【16】
目の前にいる、この禍々しい魔力を放つ男、 私この人を知っている……ような気が……
グゥにはそんな気がしてならなかった……
「なぜ、貴様とそこのムーンサン族の女は我に跪かない? 跪けっ!! 頭が高いぞ我を誰と思っている」
怒気と言う名の覇気に、グゥは身体震わせながら目の前にいる男に跪く……
もう少し……もう少しで、頭の片隅にモヤモヤがあって思い出しそうで思い出せない……
前にも、こんな事があった。
そんな気がしてならない……
跪きなからグゥは、そんな事を考えていた。
そして、声が響き渡る。
「ウォルガフ! ロジェ!! グゥさん!! 俺を置いて逃げろ!!!」
少しでも時間を稼ごうと、漆黒の闇の前に立ち塞がり守ろうとしてくれている魔法使いの少年の背中を、グゥは目を逸らさずに見つめていた。
その背中をグゥは、誰かの背中と被らさせていた。
「……ガ……ガルシア……?」
その一言の言葉と共に、一粒の涙を流しながらグゥは呟いたのであった。
思い出した………
私は確かにガルシアたちと、ここに来ましたわっ。
そして………
ガルシアたち四人は、ムーンフェイズでウォルガフとリュウイに別れを告げた後、徒歩でゲーブングに向かっていたのだ。
冒険者ギルドで仕入れた、ライオネットワイバーンの討伐の為に……
一ヶ月以上かけ遂にガルシア、ミラージュ、エクレウス、ゲーブングの街で仲間にした武道家の男、そしてグゥの五人は、レーベ平原に辿り着き大きな高台の岩山にいるライオネットワイバーンと対峙し、倒したのであった。
だが、当然それで全ては終わった訳ではなかった。
ライオネットワイバーンを倒したのちに、一人の魔族が姿を現したのである。
魔王後継者にして、三十六番目の息子……
その男は、跪かせたのちに五人を漆黒の闇に飲み込ませようとしていた。
「光栄に思うが良い……」
男はそう呟いていた。
ガルシアは、もう既に逃げ切れないとすぐに悟っていた。
だが、責めて一人でも生き延びる事が出来たのなら……
俺たちと同じようにこの男に消される事はなくなるのでは?
きっと俺たちの事は、ウォルガフに知らせが行くはず。そして必ず来てくれる。
ガルシアは、咄嗟にそう思い漆黒の闇に包まれながらも一番逃がしやすい場所にいたグゥを崖下に突き落としたのだ。
グゥの身体はフワッと宙を浮き崖下へと落ちていく……
「ガルシア……あなた……」
フッ……
「……後は頼んだ」
とカッコ良く決め台詞を決めたガルシアはその言葉を最後に、漆黒の闇に包まれて行く……
「……ガルシア……ガルシアァァァァァァァァァッ!!」
グゥは高い岩山を急降下しながらも、手を伸ばしガルシアの名を呼び続けていた。
岩山は高さ100m程ある。
その高さから受け身も取らず背中から落下すれば衝撃はかなり強く、グゥは全身強く打ち付け重症となる。更に落ちた衝撃により記憶を失ったのであった。
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なんとなく真っ暗な所にいるような気がした。
俺の身体は指先一つピクリとも動かず仰向けになりながら、宙を浮いているような……
目を空いているのか、閉じているのかわからないそんな場所だった。
あぁ……俺は死んだんだな……
と言う事を実感する事が、出来たのである。
何も出来ずに……
魔王に一死報いる事も出来ず……
はっきり言って今の俺にはやり残した事がいっぱいあった。
もう一度あの場所に戻る事が出来るのなら……
今度こそ! とそう思う一方、何も出来ずに再び殺されるのがオチかも……? と思ってしまう自分がいた。
突然、俺の脳裏にメッセージが流れてきた。
『道行く半ばであなたは倒れました。再チャレンジするつもりがあるのなら後一回復活する事が出来ます。復活しますか?』
▷【はい】・【いいえ】
これは、魔王に殺された時に出てきた『コンテニューしますか?』によく似ている文章だな……
今更こんな運営メッセージ、出てきても俺は嬉しくはないよ……
殺される前にもっとこぉ……限定された力じゃなくて活気的な力を……
皆を、いつでもどんな時でも守れる。
そんな力が欲しかったな……
そもそも、後一回って……
俺は何度もコンテニューした記憶ないんだけど……
もし、ここで俺が【いいえ】と選択したらこのまま死ぬのだろうか……?
