第22話:雷獣
『"オートマタ・マスターコード"、起動』
――その瞬間、乱雑に転がっていた無数の魔導具が、ジルたちの元へ殺到する。
「これはっ!?」
上半身だけの人型ゴーレムや、腕がフライパンや包丁の料理器具になっている料理ゴーレム、鳥型や犬型などのペット代用のものまで含め、数多の魔導具がジルとリチアを排除せんと襲いかかった。
「リチア、一旦距離を――」
ジルが言い終わる前に、改造された魔導車が突っ込んでくる。
けたたましい衝突音が響く。だが――
真正面から魔導車を受け止めながら、リチアは口角が上がるのを止められなかった。
「――ハハ! ハハハハハ!」
リチアは、まるで愉快で仕方がないように笑った。
魔導車は魔法で強化されており、通常では考えられない馬力でリチアを轢き殺さんとばかりにタイヤが地面を削って回る。
それでも、リチアは両足を地面に突き立て踏ん張る。
ここまで追い込まれたのは魔法使いになってから初めてのことだ。
だが、リチアはこの状況を楽しんでいた。
『エレクトロ・カノン』
リチアの動きを抑えている魔導車ごと、ゴーレムは腕から魔法を放つ。
――【エレクトロ・カノン】。一点に集めた高密度の魔力を撃ち出す、中距離から遠距離までを射程に収める中級魔法だ。攻撃力に限れば、上級魔法にも匹敵する。
魔導車が爆発し、リチアは咄嗟に魔力で防御する。リチアの膨大な魔力量と、分散型であるジルの補助により、その防御力は並の魔法使いを遥かに上回っていた。
だが、装備がない部分は当然、他の部位よりも脆い。
防ぎきれなかった部分から、焦げた匂いとジリジリとした感覚が広がった。
「リチア!」
「問題ない」
言葉通り、リチアは傷を気にすることなく立っている。戦闘続行に問題はないが、それは肉体的な話だ。
リチアはもう少し時間を掛けたいようだったが、ジルには許可できない。
「これ以上は、危険だ」
「……了解」
『対象、未ダ活動中。戦闘ヲ、続行シマス』
ゴーレムの言葉に応えるように、辺りに転がっていた魔導具が、またリチアとジルを取り囲む。
前にはゴーレム。周りには魔導具が退路を塞いでいる。
数、魔力残量、どちらもリチアが劣勢であることは明白だった。
「ククッ」
こみ上げる笑いを押し殺すように、喉の奥を鳴らして笑う。
血湧き肉踊る感覚。止まらない高揚感。
それに呑み込まれそうになる衝動を、リチアは奥歯で噛み殺す。
"敵を倒すのであれば、どんな卑怯な手を使われても、その全てを真正面からぶつかって突破する。"
それはリチアのこだわりであり、自身に課した試練でもある。この程度のことができなければ、悪魔の根絶など不可能。
『エレクトロ・カノン――四重』
低空で飛行しながら、ゴーレムの元へと翔ける。
ゴーグルに映るジルの誘導に従い、リチアは弾幕へ飛び込んだ。
一発目、手を伸ばす魔導具にゴーレムの魔法が直撃し、熱でひしゃげた。
二発目、前からの魔法だけではない。横や後ろから魔導具が投擲され、さらにその身を障害物にして進路を塞ぐ。
三発目、横薙ぎのエレクトロ・カノン。低空から一気に上空へ跳ね上がり、紙一重で回避する。
四発目、周りがひどく遅く感じる。頬を掠めるほど魔法に踏み込み、それでも前へ進む。
ゴーレムが次の動作に移るよりも早く、目前まで接近する。
リチアは今ある魔力を、全て脚に集中させた。
『エレクトロ――』
「マインドライブ――"ケラウノス・オーバーレイ"!」
衝突。
リチアの脚が、ゴーレムの剛拳を正面から打ち砕いた。
金属が悲鳴を上げ、砕け散る。
次の瞬間、雷のようなヒビが、ゴーレムの全身へと一気に広がっていった。
『損傷、甚大……。戦闘……ゾゾ続行……不可能、フ、フカノウふかのう……』
ゴーレムは小さな子供が駄々を捏ねるように腕をばたつかせた。しかし、何も起こることは無く、亀裂だけが広がっていく。
やがて力尽きるように、巨体が、音を立てて崩れ落ちた。
それきり、ゴーレムが動くことはなかった。
「ふう……」
「リチア、お疲れ様。け、怪我は、大丈夫?」
「うん、平気。すぐ治る――」
ぎゅるるるる。
リチアの言葉を遮るように、腹部から盛大な音が鳴る。
「こっ、これはその、少し魔力を使いすぎたからで!」
「ふ、ふふ、分かってるよ。カロリーバー、食べる?」
ジルは変身を解き、リチアにカロリーバーを差し出す。最近はめっきり食べる頻度は減ったが、何かと便利なので常備している。
「…………貰う。……ありがとう」
リチアが受け取るまでに、少しの葛藤があった。
リチアは、手軽にエネルギーを補給できる栄養補助食品をあまり好んでいない。もちろん利便性は認めているし、口にすることもあるが。だからこそ、口に出すべきか一瞬迷い――それでも本音が勝った。
「でも、またそんなもの食べる気だったの?ご飯なら私が全部作るのに……」
「チョコバーも、あるよ」
「…………貰う……」
しかし魔力もほぼ残っていないこの状況では背に腹は替えられぬようだ。しばらく自分の手にある二つを見つめた後、悔しそうに食べ始める。
リチアが栄養補給をしている間に、ジルはゴーレムの残骸に近づき調査に取りかかった。
なぜ、人を守るはずのゴーレムが人を敵と見做すようになったのか。その謎を解き明かすためだ。
「んん……やっぱり、普通よりも大きくて、高品質な魔石だ……。だいぶ砕けちゃってるけど、まだ再利用、できるかも……ん?」
「ジル?」
「リチア、ちょっと、見てほしい」
ジルがそう言って差し出したのは、刻印が入ったプレート。ゴーレムから出てきた物だ。
「Mr.バベッジ……?」
「この研究所の、持ち主の名前だね」
ここの持ち主は、少し前から姿を見せていない。
ゴーレムはここを根城にしていた。
「やっぱり調べる必要が、ありそうだ」
「補給完了。いつでも行けるよ」
ジルが変身し、リチアも臨戦態勢に入る。
そして二人は、研究所の中へ足を踏み入れた。




