【11】
ムーンフェイズを出発して僅か一日とちょっと……
かなり早くゲーブングに、着く事が出来た。
「わ〜い♪ 着いたぁでちゅ〜」
「着いた、着いたぁ」
ウォルガフもロジェもずっと大人しく騎竜に乗りっぱなしだったから、降りた途端はしゃぎ回っている。
俺は騎竜に『帰りもよろしく、それまで休んでいてくれ』と念じていた。
騎竜はコクンッと頷いたかのように相槌を打ち、何処かへ飛んで行ったのであった。
「さてと……」
騎竜を見送った俺は、後ろを振り返った……
しかし、先程まで確かに俺の後ろではしゃいでいた二人が何故かいないのだ……
「……あれぇ??」
ったく、目を離した隙に……
まぁ行く所は決まっている。
三m程歩けば門があったな。
多分そこだろう……
門の側には、鎧を着た兵士が立っておりその足元には二人の幼稚園児が、駄々をこねっているかのようにしか見えなかった。
そして、それがすぐにウォルガフとロジェだという事もわかった。
あの二人はどこにいても、なんかかんかトラブルを起こすよな……
「なんで街の中に入れてくれないんでちゅか!?」
「身分を証明するものがなければ、中に入れる事は出来かねない!」
「ぶぅ〜」
「……と、さっきからそう言っているではないか?」
「身分を証明するものってなにちゃぁ〜」
ソロリソロリ……
兵士がウォルガフの相手をしている隙に街の中に入ろうとするロジェ……
俺は、ロジェの首根っこを掴み取り制止した。
流石にそれはヤバイって!?
不法侵入はやめよう!!
「リュウイさん?」
「ロジェ……何やっているの!?」
「どうやら、街の中に入れてくれないんだ……だから、俺……」
「ふむ……」
「けちぃ〜」
「なっなんだとぉ〜」
やば、兵士がブチ切れそうだ……
俺は慌てて兵士の方へと駆けつけ話しかけて見た。
「すみません、俺の連れが……」
「ぬっ?!」
兵士は俺の顔を見て漸くまともな話の通じる人間が来たと安堵しているような、そんな顔を見せてきた。
「リュウイたん、あのね、あのね……」
ウォルガフは兵士を指差しながら、俺に話しかけてきたのだ。
「この鎧を着た人が、中に入ったらダメ〜って言うの! ケチでちゅよねぇ〜」
「きっ……きさまぁ〜フォス族の子供だからと思って優しくしていたら……いい加減にしないと容赦しないぞ!!」
「子供じゃないでちゅもん!!」
「こいつ、倒していいか?」
こらっ! ロジェ、それはダメだ!
「えっと……ちょっと落ち着いてください。なんで、中に入ったらダメなのですか?」
「身分を証明するものを提示しなければ、中に入る事は出来ない規律なんだ」
「ふむふむ……」
身分を証明するものか……
「そんなのあるわけないでちょ〜」
「うんうん」
「ばっかでぇ〜ぃ」
「きっ貴様らぁ……!!」
やっやば……二人とも、頼むからこれ以上この兵士の人を怒らせないでくれよ……
「ウォルガフ、ロジェ。ちょっと黙ってて……」
「えぇ〜」
「嫌でちゅ!!」
「……」
よっぽどこの兵士が気に入らないらしいな……
でも、先に喧嘩売っているのはどう見ても君たちだよ……
「えっとぉ……冒険者カードは身分証明になりますか?」
「あぁなるぞ。冒険者カードは、各地共通どこでも使える物だ」
「そうですか……じゃこれでいいですか?」
俺は懐から冒険者カードを兵士に見せる事にした。
「ふむ、確かに本物だな。お前は通ってもいいがあの二人はダメだ!!」
「……」
子供相手にムキになるなよなぁ〜
「二人とも冒険者カードを出して……」
俺の言葉に二人は、なんでだよぉ〜とブツブツ言いながら、それでも冒険者カードを取り出し兵士に偉そうに見せつけ始めている。
「お前たち……冒険者だったのか……」
「えっへんでちゅ!」
「そうだ」
「くっ……通っていいぞ」
兵士は渋々、それも凄く悔しそうに下を向きながら、ウォルガフとロジェを通らせてくれた。
ふぅ〜なんとかなったか……
しかし、ウォルガフは大人気なくも兵士にすれ違いざまに、
「最初から、通してほちぃでちゅよねぇ〜」
と、捨て台詞を吐いたのだ。
更にロジェが、便乗して……
「全くだ……俺たちをバカにしやがって!」
更に煽るかのような捨て台詞……
「!!」
うひょぉ〜!! なぜ、そんな捨て台詞を!!!
