【06】
「ぷはぁ〜うまいんだな〜これがぁ〜」
「うんうんっ! おいちぃでちゅ〜」
ロジェもウォルガフも風呂上がりの一杯……
フルーツ牛乳を一気に飲み干し、大変満足そうな笑みを浮かべている。
「喜んで頂けてよろしゅうございました……」
やばい……!!
疲れ果てて自分でも何を言っているのか、さっぱりわからなくなっている。
部屋に戻った後も俺には安息という言葉は残されていなかった。
「ウォルガフ、いくぞっ!」
「こいっ! ロジェたん!」
お互い枕を持ちながらも掛け声が始まる。
「まくら投げ大会開催〜!!」
「開催〜!!」
「……」
ベットに腰掛けながら眠たいのをひたすら我慢しながら二人の投げ合いを見ている中、ウォルガフが投げた枕が俺の顔面に直撃。
ボッフンッ……
と、音と共に俺は力なく後ろに倒され静かに眠りについた。
子供の体力はありすぎるとよく聞くが、実感して見て初めてわかった……
もう限界です……
ウォルガフ、ロジェ……頼むから、このまま俺を寝かせてくれ……
……おやすみなさい。
「ありゃ? ありゃりゃ!?」
「ふむ……」
「リュウイたん、寝ちゃったねぇ〜」
「俺たちより若いはずなのに、弱っちぃなぁ」
「ねぇ〜」
「やはり、じじぃだなぁ〜」
「ぷっぷぷうっ〜」
などと、俺が爆睡し聞こえない事を良い事に言いたい放題言い終えると二人は、再びまくら投げ大会を再開したのだ。
「ぐえっ!!」
眠っていると突然お腹に衝撃が……
堪らず目を開けるとロジェがベットの横で俺に向かって頭を下げ、ウォルガフは俺のお腹の上に乗っている。
「おやすみなさい。リュウイさん!」
「リュウイたん、おやちゅみぃ〜」
その言葉に俺は何も考える事なく再び眠りに着いたのであった。
「あっぶなかったでちゅ〜」
「リュウイさんの所は避けてまくら投げをやろう」
「はいでちゅ!」
どうやら、寝ているから静かにしようとはこの二人の中にはないらしい。
元気一杯に部屋中走り回っているのにも関わらず、俺は一度も目が覚める事なく深い深い眠りについていた。
ぐぅ〜〜〜
ウォルガフのお腹が突然鳴り響いた。
お互い枕をその場に置き、お腹を触っている。
「お腹ちゅきまちぃたね」
「そうだね」
「……あっ!?」
何かを思い出したかのように、ウォルガフは声を張り上げていた。
「どうした?」
「いひっいひひひひっ」
「ウォルガフ……怖いぞ」
「ロジェたん、夜食食べたくありまちぇんか?」
「夜食いいねっ!!」
「でちゅよね!!」
「でも勝手に下に降りて夜食頼んだら、流石に怒られると思うぞ」
「リュウイたんは、怒らないでちゅよ?」
それは、お前だけだろ……
とロジェはそう思ったが、あえて言わずにウォルガフをじとぉ〜と見つめ無言で辞めとけと忠告していたのである。
「わかりまちぃたよ。ロジェたん、そんな目でぼくを見ないで下ちゃい」
照れまちゅ……
そう言いながらウォルガフは俺の鞄を勝手に漁り出す。
「何やっているの?」
「実はでちゅね、ぼく見ていまちぃた!!」
「何を?」
「リュウイたんが、宿屋汐音のおじちゃまから何かをもらっている所を……」
「……」
ゴソゴソと鞄を漁り、ウォルガフの目は見る見る内に変わっていく。
「あったぁ〜〜」
布の袋に大事そうに包まれている物……
ウォルガフは発見してしまったのだ。
「夜食♪夜食〜」
「いいのだろうか……」
「いいの、いいのっ。気にしたら負けぇよ」
そう言ってウォルガフは早速食べる準備を始めた。
「よいちょ……よいちょ……」
テーブルに夜食を置き椅子を二つ……更にジャンケン大会の参加賞のオヤツ……
「ふぅ〜出来たぁ〜〜」
汗も出ていないはずなのに、額を拭い満足そうな顔をしているウォルガフであった。
「ロジェたん、準備万端。さぁ食べまちょ!!」
「おっおぉ……」
椅子に座った二人は早速布の袋を開け始めた。
そこには……
ウォルガフの大好物アップルパイが三つ入っていた。
「おっおぉぉぉぉぉぉ〜」
「素晴らちぃでちゅ〜」
二人は両手を揃え元気良く、
「いただきま〜ちゅ」
「いただきま〜す」
と言いアップルパイを食べ始めたのである。
「おいちぃ〜〜♪」
「うんうん」
「んっ〜ウォルガフ……むひゃむにゃ……何やっているんだぁ〜」
「!!」
俺の声にウォルガフもロジェもヤバイッ!
