【17】
「さてと、そろそろゲーブングの街に戻ろうか」
一休みした俺たちは取り敢えずゲーブングに戻り、そこで冒険者ギルドに事情を報告したのちにムーンフェイズに戻ろうと結論を出していた。
騎竜を呼び出そうとアイテムボックスから、オカリナを取り出そうとしているとロジェは遠くの空を見つめていた。
「なんだろう? あれは??」
ロジェの向いている方向に、ウォルガフも目線を向けて行く。
「なんでちょう……?」
かなり遠い距離にはあるが、俺の目にも黒い点みたいなのが多数見えていた。
確かになんだろう??
黒い点は大きな丸となり、俺たちの方に向かって来ているようにも見えた。
そして次第に、グリフォンに乗った人たちが視認出来るほどまで接近してきたのであった。
「これは……」
グゥは何か言いたそうな……
「……おぉ〜」
ウォルガフは多数のグリフォンが、現れた事に目を輝かせ……
「やばいかも……」
ロジェは少し冷や汗を流していた。
俺はと言うと……多数のグリフォンを見上げながら、嫌な予感しかしなかった。
俺たちの上空には多数のグリフォンに乗った魔族たちは空中で待機していた。
その中から、数名俺たちの目の前に降りてきたのである。
背中に小さな透明な羽を生やしている事から、デューンキーパー族だって事はすぐにわかった。
だが、なぜ降りたったデューンキーパー族に俺たちは槍を突きつけられなければならないのだ?
何も悪い事はしていないぞ!?
「動くなっ!! 武器を置いて両手を挙げろ!!」
いきなりそんな事、言われても……
「なんででちゅか!?」
「えぇ〜い、黙れ! 大人しく従え!!」
「ぶちゅぅ〜!!」
ウォルガフ当人は狙っているのかどうかは知らないが、さりげなくウォルガフは自分に注意を向け始めた。
その間にロジェは、手を挙げながら俺やグゥに小声で話してきたのである。
「グゥさんはわかっていると思うんだけど……」
「えぇ、わかりましたわ……」
「リュウイさん。あいつらはデューンキーパー族、種族王シュトレン様の直属兵士だよ」
「直属兵士がなぜ、こんな所に?」
「どうやら、彼らの目的はリュウイさんのようね」
「……俺?」
「うん、魔王様はヒューマンが復活したって事を既にご存知なのは、リュウイさんも知っているよね?」
「あぁ、ミクロスさんから聞いたよ……」
「後、北の洞窟でガルヴァルデ族のぺディリヴァと出会ったのも覚えているよね?」
「あぁ……」
んっ?
ガルヴァルデ族のぺディリヴァに会った時、ぺディリヴァはなんと言っていたっけ?
『詳しい事は話せぬが、今俺は魔王様直々の命令によりある人物を探している』
「くそっ!! そう言う事かよ!!」
なぜ、デューンキーパー族がここに来たのか理解出来たよ。
俺は、イブルカルフとの戦闘中に確かに『転生者』を発動した。
またヒューマン。俺の居場所がわかったって事か。
くそっ!!
あの時、俺が転生者を発動しなければこんな事には……
いや、待て……
結果的には歯が立たなかったわけだが、転生者を発動しないで運良く生き延びる事は果たして出来たのだろうか?
……俺には生き延びていたとは到底思えない。
それくらいイブルカルフは強かった。
転生者を発動した事に、今更後悔しても始まらない。
だが、転生者を発動するとその所在地が分かってしまうのは困り者だと思う。
何より無駄な戦闘になってしまう、ウォルガフたちに俺は迷惑をかけてしまう……
確かに魔力を回復させているから、引き続き戦闘は可能だ。
だが、生き延びる為とは言え無駄とわかっている戦闘を俺はしたくない。
なんとかして逃げ出せないだろうか……
俺の想いとは裏腹に周りは既に直属兵士に包囲されていた。
上空にも兵士はいる……
逃げ出そうとしたり反抗する素振りを見せたら、容赦なく魔法が飛んできそうだな……
どうする……?
どうすればいい……?
「でも、安心して」
「えっ?」
俺の悩みを知っているかのようにロジェは、話しを続けていた。
「この状況で奴らにリュウイさんがヒューマンだって事は、知られる事はまず間違いなくないよ」
「?」
「そうね……リュウイさんの転生者を発動して、初めて彼らはその事を認識する事が出来るわ」
「なっなるほどね……」
「今は大人しく従って、機会を見て逃げ出そう」
「わかった」
「わかりましたわ」
「俺たちは反抗する気は一切ありません!」
両手を挙げながら、ロジェがそう告げると兵士たちは更に警戒を強めながらも俺たちに近づいてくるのである。
「お前たちを連行する。抵抗しなければすぐに解放する事だろう」
「ですが、私たちは何もしてはおりませんわ。なのに何故ですの?」
「詳しくは我々も知らせていない。連行せよ、と命令されただけだ。黙って従え!」
ふむ、どうやらヒューマン復活……
俺の存在は、ごく一部の魔族にしか知らされていないと言う事になるな……
「ぼくなにも悪い事ちぃていないでちゅょ!!」
話のついていけないウォルガフは納得できないようだった。
それでも、ウォルガフを何とか説得した俺たちは兵士に言われるがまま、鉄格子の檻の中にへと入れられ目隠しをされてしまった。
檻に入れた俺たちを一体どうやって運ぶんだろう?