「もう、我慢の限界だっ!!」
兵士の堪忍袋はついに切れてしまった……
そうだよなぁ兵士は只の自分の任された職務を真っ当しようとしていただけで、ウォルガフとロジェが素直に冒険者カードを出していれば……
こんな事にはならなかったのにな……
兵士は、ウォルガフに剣を向けようと鞘に手を触れた時……
俺は咄嗟に、兵士の手を触り抜かないように制止した。
「……貴様……なにを?」
「あの二人、実はめっちゃめっちゃ強いんですよ。その手にかけてある剣を抜いた瞬間、貴方のその腕は飛びますよ……」
「……」
兵士の目は、こいつらが……? そんな馬鹿な……
と疑いの眼差しをしていた。
「どうしてもと言うのなら、俺は止めませんけど……こんな所で片腕を亡くす必要はないかと思います」
「……」
「俺からあの二人には、きっ〜く言って聞かせますから……」
「……わかった……今回は我慢しよう。だが、次はないぞ!」
ほっ……良かったぁ。
兵士はかなり渋々だったんだろう。
慌てて走り出す俺を暫く睨みつけていた。
まぁ、確かに怒る理由もわかるけどさっ……
無駄に血を流す事はないよ。
「リュウイたん!! あいつと何話ししていたんでちゅか!?」
「何って……あの兵士の人、お前たちにキレていただろう」
「うちゅ?」
「えっ?」
「……」
自覚なし……と。
「あのね、お前たちが強いのは俺はよぉぉぉく知っているよ。でもね……」
「もういいよ」
「えっ!?」
俺が言おうとしている事をロジェは口を挟んできた。
「そうそう難ちぃ話ちぃは無しでぇ〜」
「……」
いいのか! それで!?
「わかった。じゃあ……もうこの話はしないけど、今度からああいう兵士の人がいたら、まず俺を呼ぶ事! いいね!!」
「はーいでちゅ〜」
「ほーい」
本当に大丈夫かな……
「ちゃてと、リュウイたん。これからどこに行くんでちゅか?」
「そうだな〜取り敢えず冒険者ギルドに行ってみようか」
「了解でちゅ」
「冒険者ギルドォ〜はどこかぁなぁ〜」
「どこかぁなぁ〜」
二人は、先程の事を全く持って気にしてはいないらしい。
すぐに気持ちを切り替える事が出来る……
それは、いい事なんだろうけど……
また喧嘩売らないといいよなぁ〜
あっ……そもそもあの二人には、喧嘩売っていると言う事自体自覚ないかも……
上空から見ていたゲーブングは、小さな街かな? と思っていたのだが、実際歩いて見て一言……
ゲーブングの街はムーンフェイズと同じぐらい大きかった。
というのが第一印象だった。
メイン通りとも思える大きな道を適当に歩きながら街並みを散策したのだが、冒険者ギルドは見つける事が出来なかった。
「ちかれたでちゅ〜」
「うん…」
ジグ山脈ではあれ程元気だった二人が、街中に入ると途端に元気がなくなる……
という事はそろそろあれか……
「リュウイたん……ご飯食べたいでちゅ〜」
「……お腹が空いたぞ」
だよね……
「わかった。冒険者ギルドの場所を聞く為にも、何処か店に入ろうか」
「うんっ!!」
途端に元気になる二人であった。
ーーーーーー
「うへぇ〜不味ゅかったでちゅ〜」
「次は、もっと美味しい所を頼む……」
「……」
確かに不味かった。
注文した食事は、一皿銀貨一枚と言う高級料理だった。
腹ペコの二人をなだめながら待つ事三十分……結構待った方だと思う。
ようやく出てきたかと思った食事を一口食べた時……
俺は何も言わず箸を置いてしまった。
この味だと、ムーンフェイズではせいぜい銅貨10枚ぐらいの価値だと思う。
お腹も膨れず、銀貨三枚払って俺は冒険者ギルドの場所を聞く事に成功したのだ。
実に高い情報料と言える……
不味かった店から十分程歩き、坂道を登ると冒険者ギルドが見えてきた。
冒険者ギルドは木造の建物で立派とは言えないが、それでも手入れは行き届いている。
そんな建物だった。
中に入るとまず受付カウンターがあり、右奥には酒場。左奥には冒険者広場があり造りこそ少し違うがムーンフェイズの冒険者ギルドの独特の雰囲気は、ここでも健在だった。
酒場を見つけたウォルガフの手を掴みながら、俺は受付カウンターへと進む。
「うぅ……リュウイたん……」
わかっているよ……わかっているけどさっ。
いきなり酒場に行って、ご飯を平らげられたら誰だってびっくりするだろう?
