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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第25話:切れた糸


「グギィィイァ゙ア゙ッ‼」

 

 聞く者すべてを不快にするような金切り声。

 融合した影喰の異常さを目の当たりにしたアルマの動揺が、装備したレインにも伝わってくる。


「レっレイン! どうする!? ヤバくない!?」


「落ち着け! 四対二が一対二になったんだ!

 やりやすくなった……はずだ!」

 

「そ、そっかー!……そうかなあ!?」


「ジャァァアアッ!」


 レインたちの隙を影喰は見逃してくれない。

 振り下ろされた爪を、後ろに飛び退いて回避する。


「なにっ!?」


 回避した瞬間に、もう一つの爪が迫っていた。アルマのガントレットで受け止める。その勢いを利用し、影喰から距離を取った。

 

「六足だからか……!」


 六本もあれば、体勢を崩さずに連続で来られる。四足なら、前肢(ぜんし)で攻撃すれば後肢(こうし)で踏ん張るしかないが、こいつは違う。

 ただ足が増えただけではない。攻撃速度が、格段に上がっている。

 

「――ダークショット!」


「ぁ゙あ゙あ゙っ! 頼むっやめ、やめてくれぇ!」


 レインの手から、魔力の塊が放たれる。威力を抑え、その分速度を上げた一撃。

 影喰は反応できなかったのか、それとも避ける必要がないと判断したのか、動かない。弾は、額に浮かぶ男の顔のすぐ脇に命中した。 

 先程も助けを求めていた。今も反応がある。男には、はっきりと意識が残っている。


「なんであれで喋れてるの!?」


「影喰と一体化してるんだ! 影喰を倒すと、死ぬかもしれないぞ!」 


「助げろ゙よぉぉお゙お゙‼」


 ぎり、と奥歯を噛み締める。元はと言えば、お前が――そう怒鳴りつけたくなる気持ちをぐっとこらえ、影喰に集中し直した。


「ぁぁあ゙あ゙ぁ゙あ゙っ!」


 六足からなる瞬発力が、レインが取った距離を瞬く間になくす。

 

「っと――っ!?」


 壁を蹴り、避けようとした、その時。レインの目の前で、影喰の背中にある頭が、レ(・)イ(・)ン(・)と(・)は(・)反(・)対(・)側(・)を(・)向(・)い(・)て(・)い(・)た(・)は(・)ず(・)な(・)の(・)に(・)――大きく、口を開けていた。

  

「つぅっ!」


 とっさに体を捻り、間一髪で噛みつかれることは免れた。しかし、牙が腰に掠る。

 どうやら、背中の頭はある程度移動できるらしい。腹にある口と、足にある目も動かせると思って行動していいだろう。


「ほんっとうに、厄介だな……!」


 これが、魔級の悪魔。

 レインとアルマが今まで戦った、どの悪魔よりも格上の相手。

 下級の魔法使いが、勝てる敵ではない。

 ――だけど、それでも。


「レイン、もう……!」


「いいや、まだやれる!」 


 アルマの声は、撤退を示唆していた。

 撃たれた肩、牙が掠った腰。そして、残り僅かな魔力。勝てる見込みは、限りなく低い。 

 それでも、負けたくなかった。

 今のレインは、魔法使いなのだから、こんな奴らに臆したくなかった。 


「死ねぇええ!」


 レインはもう一度避けようとするが――今度は、避ける間もない。 

 ガチンと、影喰の口が閉じる。そのまま咀嚼し、バキボキとひび割れるような音が、口の中から鳴り響く。  


「ヒャハッ! やったか!」


 男はついさっきまで助けを求めていた口で、今はレインたちの死を喜んでいる。


「……それは"影写し"の偽物だ。"ゼロ・グラビティ"」


 レインの言葉とともに、影喰の内側から光が溢れる。 壊される前に、発動は間に合った。 背中の頭が霧散し、口から落ちた球体が、パリンと砕けた。


「ギィィイイッ!」


 背中の頭が消えたことで、影喰の動きが鈍る。

 今が好機だ。レインの属性は影喰と相性が悪く、決定打がないのなら。決(・)定(・)打(・)を(・)、(・)作(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。


「ゼロ・グラビティ――"飛礫(つぶて)"!」


「ガァ゙ア゙ア゙ア゙!」


 割れた球体の欠片が宙に浮き、一斉に影喰へ突き刺さる。足にある目が、グチャリと音を立てて潰れた。

 

「クソッ、クソォ! うああああ!」


 喚き散らす男、苦悶(くもん)の声を上げる影喰。レインたちへの憎しみが、ありありと伝わってくる。

 だが、影喰は一足早く頭を冷やした。怒りに身を任せるのではなく、確実に仕留めるために動いた。

 影喰が影と同化する。次に姿を現した時には、レインの目の前まで来ていた。 

 迫りくる爪を、逃れることはできない。 


「がはっ……!」


 爪をガントレットで防御できたところまでは良かった。だが勢いは殺し切れず、背中を壁に強かに打ち付ける。一瞬体から力が抜けかけるが、無理矢理立て直す。

 

「ぐっ、うおおおお!」


 影喰と壁に挟まれ、体がギチギチと悲鳴を上げる。


「レインっ!?」


「俺を助けないからだっ! ざまあみろぉ! ヒッヒヒッ!」 


「「ヒャヒャヒャヒャッ!」」


 男と影喰の不協和音が地下空間にこだまする。

 ブチンと、レインの中で何かが切れた。


「いい加減に、しろ‼」





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