第2話:雷のクラスメイト
「オイオイオイ、役立たずがまだ無駄なことしてんのかぁ?」
そう言ってきたのは、同期のマギアだった。確か属性は土だった筈だ。その同期は何故かレインによく突っかかってくる男だった。
自己紹介もされてないし、あまりいい言葉を掛けられたこともないので名前も覚えていない。名前を思い出そうとしていると、黙っていたレインに痺れを切らしたようで、苛立ったように怒鳴った。
「チッ、役立たずが無視してんじゃねぇぞ! 女子にも話しかけられやがって!」
「すまん、名前を思い出そうとしていた」
「馬鹿にしてんのかテメェ! 無属性のくせに――っ!?いでっ! いでででで!」
素直に黙っていた理由を話したはずなのに激高した同期は、レインを殴ろうとしてきた。しかし、振りかぶった腕がレインに届く前に、腕を掴んで捻り上げた人物がいた。
「こういうのは感心しない」
「サ、サンダース……!」
リチア・サンダース。雷属性のマギアで、魔力が多く実技トップの成績の生徒だ。そして、レインと同じくリチアも未だにパートナーがいないマギアだった。
凛々しく、少し近寄りがたい印象を抱くリチアだが、レインとは訓練場でよく会うこと、パートナーが決まらない同士ということでたまに喋る仲である。
「サンダース、俺が悪かった! う腕を離しっがぁ!」
「謝るのは私にじゃなくてレインだろ」
同期の言葉に気分を害したらしく、リチアはさらに強く腕を捻ったようだ。ついでにバチバチと放電されており、渋る素振りを見せていた同期は早々に音を上げた。痺れた舌を必死に動かしてレインに向かって叫ぶ。
「レレレレイン! わわ、わ悪かかかったぁ!」
「謝罪を受け入れる」
レインがそう言うと、リチアは同期を掴んでいた腕を離す。腕を解かれた同期は捨て台詞を吐くこともなく、痺れを残した体を必死に動かして逃げて行った。
「アンタ一人でも対処できたろうに、悪かった」
同期が完全に見えなくなってから、リチアが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「いや、助かったよ。俺が抵抗してたら、面倒くさいことになってただろうから」
確かにリチアの言うとおり、あの同期はレインが自力で対処可能だった。魔法が使えない無属性でも、マギアとして格闘や武器術は学んできたのだ。しかし、レインが対処したらあの同期はさらに目の敵にしてきただろうから、リチアが割って入って来てくれて良かった。
「私はただ、ああいうのが嫌いなだけ」
「そうだとしても、ありがとな」
「それで、アンタもまた駄目だったの? その割には、機嫌が良さそうだけど」
「ああ……」
同期が絡んできた間は忘れられていた悩みが再びやってくる。しかし、アルマと会ったことでレインの気分は上がっていた。
レインは今回は物が少し浮いたこと、他にもパートナー候補がいるらしく契約は見送りとなったこと、落ち込んでいたところを声をかけられ、そのワンドと契約してみることになったことをリチアに話した。
「そう。良かったじゃん」
「ああ。まさかワンドの方から声をかけられるとは思ってなかった。リチアはどうだ?」
「私も合うワンドがいなくてね。私は魔力の制御が下手だし、普通の魔力より"痛い"んだってさ」
実技トップの成績であるリチアが未だに契約をできていない理由が、その魔力だった。
リチアは魔力が多く、ただの初級魔法が中級並の威力になる。弱い悪魔ならワンドがいなくても対処可能なほどだ。
しかし、制御が苦手で感情が高ぶったりすると勝手に放電してしまう。放電といっても強い静電気くらいの威力のことが殆どだが、雷の魔力に耐性を持つワンドでも痛く感じるらしい。
これは、魔力が通常より多いため、普通のワンドではリチアの魔力を抑える事ができないということだ。
「水が多すぎると器が壊れるって言うでしょ?」
リチアは肩をすくめながら、少し諦めたように言った。
そう、マギアの魔力は"水"、ワンドは"器"に例えられることがある。
熱湯や冷水に耐えられる器、耐えられない器があり、それは器によって違う。そして、水が多すぎて許容量を超えてしまうと器が壊れてしまう。水が少なすぎても器が勿体無いし、水が多すぎても入る器がないと駄目だ。
なので同じくらいの力を持つマギアとワンドが契約するのが一般的なのだが、リチアの魔力に耐えられる器を持つワンドがまだ見つかっていない。なので、リチアもレインと同じく魔法使い見習いにもなれていなかった。
「俺が言えたことではないけど、見つかるといいな」
「うん、お互いにね。またトレーニングするんでしょ?これあげる。じゃあね」
「ありがとう」
励ましあい、リチアはレインにプロテインバーを渡してその場から離れて行った。
一人になったレインも、自主練をするために訓練場に向かって歩き始めた。




