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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第20話:重力の翼


 ――翌日、レインはリチアと共に、朝の鍛錬をしていた。


「二人とも元気だね〜」


「同感。マギアの体力は、すごいなあ」


 ワンド二人が仲良く話しているのを横目に、軽く組手を交わす。

 ふと、昨日見たリチアの飛行を思い出し、問いかけた。


「気になっていたんだが、リチアはどうやって飛んでるんだ?」


「魔力をぎゅんってして、ずばばーんってしたら飛べる。やってみな」


「え?」


 ギュンッテシテ、ズババーン?

 頭の中で繰り返してみたが、やはり意味が分からない。

 そういえば訓練しているときもよくこんな調子だった。

 当時はレインの理解力が足りないだけだと思っていたが、もしかして違ったのか。


「おおー! なるほど、ぎゅんってしてずばばーん、なんだあ! レイン、やってみようよ!」


「なんで分かるんだ……」


 どうやらアルマは理解できたようだ。納得したように頷き、目を輝かせている。


「つ、つまり、魔力を足に集中して、放出してるんだ。ワンドがいれば、魔力のままでも制御ができる。でもその分、魔力消費は大きいから、あまりおすすめはしない」


「ああ、なるほどな……」


「リチアは感覚派だから、説明には向かないんだ」


 ジルがフォローを入れる。

 どうやら、魔力量が桁違いのリチアだからこそ使える方法らしい。

 もしレインにもできたなら、戦闘が楽になっただろうに。だが、魔力を放出し続けるなど現実的ではない。

 ……いや、もしかしたら。


「自分の重力なくせば、飛べるんじゃないか?」


「なんかよく分かんないけど、やってみよう! へんしーん!」


 魔力の放出ではなく、重力で飛べる魔法を作ればいい。

 アルマも飛んでみたいのか、やる気満々で変身した。


 魔法はイメージが重要だ。

 無重力の魔法、つまり――


「『ゼロ・グラビティ』……うおっ……こ、こんな、感じ、か?」


 体がふわりと浮いた。飛ぶというより漂う感覚。

 今までは重力を重くする方向ばかりやっていたので、逆に軽くするのは勝手が違う。瓦礫の除去作業で何回か実践したことはあるが、自分の体の重力をなくすのは初めてだ。


「体全体に、まんべんなく魔法をかけるんだ。今のままだと、ムラがあって、バランスが取りにくい。全身を、包むようなイメージで」


「な、なるほど……魔法で、全身を包む――」


 ジルの助言通りにすると、重心が安定し、浮遊がスムーズになる。

 慣れと訓練が必要だが、なかなか悪くない。

 しかも体感的に、重力を重くするよりも軽くするほうが魔力の消費が少ない。

 これなら飛行能力がある悪魔とも、問題なく戦える。


「……ふう。初めてにしては悪くなかったな」


「すっごーい! 飛ぶってあんな感じなんだね! 次はもっと高く飛ぼ!」


 新しい魔法の試みは、確かな手応えを感じた。


「全身を包むようなイメージ、か。ありがとう、ジル。すごく分かりやすかった」


「えへへ……ど、どういたしまして。

 魔力の分析は、得意だから……また何かあったら、言ってほしい。

 それにレインは、魔力操作が上手だね。言ったことを、すぐできるようになった。レイン自身の実力だよ」


「そ、そうか? ありがとう」


 まさか、褒められるとは思っていなかった。今まで褒められた経験がほとんどなかったレインは、胸の奥がじんわりすぐったくなり、顔に熱が集まっているのを自覚した。


「お疲れ。レイン、水分補給しな。ジル、アルマ、フルーツジュースがあるよ」


「うん。ありがとう」


「やった! リチアありがとう!」


「ああ。すまない」


 ほら、と差し出された容器を受け取り、ありがたく喉を潤す。火照った体に、冷たいスポーツドリンクが染み渡る。

 アルマとジルも、美味しそうにフルーツジュースを飲んでいた。


 二人は知らないだろうが、フルーツジュースはリチアの手作りだ。

