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Duel・Duet ―砕かれた憧れの先へ―  作者: べちかつ
『銀夜の弱起』
6/12

E5.戻ってきた場所


「俺は“ルグ”って言います。こっちの魔法使いが“アヤ”で、もう一人の双剣使いが――」

 

「“ランラン”です。ランって呼んでくださいね!」


 話題の切り替えは目論見通りに成功した。

 初手限定の発動ではあるが、やはり自己紹介は会話において最強のカードらしい。

 

 三人から送られてきたプロフィールカードを受領すると、各々の頭上に名前が表示される。

 

 紹介された順に『Lug』『Aya』『RanLan』。

 カードに記載された簡易ステータスに、軽く目を通す。

 

 アヤは先ほど聞いた通りLv(レベル)76の“属性魔法士”。

 スキル構成までは確認していないため、支援(サポート)攻撃(ダメージ)に寄せているかは分からない。

 

 ルグはLv(レベル)81の“重装戦士”、ランランはLv(レベル)77の“トリックスター”である。

 

 物理攻撃力にやや不安はあるが、バランスは悪くない。立ち回り次第で適正以上のダンジョンも攻略できそうな、堅実な編成だった。

 

「三人はどうしてこんな場所に?」

 

「〈スペクタクラ〉を目指していたんですが、逃げ出したゴブリンを追いかけていたら迷ってしまって……」

 

「地図代をケチって適当に進んでたら、元いた道も分からなくなっちゃったんだよねー」

 

 苦笑いを浮かべるアヤに、ランが陽気に笑いながら続いた。

 

  Second(セカンド)Sphere(スフィア)はエリアごとのマップ解放システムを採用している。指定されたランドマーク――この辺りなら〈スペクタクラ〉の街の中心にある塔――に到達しなければ、ミニマップが機能しない仕様だ。

 

 マップ解放済みのプレイヤーに先導してもらうか、高価なプレイヤーメイドの地図を買って塔を目指すのがセオリーだが、彼らは自力での踏破を選んだらしい。

 

 初心者が地図代を惜しむ気持ちは理解できるし、先導を頼んでいたプレイヤーによって初心者狩り(PK)に遭うリスクを考えれば、間違った選択だと否定しきることは出来なかった。


 それに、〈スペクタクラ〉に続く道は、他の都市に比べてよく整備されている方である。


 なにせ〈スペクタクラ〉は中級者層、特に脱初心者くらいのプレイヤー達が集うレベル帯の街であると同時に、決闘都市として“VWPvP(デュエル)”を求めて、各地から上級者のプレイヤー達も集まってくる街でもある。

 

 実際、ゴブリンを追いかけていなければ迷わなかっただろうと思う程には、街道はしっかりしていた記憶があった。

 

 しかし、ここは森の奥。街道へ戻るのは逆に困難だろう。

 少し考え、俺は三人に向けて一つの提案をする。

 

「せっかくだし、〈スペクタクラ〉までなら案内しようか?」

 

「マジすか! お願いします!」


 乗りかかった船だ。

 このまま再度死亡(デス)されるのも目覚めが悪い。

 

 俺はしばらくの間、彼らと行動を共にすることにした。



 ◇


 

 歩き始めて二時間。

 俺たちは森を抜け、〈スペクタクラ〉を囲む広大な丘陵地帯へと到達していた。

 

 俺は少しだけ先行し、消耗している三人のために戦闘を最小限に抑えるルートを選んでいく。


「どうですか」

 

「そうだな……あと40〜50分ってところだな」

 

 小走りで寄ってきたアヤに、ミニマップを見ながら答える。

 単純に道を進むだけなら30分も掛からないだろうが、戦闘を考えての計算である。

 

「もうすぐですね。……セツさんは街へ着いたら何をするんですか?」

 

「今日は落ちる。明日は情報収集も兼ねて、買い出しだな。知り合いのやってる店が行きつけなんだ」

 

「『行きつけの店』ですか。いいですね、ホームタウンって感じで」

 

「三人はホームタウンを決めてないのか?」


「はい。レベルもレベルでしたので、街を転々としてましたから。でもしばらくは〈スペクタクラ〉に留まる予定なので、ギルドホームを建てるのもありかと思ったりもしています」


 スペクタクラは人も流通も多く、ホームタウンとしてはオススメではある。オススメではあるのだが……。


「でも、土地代とか物価が高いらしいよねー」

 

