォルガフやロジェは攻撃力が飛躍的に上昇。
グゥも回復魔力の底上げに成功する事が出来たらしい。
「いいなぁ〜」
俺も魔力を練る力を身につけて、パワーアップしたいよ。
そんな平和な日々を過ごしていたのだが……
シュトレンは俺の捕縛を諦めていなかったらしい。
ダークエルフでもある、ダルトがシュトレンが樹海に入り真っ直ぐここに向かっていると話しをしてきたのであった。
捕まるわけには……
「逃げるしかないな……」
俺の決断にウォルガフたちは反対しなかった。
「でも逃げるって、どこに逃げるの?」
「……それは、えっと」
グゥの質問の返答に困っているとロジェは、キリッとした目で俺に話しかけてきたのである。
「リュウイさん、ムーンフェイズに帰ろう」
「ムーンフェイズに?」
「あぁ……」
俺の言葉にロジェは頷く。
俺たちが、ムーンフェイズの領域内に入ってしまえば幾らシュトレンと言えども手を出せなくなる。
ガルヴァルデ族のぺディリヴァが、動き出す可能性はゼロではないらしいけど、ここにいるよりはいいだろうとの事だ。
「ウォルガフは、ロジェの案に賛成か?」
「うちゅ?」
ウォルガフに聞いた俺が、間違いだった。
話し聞いちゃいないし……
「……」
さて、どうするかな?
確かにロジェの言う通り、ムーンフェイズに逃げるべきなのだろうか?
シュトレンの手から逃げられるかもしれないが、ぺディリヴァが今度は俺を追いかけてくる可能性がある。
追いかけてくる相手が、変わるだけのような気がする。
それなら一層の事、ここでシュトレンを撃退……
ウォルガフやロジェ、グゥもかなり力をつけている。
種族王ぐらい倒せるんじゃ?
……いやいや、ダメだ。
三人にそんな危険な目にあって欲しくはない。
あっ!!
そう言えばそろそろ、マイホームが完成するのではないか?
マイホームは、設定次第で俺たち以外の者の侵入を拒む事が出来る。
ならば、そこに逃げ込めばシュトレンもぺディリヴァも俺を追っては来れないはずだ。
いや、待てよ……
確かウォルガフは、マイホームで隠れていると魔王が直接乗り込んで来て殺されたと言っていたな。
だが、魔王には出来きた事が、種族王も同等に出来るとは限らない。
感ずかれる可能性だって低く出来るかもしれない。
それに……
魔王が侵入出来ないように、更に強化してしまえばいい。
出来ないかも?
ではなく、何としてでもやらないとな。
ウォルガフやロジェ。そしてグゥの為にも……
俺がヒューマンと認識された時、この三人は俺を庇ったせいで裏切り者扱いされるんだろうな……
最悪のパターンは鬱になってしまうから、やめておこう。
「ロジェの提案にはありがたいけど、俺はムーンフェイズには帰らない」
「ちょっ!? リュウイさん?」
俺の言葉にロジェは驚いていた。
戻ると思っていたんだろうな。
「じゃどうするの? なにも案がなく帰らないと言っているつもりじゃないわよね?」
グゥの言葉に俺はコクンと頷き、アイテムボックスの中から帰還の葉を取り出す。
「なにそれ?」
「?」
ロジェとグゥが同時に首を傾げていた。
「まぁ見てて」
作動させてみると、ノイズが走る。
「あれ?」
『現在、転送不可地域にいます』
とシステムメニューは無慈悲にも表示してきたのだ。
「……ベーレ。ここは転送不可能なのか?」
「うむ。結界で守られておるからのぉ」
「……」
何事もなかったかのように、葉をアイテムボックスの中に仕舞い込み頭を抱えるしかなかった。
と言う事は、マイホームに戻れないじゃないかっっ!!
「じゃが、聖王樹の頂上は結界は届いてはおらんな」
「転送出来るって事か?」
「うむ」
聖王樹か……
頂上にたどり着く為には、内部を進まないと行けない。
俺は頂上にまで行った事ないからわかんないんだよなぁ。
それにあれから何百年も経っているんだろう?
