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マギアワンド  作者: 桑田照知
3.5章
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第30話:ユキエナガ商法

 ホワイトベリーの大通りをアルマと一緒に歩く。

 町の入口で飲み物や軽食は買えたが、やはり大通りは段違いに出店が多い。そこかしこで観光客を呼び込む声が聞こえる。

 出店以外にも、ホワイトベリーの特産品を扱う店が多く並んでいた。繊細なガラス細工や、毛皮を使ったコート、装飾品。個人経営らしき小さな店が軒を連ねている。

 レインは出店で買った温かいミルクを持っている。アルマはミルクに加え、串焼き肉を片手ずつ持ちながら、二人で目についた店を冷やかしつつ、ホワイトベリーの町並みを観光していた。

 そんな中、一際人が集まっている出店が視界に入る。店の前に置かれた小さな立て看板に貼られているのは、写真だろうか。店員の元気な声がレインの耳に飛び込んだ。


「よってらっしゃいみてらっしゃい! 現役魔法使いが撮影した、ユキエナガの激レア写真はいかがッスかー!」


「……ラルフ? 何してるんだ、こんなところで」


「あれ!? ラルフだ! どうしたの? 任務?」


 アルマが尋ねるが、ラルフは仕事中という雰囲気ではなかった。ムサシの姿も見えないし、ラルフも職務中は案外真面目だ。商売を優先するとは考えにくい。

 

「完全プライベートッスね。ボクはムサシに着いてきただけッスよ〜。

 どーしてもユキエナガの写真が撮りたいんだーって言うから、寒い中わざわざ来たんスよ」


「それがどうして、写真を売ることになるんだ?」


「だってもったいないじゃないッスか! 任務でもないのにはるばる来たんだから、旅行代くらいは稼がないと!」


「それにしては、写真が綺麗だな」


 看板の写真はユキエナガの魅力を、余すことなく伝えていた。一般人では近付けない距離まで接近し、雪でできた存在だからこそ、光を反射するきらびやかな姿や、丸い体をさらに丸めて羽づくろいしている様子を、細かく写している。  


「ねえねえ、写真撮ったのってムサシ?」


「そうッスよ〜。ゴツいカメラ構えてたッス。

 持ち運びも大変なのに、悪魔のために給料つぎ込んで買うって、ボクには理解できないッスよ」


 ラルフは肩をすくめながら、やれやれと言わんばかりだ。普段からムサシに振り回されているのかもしれない。


「まあまあ。情熱的なのがムサシの良いところじゃん」


「ムサシは今、どこにいるんだ?」

 

「今は風邪引きかけたんで宿で暖まってるッスね。ボクがいないとユキエナガの近くには行けないッスから」


 写真を撮るには変身するわけにはいかず、ワンド一人では悪魔に狙われる。だから護衛としてラルフがいなければ、ムサシは写真が撮れない。

 いくらユキエナガが美しいと言っても、悪魔は悪魔だ。一般人が近付くには、観光会社を通してホワイトベリーの魔法協会支部に護衛を依頼する必要がある。それでも、安全を優先して遠くから双眼鏡で見なければならない。

 本来ならありえないほど接近して撮影した写真が手に入るのだ。魔法使いならではの商売だった。


「そ・れ・で〜、レインくんとアルマちゃんもお一ついかがッスか〜? お値段ぽっきり500ソルッス!」


「じゃあ一つちょうだい!」


「はいよー! 毎度ありッス!」


 写真が入った小さな袋を手渡されたアルマは、早速開け始める。看板に見本とともに貼ってある説明書きを見ていると、気になったところがあったのでラルフに聞いてみることにした。


「……まて、写真は選べないのか?」


「そうッスね。全十五種類が三枚ずつランダムに入ってるッス。ここだけの話、なんと十六枚目のシークレットもあるッスよ〜」


 なんて恐ろしい商売なんだ。

 写真はランダムで三枚入り。絶対に一回ではコンプリートできないし、シークレットがあるならなおさら。

 欲しいものが出るまで買わせるなんて、まさに悪魔商法じゃないか。


「……あれ? これ見本にないやつじゃない?」


「おおー!? これは!?……おめでとうございまーす! シークレットッスよ! アルマちゃん、すごい!」


 ガラガラと鈴を鳴らしながら、ラルフは他の客にも聞こえるように、大きな声でアルマを祝福する。

 すると客たちの目が変わった。半信半疑だった客たちも、シークレットが出たことで一気に目の色を変えた。コンプリート魂に火がついたようだ。飛ぶように売れていく。

 客足が一旦落ち着いたころ、ふと疑問に思ったことをラルフに問いかける。


「で、販売許可は取っているのか?」


「…………じゃあ任務頑張ってッス! 成功を応援してるッスよ〜!」


「あっ、おいっ!」


 レインの質問にラルフは答えなかった。問われた途端、目にも止まらぬ早業で荷物を纏め、風のようにいなくなってしまった。

 

「全く、アイツは……」


「あはは、ラルフらしくていいじゃん! 次はどこに……くしゅん!」


「明日は任務だからな。風邪を引く前に宿に行こう」


 余談ではあるが。ホワイトベリーの魔法使いがユキエナガの写真に目をつけ、新たな観光土産として売り出し支部の予算が潤ったのはまた別の話。

  


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