俺たちはここの街の住民じゃないのだから……
まずは、顔見せしてグゥに出会ってからだろう。
「ご飯は後で幾らでも食べていいから……」
「……わかったでちゅ……」
そんな姿をロジェはヤレヤレという感じで見ていた。
「見慣れない面だな。冒険者か? それとも登録か?」
「いえ、俺たちはムーンフェイズから来た冒険者です」
「ほぉ〜」
受付に座っていたのは、ガルヴァルデ族で厳つい顔をした男だ。
俺としては可愛いお姉さんの方が話しかけやすいのだが……
まぁ、いない者はしょうがないよな……
冒険者カードを見せ俺は話を続けた。
「ムーンフェイズで依頼がありました。ライオネットワイバーン討伐を……」
「ふむ……」
「そして、ここにグゥさんという僧侶がいますよね?」
「!!」
「グゥさんと会う事は、出来ますか?」
「……」
男はなぜか即答しなかった。なにかマズイ事でもあるのだろうか?
「ライオネットワイバーン討伐と言っていたな」
「えぇ」
「……悪いことは言わん、命あるうちにムーンフェイズに帰れ」
「なっ……」
ここまで来て、帰れるわけないじゃん!!
「ちょっと待って下さい。俺たちは正式に依頼を受けてきたのですよ? なぜ何もしないまま帰らないと行けないのですか!?」
「……あの、ちっこいフォス族は、お前の連れだろ?」
「えぇ、そうですけど?」
「フォス族は弱い……無駄死にするわけにも行かんだろう」
うわぁ……この人、言っちゃったよ……
案の定、二人は思いっきり膨れ顔をしているし……
フォローする俺の立場にもなってよね……
「ぼくたちは弱くなんかないでちゅよ!」
「そうだっ! そうだっ!!」
「訂正ちて下ちゃい!!」
「……フォス族の中では、お前さんたち二人は確かに強いのかもしれない。だがな、それはフォス族の中での話だ。やはり他の種族たちから見ると弱い……それが現実だろ?」
「それは、種族のせい……そう言いたいのですか?」
「そうだ。なんせ最強盾使いと言われる、ガルヴァルデ族のガルシアが亡くなったんだ。悪い事は言わん諦めて帰れ」
「やって見ないとわからないでちゅ!!」
「行かせろよ!!」
「だから、やって見て死んだらそれは只の無駄死にだって言っているんだ!!」
「ううっ……!!」
「そんな事ないでちゅもん!!」
「落ち着けってウォルガフ、ロジェ!!」
今にも飛びかかりそうなウォルガフとロジェを、俺は押さえつけた。
「だって、リュウイたん……」
「ウォルガフやロジェが強いって事、俺はちゃんとわかっているよ。なんとかするから……」
「なんちょかって……?」
「それは……」
まだ考えていないけどさっ……頼むから、そんな泣きそうな目で俺を見ないでくれよ。
二人をなだめつつ男の顔を再び見ると、何やら考え事をしているかのように見えた。
「おいっ今、あんた、こいつの事ウォルガフと言ったか?」
「あっ? あぁ、言ったけど……」
「お前、ウォルガフと言う名なのか?」
「そうでちゅけど……?」
「……あのやろ」
「ウォルガフが、どうかしましたか?」
「いや、ガルシアから話を聞いていたんだ……」
『もしも、俺たちに何かあった時……その時は迷わずムーンフェイズにいるウォルガフと言う男に依頼を回してくれ。あいつならきっと解決できる。なんせあいつは俺よりも強い奴だから……』
「……って言っていたんだょ! それがおまえさんなのか!?」
ガルシアさん、カッコつけすぎだよ……
「ぼくがウォルガフでちゅ!!」
「……とても強そうは見えないけどな」
「むっ!!」
初対面の人は普通そう言うだろうな……
「えっと……」
あっ俺この人の名前知らないし……
「俺はリュウイと言います。そしてウォルガフとロジェです」
「知っているよ、冒険者カード見たからな……」
そうでした……
「俺はヴァリエートだ。よろしくな」
「とりあえず、ヴァリエートさん。グゥさんに会わせで頂けますか? 俺たちに何も現状を知らせてもらえぬままここに来たので」
「……わかった。ついて来い」
男は、左奥にある冒険者広場へと入って行き、更にその奥の部屋へと歩いて行く。
ドアを開けるとそこには、ベットで座りながら外を眺めているグゥの姿があった……
「グゥたんだぁ〜!!」
「……」
ウォルガフは、嬉しそうにグゥの側へと駆け寄って行く
グゥはウォルガフの顔を見ながら不思議そうな顔をしていた。
「グゥたん?」
「……君……誰?」
「えっ!?」
空気が沈黙する中、グゥはそう言っていた。
男の話し曰く、グゥは助かったには助かったのだが、目を覚ました時……
どうやって、ライオネットワイバーンを倒そうとしたのか……
なぜ、グゥだけが助かったのか。
何一つ覚えてはいなかった……との事だ。




