第27話:地上へ
支えを失った影喰の頭が、落ちる。それから遅れるように、バランスを崩した体もゆっくりと、倒れた。
影喰の体がボロボロと崩れて、闇に溶けていく。それは、影と同化していた時とは違う。闇に還っていくような、静かな、終わりだった。
「くっ……」
「レイン、大丈夫!?」
ようやく張り詰めていた体が緩み、全身から力が抜けていく。思わず膝を着いたレインに、変身を解いたアルマが駆け寄った。
「無茶するからだよ! 心配したんだからね!」
「すまない。……でも、勝ちたかったんだ」
「それは分かるけどさあー」
苦言するアルマの肩を借りながら、レインはなんとか立ち上がる。
リチアとジルが心配だから地上へ戻ろうと、アルマに声をかけようとした時だった。
「ううっ……」
レインは驚愕して声のした方向へ振り向く。声が聞こえたのは、影喰が倒れていた場所からだったからだ。アルマも、信じられないと言わんばかりの目を向けていた。
「うそ……」
「……行こう」
アルマに支えられながら、声が聞こえた方へ近づく。ある程度近づいてから、アルマにガントレットに変身してもらった。もう今のレインに魔法を発動する魔力は残っていないが、少しでも危険を減らすためだった。
「体が動かねえっ! 何でだよぉ!」
声の主は、やはり男だった。まだ、生きている。
しかし、悪魔と融合した代償か、手足が黒く染まり、動かせないようだった。
「レイン、どうする?」
「そうだな……」
「な、何する気だ! 見てねぇで早く助けろよ!」
こんな状況でも図太く助けを求める男に、呆れを通り越し、レインは逆に感心してしまう。
男は、無言で見つめるレインに焦れたのか、今度は下手に出ることにしたようだった。
「へ、へへ……お、俺が悪かったよぉ。だからほら、助けてくれよ……!」
「……ほんとどうするの?」
アルマはすっかり呆れ切っている。地上に出てからのことや、男をどうするか。休憩も兼ねて考えていたが、思っていたよりも男が折れるのは早かった。
支えてもらっていたアルマの体から、徐々に離れる。多少ふらついたが、すぐにそれも治まる。これなら、荷物が増えても問題はなさそうだ。
「おっおい! 何すんだ!?」
「お前はここに詳しいだろ。案内しろ」
何せここで寝泊まりしていたかもしれないくらいだ。案内役にはこれ以上ない適任だろう。男を担ぎ上げ、旧水路を進む。
「ここだ……この階段を上がると、研究所の地下に、直接出る」
「……本当だろうな?」
じろり、とレインは懐疑的な目で男を見やる。嘘をつくメリットがないのは分かっているが、男のことは信用ができなかった。
「本当だよぉ! だからもう少し丁寧に運んでくれよ! 体が痛えっ!」
「悪いがそれは厳しい。俺も万全じゃないし、そもそもアルマには持たせたくないからな」
「えへへ……なんかごめんね?」
「ちくしょぉっ! 見せつけやがって!」
「……? 何のことだ?」
男の言ってる意味はよく分からなかったが、とりあえず進むことにした。どちらにせよ、このまま旧水路にいても好転はしない。
階段を上り、研究所の地下に出る。そこは、使われていない倉庫のようだった。壊れた魔導具の部品や古い机などが雑多に置かれ、埃っぽい。
「それで? ここからどう行けば、外に出られるんだ?」
「チッ。一階に出て、通路を進めばすぐだ」
「態度悪いよ〜。よくないと思うな〜」
「アルマ、放っておけ」
地下から一階へ上がり、広い廊下を歩く。研究所内は広く、部屋もたくさんある。一部屋ずつ見ていく時間はない。なので、とりあえず間取りをざっくり把握しておく。
リチアとジルは無事だろうか。早く合流できればいいが。
「……けて」
「ん?」
ふいに、声が聞こえた気がして立ち止まった。耳を澄まし、声を聞き取ろうと集中する。
「けて……助けて!」
「ジルの声だよ! あっちから聞こえる!」
レインが動くよりも早く、一足先にアルマが飛び出す。
「待てアルマ! 一人で行くな!」
「いてっ、いてて! やめろ走るな!」
まだ本当にジルだと分かっていないのに行くなんて、迂闊すぎる。それに、リチアの声がしないのも不自然だ。言いたいことはいくつかあったが、アルマが聞かないのは分かっている。追いかけるしかない。
文句を言う男を無視してアルマを追いかける。通路を曲がり、一つの部屋に辿り着く。ドアを開けると、そこには――
「た、助けて……」
『ナーンテ不健康ナノデショウカ! 背スジモコンナニ曲ガッテ! ワタクシガ健康ニシテサシアゲマスワ!』
メイド服を着たゴーレムに、ジルが絡まれていた。