と思ったのだろうか、驚き慌てふためきながらテーブルの下に隠れる。
「………」
しかし、俺が起きてくる気配がない事に気付いた二人はソロリソロリと俺の方へと近づいてくる。
「……寝言だったみたいだね」
「びっくりちぃたぁ〜」
「静かに食べようか」
「うんうん、シィ〜だね」
「シィー」
二人で人差し指を立てながらそう言っている姿を俺は見たかったかもしれない……
先程まで、外は縁日のお陰で賑わいに満ち溢れていた。
だが、その声も徐々に聞こえなくなり、代わりに宿屋汐音の食堂で盛り上がっている声が聞こえてきた。
夜食を食べ終えた二人は、仲良く一つのベットで寝転がっていた。
睡魔が来るのを待っていたのだ。
「ウォルガフ、寝た?」
「まだ、寝てないでちゅよぉ〜」
「少し真面目な話ししてもいいか?」
「難しくないのなら」
「……」
「あのさっ……ドリームゼロに戻ってくる気はないのか?」
「ないでちゅ!」
「全く?」
「無論でちゅ!!」
ドリームゼロとは魔族四天王の一人フォス族のミクロスが納める街である。
「……はっきりしているなぁ〜」
「だってぇ、戻ったらぼくは種族王になってしまいまちゅ」
「そんな事は、もう何百年も前から決まっていた事だろう? それにミクロス様はもうそう長くないぞ」
「わかってまちゅよ」
「ミクロス様に何かあった場合、その時はウォルガフお前が……
これは何が何でも覆る事はない」
「それもわかってまちゅ。でもドリームゼロにいないぼくを皆受け入れてくれるのかなぁ?」
「……お前の強さ。誰もが知っているぞ。反対する者など誰もいないさっ」
「ロジェたんは優しいでちゅね……
ぼくは………ぼくの今の行動は只の我儘だって事も……実はわかっていまちゅ」
「でも、もう少しだけぼくはリュウイたんの所に居たいんでちゅ」
「もう少しって……?」
「……せめてぼくを超えるぐらい? でちゅかね」
「確かにあの力を見せつけられたら、いつかは……? とは思うが、あれ制限付きだろ?」
「そうでちゅね。ぼくとしては、制限付きの力を普段から発揮出来るようになってほちぃでちゅ」
無理だろ……
「ロジェたん。今、無理だろ? と思いまちぃたよね?」
「あぁ、思った」
「実はぼくも無理だと思っていまちゅ」
「……」
「でも、それくらい強くなってもらわないと………は……たおちぇ……むにゃむにゃ……」
「おいっ?」
「ったく話の途中で寝るなよな……」
ロジェは、ウォルガフに布団を掛け静かに部屋から出て行ったのであった。
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「ふぁ〜」
ブルブル……寒くて目が覚めた。
外はまだ暗く明けてない事から朝ではない事はわかるのだが、俺はどれ位寝たのだろうか?
と暫く考え込んでしまう。
そもそも、いつ寝たのだろうか?
風呂から上がって、部屋に戻って来たまでは微かに覚えている。
それ以降の記憶はあまり覚えてはいなかった。
「よっぽど疲れていたんだな」
ウォルガフは今日一日充実していたのか満足そうに隣のベットで寝ている。
そして、部屋は甘い匂いで充満されていた。
テーブルには、食い散らかされたアップルパイがある事から、ウォルガフとロジェの二人で俺に黙って食べた事を連想させてくれる。
「……ったく」
やれやれと思いながらロジェがいない事に気がつく。
「あれ、どこ行ったのだろうか?」
ロジェを捜しに行こうとベットから起き上がると、猛烈に俺は腹が減っている事に気がついた。
そうだよな。殆ど食べていないしな……
俺は、部屋を出て食堂へと向かって歩き出したのであった。
食堂では、客は誰もいなく俺の知っている昼間の賑わいとは打って変わって静かなものだった。
階段を降りて行くと亭主は俺に気づいたのか、
「どうした?」
と、話しかけてきた。
「いや、小腹が空きまして……」
「アップルパイ渡しただろう? 食べなかったのか?」
「一眠りして起きたらもう無くなっていましたよ」
「ふっ……そうか……」
「何か作ってやろう、そこに座って待っていろ」
「ありがとうございます」
顔は怖いけど、いい人だよなぁ〜人使いも荒いけどね。
カウンター席に座り食事が出来上がるのを待つ事にした。
真夜中なのだろうか?
