【間話】②
本編とは関係ない番外編として、考えて下さい
今日は3月14日……
先月に引き続き今月は、ホワイトディだ。
この日は、バレンタインディの時に貰った感謝の気持ちを返す日である。
ふむ、ホワイトディかぁ……
グゥと仲良くなる前付き合っていた彼女たちは、ニコニコしながら俺にチョコレートを渡して来た事を今でも覚えている。
流石にチロルチロル一個はなかったが、それでも近い物を渡して来た彼女もいたな。
明らかに義理だろ!? と突っ込みいれたくなった時もあったが、あの時は俺もゲーム三昧だったし対して気にしてはいなかった。
一番びっくりしたのは、高級腕時計を渡して来た彼女だ。
十万ぐらいしそうな腕時計を、もらってもお返ししきれないと言うと……
あちら側から俺を振ってきたな。
あっ後、ムカつく彼女もいた。
彼女とは、『剣と魔法と魔王』がまだゲームだった頃……
それこそグウと出会う前、ゲーム内のみ仲良くなったプレイヤーの一人だ。
2月14日、彼女は俺にダマスカスブレードを贈ってくれた。
ダマスカスブレードは、最強装備と言われる『聖王シリーズ』の一つ聖王の剣よりは遥かに弱い。
だが、ダマスカスブレードはあの時俺が持っていた武器よりも、遥かに性能は良かった。
それを受け取った時、めっちゃくちゃ嬉しかった事を俺は今でも良く覚えている。
だが、一ヶ月後……
それこそ3月14日の日。
俺もその彼女にそれなりの物をお返しに贈った。
しかし、彼女はそれが気に食わなかったらしい。
「……これを私に?」
「うん」
彼女は俺が何かを贈ろうと必死に素材を集めているのを知っていた。
知っていたが後の楽しみに取っておこう彼女は、知らない振りをしていてくれた。
それなのに……
出てきた言葉は『ありがとう』ではなかった。
別に感謝の気持ちを俺は、求めているつもりはなかった。
だが、もう少し言い方というものがあると思う。
彼女が言い放った言葉は……
「……こんなゴミ防具、いらないわ」
「……へっ?」
これには流石に、呆気に取られてしまった。
彼女はゴミ防具と言ってはいるが、ダマスカスブレードより少し上の価値がある防具を俺は用意したのだ。
それを彼女は……
「もっとマシな物、用意出来なかったのかしら?」
「えっ!?」
予想外の返答に顔を引きつらせている俺に対して彼女は更に会話を続けてきた。
「はぁ……私の見込み違いだったようね……」
そう言ってきたのだ。
「ごめん、次はもっと良い物を用意するよ」
PCの目の前で握り拳を握りしめながら、チャットしていた。
そして、イライラしているというのにタイミング良く、母親からの早く晩御飯を食べなさい。とのイライラ君の声に、俺は彼女にゲームを起動したまま30分程PCの前から離れる事を告げ席を外した。
そして、30分後……
再びPCの前に戻ると俺は血の気が引いた。
席を離れる前、確かに俺はフィールド上にいた。
フィールドは魔物が生息する事から、PCから離れる事は推奨されていなかった。
離れても死んでしまった場合、自業自得……
あくまでも自己責任なのだ。
だが、仲間がいれば席を離れていても大抵は守ってくれる。
仮にこの場に仲間がいなかったとしても、半日以上フィールドに放置したとしよう。
俺のLevelでここにるフィールド上の魔物に攻撃されても死ぬ事はまずありえない。
なのに……
再びPCの前に戻って来た時、俺のキャラクターは教会の中にいた。
「はぁっ!???」
思わず大声を上げていた。
そして、経験値とダマスカスブレードだけが失わられていた事がすぐにわかった。
彼女は俺が席を外しているという事は知っている。
魔物が例え襲いかかってきたとしても、教会に戻っているなどまずありえない。
ならば、彼女が……
俺にPKを仕掛けてきた。
これしか考えつかなかった。
プレイヤーキルとは、他のプレイヤーが魔物ではなくプレイヤー攻撃し倒す事だ。
そして、プレイヤーキルにより倒されたプレイヤーはアイテムを一つ無条件で奪われてしまう。
速攻、俺は彼女にチャットを送る……
だが彼女からの返事は、一切なかった。
何度も何度も送るが無視され続け、怒りだけが俺の中で悶々と溜まっていた。
二ヶ月後。
大分気持ちの整理がついた頃、街で彼女を見かける事が出来た。
早速捕まえ話をしようとするが、彼女は俺の事など既に眼中になく忘れていた。
「あんた、誰?」
「……」
もう飽きれて、何も言いたくなくなった。
それ以来、彼女をたまに見かける事はあっても俺は話しかけなくなかった。