死んだら現実世界に戻るのかな?
ハグは、いるのだろうか?
ハグはいたとして、中途半端感満載のまま俺は現実世界に戻っていいのだろうか?
後悔はしないのだろうか?
いやいや、どう考えても後悔しまくりだろ!!
そう考えると、俺は無意識に【はい】を選択していた。
『復活が選択されました。倒される数秒前から『転生者』を発動した状態でのリスタートとなります』
えっ!? まじ!?
『あなたの健闘祈ります……」
…………それだけ??
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はっと我に返ると、確かに漆黒の闇は俺の目の前にある。
全身に湧き出す力を感じる……
確かに『転生者』は発動中のようだった。
ステータス画面を確認すると、Level.255とチート的な能力値。
この力を使い、この状況を打破出来そうに俺には思えた。
むしろ打破しなければ、同じ相手に二度殺される事になる。
そんなの俺は嫌だ。
チラリとウォルガフに目線を向けると、どんな衝撃にも耐えれそうな魔王の大剣が転がり落ちていた。
魔王の大剣を拾い上げながら、ウォルガフに俺は話しかけた。
「ウォルガフ、ちょっとこの大剣借りるぞ」
「……」
ウォルガフは何も言わなかったが、俺にはそんなの関係ない。
「はぁぁぁぁっ!!」
魔王の大剣を両手に構え、力の限り気合を込める。
うん、凄く大事に使われている、とてもいい大剣だ。
これなら全力でやっても壊れないだろう。
多分……
壊してしまったらゴメン……
と思いつつ気合いの溜まった魔王の大剣を空にかかげ、思いっきり勢いよく振り下ろす。
「うおっりやぁぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
男は、ビックした目をしながら俺を見つめていた。
それもそのはず、思いっきり振り下ろされた魔王の大剣は空気を斬り裂き、真空派となって漆黒の闇を真っ二つに割ったのだ。
先程まで男の目の前にも、俺の目の前にも漆黒の闇があったはずなのに突如真っ二つに割れ俺が視界に入るのだ。
当然驚くだろう。
男は思わず軽く一歩後ろに下がった。
その瞬間、俺はつま先に力を込め、身を低くしながら男に詰め寄る。
チャンスは今! 『転生者』の発動中に決着つけないと……!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 神無月!!」
下からすくい上げるかのように鋭く速く……そして力強く男に向け振り上げて行く。
大剣と何かがぶつかり合う音が響き渡った。
「!!」
今度は俺が驚きを隠せなかった。
俺の渾身の一撃を男は、たった二本の指に挟み込み受け止めていたのだ……
「なっなぜ……?」
「魔族の王……その息子の我に忠誠の証である魔王の大剣を持ってして、刃を向けるとは何事だ……?」
「くっ……」
「まぁよい……どれ一つ試してみるか?」
男の掌から高圧縮された見た事も無い光が、バチバチと光り輝く。
闇属性なのか? 光属性なのか? それとも雷属性なのか?
それすら、俺にはわからなかった。
なんなんだよ。なんだよ、このデタラメな強さは……!?
「むんっ!!」
「ぐわぁぁあぁぁ!!」
衝撃波と電撃が、一つにまとまって俺の身体の外部と内部を一度に破壊したきた……
攻撃なんて生易しいものではない『破壊』と言うのが一番当てはまるような、そんな衝撃だった。
男は俺の襟首を掴み取り睨みつける。
「ふむ、まだまだだな……」
グッタリと動けなくなった俺の身体を見ながら、ポイッ! っともう興味はない。
と言わんばかりに、俺の身体はウォルガフのいる方へと投げ捨てられてたのだ。
ゴロンゴロン……と転がりながら、上半身だけを起こしあげる。
「つぅ……」
「リュウイたん!」
「リュウイさん!」
ウォルガフやロジェは、心配そうに俺の元に駆けつけてきた。
なんだよ。お前たち、もう跪かないのか……?
