【03】
次の日……
朝は早かった……
太陽が登り始めた頃、俺はメルクリに叩き起こされた。
眠い目を擦りながら、庭先に出るとベーレは準備万端で待機していた。
次からはベーレより早くここに来るように! とメルクルに注意されてしまった。
庭先には、俺、ウォルガフ、ロジェ、グゥ、メルクル、ミュッケの6名がベーレを囲んでいた。
ベーレはゆっくりと俺たちを見渡しながら口を開き始めた。
「メルクルとミュッケ以外の者は『魔力を練る……』と言う事は、どう言う事かわかるかのぉ?」
「わからにゃいでちゅ〜」
「俺もぉ〜」
朝からウォルガフとロジェは元気だ……
元気よく片手を挙げながらわからないと、腰に手を当てながら威張っていた。
小さく手を挙げながら恥ずかしそうに俺もわからない事を告げた。
わからないから、教えてもらおうとしているんだしな……
「お主はどうじゃ?」
「私ですか?」
ベーレはグゥの方を向きながら聞いてきた。
グゥは片手を顎に当てながら考え、何かを知っているかのように口を開いてきたのであった。
「魔力を練ると言う事は、高まる魔法力の流れを感じそれをコントロールし高めて行く事……」
「うむ、正解じゃな」
魔法力感じる……??
「では、魔法力と魔力の違いはなんじゃ?」
「魔法を使う者にとって、基本的な質問ですわね?」
グゥはベーレが聞いて来た質問に少し怒っていた。
魔法を使う者なら誰でも知っている事をベーレは聞いてきたのだ。
魔法力と魔力の違い……これはわかる。
以前ロジェに教えてもらった事だ。
『魔法力』……魔法力はその能力が高ければ高い程、魔法攻撃の威力を高くする物。
『魔力』……魔力は詠唱によって膨大なまでに膨らんだ魔法力が暴発したり、暴走しないようにコントロールする物。
そして、魔法を使う者はそれらを無意識にコントロールしている。
「ふむ、皆知っておるようじゃのぉ。では、どうやって魔力をコントロールするのか? これはわかるかのぉ?」
「……」
わからん!!
「魔法力をコントロールする為に必要なのが、魔力。そして、無意識に抑え込まれている魔法力を最大限発動させる為に必要なのが『魔力を練る』と言う事ですわ」
「グゥ。お主の言う通りじゃの。お前たちはわかったか?」
「うん、何と無く……」
「むずゅかちぃ〜!!」
「さっぱりわからん」
やはり、ウォルガフやロジェには理解出来なかったようだ。
俺はステータス画面で自分の魔法力を確認する事ができるから、グゥが言おうとしている事が何と無くわかる。
今の俺はLevel.20で魔法力は250ある。
魔法力は普段暴走しないように、無意識にコントロールしていると言う事だから……
魔法力250を全て使い切って魔法を発動しているわけではないって事だ。
そこに今から教わる『魔力を練る』事で、魔法力250はフルで発動する事が出来るって訳か。
なるほどねぇ〜
ウォルガフは、なんとかして理解しようとしていたのだが、プシュプシュ〜と頭から湯気を出し爆発寸前だった。
「ウォルガフゥ〜」
そう話しかけてきたのは、同じフォス族のミュッケだ。
「なんでちゅか、ミュッケたん?」
「僕もね、グゥさんの話しちぃっともわかんなかったよ?」
おいっ!
それはダメだろ!?
「うちゅ?」
「でもね、僕は魔法を発動しようとすると、身体の胸に熱く感じるものがあるにょ」
「ふみゅふみゅ……」
「それをね、グルュングルュンと回すようにしたらベーレのじぃじぃが、頭で理解出来なくてもその感覚で間違っていないって言っていたの」
「おぉ〜ちゅばらちぃでちゅね!」
そっそれでいいのか??
なんか、ウォルガフならミュッケの言うとおり簡単にやり遂げてしまいそうだな。
「と言うか……ウォルガフちゃんは、もう出来るはずよ?」
「えっ? ちょうなの?」
まじ??