絶対内部も変わっているはずだ。
でも行かなければ、帰れない。
ここにいれば、シュトレンに捕まってしまう……
「ふぅ〜」
何が待ち構えているのかわからないけど、聖王樹に行ってみるか……
ここにいてもシュトレンが来るだけだし。
あのヒューマン特定装置って奴、ビリビリして痛すぎだしな。
「ベーレ、俺は聖王樹に行きたいのだが、案内頼めるか?」
「そなたが望むなら……」
「ありがとう」
結論が出てしまえば、出発の準備は早かった。
ロジェやグゥは、俺が何をするのか教えなかった。
教えた所で普通は理解出来ないからな。
二人にはここから離れる為、聖王樹の頂上を目指すとだけ言っておいた。
ウォルガフは勘ずいているのかな?
ミュッケと元気に走り回っているから、さっぱりわからんな。
旅支度が終わった俺たちはダルトの案内の元、聖王樹を目指して旅立つのだが……
「ミュッケたん、またねぇ〜」
「ウォルガフも元気で〜」
二人のフォス族は、ここで芽生えた友情を再確認するかのように抱きしめあっていた。
グゥとロジェはベーレに頭を下げ魔力を練るコツを教えてもらった事にお礼を言っていた。
俺はと言うと……
メルクリに絡まれていた。
「なんだよ?」
「別に……」
相変わらず素っ気ない奴だ。
ブツブツと文句しか言ってこないし……
預かった飯代以上にウォルガフとロジェは食べ過ぎだ、とか。
ベーレに教わった授業料払え、とか。
聖王樹までの案内料払え、とか。
まぁ、最後までうるさいメルクリだ。
「仕方ないなぁ……」
ダイヤモンドサファイアを手に入れて大層喜んでいたからな。
多分これも喜ぶだろう。
そう思って俺は、スターサファイアをアイテムボックスから取り出しメルクリに渡す。
メルクリはスターサファイアを受け取ると、その美しく光輝く鉱石にうっとりと見つめ始めていく。
「おーーーい」
耳元で囁くとメルクリは我に返り、俺をキィッと睨みつけてくる。
「なによ、これ!!」
「追加分だ。金の方がいいのかもしれないが、これでも十分お釣りがくるだろ?」
「……」
「いらないなら、しまってお金渡すけど?」
「いっいるわょっ!!」
メルクリは俺に奪われないよう、さっさと懐にしまっていくのであった。
「まぁこれで勘弁してあげるわ」
どんだけ、俺からむしり取るつもりなんだよ……
まぁスターサファイアも、たくさんあるからいいけどさ。
「所で、あんた。随分と鉱石持っているのね?」
「んっあぁ。色々と集めたからな」
「……いっ、今は失わられた職種なんだけど」
「んっ?」
「鉱石を磨けば、宝石になるわよ」
「へっ?」
「宝石ってこの宝石か?」
俺は杖を取り出し、尖端にある赤い宝石を指差してみた。
「えぇ、そうよ」
「鉱石を磨くと宝石に……?」
「今はそんな事出来る種族、いないけどね」
「その職種は?!」
「えっとーエンチャンターだけど、ヒューマン時代の職種だから今は誰も扱える魔族はいないわよ」
「いや……それだけで十分だよ。ありがとうメルクリ!!」
「ふっフンッッ!!」
メルクリがどこまでもツンデレなのは、はっきり言ってこの際どうでもいい。
それよりも、鉱石を加工できる職種。
エンチャンター。
その名、覚えておこう。
「おい、そろそろ行くぞ」
「あっあぁ。ダルト、道案内頼むよ」
「うむ」
ダルトの声に、俺たちは出発する事にした。
目指すは、聖王樹の頂上だ。
ーーーーーー
ダルトに案内され、聖王樹を目指す事三十分。
草木がお生い茂る樹海を、ひたすら歩き続けると大きな広場へと辿り着く事が出来た。
目の前には聖王樹が空高くそびえ立っている。
「着いたぞ」
ダルトの言葉に俺は、言葉を失っていた。
『聖王樹は死にかけておる……』
ベーレが言っていた言葉を思い出し納得は出来た。
だが、ここまで酷いとは想像していなかった。
聖王樹は聖なる樹。
冒険者によって、成長を遂げた聖王樹は今後も成長を遂げる事でしょう。
これは公式サイトに書かれていた説明文だった。
