【12】
「グゥたん……?」
ウォルガフはグゥの側から離れようとはしなかった。
優しく微笑みながら、グゥはウォルガフのツンツン頭を撫でていたのだ。
「グゥたんは、ぼくと会うといつもギュッ〜とちゅるんでちゅよ」
「あら? そうなの? ごめんね、私はあなたの事何一つ覚えていないわ」
「うちゅ……」
「でも、なにかしら……胸がドキドキとして、そうねトキメイているかも」
「……」
確かにグゥさんは、ウォルガフに熱烈にラブコールを送っていた人だったからな。
記憶がなくても、心の奥底にはウォルガフの事を覚えている欠片でも残っていると言う事か……
欠片……
……欠片……か。
ふむ、俺は残酷なのかもな……
確かに俺が思っている事を実行すれば、もしかしたらグゥさんの記憶は戻るかもしれない……
でも、それは……
「リュウイさん、俺もその方法がいいと思うよ」
「!!」
俺の足元で立っていたロジェは、俺を見上げながら真剣な目つきをしていた。
「ロジェ……お前……」
俺の考えている事がわかるのかよ?
ロジェは、黙ったまま頷いていた。
その姿を見て俺は吹っ切れた。
「ヴァリエートさん、グゥさんの容体はどうなんですか?」
「怪我とかはもう完治している。後は記憶が戻れば……」
「この状態で魔法とかも?」
「出来るんじゃねぇか?」
「わかりました」
俺はグゥの元へと歩いて行く。そして……
「グゥさんは、記憶を戻したいと思いますか?」
「……えぇ、出来る事なら」
「俺たちと一緒に、ライオネットワイバーン退治に行きませんか?」
「えっ!?」
「えっえぇぇぇぇぇっ!?」
ロジェを除く、他の皆は口を揃えて反対してきた。
そりゃ、そうだわな……
でも、俺はここに来るまでの間ずっと考えていた。
ウォルガフとロジェは戦闘系、敵の目の前に立ち攻撃を行う。いわゆる前衛という奴だ。
一方俺は、後方で火力の高い魔法を打ち込む、魔法使いであって前に出る事は殆どないに等しい。
これは、バランスのとれたPTと言える。
だが、このバランスの取れたPTにでも最も重要な職業が俺たちにはいない……
魔物の攻撃を受けたら傷を回復する者の存在……
僧侶だ。
僧侶がいるのといないのでは、生き残れる確率は大幅変わってくる。
最強の盾使いと言われるガルシア、それに火系統一筋だった魔法使いのミラージュ、魔物の動きを封じる事が出来たエクレウス。
この三人を殺す程の力を持ったライオネットワイバーンに僧侶を、欠いて行く事などいくらウォルガフやロジェが強いとは言え、無謀に近い事だろう。
だから、ずっと俺は僧侶は必要だと思っていた。
「リュウイたん、一体何を言っているのでちゅか?」
「ウォルガフは反対?」
「勿論でちゅよ! グゥたんにそんな無茶してほしくないでちゅ!」
「俺も反対だっ!」
予想通り、ウォルガフとヴァリエートは反対するよな。
でも、グゥさんの回復力は絶対必要だ。
「俺はリュウイさんの意見に賛成だよ」
「ロジェたん!?」
「冷静に考えてみなよ。そもそも、俺とウォルガフ、それにリュウイさんでライオネットワイバーンに勝てると思う?」
「思いまちゅ!」
即答かよ……
「確かに勝てるかもしれないけど、ガルシアさんたちだっけ? その人たちを全滅させた、ライオネットワイバーンを果たして俺たちは無傷で倒せるかな?」
「それは……ぶちゅ〜」
どうやら、ウォルガフにとって難しい話しになってきたらしいな……
「俺とウォルガフは無傷で済むかもしれないけど、リュウイさんはどうかな?」
「……」
「下手したらガルシアさんたちの、二の舞になる可能性だってあるよね?」
「うっうちゅ〜」
「僧侶は必要だよ。ウォルガフ」
「……でもぉ〜」
「どうしてもウォルガフが、グゥさんを連れて行くのに反対すると言うのなら、俺はこの街から出て何処かに行く。
勝手にライオネットワイバーン倒しに行けばいいさっ。
そして、全滅したとしても俺は絶対、絶対敵討ちには行かないよ」
「ロジェたん……」
言いたい事、全てロジェが言ってくれたよ……
この場合、俺が言うよりロジェに言ってもらった方が確かに説得力はありそうだな。
ロジェには感謝しないと……
後でお礼を含めて、ウォルガフに内緒でコッソリと何かするか。
「俺は、新しいナックルが欲しいぞ、リュウイさん」
ロジェは見透かしたかのようにボソリとニヤリと笑いながら呟いていた。
洞察力がすごいのか、ロジェがすごいのかわからん!!