 後ろからアヤに抱きついたランランが会話に混ざる。そのままじゃれ合う少女二人。

 「重いですから離れて下さい」なんて言う抗議の言葉はなんのその。「私は軽装だから軽いもん」と言い訳しつつランはアヤの右肩に顔を乗っけていた。


 美少女アバター同士の戯れを直視するのは気恥ずかしく、思わず視線を逸らす。すると、呆れ顔なルグと目が合った。

 彼の「またやってる」と言わんばかりの表情からは、三人の仲の良さが伺えた。


「〈スペクタクラ〉と言えば、セツさんは“DDCT”には出ないんすか?」


 唐突に、ルグからそんな話題を振られる。


 DDCT――『Duet Duel Champion Tournament』。

 半年に一度、〈スペクタクラ〉の円形闘技場で開催される対人戦の祭典だ。

 VWPvP(デュエル)最強の称号を求めて、ワールド中から腕に自信のあるプレイヤーが集ってくる他、観戦のために訪れる者も多い。

 

  Second(セカンド)Sphere(スフィア)では三大イベントの一つとされている。


「……出る予定はないな」


 特に迷うことなく告げる。


 準備もしていなければ、参加する理由も、そして――組むべき相方もいない。

 何より、今の俺には対人戦を勝ち抜ける自信がなかった。


「えー、勿体ない! セツさんなら“八闘傑”だって狙えると思うのに。アヤもそう思うでしょ?」

 

「ええ。あのパリィの精度なら、対人戦でも相当強いはずです」

 

「もしかして、実は元八闘傑だったりして!」


 盛り上がる少女たちに、俺は追求を避けるような曖昧な笑みを返すに留めた。

 

 八闘傑――DDCTの上位四ペアに贈られる称号。

 SecondセカンドSphere(スフィア)ではちょっとした有名人(スター)扱いで、プレイヤーネームよりも、八闘傑入りした際に与えられる二つ名の方が何かと有名だったりする。

 

 なにか尖った構築(ビルド)であることが多い八闘傑は方向性の指標として丁度よく、二つ名を用いて説明されることが多いのだ。

 

 例を挙げるなら、アヤの“五属性魔法構築(エレメントキャスター)”というビルドがそうだ。

 かつての八闘傑の構成がモデルになり、そのプレイヤーの二つ名が元になっていたりする。

 

 支援(サポート)から攻撃(ダメージ)までこなす万能型の後衛で、組んでいた相方も万能型の前衛であったことから、隙のない優秀なペアだった記憶がある。


「ルグは、大会とかよく見るのか?」

 

「参考にしてる人が元八闘傑で、その人の戦いはDDCTに限らず結構見てるって感じっす」


重装戦士(タンク)で元八闘傑と言うと、“十鋼(じゅうこう)”さんとか?」


「知ってるんすか! マジで憧れで! カッコ良いっすよね!」


 テンションを上げて語り出すルグ。かなりのファンボーイらしい。

 

 十字架のような独特な盾を使いこなし、守りながらも高い火力を出すあの人のスタイルは、盾職にとっての理想像だ。憧れる気持ちは、確かに分かる。

 

 残念ながら八闘傑からは退いてしまっているが、現在でも前線で奮闘する指折りの重装戦士(タンク)であることは間違いないだろう。


  

 そんな話で盛り上がっていると、正面から向かってくるイノシシのような魔物が目に入った。

 

 どうやら、ターゲットされているらしい。

 見晴らしの良い丘陵だ。声をかけるまでもなく三人も気付いたようで、すぐさま陣形を取る。


 ルグが先頭でスキルを発動しつつ盾を構え、アヤがその後方で魔導詠唱を始めている。ランは挟撃を狙い、魔物に対して背後を突くように走りだしていた。


 道中で彼らの戦いを何度か見てきたが、各々が役割を理解したうえで基本の動きが出来た良いパーティーだ。


 ルグの盾に突進し、動きを止めた魔物。そこへアヤが魔法を放ち、ランが背後から斬りかかる。

 このタイプの魔物に慣れているのか、的確に弱点部位を攻撃している。

 一分も経たずに戦闘は終了した。


「手際が良いな。もしかして慣れた相手だった?」


「ええ、〈スペクタクラ〉を目指す前に少々」

「クエストで散々、“ボーン・ボア”を狩らされたからねー」

「金策の為とはいえ、100体以上倒さなきゃいけなかったのは苦行だったよな」


「だったら安心だ。この丘に出る魔物は大体がさっきの“アイアン・ボア”だから」


 俺の言葉に三人揃って微妙そうな顔をする。

 話を聞けば、クエストで同系統のボアを百体以上狩らされたという経験があったらしい。


 それならば、その顔も頷ける。

 対策が確立された相手との戦いは、もはや作業だ。だが、その「作業」ができるのなら、もう〈スペクタクラ〉までは安全圏と言っていい。

 

 視界の端の時計は23時半を回っていた。

 

 日中の炎天下を歩いたせいか、リアルの身体が少しだけ重い。

 街へ着いたら宿を取って、すぐにでもログアウトしよう。


 そう決めて、俺は再び歩き出す。


 丘の向こうに、月明かりに照らされた決闘都市〈スペクタクラ〉の城門が、うっすらと見え始めていた。

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