第5話:"ずるい"悪魔
あれからしばらく見回りをしたが悪魔は出て来なかったため、活性化する夜まで待つことにした。
すでにアルマは変身しており、レインの両腕にガントレットとして装着されている。
「悪魔、いないねー」
「そうだな。悪魔の方も警戒しているのかもしれない。しばらく待機だ」
「むー。もっとばっーと出てびゅんっと倒したーい」
「なああんた、魔法協会の人か!? あっちに悪魔が出たんだ、助けてくれ!」
一向に待っても出て来ない悪魔にアルマが痺れを切らしてきたところで、住人らしき帽子をかぶった男が救援を求めてきた。
「すぐに向かいます!」
「こっちだ!」
男に案内されたのは、空き家らしき建物だった。悪魔を警戒してか、数人の男性が棒や金槌を持ちながら入口付近にいる。
「この中だ。悪魔が入って行ったんだ。まだ出てない」
「協力ありがとうございます。危険なのであなた方は建物から離れてください」
周りの人を遠ざけると、レインは慎重にドアノブを回し建物の中に入る。
入った部屋の中央に大柄な男が立っていた。男の口から舌がだらんと出ており、舌の中央には丸い物体が根を張っていた。
根はまるで蜘蛛の巣のように舌の全体に広がり、中心には目玉がグロテスクに鎮座している。
討伐記録と一致する。間違いない、悪魔だ。
「動くな! 大人しくその人を解放するんだ」
「……ずるい」
レインの言葉に、悪魔が返したのはその一言だった。
「はあ?」
「体があってずるい、喋れてずるい、食べれてずるい、殴れてずるい、暴れられてずるい、殺せてずるい!ずるい……ずるい……ずるいずるいずるいずるい!!」
そう言い終わるやいなや、悪魔は寄生した肉体を操って飛びかかって来たためそれを躱し、距離を取る。
「何コイツ、キモい!」
アルマの率直な罵倒を聞きながら、レインは悪魔を倒す方法を考える。
任務前の一週間を使って鍛錬し、現在レインが使える魔法は三つ。
一つはアルマと契約した時に発動した、手から闇属性を込めた魔力を発射する『ダークショット』。
もう一つは影を棘の形に操り攻撃する『シャドウニードル』。
最後に影を残像として身代わりにできる『影写し』だ。
この三つの魔法を使って、寄生された人を殺さずに悪魔を討伐しなければならない。
悪魔を睨みながら、レインは右手を前に突き出すと、掌に魔力を集める。
「――ダークショット!」
漆黒に染まった魔力の塊が一直線に悪魔へと放たれた。
しかし悪魔はダークショットを避け、近くにあった椅子を投げてくる。
一見、レインは椅子を避けきれず、当たったように見えるが――
「影写し」
椅子が当たったのは影写しで作った身代わりだ。悪魔は身代わりに気を取られ、一瞬レインを見失う。
その隙を逃さず、距離を詰め悪魔を攻撃するために拳を振りかぶるが、後ろから伸びてきた腕に体を押さえつけられる。
「なっ!?」
驚くレインが後ろを見ると、ここまで先ほど案内した男と、警戒して入口付近に集まっていた男達がレインを押さえつけていた。
「ちょっとちょっと! どうしたの!?」
異常事態に頭が真っ白になり、抵抗するのを忘れて押さえつけられてしまった。
「いったい、なんで……」
「ずるい魔法使いには、皆で戦わなくちゃ」
案内人の男がかぶっていた帽子が落ちると、額に悪魔が根を張っていた。ということは、他の男達にも悪魔が寄生しているのか。
つまりレインとアルマは、まんまと悪魔の策に嵌り、ここに連れてこられてしまったということだ。
「一体だけじゃ、なかったってことか……!」
「こんなのずるいよ……!
たぜーにぶぜーは卑怯だよぉ!」
アリス直々に言い渡されたこの任務の厄介さを、二人はここでようやく気づき始めていた。