「どうしますか? グゥさん……記憶が戻る可能性は一番高いとは思いますけど」
「……」
グゥは下を向いたまま何も言わなかった。
「でも、それと同時に悲しい出来事もまた味わい事になるかもしれません」
追い打ちをかけるかのように俺はグゥにそう言い放った。
だって、後からこんなの嫌! と言われても困るしさ……
「グゥたん……?」
グゥは黙ったまま布団を握りしめていた……
「でも、最終的に決めるのはグゥさんです。自分の思うがままに結論を出して下さい」
「私の思うがまま……?」
「えぇ、でもこれだけは言っておきます。俺たちはライオネットワイバーン必ず倒します!」
まぁ、正確には倒すのはウォルガフとロジェだけどね……
人任せになってはしまうが、実際問題俺は足手まといだろう?
『転生者』を発動しない限り……
俺の本心を言えば、グゥに来てもらいたかった。
グゥは俺がヒューマンだって事知っている。
そして、グゥはその事を秘密にしてくれていると以前言っていた。
だから、俺はその時になれば安心して『転生者』を発動できる。
でも、グゥが来ないと結論にいたれば、俺はそれなりの強い僧侶を募集するだろう。
だがそうなった場合、俺は『転生者』を発動しない……
その僧侶から俺がヒューマンだと言う事、もしかしたら漏れるかもしれない。
俺は共に戦った仲間を口封じなどしたくないしな……
「甘いかな……?」
「甘いね」
ロジェに呆れ顔されながら、あっさりと返事されてしまった……
「グゥたん、嫌なら嫌でいいんでちゅからね? 無理ちぃちゃダメでちゅよ」
「あの……えっと……」
グゥは何かを決意したかのように、俺の目を真っ直ぐ見ていてくれた。
「はい」
「二、三日、私に時間を下さい」
「それは構いませんけど……?」
「ありがとう、その間に私はどうしたらいいのか? そして、どうするべきなのか、自分の気持ちを整理したいと思います」
「……わかりました。では三日後また、ここに来たいと思います」
「はい、お待ちしておりますわ」
グゥの心はもう既に、決まっているかのように俺には思えた。
なのに何故?
三日間の時間が必要なんだ??
「まぁ、三日後のお楽しみだね」
「……そうだね」
冒険者ギルドを後にした俺たちは、三日間自由に過ごす事にした。
一日目は、ウォルガフとロジェに俺のLevel上げを手伝ってもらった。
まぁLevel上げと言っても、Level.20までなんだけどね。
あっという間にLevel.20にとなり、最大HPは208まで増え『転生者』の発動HPも69とかなり余裕を持てるようになった。
発動条件を取り敢えず三桁にはしたいなぁ〜
魔王の呪いがある以上、贅沢は言っていられない。
この三日間でシャイターン・ポイントを増やしてLevel.30解放……とも思ったが、まだ半分以上もある事から諦めた。
残りの日数を、ただぼぉ〜として日にちが経つのももったいないので、ひたすら魔法を発動し魔法Levelの底上げを図る事にした。
MP.500とちょっと桁外れたMPを手に入れた俺は、MPが尽きるまでひたすら魔法を放つ……
MPが無くなればMPポットで全回復。それを永遠にやり続けていた。
俺の魔法Level上げなど当然、ウォルガフとロジェは興味はなく、最初は興味津々に俺に付き合ってはいたものも、すぐに飽きてしまい駄々をこね始めてしまった。
「飽きたでちゅ〜」
「暇だよねぇ〜」
「……」
俺は忙しいよ……?