「ぼくも、戦うでちゅ!」
「悪かった……俺たちが変わりに戦う、だからリュウイさん見ていてくれ!」
どうした? 突然やる気になって……
それに二人ともなぜ頬に赤く手形が残っているんだよ?
「いきまちゅよ! ロジェたん!」
「あぁっ!」
「やめなさい。二人とも!」
グゥは張り切って男に挑もうとしている二人の手を取り、静止していた。
「ウォルガフちゃんやロジェちゃんが戦いに挑んだ所で、無駄よ」
「……グゥたん!? 今、ぼくの事を……」
そんなのウォルガフの疑問を無視して、話を続けているグゥであった。
「あなたたちが向かって行った所で、歯が立たないわ。また、おかしくなるのは明白よ」
「でも、グゥたん! ぼくたちは!」
「ウォルガフの言う通りだ。グゥさん、俺たちは!」
おかしくなるって……あぁ跪いてしまい事か……
ふぅ……それにしても痛い。視界は、滲んで見えるし。
多分『転生者』は、もう少しで時間切れになる。
それまでになんとかしないと……
俺の仮説が正しければ、魔王の大剣は魔王より授かった物……
あの男が本当に魔王の息子なのだとしたら、魔王から授かった剣が主に剣を向ける訳がない……
剣でダメとなると、後は魔法か……
俺の今、使える魔法を例え『ラグナロク』を発動したとしても、あいつに通用するとは到底思えない。
……となれば。
「……グゥさん。記憶……戻っていますよね?」
「!!」
俺を後ろから支えるグゥは、回復魔法に専念していてくれた。
でも傷が、深すぎるんだろう。
回復に思っていたより時間がかかっているようだった。
グゥは、俺の質問に黙って頷いていた。
「ミッ……ミラージュさんの最高火力魔術……知っていますよね?」
「なっ!」
「ミラージュさんの隣にいた、グゥさんならその詠唱呪文一語一句全て知っているはずです……俺に教えて……下さい」
「そっそんなの、だめよっ!」
「『転生者』がもうすぐ切れてしまいます!
そうなれば……あいつを撃退する事なんて、もう不可能です!
だからっ!!」
「ダメよ! 魔導師でない魔法使いが魔導師の魔法を唱えれば、どうなるかリュウイさん知っているの!?」
「知らないです。でも……これを切り抜けられないようなら、この先何をやっても俺はあいつに二度と勝てない……そんな気がするんです!」
「グゥたん、ぼくも協力ちぃまちゅよ!」
「俺もだ!」
「お願いです! グゥさん!」
「……あなたたち。どうなっても知らないわよ……」
ウォルガフの頼みは断れないグゥが負けたのか。
それとも俺の熱意に負けたのか……
どちらかなのかはわからないが、グゥは俺の提案に賛同してくれたのであった。
『灼熱の焔よ……火よりも熱く……炎よりも荒々しく……』
グゥの言葉通りに俺は、あの男に杖を向けながら詠唱を開始した。
『長い年月により蓄えられた灼熱の焔は、劫火の轟炎となり……」
「くっ……」
ヤバイ……目の前がグラついて、狙いが定まらない……
それに杖を握る力も……
ふっ……と意識を失い杖を手放しそうになるとウォルガフが、杖の下を持ち始めてくれた。
「リュウイたん、ぼくも手伝うでちゅ!!」
「……ウォルガフ」
ロジェは俺の手を掴み、がっしりと握りしめれるようにしてくれた。
「俺もだ!」
「ロジェ……」
ありがとう……
『願わくは、汝の願いを受け止めたまえ、火柱となり、焼き尽くせ! フレイアウォール!!』
男の足元から水色に光り輝く魔法陣が、現れ火柱が立ち起こる。
熱風に包まれながらも男は空高く、巻き上がって行く。
「ふむ、中々心地よい魔力だが我には効かんな……」
「知っているよ……」
本当の攻撃は次……
これは、ミラージュに一度だけ見せてもらった魔法だ。
だからこれは、ミラージュの使う最高火力魔術じゃない……
俺の予想通りグゥは詠唱を続け俺もそれに続く……
『狙え、魔力一滴枯れ尽くすまで……突き刺され、焔の楔……』
空中に浮いている男に、激しく燃え上がっている灼熱の楔が突き刺さる。
「ふっ……こんな物……」
楔を男は抜こうとしていたが、千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
「ラッ……ラグナロク発動ぉっ!!!」
五本の楔が男を貫く。
「くっ……この力……貴様、まさか……!?」
『弾け飛べ、シャムス・ヴィルム!』
言葉と共に五本の楔は、男の身体の奥深くに突き刺さっていく……そして爆発。
男がいた場所には、轟音と黒煙を巻き上げていた。
飛び散った灼熱は地面に落ちプスプス……と煙を上げていた。
どうだ!?