誰一人いなかった……
っと思ったらなぜか隣にはロジェが座っていた……
いつの間に……
「ロジェ……?」
「うむ」
……ご飯の話に釣られたのだろうか?
「リュウイさん」
「んっ?」
「これを……」
そう言ってロジェは俺に楕円形の形をした手のひらに乗るぐらいの大きさの緑色をした石を渡してきた。
「これは?」
「北の洞窟にある、秘宝と言えばわかるだろう?」
「!!」
依頼アイテムじゃないか!? 確かにロジェの方が、先に手に入れてたけど……
「これ必要なんじゃないのか?」
「んっまぁ……それはウォルガフとリュウイさんに会う為の建前でさっ……」
「建前……?」
「実は俺、ミクロス様がウォルガフと再開を果たした時、護衛の任で俺もこの街に来ていたんだよね」
「へぇ〜」
「んっ?? でもあの時ミクロスさん一人だったよ?」
「ミクロス様は大の甘党でさ、俺が目を離しているうちに何処かに勝手に行ってはぐれてしまったんだよね」
「……」
それで、動けないまま人だかりの中心人物になったのか……
「散々探し回ってやっと会えたと思ったら『ウォルガフと例の少年に会えたから、満足じゃ』なんて言うんだもん。俺的には納得出来るわけないよなぁ」
「それで、北の洞窟に?」
「そそっ……」
なるほどね……確かにフォス族の種族王が一人で来るはずないよなぁ〜
しかし、大の甘党ってなんだろう……
「それでさっ、俺、明日には帰ろうかと思う」
「うん」
「その前にリュウイさんに話しておきたい事があるんだ」
「……」
「ウォルガフさっ……」
「出来たぞ〜」
これまたタイミング良く、ご飯を運んで来てくれるものだ……
「余り物のまかない飯だ。文句は言うなよ」
「ありがとうございます」
「いただきまぁ〜す!!」
ロジェ、ウォルガフと同様キャラ変わるんだ……
話は一度中断し、俺とロジェは出来たてのチャーハンと野菜炒めを堪能したのであった。
「ふぅ〜」
お腹も膨れた所で気を取り直し、話しを再開する事にした。
ロジェの話はウォルガフの事だった。
フォス族、種族王ミクロスは役目を終えその生涯に終わりを迎えようとしていた。
たが、それがいつ来るのか? 明日なのか? 一年後なのか? はたまた百年後なのか?
それは誰にもわからなかった。
魔族の世になった今では百年後でも対した年月ではない……
問題は、その後継者でもあるウォルガフであった。
ウォルガフは、後継者になる事を拒み続けている。
だが、ミクロスが終わりを告げた時、そんな我儘は通用しなくなるのである。
ウォルガフの意思など関係なく、ウォルガフは儀式を受け無理矢理種族王にならなければならなかった。
「なんで?」
「それは……」
ロジェは俺の質問に答えるかのように話の続きをしてくれた。
ウォルガフは、誕生の際の行わられる魔王から直接魔力の供給の儀式で魔族四天王全てを超えるであろう力の片鱗を見せつけていた。
その力の片鱗は、徐々に形をなしLevelこそは中々進歩しなかったが、ミクロスは魔王に次の後継者はウォルガフと進言していたのであった。
その言葉を受け入れた魔王は、ウォルガフに授けた魔王の大剣にフォス族次期後継者の証でもある、二枚の羽根の生えた模様を遠隔操作で刻んだのであった。
これにより、ウォルガフはフォス族の後継者と誰もが知る事になったのである。
「本来なら、もうウォルガフは後継者としての儀式を受けないと行けないんだ。でもあいつは逃げ回っている」
「……」
「たまに思う事があるんだ」
「なにを?」
「うまく言えないんだけど……身体はフォス族だけど、心はフォス族じゃない?」
「!!」
「だから、ウォルガフは後継者になる事を受け入れられない……そんな気がするんだ。おかしな話だろ?」
「……」
身体はフォス族だけど、心はフォス族じゃない……か。
ロジェ、その通りだな。あいつは元々ゲームのプレイヤーだ。
運悪く? 良いのか?
それは解らないが、最後に魔王に殺された者としてクリスタルに封印されずに、フォス族としての転生を果たした……
身体はフォス族だ……だが、確かに心はフォス族じゃないな。
「でも、心もフォス族となればその時は……」
「あぁ……俺もそう思うよ……」
ロジェが何を言いたいのかわかる。ウォルガフがロジェの言うとおり、心もフォス族へと変わった時……
ウォルガフは魔王に忠実な魔族四天王の一人になるだろう。
そうなれば……俺とウォルガフの戦いは避けては通れないと思う……
俺は、魔王を倒す者なのだから……




