第1話:前途多難と光の兆し
「はあ……これで六回連続か……」
契約の許可が出てから早二ヶ月。レインは未だ、ワンドと契約することができずにいた。
「ヴェルトラム君、そう気を落とさないで下さい」
「プライム先生……」
落ち込むレインに、いつも契約の立会を担当してくれている教師、ショーン・プライムが声をかける。眼鏡をかけ、堅物そうな印象ながらも、その目に宿る力強さが、レインの沈んだ心を少し落ち着かせてくれる。
「契約に失敗はつきものです。むしろ、一回目で本契約までいく方が珍しいのですよ」
「いや、でも……俺の場合は……」
「ええ、分かっています。切り替えるためにも、少しおさらいをしましょうか」
ショーンは真っ直ぐレインの目を見ながら、問いかける。
「マギアは魔力を持つ者。魔力は火・水・土・風・雷・光・闇の七属性がありますが、持って生まれる属性は一人一つです。
その魔力を使って傷を癒やすこともでき、戦闘向きと言えますね。ですが、マギア一人だと魔力を上手く制御できません。ではワンドは?」
「ワンドは魔力に耐性を持って生まれます。マギアの魔力を制御してくれる存在です。人によって魔力耐性の数も異なり、大きく四種類に分けられます。
その反面、悪魔にとって上質な餌なので、マギアと契約することが推奨されています」
「よろしい。では我々が倒すべき悪魔とは?」
ショーンの新たな質問にも、レインは淀み無く答える。
「悪魔とは、人間の欲望から生まれる存在です。五百年前に突如として現れ、人を襲い始めます。そのまま、人類は悪魔に支配されると思われていました。
悪魔の弱点である魔力を持つマギアと、魔力を効率良く制御できるワンドが生まれるまでは」
そこでレインは一旦切り、息を吸った。
「魔力が最初は魔力と呼ばれていたから【マギア】、マギアと心通わせることで強力な武器に変身する者のことを【ワンド】と呼ぶようになりました」
「ふむ、それから?」
「そして、マギアとワンドが心通わせることを契約と名付けられ、契約したマギアとワンドは魔力よりも強力な力を使える者として【魔法使い】と呼ばれるようになりました」
レインの答えに、ショーンは満足そうに頷く。
「はい、その通りです。
そして全てのマギアとワンドが所属し、悪魔の記録と対処、魔法使いになるための訓練や教育を行う組織が、魔法協会です。
ヴェルトラム君は座学も訓練も優秀ですね」
「でも、訓練や座学ができても意味がない。契約できなければ、魔法使いになれない……!」
その原因は分かっている。レイン自身の属性である、無属性の問題だ。
「魔力はあるのに、属性がない。ワンドと契約しても悪魔を倒せる魔法が発動しない。
確かに、それは大きな課題です」
ショーンは指を折りながら説明する。
「マギアは七属性ありますが、ワンドには大きく四種類あります。
一つの武器に変化する【集約型】。複数の装備へ変化する【分散型】。動物など、自律した存在へ変化する【自律型】。そして、肉体と一体化する極めて珍しい【融合型】です」
「……はい」
「ヴェルトラム君は既に、融合型以外のワンドと契約を試しましたね。そして、本契約までは行かなかった。
ですが、前進もありました。そうでしょう?」
ショーンの言葉を聞いて、記憶が蘇ってくる。ワンドとの、契約の記憶だ。
一人目。ガタイのいい男子生徒。集約型。
『うっす、よろしく』
大きな棍棒に変身するが魔法発動せず。失敗。
二人目。眼鏡をかけた女子生徒。分散型。
『がんばります、よろしく』
執事服(眼鏡付き)といくつかのナイフに変身するが魔法発動せず。失敗。
三人目。性格が軽そうな男子生徒。集約型。
『よっす、どうも』
槍に変身するが魔法発動せず。失敗。
四人目。偉そうで背が高い男子生徒。自律型。
『ふん、この俺と仮にも契約できること、誇るがいい』
黒豹に変身し、マッチくらいの火が出た。しかし本契約予定のマギアがいるのと、魔法と言えない残念な威力なので契約せず。
五人目。元気な女子生徒。自律型。
『やっほー! よろしく!』
黒い柴犬に変身するが魔法発動せず。失敗。
六人目。顔に縫い目がある痩せぎすの男子生徒。分散型。
『や、やあ。よろしく』
黒い鎧と剣に変身、物が少し浮く。他にもパートナー候補がいるらしく契約は見送りとなる。
「四人目と六人目。その二人は、火属性と風属性らしき魔法が発動しましたね。理由は分かりませんが、無属性でも魔法が発動した。これは間違いなく前進です」
「でも、あんな魔法とは言えない威力では悪魔は倒せません。だから全員、本契約までいかなかった」
ショーンは弱音を吐くレインの肩に手を置く。その手は力強く、レインに諦めるなと伝えているようだった。
「六回失敗したからと言ってなんです。七回目が駄目なら八回、九回と、粘り強く探していきましょう。
それと、ヴェルトラム君は分散型と自律型と相性が良いのかもしれません。その二種類のワンドを中心に、仮契約をしていきましょう」
「はい……」
「また何かあれば、いつでも言って下さい」
レインが頷くと、ショーンは去っていく。その背中を見ながら、小さくため息を吐いた。
「はあ……」
七回、八回と諦めずに探していく、か。それは正しいが、こうも失敗続きだとさすがに堪える。このままワンドが見つからず、魔法使いになれなかったら――
切り替えようとは思うが、嫌な想像をしてしまうレインに、近づいてくる人物がいた。
「大丈夫?」
「え?」
そう声をかけてきたのは、綺麗な髪をした、活発そうな女子生徒だった。
「あ、ごめんねいきなり! わたしはアルマ・イーリスっていいます。ため息を吐いてたから、なんか悩んでるのかと思って」
「レイン・ヴェルトラムだ。まだパートナーがいないから。それでちょっとな」
「え、奇遇だね! わたしもまだなんだ!わたしは闇属性の耐性を持ってるんだけど、属性が合ってたら私と契約してみない?」
レインの悩みを聞いたアルマは、驚きつつも嬉しそうに提案してきた。
「それはありがたいが、いいのか? 俺は無属性で、属性がないから魔法が発動しないかもしれないぞ」
レインはアルマの勢いに押されつつも自身が無属性だということ、魔法が発動しない可能性が高いとデメリットを打ち明ける。
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃん! わたしは大丈夫だから、明日やってみようよ! ね!」
「あ、ああ……」
「よし、決まり! じゃあ明日ね!」
アルマはそう言って、嵐のように去ってしまった。
レインはあれよあれよという間に決まった予定に戸惑いつつも、無属性だということを気にせず契約を提案してくれたアルマに嬉しく思った。
先程までの暗い気持ちが消え、気分が上がっていく。しかしそこに、水を差す存在がやってくる。
「オイオイオイ、役立たずがまだ無駄なことしてんのかぁ?」