「リュウイたん、街中探検ちょぉよお〜」
「探検〜いこ〜」
ウォルガフやロジェに付き合って行きたいとは思ったが、少しでもこの二人の足を引っ張らない為にも俺は魔法Levelを一つでも多くあげたかった。
銀貨三枚ずつ二人に一日分として渡し好きに使うように話した。
「お小遣いでちゅか!?」
「お小遣い〜♪」
ロジェはウォルガフみたいに感情を表に思いっきり出す事はない。
だが、好きに使ってもいいお金を貰えたという事から、目は嬉しそうに、口元はほころんでいた。
「うん、俺は行けないから、二人で行ってきて」
二人は嬉しそうに街に駆け抜けて行くのであった。
まぁ迷子になる事はあるまい……
三日目……
今日はグゥの話を聞きに行く日なのだが、ヴァリエートが夕方に来てくれとの事なので、今日も二人には銀貨三枚渡し俺は時間まで魔法Levelをひたすら上げる事にした。
お昼過ぎた頃だろうか? ひょっこりとロジェだけが戻ってきたのだ。
「あれ? ロジェ、どうしたの? ウォルガフは?」
「ウォルガフは、近くで昼寝中」
「近くって……ここに来ればいいのに」
俺がいる場所は、街から少しだけ離れた平原だ。
低く平らな広い地形は、見通しも良く魔物が俺を襲おうとしてもすぐわかる事から、多少Levelの強い魔物が現れても十分に対応する事が出来た。
俺がいる場所から二mぐらいかな?
そこには一本の太い大木がある。
ウォルガフはその大木にハンモックに揺られながら、どうやらお昼寝するらしい。
「『リュウイたんの邪魔をしちゃダメでちゅ!』だってさ」
「なるほど……」
「それでロジェは、お昼寝しないの?」
「ん〜してもいいんだけどさっ。リュウイさん実際の所、実戦経験足りてる?」
「……」
確かに、俺は剣士としての実戦経験は豊富かもしれない。
でも魔法使いとしてはどうだろうか?
剣と魔法その戦闘方法は全く異なる。
ロジェの言う通り魔法使いとしては、実戦経験不足なのかもしれない。
「相手になってくれるの?」
「リュウイさんさえ、良ければ」
「手加減してね……?」
「それはどうだろ……」
あっこの顔は、絶対手加減する気ないな!
俺の予想通りロジェは、一っつも手加減する事はなかった。
省略を使わないでの実戦は難しかった。
ロジェの動きは、だいたい読める。
だが、詠唱をしながら避けると言うのはやはり至難の技であった。
「くそっ……はぁはぁ」
「もう終わりかい、リュウイさん?」
体力の限界で、堪らずその場に座り込む。
ロジェは息一つ切らしていないと言うのに、実に情けない……
「ロジェ……少しは手加減してよぉ〜」
「手加減したら訓練にならないよ……」
「そりゃ、そうかもしんないけどさぁ〜はぁはぁ……そもそも当たんないし、詠唱唱える暇がないよ」
「ん〜リュウイさんは、火炎、冷気、雷撃の三系統全て発動できるんだよね?」
「はぁはぁ……一応はね」
「なら、その系統毎の特徴も勿論頭に入っているよね?」
「特徴……?」
「例えば、冷気の魔法は発動が一番早いとか……かい?」
「うんうん、それそれ」
ロジェは何が言いたいんだ……?
「特徴をさっ、よく考えてみるといいよ」
特徴をよく考えろか……
相変わらずロジェには、省略の魔法は通じないし……となれば……?
ふぅ〜呼吸を整え俺は立ち上がりり、ロジェに向かって杖を構える。
「よし、もう一回!」
「いつでもいいよぉ〜」
再びロジェの攻撃を避けつつも、俺は先ほどの言葉を思い出す。
特徴をよく考えろ……
特徴……特徴……
そもそも、詠唱には長いのと短いのがある……
んっ? ロジェが言いたかったのはこういう事か!?
俺はブツブツとフレアストイライクの詠唱を始めた。
「赤く燃え盛る緋色の力……炎は荒ぶる紅蓮の塊と化し……我が前の敵を焼き払え……」
ここで魔法を、発動しないで一旦詠唱を止める……!
