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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第26話:極限


「俺を助けないからだっ! ざまあみろぉ! ヒッヒヒッ!」 


「「ヒャヒャヒャヒャッ!」」


 男と影喰の不協和音が地下空間にこだまする。

 ブチンと、レインの中で何かが切れた。


「いい加減に、しろ‼」


 今までずっとレインの中に沈んでいた、どす黒い感情。それを表に出したことはなかった。アリスに出会い、助けられ、希望を得てからは。だが今、耐えてきたものが、ついに決壊した。

 

 重力を前面に無理矢理展開し、影喰を弾く。ただでさえ少なかった魔力はごっそりと減るが、レインの中には別の原動力が生まれていた。

 "怒り"、である。

 

「レイン!?」


「襲ってきたのはお前なのに今度は助けろだと!?

 言ってることがめちゃくちゃな自覚はあるのか!?」


「レイン、ちょっと落ち着いて……」


 アルマの宥める声も、今のレインの耳にはあまり入ってこない。

 とにかくこの矛盾だらけの男に、文句を言わないと気がすまなかった。  


「あ゙あ゙あ゙! うるせえええぇっ!!」


 図星だったのか、男は癇癪を起こす。その男に釣られて、影喰は大口を開けて真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。

 影喰は選択を間違えた。六足の優位を活かすべきだった。ましてや、背中の頭はもうない。それでは、ただの獣と変わらない。


「動きが単調、だなっ!」


 横に避けてから、影喰の大きな目にガントレットを突き立てる。

 グチュリ。潰れるような音と、手にまとわりつく生暖かい液体。そして、ぶよぶよした嫌な感触がレインの手に伝わる。

 

「キャァァアッ! キャーッ、ギィイッ!」


 あまりの痛みに、影喰はのたうち回る。左右にふらつき、壁に何度も当たっていた。 


「うええ……わたしをそんなとこに突っ込まないでよ……」


「す、すまない。消滅するからいいだろ?」 


 レインに漏らすアルマの声は、いつも元気な姿からは考えられないほど気落ちしていた。

 手加減して勝てる相手ではないし、なりふりかまっていられなかったこその攻撃だった。私怨が無いと言えば嘘になるが。

 それに悪魔の肉体は、適切な処置をしなければ時間経過で消滅する。血も肉も、何もかもが無になるのだ。

 だが、もし逆の立場だったら確かに良い気分にはならないだろう。約束はできないが、気をつけたい。

  

「なんで俺ばっかりぃっ! お前ら全員悪魔だぁ!」

 

「悪魔憑きが言うな!」


「そうだそうだー!」


 無様に泣き叫び、なおも責任転嫁を続ける男。その姿に、レインの苛立ちはさらに膨れ上がった。


「影喰ぃい! 早く、はやく殺せぇ!」


 影喰は背中の頭も失い、足の目と頭の片目も潰れている。満身創痍と言ってもいい。それでも男は影喰を叱咤し、なおも抵抗を続ける。助けてほしいのか、ほしくないのか。本当に、食い違いだらけの男だった。 

 だが、影喰も引く気はないようだ。群れの仲間はもういない。自分だけになった、なってしまった原因への怒りと憎しみ。それに突き動かされるように、影喰はレインたちと相対する。

 しかし、満身創痍なのはレインたちも同じだ。肩の銃創と腰の裂傷、そして尽きかけた魔力。なけなしの魔力を、かき集めろ。 

 

「――決めるぞ、アルマ!」


「っ! うん!」


 先に動いたのは影喰だった。影に同化し、レインたちの視界から消える。先程とは違い、勢い任せに突っ込んでは来なかった。

 影喰の脅威は、この視覚外からの奇襲攻撃だ。しかし、弱点もある。影と同化したままでは、攻撃できないことだ。攻撃する瞬間は、絶対に実体化しなければならない。 

 そして、影喰が必ず攻撃してくると分かっているのなら。確実に息の根を止めようとしてくるのなら。


「反応が、できるんだよっ……!」

 

 影喰の横薙ぎの一撃を、レインは今度こそ受け止めていた。とどめを刺す気でいた攻撃を防がれ、影喰の次の動作が遅れる。

 その隙を見逃さず、振り絞った魔力を無理矢理一つに練り上げる。 

 

「マインドライブ――"グラビティ・ブレイク"‼」


 影喰が次の攻撃をするよりも、レインの魔法が首に届くほうが早かった。

 今あるありったけの魔力を練り上げたそれは、小さな弾の形をしていた。先ほど発動した、威力の低いダークショットによく似ていた。男はそれを見て、嘲笑うように顔を歪める。


「あ……? あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!?」


 ……それは誤りだ。

 その魔法は、極限まで圧縮した重力そのもの。

 つまり――圧(・)縮(・)し(・)た(・)重(・)力(・)が(・)、(・)内(・)側(・)か(・)ら(・)破(・)壊(・)す(・)る(・)。 


 支えを失った影喰の頭が、落ちる。それから遅れるように、バランスを崩した体もゆっくりと、倒れた。


「やった! やったよレイン! 影喰に勝っちゃった!」


 アルマの弾んだ声が響く。

 そうだ。レインは勝ったのだ。その実感が、遅れて胸に込み上げてくる。


「……う」


「怪我が痛むの!? 大丈夫!?」


「うおおおおおおお!」


 気づけば、レインは腹の底から叫んでいた。


「わー! そうだね、嬉しいよね! うおーっ!」 


「うおおおおおお!」

 

 感情を爆発させるレインと、それに乗っかるアルマ。二人の勝利の勝鬨(かちどき)は、しばらく地下空間に響き続けた。

 



 闇夜の狩人【影喰(カゲクイ)】妖級〜魔級

 全身が影で構成された狼型の悪魔。通常は三〜五頭の群れで行動し、影の中を移動しながら暗闇から奇襲を仕掛ける。

 獲物を見つけると、生かさず殺さずの状態まで追い詰めて弄ぶ、非常に凶暴かつ加虐的な性質を持つ。 

 防御力が低い集約型や、自律型の魔法使いとは相性が悪く、連携による波状攻撃を得意とする。五頭以上の群れは危険度が大きく上昇する。

 光属性を苦手としており、昼間は出現頻度が低い。

 奥の手として、群れ同士で食い合い融合することで、六足の異形へと変貌する。融合後は複数の首・目・口を持ち、攻撃性と戦闘能力が飛躍的に増加する。

 なお、融合状態で討伐された場合、融合していた個体は全て同時に消滅する。


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