だが、実際目の前にある聖王樹は公式サイトの説明文とは全く異なっていた。
見るからに聖王樹は栄養不足というのは一目瞭然。
幹は乾き切ったかのようにカサカサとし、触れただけで表皮は崩れ落ちそうになっている。
更に、独特なブロッコリーの葉は全て枯れ果てている。
聖王樹の枯れ木……
長いアップデートを駆使して成長してきた聖王樹の本来の姿を、知っているだけに悲しくなってきた。
「こんな姿に成り果てたが、聖王樹はまだ生きている」
「本当?」
「あぁ、お前の出現で何か変わるといいがな」
「……」
聖王樹を呆然と見上げている俺に対して、何を期待しているのかはさっぱりわからないが、ダルトはそれだけ言い、聖王樹の麓へと歩いて行くのであった。
聖王樹の幹の麓には、複数のダンジョンの入り口が存在している。
その一箇所のみランダムで頂上に通じる道が存在しているのだ。
更に、時間制限付きのダンジョンの中には数々のトラップが存在し、時間内にトラップを解除しつつ頂上まで辿り着かなければならなかった。
因みに俺は、頂上まで行った事がない。
それは、一ヶ月に一回しか行けない事。
幾度も挑戦はしていたが、時間切れやトラップに引っかかってスタート位置に戻るとかが多かった。
その中で、聖王シリーズを手に入れる事が出来たディナィトは素直に凄いと思う。
ディナィトには一度会った事がある。
勧誘だった。
俺はついでで、ハグ目的だ。
ハグは、希少価値の高い聖属性。
だから、ディナイトはハグの力を欲していたのが、断ったらギルド諸共壊滅させられたな。
因みにギルドってのは、複数のプレイヤーが互いに惹かれあって作り出す組織みたいなものだ。
ギルドに迷惑をかけた俺たちは、離脱。
他のギルドの勧誘も幾つかあったけど、同じ事が繰り返されないっと言う保証はどこにもなかった。
だから、全ての勧誘は断って二人で臨時パーティに潜り込んだりして、気ままな冒険をしていた。
……ってか、自分の思いのままにならないからって実力行使で従わさせる。ってどれだけ最強を誇示したいのやら。
俺には理解出来んな。
おっと話が逸れてしまった。
「ダルト、中はどうなっているかわかるか?」
俺の質問にダルトは首を横に振り、わからないと答えたのである。
案の定、ロジェやグゥも入った事はないとの事だ。
普通に魔王の世界になった今、ここに来る事事態希少か……
「ウォルガフは……?」
「うちゅ……」
ウォルガフは、腕を組んで珍しく真剣に考えている。
しばらくウォルガフは考え込み、俺の周りをグルグルと回り出した。
だからなんで、考え中になると俺の回りを回るんだ?
そして、キリッと俺の顔を見上げてるウォルガフの顔は可愛かった。
わかんない。
と言われるのは、お決まりのパターンだけどな。
「うんちょねぇ、来た事ありまちゅよ」
「そうかそうか、来た事あるのか……」
聞き流そうとした、しかしウォルガフの言葉に俺は聞き流せなくなった。
「えっ!! 来た事あるの?」
「はいでちゅ!!」
なんでも、俺と出会う前に道に迷ったウォルガフは、ベーレの許可も取らずに聖王樹に勝手に登って行ったらしい。
その時は、頂上付近の結界に寄って阻まれ入り口に戻されたとの事だ。
途方に暮れたウォルガフは、泣きながら樹海を爆走し気がついたらの樹海から出ていたみたいだ。
うん、実にウォルガフらしく安易に想像出来る。
ウォルガフの話曰く、樹海には魔物もトラップもないらしい。
一本道を進むと頂上に行けるとの事だ。
問題は、ウォルガフを阻んだ結界だな。
見て見ないとわからないが、俺の予想通りなら入り口に戻される事はないだろうな……
ダルトは、ここから先は行かないらしい。
ベーレの身が心配との事だ。
確かにシュトレンがなにするかわからないしな。
ダルトはウォルガフとロジェの髪の毛をクシャクシャのもみくちゃに撫で回した後、俺たちの目の前から姿を消したのであった。
ウォルガフやロジェは何処と無く寂しそうにしながらも俺の顔を見上げている。