悶々としているうちに、ハグと俺はゲーム内で出会うようになった。
ハグのレベル上げや、クエスト達成とかしているうちに次第に忘れて行く事が出来た。
それでも、2月14日になると胸糞悪く思い出す。
するとハグに言われた。
「そんなに悔しいなら、見返してやればいいじゃない?」
「見返すって……どうやって?」
「ん〜同じダマスカスブレードだけど、高性能とか?」
「ふむ……よしっ、それで行く!!」
「えっまじっ!?」
俺も単純なので、ハグの冗談混じりの提案にあっさりと乗り、材料を必死に集めて行く。
何が何でもダマスカスブレードを、再度手に入れる事にしたのだ。
そして、ハグの助言通りにダマスカスブレードを強化して行く……
強化には失敗は付き物だ。
鉱石の種類に寄って、成功確率は変化していく。
例えば……
銅では3割程しかない成功率でも、ミスリルを使うと8割程の成功率になる為、ひたすら限界値近くまで強化を続けて行く。
そして、あと一回強化すると限界値まで強化されると言うのに……
成功率が2割しか残されていなかった。
暫く考えた。
せっかくここまで強化してきたのが、一回の失敗に全てゼロになってしまう。
今のままでも充分強化はされており、未強化のダマスカスブレードより遥かに高性能なのは間違いなかった。
しかし、俺は2割の成功率だとしても、失敗を恐れずに強化させた。
結果……
聖王の剣に近いぐらいの高性能に開花させる事が出来たのだ。
今は、柄だけになったダマスカスブレードだけどね……
悲しいな……
話が逸れてしまった。
取り敢えず、3月14日は俺にとってあまりいい思い出はない。
彼女たちは3月14日になるとお返しを期待し、俺に目を輝かせながら見つめてくる。
それはどうやら、ウォルガフも同様だった……
だから、忘れていたと思っていた嫌な思い出を思い出したのだと思う。
でも今は、ゲームじゃない、魔族の世界になった現実世界だ。
それにウォルガフは、彼女たちみたいな態度は取らないだろう?
しかし、良く良く考えてみれば腑に落ちない部分が見えてきた。
そもそもウォルガフは、2月14日の日に感謝の意味を込めて、手作りのチョコレートを渡してくれた。
だが俺は、いつもウォルガフに食事代を払っているわけで……
返す必要あるのだろうか? とふと疑問に思ってしまう。
このままスルーすると言う手もあるのだけど……
後が怖いので、無難なチョコクッキーをウォルガフに渡して見た。
「ありがとうでちゅ!!」
速攻ウォルガフは食べ切ってしまった。
どうやら、バレンタインのお返しと言う認識をされていないらしい。
次第にウォルガフはソワソワとし始めた。
まだか? まだか!? というのが見てすぐにわかった。
アイテムボックスの中から、ウォルガフの好きそうな物を探し出す……
武器はゲーム時代に、俺の職業が剣士という事もあって豊富にある。
だが、魔王の大剣を超える能力を持った武器となると、流石になかった。
鎧はこの前、ウォルガフに買ってあげた。
もう面倒だから、それをお返しに……ならないよな。
となると何がいいのだろうか?
うーん。
アイテムボックスを開きながら、腕を組みながら悩む。
「ふぁ〜暇でちゅ〜」
「あっ!?」
「うちゅ?」
いい事思いついた!
俺はウォルガフの手を掴み取り、ムーンフェイズを飛び出していた。
「どこに行くんでちゅか?」
「まぁ、まぁ、いいからっ!」
「ぼくはお腹空きまちぃたよ?」
確かに太陽は沈みかかり、もう少しししたら夜になってしまう。
間に合うかな?
十分程走り抜け、ある場所へとウォルガフを連れて行く。
「はぁはぁ……ちゅかれたぁ〜でちゅ〜」
「着いたよ」
「ここはどこでちゅか?」
一度だけ俺はゲーム内でハグと喧嘩した事がある。
喧嘩の理由は忘れたけど、でも仲直りした場所が今俺とウォルガフがいる場所だ。
そこは、木も生えていない岩だらけの高い崖の上だった。
「ここに来てどうちゅんでちゅか?」
「まぁ少しここで待っていてくれ」
「うちゅ?」
ウォルガフの不思議そうな顔を見ながら俺は準備を始める。
まず、岩の中から平べったく大きな岩を探し出す。
「これがいいかな。フレアボール」
フレアボールが岩に命中。
岩は瞬く間に高温へと熱を帯びて行く。
次にアイテムボックスから、大量に余っている肉を取り出す。
狼、豚、牛、竜、猪等々、肉の種類は実に豊富だ。
ゲーム時代からある肉だから、腐っているかはわからないけどね。
まぁ臭いを嗅いだ所、変な匂いもしないし大丈夫だろう?
