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マギアワンド  作者: 桑田照知
第3章
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第18話:影から出ずるもの


「もうすっかり夜だな。荷物だけ置いて、軽く見回りでもするか?」


 オルテルシアに到着したころには、もうすっかり日が沈んでいた。悪魔が活性化する時間帯なので、宿に荷物を置いたらすぐに手がかりを探した方がいいだろう。


「トランプ楽しかったね、またやろ!」


「今度は、すごろくでも、良さそうだ」


「二人とも、任務だぞ。そろそろ切り替えてくれ」


 ジルが昼寝から目を覚ました後は、アルマが持ってきたパーティグッズでずっと遊んでいた。特にアルマとジルは二人してはしゃぎ、下車ギリギリまで遊んでいた。

 あれだけの量があった弁当も、リチアが全て平らげていた。あの体のいったいどこに入ったのだろうか。

 

「私とジルで荷物を置いてくるから、アルマとレインは見回りしてて」


「いいのか? 少し距離があるが」


「問題ないよ。すぐに追いつく」


 そう言うと、ジルの前に魔法陣が展開され、体が淡い光に変わる。

 光がリチアを包み込み、装備が次々と形成されていく。顔にゴーグル、上半身にレザージャケット、指先が露出したグローブ。そして足が、魔導機械で出来た具足に覆われていく。

 光が収まるころには、分散型らしく全身に装備を纏った魔法使いの姿があった。


「かっっこぃいい‼ 凄いかっこいいよ二人とも!」


「えへへ、そ、そうかな……」


「凄いでしょ。流石ジル」


 興奮するアルマにジルは照れた声を出し、リチアは誇らしげに胸を張った。


「じゃあ行ってくる」


 その言葉とともに、リチアは猛スピードで上空に飛翔する。


「飛んだ!? いったいどうやって……」


 驚くレインを置き去りに、リチアは夜空を駆け抜けていった。

 飛翔と言えば風属性だ。火や水もできるとは聞くが、風よりも雑で大ざっぱだと聞いたことがある。

 雷属性で飛ぶとは、レインは聞いたことがなかった。どうやって飛んでるのだろうか。

 光の軌跡を残しながら飛ぶその姿は、まさに“稲妻”そのものだった。


「じゃあ俺たちも――アルマ? どうしたんだ?」


 先程までの明るい表情は鳴りを潜め、アルマは暗い顔をしていた。何かあったのだろうか。


「やっぱり、集約型って地味だよね……」


「いや、そんなことないぞ?」


 レインとしては、燃費もよく、使い勝手がいいアルマのガントレットで十分満足している。正直に思っていることを言ったが、お気に召さなかったらしい。不満を叫び始めた。


「地味だよ! わたしもジルとかムサシとかみたいに分散型か自律型が良かったー! 可愛い動物とかになってみたかったよー!」


 ワンドの種類は生まれたときから決まっていて、変えられるものではない。

 しかし、レインも無属性ではない自分を想像したことがあるように、アルマにも"違う自分"を考えることがあるのだろう。

 変身したジルやムサシを間近で見て、それが爆発したと言うことか。


「変えられないことはしょうがないだろ。さあ、任務開始だ、行くぞ」


「わあ〜ん! 慰めが雑だよー!」



 あれからしばらく駄々をこねていたアルマも、さすがに任務はふざけることなく、見回りを開始した。

 グランドベルは、事件が起きてても関係ないと言わんばかりに昼夜共に賑やかだったが、オルテルシアはその逆で、人の気配がなく静かだった。


「静かだね。グランドベルと全然違う」


「そうだな。きっと事件を解決すれば、賑やかになるさ」


 むしろグランドベルが例外なのだろう。悪魔が出現すれば、オルテルシアのようになるのが普通だ。それほどまでに、悪魔は人々の心に恐怖を植え付けている。

 この街に住む人々のためにも、魔法使いとしての責務を果たさなければならない。

 そんな使命感を胸に市街を歩いていると、視界の隅で何かが動いた気がした。

 

「……ん?」


 目を向けるも、そこに広がるのは漆黒の闇だけだ。気のせいかと思った瞬間、闇の中からレインめがけて、影が飛び出して来た。


「何っ!?」


「あ痛っ!」


 咄嗟にガントレットに変身していたアルマで受け、反撃に転ずるが、影はすぐに離れる。

 変身状態のアルマの痛みが意味するのはただ一つ。

 体に巡っているマギアの魔力、つまり悪魔への耐性を上回る力を、相手が持っているということだ。


「いてて……レイン、わたしに噛み跡ついてない!?」


「……いや、大丈夫だ! だが、こいつは……!」


 いつの間にか、影は形を取り始めていた。

 黒い靄が輪郭を成し、血走った赤い目が闇に浮かぶ。耳元まで裂けた口が、狩りを楽しむかのように歪んでいる。


影喰(かげくい)…!? 妖級の悪魔がこんな所に!?」


 妖級――この前戦ったバンデットルーよりも上位の悪魔。

 中でも影喰は群れで襲いかかる凶悪な悪魔だ。数が増えるほど危険度が増し、魔級にまで上がることもあった。

 そう、この悪魔は"群れ"で襲いかかる。

 故に――


「集まって来たな……!」


 暗がりから二体、三体と増えていき、レインとアルマは、五体の影喰に囲まれてしまう。その中に、一回り大きい個体がいるのが見えた。おそらく群れのリーダーだろう。


「ど、どうするの!? 五体ってヤバイよね!?」


「とりあえず、リチアたちが合流するまで凌ぐ! 大丈夫だ、俺たちの――」


 レインが言い終わるより早く、さきほどの影喰が再び飛びかかる。

 だがその体は、何かに縫い止められたように地面に沈んだ。


「俺たちの魔法は、集団向きだ」





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