そんな姿を見ていたグゥは、大好きなウォルガフを肩車して慰め始め……
ウォルガフにやった事と同じ事をやって欲しいな、という視線が痛く突き刺さってきた。
隣でキャッキャッ喜んでいたら、確かにやって欲しくなるのはわかるけど……
ロジェは俺よりも年上の筈なのだが……
ジトォォォォォォォォォ……
熱い視線を放つロジェに、俺は肩車した。
俺とグゥの頭の上で二人のフォス族がキャッキャッと喜んでいる。
肩車したまま俺たちは、聖王樹の内部へと侵入していくのであった。
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俺たちが聖王樹を目指し、ベーレの元を出発したその十分後……
ベーレの作り出した結界を意図も簡単に破ったシュトレンは、ベーレの目の前に姿を現したのであった。
子供たちは既に家の中に避難済み。
シュトレンに見つからないように、顔だけ出しベーレとのやりとりをハラハラしながら見守っていたのである。
「ふむ〜こんな所に家があったとはな」
シュトレンは辺りを見渡しながら、そう感想をもらしベーレと目が合うのであった。
「お前が、この家の主か?」
「そうですじゃ」
「デューンキーパー族のシュトレンと申す」
「ミヴァス族ベーレと申します」
「ふむ。ミヴァス族か……」
「それで、種族王がこのような場所に一体何のようで来たのですじゃ?」
その言葉と共に静かにベーレは、殺気を放ち始めた。
シュトレンに付いて来た部下たちは、ベーレの殺気にすぐさま剣を構え不測の事態の備えようとしていたが、シュトレンは動じる事はなかった。
部下たちに戦闘態勢を解くようにと、目で合図を送るのである。
「騒ぎを起こすつもりは毛頭ない。ただ、質問に素直に答えてくれさえすれば我々は直ちに立ち去る」
「その質問とはなんですじゃ?」
「ここで、子供たちを集め何をやっている?
感じた所、色々な種族がいるようだが……」
一瞬にして、家の中にいる子供たちを把握したシュトレンにベーレは青二才と甘く見ていた事を後悔し、隠し事をしても無駄。というと結論を出したのである。
「身寄りのない子供たちに、魔法を教えておりまする」
「ほぉぉぉ、それはいい事だな」
少しばかり感心を示したシュトレンであったが、すぐさま本題にはいるのであった。
「所でここに、ヒューマンは来なかったか?」
「来てはおりませんぬ」
「……そうか」
短く答えたシュトレンに、家の隙間から覗いていたミュッケに目が合う。
ミュッケは涙目になりながらも、堪らず首を横に振って逃げ出したのであった。
「フッ……邪魔したな」
シュトレンはそれ以上追求する事はしなかった。
ベーレに背中を向けその場を去ろうとしてのであったが、ベーレはシュトレンをまだこの場から返すわけには行かなかった。
最初に辺りを見回した時、シュトレンは確かに聖王樹の方を見て不思議な顔をしていた。
ベーレはそれを見逃しはしなかったのである。
「お待ちください」
ベーレの呼び止めにシュトレンは、振り返る事はなかったが足だけは止めたのである。
「ヒューマンは、魔王様の手によって滅亡した。と大昔に聞いておりますが?」
「魔王様に忠誠を誓っておらぬ、ミトロヴァス族唯一の生き残りベーレ。おぬしに語る必要はないと思うが?」
「!?」
ミヴァス族と名乗れば、ミトロヴァス族と悟られる事はないと鷹をくくっていた。
だが、シュトレンは全てを知っていた。
後悔しながらもベーレはシュトレンの後ろ姿を見ながら、魔力を練り始めたのだが……
「子供たちの世話をしておるのだろう? 今、この場で殺されない事に感謝するが良い」
全てを感づきながらもシュトレンはベーレに言い放ち、その場から去って行くのである。
ベーレは、シュトレンの去りゆく姿に魔法を放つ事は出来なかった。
圧倒的に力の差を見せつけられ、ベーレは聖王樹の方を見ながら無事に逃げ切れる事を願う事しか出来なかったのであった。