と思っていたら、グリフォン二匹の羽ばたき音が聞こえたのちに、宙に浮き始めた感覚がしてきた。
予想するに、グリフォンに紐をつけ俺たちを入れた檻を吊るし上げながら何処かへと運ぶようだ。
さてさて、どこに連れて行かれるんだろう……
頼むから魔王城とか、勘弁してくれよ。
目隠しを取ったら、そこには魔王がいて……なんて一番最悪じゃん!!
目隠しをされ檻に入れられたまま、景色の見えない空中遊泳を暫く味わうと檻は大地に降りた衝撃がしてきた。
「降りろ!」
「暇でちぃたぁ!!」
かなりご機嫌ななめのウォルガフ。
「ここはどこですの?」
さりげなく情報収集しようとするグゥ。
「……」
あくまでも冷静に事を運ぼうとするロジェ。
俺は、目隠しを外したら目の前に魔王はいませんように……とひたすら祈っていた。
兵士に連れていかれるがまま俺たちは、地下牢の檻の中へと移された。
檻の中に入ると兵士の一人が、俺たちの目隠しを外しそのまま見張り番をしはじめたのである。
地下牢に入れられてからどれくらい経っただろうか?
ウォルガフのお腹の虫が何度も鳴っていた。
「うぅ……お腹ちゅいたぁ……でちゅ……」
お腹が空き過ぎているのだろう。いつもの元気はなく、ウォルガフはぐてぇ〜と寝転がっていた。
可哀想だが、もう暫く我慢してもらおう。
頼むからジタバタと騒がないで欲しい。
「ウォルガフ、ムーンフェイズに帰ったら美味しい物食べようね」
「……今すぐ食べたいでちゅ……」
そりゃ、無理だぁ〜
ムーンフェイズを出発する前に買い足した大量の食料は、既に底を尽きていた。
まぁ二人旅の予定が四人旅になったのだ。
底を尽きるのは当然か……
「ロジェさん、ここがどこの地下牢なのか大体想像出来まして?」
「普通に考えたら、あいつらはデューンキーパー族……
となれば、ここはシュトレン様がいる街サンライズと考えるのが妥当かな? と思うんだけど、グゥさんはどう思います?」
「私もロジェさんと同意見ですわ」
なんでこの二人は、冷静なんだろうか?
不思議だ……
コツンコツン……
階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
三人のデューンキーパー族は俺たちの檻の前に来ると脚を止め、ジロジロと見下ろしてきた。
三人のうち二人は、鎧に身を包んでいた事からここの兵士だと言う事はすぐに分かった。
もう一人は明らかに違った……
青色の高級そうなマントに神秘的なロープに身を包まれ、腰まで長い銀色の綺麗な髪の毛であった。
そして、デューンキーパー族特有の青色の目が綺麗に光り輝いていた。
この人……ひょっとして……
「こいつらの中に例の者がおるのか?」
「はい……シュトレン様のご命令通りに、レーベ平原の高台の岩山にこの者たちはおりました」
ふぅ〜んと言いながら興味深そうにウォルガフ、ロジェ、グゥとチラリチラリと軽く見たのちに、俺の時だけじとぉ〜と見てくる。
やはり……デューンキーパー族、種族王シュトレンかっ!
バレて殺されるかも!!
と思うと心臓の激しい鼓動は止まらなかった。
必死に抑えながら、どうかバレませんよーにと祈らずにはいられなかった。
ロジェはバレないと言っていたんだ。
よしっ、堂々としていよう……
「う〜ん……こいつらからは、あの時感じた気配が全くしないな……」
シュトレンは檻の外から俺たちを観察し、顎に手を置きながら納得できない。そんな顔をしていた。
「お前たち間違えたのではないか?」
確かにロジェやグゥの言う通り、俺が転生者を発動しない限りヒューマンだって事はバレそうにないな。
「いっ……いえ、間違いはないかと……」
「ふむ……」
シュトレンは腕を組みながら下を向きながら歩き出す。
コツンコツン……と足音を立てながらひたすら考え込んでいた。
上手く行けば何事もなく、解放してくれるかもっ!!
と思っていたが俺の考えは甘かった。
シュトレンは歩みを止め兵士の方を向きながら、何かを思いついたかのように話し始めていた。
「よしっ、取り敢えずヒューマン特定装置を発動するか……」
「!?」
ヒューマン特定装置ぃ??
なっなにそれっ!!
そんなのあるの!?
チラリッと俺がロジェの方を見ると、てへっ♪とロジェはそんな顔をしていた……
おいっ!! ロジェっ!!