「以前ミクロス様に無理矢理、教えられたと言っていたわよ?」
「うちゅ……?」
ウォルガフはグゥが言ってきた事に対して一生懸命考え出した。
腕を組みながら俺の周りを、グルグルと回り出したのだ。
っと言うか何故、俺の周りを回り出す?
「覚えてないでちゅ?」
首を傾げ、ウォルガフはそう答えていた。
グゥもヤレヤレとした顔をしながら、やれば思い出すわね。との事だ。
そんな簡単な物なのだろうか??
「ではやってみるかのぉ〜まず……」
俺たちはベーレの言う通り一人ずつやって見る事にした。
「あぁこの感覚でちゅか……」
ウォルガフは思い出したかの様に、楽勝にやって見せた。
元々ウォルガフは戦士だ。
魔法力自体は低く魔法書で魔法を覚えていない以上、魔法を発動する事は出来ない。
それでも、ウォルガフは魔力を練った拳を地面に叩きつけた。
ボコンッと音ともに螺旋状の小さなクレーターみたいなものは出来上がっていた。
ベーレは、それをしばらく見つめていた。
「ふむ、ウォルガフは完璧に己の魔力コントロールし、その力を発揮する事が出来ておるようじゃ」
「!!」
「そうでちゅか? えへへへ、ほめられちぃった♪ ミクロスのじじぃに追いかけ回されながら、無理矢理叩き込まれたかいがありまちぃた」
「じゃ次俺ね……」
そう言ってきたのはロジェだ。
ロジェはウォルガフと同じぐらいの螺旋状の小さなクレーターを作り出す事は出来なかったが、ベーレ曰く初めてにしては上出来との事だ。
更に魔法力を扱わない者は、普段意識しないで力のみで振るっているつもりだが、そうではなく無意識のうちに微々たるものだが魔法力を使っているらしい。
そして、これがきっかけにウォルガフやロジェは魔法力を意識して行く……
Levelアップしたわけではないが、攻撃力は以前より増した事だろう。とベーレは付け加えてきた。
二人は俄然やる気になり、速く続きを教えてとベーレを急かしていた。
グゥも知識があっただけあって、いとも簡単にやって見せた。
枯れ果てた草木に回復魔法を発動すると、栄養が補給されたかの如く見る見ると元気な草木へと生まれ変わっていた。
「凄いですわね……ここまで変わるとは……」
僧侶にも、魔法使いみたいに魔導師、大魔導師みたいな階級が上がるものは存在している。
僧侶、聖職者、賢者と階級を上げるに連れ回復はどんどんと威力がまして行く。
賢者になると、失った身体の一部を元に戻す事や、幾つかの条件と確立は低いものの死んだ者すら生き返らせる事が出来る。
僧侶から聖職者になる為にも魔導師と同様試験を受けなければならなく、賢者ともなるとそのなる方法すらわからないのであった。
ベーレの話曰く、聖職者はいるが賢者はもはや存在していないだろう。との事だ。
「私、聖職者になれるかしら!!」
普段はあまり我を出さないグゥであったが、この時だけは素直に本音を語り嬉しそうな顔をしていた。
「次はリュウイたんでちゅね!」
「おっおう……!」
「頑張れリュウイさん」
「……」
グゥだけはまだ干渉に浸っていたのか黙っていた。
そんなの今の俺には関係なかった。
いざやろうと思うと少しばかり緊張してきたのだ。
「いっ……行きます……」
「ミュッケたんの言う通りにグルュングルュンと回ちゅんでちゅよ!!」
「……おうっ!」
深呼吸し魔法を発動するよう念じ始めた。
今まで気にも留めていなかったが、魔法力に意識を向けると確かに胸の奥何か熱く感じる。
これが魔法力……
これをグルュングルュンと回すんだな……
言われた通りグルュングルュンと回して見た。
しかし、回り出したのは魔法力ではなく俺の身体が時計回りに回っていた……
「リュウイたん……?」
呆気に取られるウォルガフに、ミュッケは腹を抱えながら大爆笑していた。
大真面目にやっている者を笑うとは何事かっ! とミュッケは、ベーレに頭を叩かれていた。
そんなのはどうでもいい!