「はぁはぁ……つぁっ!!」
全身が痛い……!!
高電圧を帯びたハンマーで何度も何度も、叩きつけられているかのような激しい痛み……
「リュウイさん? 大丈夫!?」
痛がる俺の姿を見ながらグゥは声をかけてくるが回復魔法を発動してはくれなかった。
グゥさん、大丈夫じゃないです……
「恥ずかしい話なんだけど、私実はMP切れなのよね」
「……」
それは、気づかなかった……
早速システムメニューから、MPポットを取り出しグゥのMPを回復。
MP全開になったグゥは、俺の回復を開始してくれた。
……次第に黒煙は薄く消えていく。
「なっ……っ!!」
羽根の生えた人影が見えてきた……
嘘だろ……『転生者』中に魔導師の最高火力を俺は『ラグナロク』を使って発動したんだぞ。
無傷なはずは……
「ふぅ……今のは少しヤバかったかな」
男はゆっくりと大地に降り立ち俺たちの方に近寄ってくる。
傷一つ、つかずに……いや、微かにかすり傷ぐらいはあったかもしれない。
「もう、抵抗は無意味と言う事は充分に理解出来ただろうか? 無駄な抵抗はせず、大人しく我の力の一部となり消えるがいい……」
「くっ……!!」
くそっ!! 諦めたくない!
俺は何の力もない……また俺は誰一人守れないのか!?
んっ……? また?
なぜ、またなんだ……?
男の身体より漆黒の闇が増長して行く。
俺には、もう何も手立てが思い浮かばない……
ここまでなのか……!?
「みつけたぁ〜」
そんな声と共に光り輝く小さな球が男にまとわりつき始めている。
なんだ? あれは……?
「なんだ? お前か……今、いい所なんだ。邪魔するな」
小さな球の中には、可愛い黒い翼を生やした精霊みたいな者がいた。
きっと使い魔という奴だろう……
「そうは行かないです。大分魔力の消耗も激しそうですし、一度魔王城にお戻りください」
「チッ……」
少しイライラ君に男は、静止された事に怒っているようだった。
「この者たちを吸収しようとお考えのようですが、力の足しにはならないかと思われますよ」
「それは、こいつらが魔力使い果たした状態だからだろ?」
「魔王城に帰るつもりがないのでしたら、魔王様に言いつけますよ!?」
「チッ、わかったよ。戻ればいいんだろ、戻れば……」
「はいっ!」
男は渋々納得し、漆黒の翼を広げ始めた。
「では、魔王城に戻る。着いて参れ、コロンフル」
「はい!」
男は呆然としている俺たちに、振り返る。そして……
「……どうやらお前たちは、命拾いをしたようだな……我の名はイブルカルファ。魔王後継者候補也」
そう言うと男は飛び立ち使い魔と共に、飛び去って行ったのであった……
何はともあれ、俺たちはどうやら助かったらしい……
ーーーーーー
圧倒的な力を持っていたイブルカルフを相手に、生き延びる事が出来た俺はホッとしたのと同時に腰が抜けたかのように地面に座り込んでいた。
そんな俺の姿をウォルガフは、心配そう声をかけてきてくれた。
「リュウイたん、大丈夫でちゅか?」
「なんとかね……」
「よかったでちゅ〜」
「でも、あの男本当に魔王……の?」
「本物だよ」
ウォルガフと話しをしていると、ロジェは俺に近づきながらそう話してきた。
「あの方は、魔王後継者候補三十六番目の息子、イブルカルフ様だ」
「なんでロジェは、そんな事がわかるんだい?」
「俺たち魔族は……魔王様に決して逆らう事は出来ない。それは知っているよね?」
「あっあぁ……」
「例えば、死ねと言われば我々は喜んでこの身を差し出すわね」
「うちゅうちゅ!!」
ロジェとグゥは冷静に教えてくれてはいるが、ウォルガフ……お前ちゃんと理解しているのか??