「くっ……」
ズンっ! と身体に負担が重くのしかかってきた。
きついなぁこれ……
だがやってみよう。次は……アイシクルボールの詠唱……
「空気よ凍れ、そして塊となり敵を凍りつくせ……」
二つの魔法が発動段階になった時、突然視界がぐらつき始めた。
「あれぇ……?」
これは、やばい……
急速にふらつきながら意識を持って行かれそうになり、思わず膝をついてしまった。
「リュウイさん??」
慌てて駆けつけてきたロジェに俺は、力を振り絞った……
「ロジェ……俺には無理だわ……」
「えっ?」
その言葉だけを残し、俺は前に倒れこみそのまま気絶したのであった。
只々何があったのかわからないロジェは、俺の姿を見ながら、
「リュウイさん、今……一体何をしようとしていたの……?」
と呟いていた。
ーーーーーー
「ウォルガフっ!! リュウイさんがぁっ!!」
ウォルガフは、久しぶりの昼寝を味わっていた。
気持ち良くハンモックに揺られながら、日頃の疲れを癒すかのように昼寝をしていたのだ。
だが、それもロジェの叫び声に目を覚まし、慌てて俺の元へと走ってくるのであった。
「どうしたのでちゅか? ロジェたん?」
「リュウイさん、倒れちゃったぁ〜」
「ありゃまぁ〜」
当然危機感など、この二人にはある訳もなくツンツンとウォルガフは俺を触っていた。
「あつぅ!!」
俺の身体は、今にも燃えてしまいそうなぐらい全身高熱を宿していた。
「リュウイたんの身体あちゅあちゅでちゅ!」
「なんでだろう〜」
「わかんなぁいでちゅ」
「取り敢えずあちゅいから、水でもかけて身体冷やしてみる?」
「それはいい案でちゅね!!」
子供は幼稚としか言えない発想である。
しかし、ここは高原だ。水など突然必要となっても、すぐ側にあるはずもなく……
ウォルガフは猛スピードで街まで戻り桶に入った水を持って来るのであった。
「水、持ってきたでちゅ!! いきまちゅよ!」
「おうっ!」
ロジェの言葉にウォルガフは、俺の身体に水をかけようとしていた。
しかし、ウォルガフの腕を取り水をかけるのを制止する者がいた……
「うちゅ?」
ウォルガフは、なぜぇ? と思いながら後ろを振り返るとそこには、グゥがいたのであった。
「グゥたん!?」
「約束の時間になっても来ないから探して来てみれば……あなたたち、なにやっているの?」
「えっとぉ〜」
即答出来ないロジェの代わりに、ウォルガフが代わりに返答したのである。
「リュウイたんに、水をかけようかと思っていまちぃたぁ」
「なぜ?」
「リュウイさんの身体、なんでか知らないけど熱々なんだよね」
かるーく言うロジェとウォルガフに、グゥは少し呆れ顔をしていた。
グゥは俺の側に座り込み、俺の身体を触り始めた。確かに高熱状態であった。
「……一体何をすれば……こんな風になるのかしら……?」
「わかんないよぉ〜魔法発動中に突然ぶっ倒れたんだから!」
「魔法発動中?」
「うん」
そもそも、記憶のないグゥが三日前のあの時、俺の話に乗りライオネットワイバーンに挑んだとしても、僧侶の必要とされている回復魔法を忘れている今の状況ではグゥ自身何もできないのでは? と思っていた。
それならば……心は忘れていたとしても、身体は覚えているはず。
グゥはこの三日間、僧侶の回復魔法について全て新たに覚え、思い出そうとしていた。
そして、今の俺の状況を回復させるには一つしかグゥは思い浮かばなかったのである。
「空気中に漂う光の粒よ、集まり一つとなりて汝に命じる……願わくばこの者を回復したまえ……リカバリー!!」
光が俺を包み込み、そして消え去って行く……
「おぉ〜」
「グゥたん、ちゅごいでちゅね!」
ロジェとウォルガフ、そしてグゥが見守る中、ゆっくりと俺は目を覚ました。
「リュウイたん!!」
ウォルガフは安心したのか、目を覚ました俺に抱きついてきている。
「ウォルガフ……?」
二つの魔法を唱えようとした時、突然視界がぐらつきそこで俺の意識は途絶えた。
そこまでは確かに覚えている。
目を覚ましたらウォルガフは抱きついてくるし、なぜかグゥさんがここにいるし……
俺には、何が何だがさっぱりわからなかった……