グゥやロジェ、ウォルガフは出来たと言うのになぜ俺だけ出来ない?
言われた通りに魔法力を感じてグルュングルュンと回したんだぞ!?
「お主、魔法力を感じておるか?」
「……はい」
魔法を発動するには、まず詠唱を開始する。
この時本来なら魔法力は身体から杖へと流れ込んでいくのが、感覚的にわかるとの事だ。
そして、普段から魔法力を渦状に作り出す事によって魔法力は蓄えられ発動する時、一気に杖へと流れ込む仕組みになっているらしい。
原理は理解出来るよ。
実際魔法力を感じる事は出来た。回す事は出来なかったが……
ベーレは困り果てた顔をしていた。
魔法力を感じていても、回す事が出来なければ魔力を練る事が出来ないらしい。
俺がヒューマンだからか??
だから、出来ないのか?
自分にそう言い聞かせて、諦めるしかないのだろうか?
いや、魔法力の流れを感じる事は出来るんだ、なのになぜこの大事な時に肝心な物が出来ない!?
「お主、ひょっとしてやってはいけない事やらなかったか?」
「やってはいけない事???」
なんだろう……対して心当たりはないんだけど……
「あっあるよ!」
沈黙を破るかのようにロジェは、俺とグゥの顔を見ている。
「俺は魔法を使わないからわかんないけど、グゥさん。リュウイさん結構ヤバイ魔法ぶっ放したよね?」
「??」
……
…………
「あっ!?」
ロジェに言われて、俺も心当たりを一つ思い出した。
魔導師の魔法である『シャムス・ヴィルム』
魔王後継者候補三十六番目の息子イブルカルフと戦った時、俺はグゥに無理矢理お願いして発動させた。
発動後には、高電圧を帯びたハンマーで何度も何度も、叩きつけられているかのような激しい痛みが、襲ってきた。
でも、それはグゥの回復魔法で消え去ったはずだ。
俺はこれが、後遺症だと思っていたんだけど……
違うって事か!?
「ふむ、どうやら心当たりがあるようじゃな」
「……はい」
俺はベーレに話した。グゥにお願いしてシャムス・ヴィルムを発動した事を……
「ほぉ……して詠唱は最後まで出来たのかのぉ?」
「えぇ、なんとかやり遂げましたわよ」
「ふむふむ……結果は?」
「微かにかすり傷ぐらいですかね」
「……」
「ベーレさん?」
「確かに魔導師ではない、お主がシャムス・ヴィルムを発動すればそれ相応のリスクはつきまとうじゃろ」
「……」
「どうやら、体内を流れる魔法力のバランスが崩れておるようじゃの」
「と言いますと?」
「うちゅ〜もっと簡単にお願いちぃまちゅ〜」
ウォルガフ……まだ、何も難しい話はしていないよ……
ウォルガフはまた、プシュプシュ〜と頭から湯気を出し爆発寸前になり始めていた。
「ベーレのじぃじぃ〜ようするに、この人は自分の力以上の難しい魔法を後先考えずに馬っ鹿みたいに使ったせいで、グルュングルュンと回せなくなったって事?」
「その通りじゃ、ミュッケ」
「なるほどでちゅ〜」
俺の目の前にいる三人のフォス族、ウォルガフ、ロジェ、ミュッケは理解したようだ。
しかし、ミュッケは可愛いけど口、悪いな……
「それで、ベーレ老師」
老師と言い始めたのはグゥだ。
確かに大魔導師だし老師と言ってもいいか……
「どうすれば、崩れた体内のバランスを戻す事が出来ますの?」
「荒療治の方法もあるが出来ればやりたくないのぉ〜一番良いのはそのうち戻るとは思うから、待つが一番じゃ。だが、それがいつなのかは儂にはわからぬ」
「……ちょっと待ってくれ」
グゥとベーレの話に割って入ってきたのはロジェだった。
「俺たちがここに長くいればいる程、ここに迷惑がかかる」