更に野菜として、人参、キャベツ等を取り出す。
野菜は、ゲーム時代料理職人が必要としている食材でこれがまた意外と売れるのだ。
取り出した肉と野菜を豪快に熱した岩に放り投げる。
ジュワ〜!!
と音と共に一つだけ後悔した事があった。
「あっ油入れるの忘れた……」
岩に肉はくっつきながらも、野菜と共に焼け始めてきた。
えっと……塩コショウ……塩コショウと。
アイテムボックスの中から塩コショウを取り出し、満遍なく振りかける。
うん、いい匂いがしてきたぞ!
ぐぅ〜〜!!
ウォルガフは腹ペコのようだ。
人差し指を口に加えながら、俺が何をやっているのか理解していた。
既にちゃかりと自作の岩の椅子を作り上げ、隣に座って今か今かと待ちわびていた。
「リュウイたん、お肉焼けたでちゅかぁ〜」
「おぅ!!」
「いただきまちゅ〜〜!!」
どこから用意したのかわからない箸を取り出し、焼きたての肉を頬張るウォルガフであった。
「おいちぃ〜でちゅ!!」
「肉ばかりではなく野菜もきちんと食べろよ?」
「うちゅ??」
可愛くウォルガフはとぼけて見せた。
この野郎っ!!
ウォルガフは、大量にあった肉だけを綺麗に平らげてくれた。
野菜は、殆ど手をつけずに……
ったくけしからん奴だ。
残った野菜だけを俺は頬張る。
大量の野菜を食べ終わった頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
食べ過ぎた……
「リュウイたん、そろそろ戻りまちゅか?」
「あぁそうだな」
食事の後片付けも終わり、ウォルガフは大喜びしてくれた。
だが、俺の目的は食事だけではない。
ウォルガフはトコトコと来た道を戻ろうとしていた。
「ウォルガフ、そっちじゃない」
「うちゅ??」
「こっちだ」
俺は来た道の反対方向に立ちながら手招きをする。
「そっちは崖でちゅよ?」
「まぁまぁ帰る前に、見て行こうよ」
「??」
ウォルガフは、トコトコと俺の足元へと歩いてくる。
崖ギリギリまでに歩み寄ってきたウォルガフに俺は指を指す。
指された方向にウォルガフは目を向けてくれた。
「うわぁぁぁぁ!!」
ウォルガフの歓喜の声が聞こえてきた。
眼下にはムーンフェイズの街灯が綺麗に光り輝いている。
「すゅごい!! すゅごいでちゅ!!」
もうウォルガフは飛び跳ねながら、ムーンフェイズの夜景に興奮していた。
だが、子供とはいえ男の子……
三分も経たずに飽きてしまった。
まぁ、俺もすぐに飽きるけどね。
なんでグウと喧嘩したのか今はもう忘れた。
でも、俺が一方的に悪かったのを覚えている。
その時に、仲直りをする意味を込めてグウに夜景を見せた事がある。
夜景を黙ってじっと見ていたグウを俺は見終わるまでの一時間、一言も話さず苦痛に耐えながらも待った。
そして、見終わった頃、俺はグウに謝った。
すると……
ニコリと笑って許してくれた。
俺は、ウォルガフを喜ばせるアイテムは何も持ってはいない。
精々食事ぐらいだ。
だから、これでウォルガフが満足してくれたらいいなとは思う。
「リュウイたん、ありがとでちゅ!!」
「……」
うん、喜んでくれたようで何よりだ。
「ちゃてと……」
「帰るか?」
「はいでちゅ!」
ウォルガフは振り返らなかった。
「どうした?」
「うふ、うふふふふふふ」
ウォルガフの不気味な笑い声が聞こえる。
こっ……こわいぞ!?
「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
崖の上から俺の叫び声が響き渡る。
「いやっほぉ〜でちゅ〜〜!!」
全く近所迷惑もいい所だ。
ウォルガフは、左足を軸にして回転しながら右足で、俺の背後から足払いを行いバランスを狂わせた。
「うわっうわっ!?」
バランスを崩した俺の身体は、崖に転がり落ちて行く。
空中を回転させながら、ウォルガフは宙を舞い転がり回っている俺の腹の上に着地。
「ぐへっ!?」
転がり回る事はなくなったが、俺はウォルガフ専用のソリになったかのように崖下まで一気に滑り落ちて行ったのであった。
「いっ痛い……」
仰向けのまま滑り落ちたお陰で背中は擦り傷だらけ、服は地面の摩擦のせいで擦り切れてボロボロに破れていた。
「楽しかったでちゅ!!」
「……っ!?」
痛みで文句を言いたくても言えない俺にウォルガフは言い放った。
「また、崖滑りやりまちょうね!?」
「誰がやるかぁ〜!!」
心配する素振りを見せないウォルガフに、俺は思わず怒鳴ってしまった。
その後、ウォルガフはショボンと落ち込んでいた。




