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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第23話:知恵くらべの外側


 リチアとジルがゴーレムと戦闘を開始した時と同じころ。レインとアルマは、研究所の地下にある旧水路に到着した。

 リチアとジルが行った事前の魔力探知で、地下から影喰の反応が確認されている。

 神出鬼没な悪魔が地上に潜まれるより、行動範囲が絞れる地下の方がまだ対処しやすいはずだ。

 ゴーレムがいる研究所の地下というのが気掛かりだったが、早い段階で所在を掴めたのは幸いだった。


「うええ、ジメジメしてる〜」


「思ったより地面は乾いているな。他の場所は分からないが、ここは暗いし狭い。できるだけ広い場所に移動しよう」


 レンガ造りの地面は想定よりも乾いていたが、通路は最低限の灯りと広さしかない。ここで戦うのは逆に不利になるだろう。 


「レイン、"アレ"落としちゃだめだよー」


「ああ、大丈夫だ」


 すでにアルマは変身しており、ガントレットが装着されているレインの手には、大きな袋がぶら下げられている。

 この袋の中身が、用意した"策"だ。      


「よし、行くぞ」


「うん! 気をつけてね」


 警戒しながら、薄暗い通路を進む。

 いつ、どこから影喰が来るか分からない状況で、それでも進まなければいけない。頼りない灯りに照らされた影から、影喰が飛び出して来そうだ。

 レインは、まだ戦闘は始まっていなくとも、精神的に追い詰められるのを感じていた。 


「ここは……」


 しばらく進んだ先に、レインたちは広い空間に出た。

 元は倉庫だったのだろう。複数の通路を繋ぐため、壁が取り払われ、コンクリートで補強されている。

 何にせよ、狭い通路よりも広く、戦いやすい。

 だが、ここにはいくつか不審な箇所がある。


「足跡と、人がいた痕跡か」


「不気味だよねー。こんなジメジメした場所に来たい人っているのかな?」


 つい最近できたであろう人の足跡と、ここを根城にしていた痕跡を見つけたのだ。

 空の水の容器やパンの袋、ランタンまで残されている。明らかな生活痕であり、メンテナンスをする業者が残したとは考えづらい。

 浮浪者の可能性が脳裏をよぎる。しかし、影喰の反応がある場所で、ただの人間が生きていけるはずもない。 

 敵か味方さえも分からない、正体不明の人物。


「とりあえず、これを置いてしまうか」


 レインはそう言って、手に持っていた袋から手のひらよりも少し大きい球体を取り出す。

 袋の中には、球体が五個入っていた。 


「影喰が来る前にやんないとね!」 


「そうだな」


 影喰と遭遇する前に準備をしなければ。

 レインが一個目を置こうとした時、影が、揺らいだように見えた。


「――っ!」


 レインが咄嗟にその場から飛び退いたのと、影喰の爪が何もない空間を切り裂いたのは同時だった。

 飛び退いた時に袋が手から離れ、中身が地面を転がる。


「キィ、ヒーッヒヒッ!」

 

 影喰は不意打ちで仕留められなかったことに苛立つように、落ち着きなく鳴き声を上げながら、レインの前に実体化する。

 集まった影喰は四体。昨晩リチアが一体倒したのを思い出す。他の個体よりも一際大きい個体は、一番後ろにいた。おそらく、あれがリーダーだろう。後から増えなければ、これで全部なはずだ。

  

「来たな……!」

 

 先程の攻撃を間一髪で避けられたことに、安心か恐怖か分からない汗が頬を流れた。  


「リベンジだよ、レイン! 絶対大丈夫、わたしたちならやれる!」


「……ああ。そうだな」


 アルマの一言が耳に入り、レインの背は無意識に伸びた。

 無意識に後ずさっていた足に力を入れ、前を見据える。

 そうだ。二人ならやれる。気持ちから負けてどうする。ビビるな、思いっきり睨みつけてやれ。 

 

「ヒィ、キャキャッ!」


「余裕そうだな」


 影喰は、レインたちをどう痛めつけてやろうかと考えているようだ。だが、その余裕が何時まで持つか。 

 準備していた策を、使う時がきたようだ。

 

「お前たちが数で戦うのなら、俺たちは知恵で戦う」


 大丈夫だ。自分を信じろ――さあ、浮(・)か(・)べ(・)!


「――お前たちの大嫌いな光だ!」


 レインの言葉とともに『ゼロ・グラビティ』で浮かんだ球体が、眩い光を放った。


「ヒャアアアアァァァーッ!」


 室内に、影喰たちのけたたましい悲鳴が響く。

 用意していたのは、影喰の弱点――光。

出力を底上げし、浮遊と同時に発光するよう、ジルが改造したものだ。

 だが。

 リーダー個体だけは、光が放たれた瞬間、影の奥へと身を滑り込ませていた。

 球体を避ける位置取りだ。明らかに、他の個体とは動きが違う。


「やった! 効いてる!」


「このままいくぞ! ダークバインド!」


 ゼロ・グラビティで球体を浮かせつつ、ダークバインドで一番球体に近い場所にいる影喰の体の自由を奪う。

 いつものレインなら、魔法を発動しながら動き回る対象を、別の魔法で正確に捉えるなんてことはできない。

 だが、球体の光に影喰が釘付けになっているいまなら。


「うおおおおおぁっ!」


 ダークバインドで動きが鈍った影喰を、思いっきり球体に押し付けた。


「ヒャアァーッ! キャァァアー!」


 球体に頭を押し付けられた影喰は、苦悶の声を上げる。レインはすかさず、追い打ちをかける。


「シャドウニードル!」


「ヒュッ――」


 押さえ込んだ腕から伸びた棘は影喰を貫き、力が抜けた体は霧散していく。

 まずは一体。 

    

「ギィィィイイ!」


 他の影喰も待ってくれるわけがない。四方八方から影喰の爪が飛んでくる。右へ、左へと避けながら、タイミングを見計らう。


「"それ"は、一つじゃないぞ!」


 球体は全部で五つ。奇襲を受けたことで想定していた位置に設置はできず、全てバラバラに転がっていった。

 それが逆に、功を奏した。影喰の足元や壁際、固定できなかったからこそ、戦闘に利用できる。

 そしてどの球体を『ゼロ・グラビティ』で浮かせるかは、レインの自由だ。 


「キャァァアッ! ギィィイ!」


 攻撃を光に邪魔された影喰が、悔しそうに唸る。

 地面を爪で引っ掻き、怒りを顕に(あらわに)するが、追撃はしてこない。光が怖いのだ。

 いける。

 このまま押し切れる。

 そう思った矢先。

 ドン。

 低い音とともに、球体が砕けた。

 

「何っ!?」  


 驚くレインをよそに、ドン、ドン――さらに二発。

  

「レイン、後ろ!」


「ぐあっ!」


 動揺で、頭も体も動かなかった。アルマの声にも反応が遅れた。左肩に衝撃、遅れて痛みが走る。


「っ……!」


 ……間違いない。

 ――これは、銃だ。

 レインは、銃(・)で(・)撃(・)た(・)れ(・)た(・)の(・)だ(・)。  

 影喰の向こう、奥の通路から人影が現れる。目が血走り、小汚い浮浪者のような男が、銃の魔導具を構えていた。


「人間か……!」


 足跡と、人がいた痕跡。よく考えれば予測できていた乱入者。見落としていた自分に、レインは奥歯を噛み締めた。

 

 

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