「ふむ、どう言う事かのぉ?」
「ロジェさん、ひょっとして食費代の事ですか?」
ロジェ……食費代は心配する事ないよ……
昨日、寝る前にメルクルに四人分の当面の生活費、授業料と表して金貨一枚渡しているから……
メルクル、脅すの旨すぎ……
真夜中、俺が眠りかかった所で無理矢理起こし今すぐ渡さなければ、ここから追い出すと言い出してきた。
半分寝ぼけながらだったから、その時はいくら渡したのか俺は覚えていなかった。
でも、翌朝メルクルに叩き起こされた時に枕元に『生活費、授業料、四人分。金貨一枚まいどあり〜』と書かれた紙が置かれていた。
その紙を見ながら俺は金貨一枚渡したのか……と理解出来た。
だから、当面の生活費は十分あるはずだ。
「……それも確かにある。でももっと重要な事だ」
「と言いますと?」
「シュトレン様だよ。グゥさん」
「あっ!!」
ロジェとグゥに話を聞いた所、俺は樹海でシュトレンの持っていたヒューマン特定装置・携帯用と言う物で電撃を浴び気絶して樹海に落ちた。
だが、シュトレンは諦めずに今も俺を探しているらしい。
捕まえて携帯用ではなく設置型のヒューマン特定装置にかけるらしい……
あんな痛い電撃二度と味わいたくないよ……
ロジェの言うとおり、ここにいればいつかシュトレンに見つかってしまう。
そうなれば……
確かに、長居はしない方がいいかもしれない。
でも、俺は……
「大丈夫じゃ、ここは結界によって守られておる。
シュトレンの青二才が直接ここを見つけぬ限り、あやつの部下ごときにここは見つかるわけがないのじゃ」
「でも、確かにロジェさんの言う通り長居しない方がいいですわね」
「うん。これ以上樹海を荒らすわけにはいかない。そうだろ、リュウイさん?」
そこで、俺に振るのかよ!?
「……確かにロジェやグゥさんの言う通りだとは思う。平和だったこの場所を荒らすのは良くない」
本心を言えばここで、もっと色々な魔法を教わりたかった。
でも、ここは子供たちばかりいる所だ。そうはいかないだろ……
俺のせいで誰かが傷つき悲しむのは見たくない……
「ダルトは毎日樹海を巡回しておる、シュトレンがここを目指している素振りを見せたら知らせるよう話しておこう。それから、お主たちがここを立ち去っても遅くはないじゃろ」
「ベーレさん……」
「ですが、それまでの間に体内を流れる魔法力のバランスと言う物が戻ると言う保証はどこにもないですわよ」
「確かに……」
グゥの一言で振り出しに戻ってしまった。
さて、どうしたものか……
「難しい話し好きだよなぁ〜」
そう言ってきたのは、ミュッケだ。
「ぼくには理解できまちぇん」
「うんうん、僕も」
「ようは、リュウイ。あんたの……」
なぜ、俺だけ呼び捨てで更にあんた呼ばわりするんだ……?
「気持ち一つなんじゃないの?」
そして、上から目線……
「ここに居たいのか、居たくないのか? どっちなんだよぉ?」
「……俺は」
本心を言えば居たい……
でもそうなれば……
ミュッケはトコトコと近づいて来て、俺の足を何度も蹴飛ばしてきた。
便乗するかのように、ウォルガフも俺を蹴飛ばしてくる。
「お前らっ痛いってっ!!」
「深く考えるなよ。あんたの気持ちを聞いているんだ!」
ミュッケ……!?
お前いい奴なのか?
「……俺はここに居たい。でもさっ!!」
言葉を続けようとした、するとロジェがジャンプして俺の口を封じてきた。
ロジェ……!?
「ならここにいなよ。ここにはベーレのじぃじぃもいるし、なんとかなるよ!」
「……」
ミュッケの言葉に俺は黙って頷いた。