 今朝早く、彼女がフルーツを握りつぶしていたのを、レインは見ていた。

 オルテルシアへ向かう魔導列車でも、わざわざレインやアルマの分も食事を用意してくれた。

 誤解されやすいところはあるが、リチアは面倒見がいい性格だ。

 ジルを何より大切にしているのは間違いない。だが、あの時感じた危うさは、今はもう見えなくなっている。

 あれは、レインの考えすぎだったのかもしれない。

 そう思うようになっていた。


「それで、これからどうする? 悪魔とゴーレム、どちらから叩く?」


 ちょうどアルマとリチアは席を外していた。だがジルなら、影喰とゴーレムの両方に対応できる策を思いついてくれるはず。そう思って話を振った。


「そ、それなんだけど……レイン、ゴーレムは、僕とリチアに、任せてくれないか?」


「どうしてだ? 逆にしたほうがいいと思うが」


 レインの魔法と相性が悪い影喰と、リチアの魔法を吸収していたゴーレム。相手を入れ替えたほうが、勝率も上がるはずだ。


「確かに、僕たちが影喰を、君たちがゴーレムを担当したほうが、理にはかなっている。

 でも、リチアが再戦を望んでいる。僕も、戦わせてあげたいんだ」


 影喰を一撃で倒した雷が通じなかった。

 それは、リチアにとって初めての経験だっただろう。

 攻撃力に絶対の自信を持っている彼女にとって、その事実は――


「リチアの魔法が効かなかったことで、プライドが傷ついたってことか?」


「いいや、逆だよ」


 ジルは静かに首を振る。


「リチアは、嬉しいんだ。自分の魔法が、効かない相手が現れてね」


「嬉しい?」


 "嬉しい"――それは、レインが理解できない理由だった。

 自分の魔法を吸収されて、何故喜ぶのか。


「今までずっと、全力を出せる敵は、いなかったから。ようやく、骨の在りそうな相手が来てくれて、喜んでいる。

 だ、だから……考えて、ほしい」


 全力を出せる敵。

 きっとこれは、リチアが前に進むために必要なことだ。

 だからジルもこうして真剣に頼んでいるのだろう。

 ならば、レインがやるべきことは一つだ。


「一つだけ聞いておきたい。

 俺とアルマは、影喰に勝てると思うか?」


「――うん。もちろん。君たちなら勝てる」


「……分かった。影喰は俺とアルマに任せて、二人はゴーレムに集中してくれ」


 アルマには事後報告になってしまうが、問題ないだろう。きっとアルマなら、影喰との再戦を喜ぶはずだ。


「お待たせー! どれも美味しそうでさ、たくさん買っちゃった!」


「どうせ影喰は日が落ちないと出てこないからね。腹ごしらえは、しっかりしといたほうがいいでしょ」


 ちょうどタイミング良く、アルマとリチアが戻ってくる。

 両手いっぱいに食材を抱えたその姿は、昨日合流した時を思い出させた。


「ジル、一人前は食べなね」


「そ、そんなに食べれる、かなあ……」


 リチアがジルと話している間に、レインはアルマに声をかけた。


「アルマ」


「なぁに?」


「俺たちで影喰を倒すぞ」


「もちろん! リベンジマッチだね! 頑張ろう!」


アルマは予想通り、影喰との再戦に目を輝かせた。その瞳に恐怖はなく、やる気は十分だ。


「二人が影喰ってことは、私とジルがゴーレムを相手にすればいいの?」


「ああ、頼んだ。やられっぱなしは性に合わないからな。俺たちで倒したいんだ」


「ふうん……いいね」


 リチアもゴーレムと戦えることに嬉しそうだった。いつものクールな表情の奥に、静かな闘志が灯っている。


「でも、どうやって探すの? 黒いし、暗くなってからだと見つけられるかな?」


「それなら私たちが探す」


 アルマの疑問にリチアが答える。どうやら、何か手があるようだ。


「……リチアの魔力を電波のようにして、レーダーみたいに、悪魔の位置を探れるんだ。見つけるのは、簡単だろう。

 それに、影喰への対策も思いついた。

 き、聞いてくれるかい?」


 そうして、オルテルシアを恐怖から救うべく魔法使いたちは準備を始めた。



 

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