第3話:七度目の正直
翌日。第三訓練場にて、レインとアルマ、立会担当の教師、ショーン・プライムが揃っている。
レインにとって、七回目の挑戦が始まろうとしていた。
「イーリスさん、本当にいいのか?昨日も言ったが、俺は無属性だから魔法が発動するか分からないんだ」
流石に七回目となると、いくら切り替えようとしても頭に"失敗"の二文字がよぎる。
そのせいで、レインはついアルマに弱気な言葉を言ってしまう。
「……もう六回も失敗してる。魔法も、マッチ一本分の火が出たり、小物が浮いた程度だ。俺じゃやっぱり時間の無駄かもしれないぞ」
「アルマでいいよ。わたしもレインって呼ぶから。昨日も言ったけど、魔法が発動するかやってみないと分からないじゃん! 七はラッキーな数字だし、やる前から諦めないで、とにかくやってみようよ!」
しかしアルマは、そんなレインの不安を吹き飛ばすように、とびきりの笑顔で返す。
アルマの笑顔を見ていると、不思議と元気を貰えるような気がして、レインは背筋を伸ばす。
「イーリスさ、いや、アルマ。ありがとう。そうだな、やる前から諦めちゃ駄目だ。とにかくやってみよう!」
「おー! わたし達ならやれるよ!」
二人が気合を入れ直した所で、トレードマークの眼鏡を光らせたショーンから声がかかる。
「ではこれより、"マギア・無属性"レイン・ヴェルトラムと、"ワンド・集約型"アルマ・イーリスの契約を行います。二人とも、よろしいですか?」
「はい」
「はーい!」
「よろしい。では始めて下さい」
二人は向かい合い、手を重ねる。そしてレインはアルマに、アルマはレインに身を委ね、同調させる。
「「契約」」
二人がそう言った瞬間、足元に魔法陣が浮かび上がり、アルマの全身が光に包まれ、光そのものになる。
そして光はレインの腕へ飛んで行き、徐々に形作られていく。形作られていくごとに魔法陣と光が小さくなっていき、両方が完全に消えると、レインの両腕には黒いガントレットが装着されていた。
「おお……」
「契約は成功ですね。では、魔法が発動するか試してみましょう。あちらの的にやってみて下さい」
七回目だがワンドが変身する度に感動してしまうレインとは違い、ショーンは冷静に告げる。
「ちょっとまって先生! わたし集約型なのに二つになってます!?」
「イーリスさんのは二つではなく一対です。手袋を片方だけする人はいないでしょう? そのように、二つあるのが当たり前の場合は集約型でも対になります」
「そっかー! なるほど!」
「では、お願いします」
アルマの疑問にショーンはさらりと答え、改めてレインに魔法を使うように促す。
これで魔法が発動すれば素の魔力ではないものが放出され、的が吹き飛ぶはずだ。
大きく深呼吸してから、レインは10mほど先にある的に右手を向け、魔力を放出する。その瞬間、レインの体にに今までになかった、魔力が脈打つような感覚が走った。
バシュッ!
その感覚が嘘ではないと示すように、勢いよくレインの手のひらから出た黒い塊は、的のど真ん中を撃ち抜いた。
「よしっ! 魔法が発動し「やったー‼ レイン魔法できたじゃん!! やったー!」」
レインが喜んだ瞬間、いつの間にか変身を解いたアルマがそれ以上のテンションでレインに突撃する。
「良かったっ! 本当にやったね! いえーい! 踊る!?」
アルマは喜びながらレインをバシバシと叩く。
「そっそうだな、いたっ、えっ踊る? アルマ、ちょっと痛い」
「あっごめんつい」
「おめでとう御座います。魔法が発動しましたね。しかし、何故闇属性の魔法が発動したのでしょうね。ヴェルトラム君は闇属性だったのでしょうか」
「無属性のマギアは、ワンドの得意な属性が発現することがあるからさね」
見守っていたショーンがレインを祝いつつも疑問に思ったことを声にだしたところで、いるはずのない四人目の声がする。
「えっ」
「アリス校長!?」
三人が一斉に声がした方向を見ると、そこにはアリス・ワンダーがいた。
レインも再会した時に知ったのだが、アリスは魔法協会の未成年が所属する育成学校の校長だったのだ。
「久しぶりだねえレイン」
「お、お久しぶりです」
「校長先生、無属性はワンドの属性が発現するというのはどういうことですか? ワンドには耐性はあれど属性はないのでは?」
レインとアルマよりも早く我に返ったショーンがアリスに確認する。
「確かにワンドには属性はないとされているが、耐性があるんだ。完全にないとは言い切れないよ。ワンドの中にある僅かな属性を無属性の魔力で増幅させて使うのさ」
「そんなことが、可能なのですか?」
「勿論、よほど相性が良くなきゃできないさね。実戦レベルで使えるほど相性が良いなんて、出会えない確率の方が高い」
「えー? レインとわたしってそんなに相性が良いんだ。照れますなぁ」
照れているアルマを横目に、レインにはアリスの話に心当たりがあった。契約に挑戦した四人目と六人目のことだ。アリスの言うとおりならレインが属性を増幅させた結果、マッチくらいの火が出た四人目は火属性が、物が浮いた六人目はおそらく風属性が発動したということだろう。実戦レベルではないにしろ、相性は良かったらしい。
「さて、相性の良いパートナーが見つかったところで、見習いの初任務を命じるさね」
アリスの言葉に、レインとアルマの背すじが伸びる。まだ二人は正式な魔法使いである下級魔法使いではなくその前の段階だ。
魔法使いには例外を除き【見習い】・【下級】・【中級】・【上級】と四つの等級がある。例外は上級の上、魔法使いを導く存在として【マギステル】という役職がある。
対する悪魔には【影級】・【獣級】・【妖級】・【魔級】・【災級】・【王級】の6階級がある。一番強いのは王級で、滅多に出現しない。
上級魔法使いは相性にもよるが、災級〜影級まで対応できる力を持つ。中級は魔級〜影級までの悪魔、下級は獣級〜影級、そして、本契約するために初任務に挑む見習いは影級の悪魔と戦うことが許される。
例外のマギステルは謎が多く、王級などの普通の魔法使いでは勝てないレベルの悪魔と戦うのが任務、ということくらいしか分かっていない。
「校長先生直々の任務ですか。見習いに対して危険すぎでは?」
教師のショーンが訝しむが、アリスはどこ吹く風で任務の内容を告げる。
「ここからほど近い町、レイヴェルで寄生系の悪魔が出た。これを討伐してもらう。一週間やるから、その間にもう少しお互いに慣れときな」
「は、はい!」
「りょーかいです!」
「それから、アンタらにアドバイスだ。『臆するな』、いいね?」
「「はい!」」
一週間後、魔法協会本部にて。
「ふぉはよう! レイン!」
「おはよう。そのカップケーキはどうしたんだ?アルマ」
任務場所であるレイヴェル向かうためレインが待ち合わせ場所に向かうと、アルマがカップケーキを食べながらやって来た。
「んぐ、友達にさっき会って、初任務頑張れって貰ったんだ! もう一個あるから、レインも食べる?」
「貰うよ、ありがとう」
「初任務、頑張ろうね!わたし達ならやれる! えいえいおー!」
「ああ!」
この一週間、やれることはやった。
レインとアルマの、初任務が始まる。