何度も言うようだが、この世界は魔王の支配下……
「だから跪いていた……という事か……」
「……えぇ」
確かにゲーム時代には『この世界の王の息子が現れた!!』となると、俺たちヒューマンは跪かないにしても、NPCたちは普通は跪くだろうなぁ〜
「ぼくは、跪くたくなんかなかったでちゅ! でも身体が勝手に……」
「うんうん、俺もだ!!」
との事だ。
魔族の血と……
「イブルカルフか……」
俺は『転生者』も『ラグナロク』……
何一つ敵わなかった。
はっきり言って情けない……
Levelや魔法Levelを上げてどうのこうのとか、そういう問題ではないような気がする。
勿論、Level上げは大切だ。
いくら強力な攻撃手段を用いても、使いこなせるほどのLevel……能力がなければ意味はない。
そして俺には、その強力な攻撃手段というものが存在しない……
あの時、発動した『シャムス・ヴィルム』……
本来なら魔導師になって、初めて発動する事が出来る強力な魔法だ。
魔法使いである俺が、無理矢理グゥに頼み込んでなんとか発動する事が出来た。
結局それすらも、通用しなかったんだけど……
魔導師じゃないから、威力がなかったのかな……?
「はぁ………」
思わず深いため息をついてしまった。
これから先、俺はどうやって強くなればいいのだろうか?
「所で、グゥたん。記憶戻ったのでちゅか?」
「えぇ……」
やはり、グゥを連れてきて正解だったようだ。
ガルシアたちは、ライオネットワイバーンを倒し俺たちと同じようにイブルカルフが現れた……
咄嗟にガルシアはグゥだけでも逃がそうと崖下に突き落としたのだ。
その結果、地面に激突した衝撃で記憶を……
だが、イブルカルフの事がきっかけで、完全に思い出す事が出来たらしい。
最初にウォルガフやロジェが跪いているのに、記憶のないグゥは俺と同様に立っていた。
記憶がないのだ、跪くわけがない……
それでも、イブルカルフから発せられた怒気と言う名の覇気に、蹴落とされグゥは何もわからぬまま……
跪いた。それは、記憶はなくとも魔族としての忠誠心の表れなのだと思う……
「そういえば、なんでウォルガフとロジェの頬……赤いんだ?」
「グゥたんにね……」
「おうっ!」
「思いっきり叩かれたのだ!」
「!?」
「……だってそうしないと、貴方たちずっと跪いていたでしょ!?」
「確かにそうかも……」
「でも、痛かったでちゅ……」
頬をわざとらしく押さえるウォルガフに、グゥは抱きしめ始めたのだ。
「ごめんなさいね、ウォルガフちゃん」
「うちゅ……」
「ガルシアは、最後までウォルガフちゃんを信じて私を逃がしてくれた。
そして、その想いにウォルガフちゃんもきちんと応えてくれましたわ……」
「……グゥたん……」
「ありがとう……」
震える小さな悲しい声……
そして、肩は僅かに揺れていた……
一粒の涙も見せずにグゥは、耐えていた。
素直じゃないよなぁ〜
そんな姿を俺とロジェは、見ていた。
「……」
「羨ましいの……?」
「べっ……別に……」
ロジェは慌てて訂正してはくるが、羨ましそうに見つめている所からロジェも素直じゃない……
俺は、ロジェの頭を思いっきりクシャクシャと撫で回してあげた。
「ちょっ……リュウイさん。痛いよ……?」
「んっ? そうかい?
それにしてもロジェもウォルガフも、グゥさんも皆……素直じゃないよな?」
「そうかな……?」
そうかな? じゃなくて、そうだよ。
「結局、何の為にイブルカルフは冒険者たちを吸収していたんだろうね……」
「それはわかんないけど……でもまたきっと会う事になるだろうね」
「……」
はっきり言ってもう二度と会いたくなかったし、戦いたくもなかった。
だが、ロジェの言うとおり再び再会を果たす時は必ずある……
その時までに、俺は果たして強くなっているのだろうか……?