「大変申し訳ないのですがシュトレン様。
実はヒューマン特定装置は、何年も前に故障した際に報告したのですがその時は修理は不要。
とのご命令だった為、修理してはおりません」
「あぁ、確かにそんな報告を聞いて修理しなくて良いと命令出したな……」
「ならば、早急に修理させよ。
ヒューマンでない者たちを、いつまでも地下牢に閉じ込めて置くべきものではない」
「はっ! 早急に手配致します」
「うむ……」
一人の兵士は慌てて階段を登り、いなくなってしまった。
多分、装置の修理するようにと手配しに行ったのだろう。
「手荒な真似をしてすまないな。
だが、ヒューマンではないとわかるまでの間、我々としては君たちをここから出すわけにはいかぬ」
「……」
「なんででちゅか?」
後ろでお腹が空いたといじけていたウォルガフは、トコトコと歩いてきてシュトレンに対して無垢な瞳で見上げていた。
「お主はフォス族か……実にかわいいのぉ〜」
えっ!?
シュトレンは、兵士や俺に向けていた目つきとは全く異なった、優しい目でウォルガフを見つめている。
「先程も話したのだが、お主聞いておらんかったのか?」
「むずゅかちぃ話ちぃぼくは、苦手でちゅ!」
「そうかそうか……」
今ならウォルガフのお願いなんでも聴いてくれそうなぐらい、にこやかなシュトレンであった。
「どぅちぃてもぼくたちぃはここから、出られないのでちゅか??」
ウォルガフは両目をウルウルさせながらシュトレンを見上げている。
出たっ!
ウォルガフの得意技、其の壱『上目遣い』……
ポイントは泣きそうで泣かないウルウル目だと俺は思う!
ポイントと押さえる事でかなりの高確率で、相手をメロメロにさせてしまうかなり強力な技だ。
「うっ……そのような目で見ないで頂きたいな……」
トコトコトコ……
便乗するかのように、ロジェもウォルガフの隣に行き一緒に並び始めた。
そして、ウォルガフと同様にロジェも『上目遣い』……
ダブル攻撃は流石にきついだろ……
因みに俺は、この二人の攻撃に勝った試しはない……
「ここから、出してもらう事は叶わないのですか?」
「うっ……!!」
二人のフォス族相手にシュトレンは陥落寸前だった。
「いいなぁ〜」
とボソリとグゥは呟き羨ましそうに見つめていた。
えぇっ!? 羨ましいの!!??
俺には羨ましいとはとてもではないが思えない。
まぁ、人それぞれの感性の違いと言う奴なのだろうか?
俺的には、どちらかと言えば打ち勝てる方法を知りたい……
「今すぐ出してあげたいのは山々なんだが、でもダメなんだ……」
「ぶちゅ……」
「どうしてもですか?」
「あぁ、ダメだ!」
シュトレンは、ウォルガフとロジェから目線を外し頑なに拒否の態度を示していた。
なるほど、目線を逸らすか……
だが、あまり効果はなさそうだな。
出してくれないとわかったウォルガフは、今度は鉄格子を掴みながら泣き叫び出した。
「だちぃてよぉ〜〜!!」
第二弾、出たっ!
ウォルガフの得意技、其の弐『ジタバタ我儘泣き落とし攻撃』……
其の壱が通用しないとわかるとウォルガフは、すぐにこれに切り替えてくる。
この得意技コンボのせいで、俺は普通の家からお菓子の家に変わり……
鎧も買った……
おやつも、毎日の食事も……
もうすぐ出れるかも……
「シュトレン様!!」
手配しに行った兵士は息を切らせながら、再び戻りシュトレンに報告をしていた。
「ヒューマン特定装置の件ですが、今から修理を開始し本日中には完了する。との事です」
「うむ、わかった。……というわけで、すまないがもう暫くここにいてもらえるだろうか?」
残念だが、俺たちはタイミング良く現れた兵士により出る事は、叶わなくなってしまった。
シュトレンにとってこれは出してあげたくても、出す事は出来ない状況でウォルガフに追い詰められていたからいい逃げ道になったと思う。
ウォルガフは出れないと解ると、だらぁ〜んと力が抜けたかのように鉄格子に顔をつけ始めた。
「うちゅ……お腹ちゅいたぁ……」
「俺もだぁ……」
「……わかった。修理が完了するまでの間、食事をしながら寛いでいてくれ。
ヒューマンでないと解ればすぐ解放する事を約束しよう」
とても寛げるとは言い難いけどな……
「ありがとでちゅ〜!!」
喜ぶウォルガフの姿をシュトレンは、鉄格子の隙間から手を伸ばし口元を少し緩ませながら頭を優しく撫でていた。
二人の兵士の目線に気がついたシュトレンは、慌てて咳払いをしたのち「暫し待て」と言い俺たちの前からいなくなったのであった。
シュトレンが優しいのか、デューンキーパー族自体がフォス族を好んでいるのか、どちらなんだろう?
まぁ、フォス族の対応はガルヴァルデ族とは正反対だな。
それともウォルガフが人気者なのか……?
取り敢えず、ヒューマン特定装置っという物が修理完了してしまうと、俺がヒューマンだって事は確実にバレてしまう。
それまでになんとかして抜け出さないと……




