第29話:白銀の町
「さささ、寒い……!」
「レイン大丈夫ー? 鼻真っ赤だよ?」
見渡す限りの白、氷、雪――
レインとアルマは、最も美しい町として名高い雪の町、『ホワイトベリー』の地に立っていた。
「ハーハッハッハッハ!
レイン・ヴェルトラム! アルマ・イーリス! キサマらよりも、このレオンハルト・シュタイナーが優れていると証明してやる!」
「坊ちゃま、地面が滑りやすくなっております。お気をつけ下さいませ」
……この、やかましいレオンハルト・シュタイナーと、そのパートナーであるスミレ・カタギリとともに。
寒さに耐えきれずそこらの露天で買った温かい飲み物に息を吹きかける。ゆっくりと飲み下すと、じんわりと体の底から温まっていった。
「俺は寒いのが苦手みたいだな……」
レインがぼやいている間にも、雪景色にテンションが上がったアルマが、レオンハルトにダル絡みしていた。
「ねえねえレオ〜」
「馴れ馴れしいぞキサマ! この俺を愛称で呼ぶなど!」
「一緒に任務するんだからいいじゃん! そんなことより、かき氷って雪をお皿に盛ってるって知ってた?」
「何、そうだったのか!? ではここの雪も……!」
「坊ちゃま! おやめ下さ――」
あっさりとアルマの嘘に騙されたレオンハルトは、スミレの静止も間に合わず雪を食べてしまう。口に入れた瞬間、顔を思い切りしかめる。
「ブッ!? 不味いではないか!?」
「あはは! だっまされたー!」
「おのれアルマ・イーリス! 許さんぞ!」
口から雪を吹き出したレオンハルトは、アルマを追いかける。アルマも笑いながら逃げ、追いかけっこが始まった。
「悪いな、アルマがちょっかい出して」
「いいえ。確かにアルマ様は無礼ですが、坊ちゃまの緊張をほぐしてくださいました。無礼ですが」
無礼って二回言ったな。スミレは年齢の近い少女とは思えないほど落ち着いた口調だが、そろそろスミレの制裁が飛び出そうだ。アルマのことだ。どうせはしゃいで任務の内容を忘れているだろう。ここらへんでおさらいをした方がいいか。
「おーい、集まれー。任務の確認するぞ」
「はーい!」
「この俺に命令するな! レイン・ヴェルトラム!」
アルマは素直に、レオンハルトは言い返しながらも、レインとスミレの側に集まった。
「始めるぞ。今回の任務は」
「繁殖期でホワイトベリーの近くまで来ちゃう影級の【ユキエナガ】を、数を調整しつつ町から遠ざけるんでしょ?」
「なん……だと……!?」
「もー! わたしだって魔法使いなんだからね!」
アルマが、任務内容を忘れていないだと?
明日は槍が降るんじゃないだろうか。いや、アルマも成長してるようだ。感慨深いな。
「フン、この俺を影級の任務に派遣するとは……。魔法協会はよほど人手不足らしい」
「おっしゃる通りでございます。坊っちゃまが未だ下級魔法使いであること自体、魔法協会の判断ミスかと」
「相手が影級でも獣級でも、任務は全力であたるべきだ。それが魔法使いの責務だからな」
「……フンッ」
レオンハルトは少し不満そうだが、今度は何も言わなかった。レインの言い分に、納得しているのかもしれない。
「続けるぞ。ユキエナガは悪魔だが、ホワイトベリーの観光資源でもある。だから全ては駆逐せず、ちょうどよく調整しつつ町から引き離す」
「……悪魔を観光資源にするとは。人間は業の深い生き物ですね」
ユキエナガは雪でできた体を持つ、小型の鳥型悪魔だ。純白の羽毛と雪の結晶のような見た目はとても美しく、丸っこい体型も可愛らしい。そのため、悪魔ながら人気が高い。
影級とはいえ、一匹だけならほぼ害はないが、群れると厄介な悪魔でもある。吹雪を巻き起こし、視界を奪い、体温を急速に奪う。遭難や凍死を引き起こす危険があるからだ。だから年に一回、魔法協会から魔法使いが派遣される。町から遠ざけるための討伐・誘導作戦だ。
火属性であるスミレとレオンハルトがこの任務を命じられるのは理解できるが、何故重力属性のレインが選ばれたのだろうか。上の考えはよく分からない。
「厄介なのは観光客だな。今が一番ユキエナガが町に接近し、目撃される。かつ年に一回の恒例任務ときた。これを目当てにしている観光客が大半だろう。まったく、忌々しい」
レオンハルトはため息まじりに零す。観光客が厄介というのはレインも同意見だ。ユキエナガの対処は、火属性のレオンハルトたちに任せたほうがいい。
「ユキエナガはレオンハルトとスミレに任せる。俺とアルマはそのサポートだな」
「りょーかい! ねえねえ、任務は明日にして、今日は観光しようよ!」
「アルマ、俺たちは遊びに来てるんじゃないぞ」
「分かってるよー。でも楽しそうじゃん! お願い〜」
成長したかと思ったが、緊張感がないのはそのままか。確かに今から行動するには時間が半端だが。レオンハルトはともかく、真面目そうなスミレが許可しないだろう。
「ふぅん。ホワイトベリー……本当に"最も美しい町"なのか、このレオンハルト・シュタイナー自らが確かめてやろう。行くぞ、スミレ」
「はい、坊っちゃま」
そう思っていたのだが、二人はあっさりと観光へ行ってしまった。
「…………俺たちも、行くか」
「やったー!」




