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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第24話:喰らい、混ざり、孵る


 影喰の向こう、奥の通路から人影が現れる。目が血走り、小汚い浮浪者のような男が、銃の魔導具を構えていた。


「人間か……!」


 足跡と、人がいた痕跡。よく考えれば予測できていた乱入者。見落としていた自分に、レインは奥歯を噛み締める。

 影喰は、男を襲わない。むしろ、指示を待つように動きを止めている。

 やはり、こいつは……!

  

「悪魔憑き……!」


 【悪魔憑き】――それは、マギアでもワンドでもないただの人間が悪魔に取り憑かれる、あるいは契約する存在。

 寄生とは異なり、その多くは自らの意思で悪魔に身を差し出す。

 人類を守る立場でありながら悪魔に組みする、黒魔術師(ウォーロック)と並ぶ、魔法使いの敵だ。 


 撃たれた左肩は、痛みとともに痺れがある。雷属性の魔導銃のようで、動かしづらい。だが、あと数分もすれば動かせるようになるはずだ。

 なんとかして時間稼ぎを、と思っているレインの前で、男は頭を掻きむしり始めた。


「クソッ、何だよぅ……。あんな化物がいるなんて聞いてねぇぞ……!」


「……何の話だ?」


 男は頭を掻き乱しながら、ブツブツと呟いている。レインの漏れた言葉にも反応する余裕がないようだった。

 肩を回復させるチャンスかもしれない。肩に魔力を回す。痛みと痺れが、わずかに和らぐ。レインは動かず、様子を窺うことにした。

 

「ゴーレムを壊せる魔法使いがいるなんてよぉ……! あの雷女が……!」


「まさか、リチアたちのことか?」


 口ぶりから、リチアたちがゴーレムを倒したと察することができた。しかし男がここにいるため、二人の無事は分からない。 


「最高傑作なんて嘘つきやがってあのジジイがあ!

 影喰ぃ!――アイツを殺せぇ!」


 先程までは自分自身と会話をしているようだった男が、急にレインたちに矛先を向けた。 

 命令を受けた影喰は、リーダーを残し、残りの二体がレインたちに襲いかかる。 


「ゼロ・グラビティっ!」


 三個壊され、球体は残り二つ。

 それを浮かせ、一体を足止めする。突っ込んできたもう一体は、自らの重力を軽くすることで躱した。

 左肩の痺れはもうない。

 だが――魔導銃から放たれた弾丸が、頬を掠めた。

 影喰の爪に加え、男の銃撃が追い打ちをかける。防ぐだけで手一杯だった。

 『ゼロ・グラビティ』は魔力消費が少ない魔法だ。だが、このままでは状況は変わらない。

 長引けばどんどん不利になる。それなら――消費が大きくてもいい。短時間で決着をつける。

  

「グラビティ・フィールド」


 ガクン、と銃を持つ男の腕が引き下げられる。上げようとするが、何かに妨げられているように腕は上がらない。


「腕がっ……! てめぇ、やりやがったなぁ!」


 影喰たちも、見えない手に押さえつけられたように沈み、その場から動けない。


「あぁぁああ! なんで殺せねぇんだよ役立たずがぁ!   

 おっお前も俺を! 馬鹿にしやがって!」 


 目を血走らせ、唾を飛ばしながら、男は叫ぶ。 


「あのジジイと同じだ! お前もっ! 皆みんな殺してやる!

 影喰! なにしてもいいから殺せぇ!」


 男の言葉を聞いた影喰のリーダーは、耳元まで裂けた口を、さらに歪ませる。 


「ヒヒッ――ヒィ、ヒィ」


 リーダーの鳴き声を聞いた二体の影喰は、影と同化する。

 まずい。実体がなければ、重力は関係ない。


「くっ」


 攻撃を警戒したが、影喰たちは男の方へ向かった。

 男はぽかんと口を開け、一瞬動きを止める。


「は? 俺じゃねぇ! あいつだ! あいつを殺せ!」 


 喚く男をよそに、影喰たちは、まるで最初からこうするつもりだったかのように、ニタニタとした笑みを浮かべている。

 そして、影喰リーダーは――男(・)に(・)噛(・)み(・)つ(・)い(・)た(・)。


「ま、なっ、何で俺にっ! ガッ……! ギャァァァア!」


 リーダーに続き、他の二体も男に噛みついていく。それどころか、影喰同士までもが互いに噛みつき合い、喰いちぎり合い、影喰と男の境界が、ぐずぐずと崩れていく。


「ヒッ」


 その光景に、アルマが息をのんだ。 

 目を背けたいのに背けられない。あまりにも醜悪なこの場面を、見ることしかできなかった。

 ああ、思い出した。思い出してしまった。この悪魔が、影喰(かげくい)と名付けられた理由、それは――

 お互いが喰い合うように混ざり合い、融合するからだ。


「あ……た、助け……て」


 やがて、融合は終わった。

 そこにいたのは、まさに"異形"だった。

 リーダーの体をベースに、無理矢理引き伸ばされた胴体。

 それを支えるのは、六本に増えた足。

 背中から、もう一つの頭が生え、腹には、よだれを垂らす口が裂けている。

 足に、こちらを見据える目が蠢いていた。

 そして額には――男の顔が浮かび上がり、レインたちに助けを求めている。

 それは、もはや生き物ではなかった。

 冒涜そのもののような異形が、ゆっくりと、動き出した。

 

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