第13話:囚われのお姫様大作戦(敵側) 後編
バンデットルーの腹袋から吐き出された盗品の数々が、勢いよくレインに襲いかかった。
だが、それらはすべて、レインに届く前に空中で静止していた。
「ハアッ……ハッ……!」
「レイン、大丈夫……!?」
ぶつかる寸前に重力の魔力を放出することで、なんとか当たるのを防ぐことができた。だが魔力を魔法として制御する余裕はなく、ただ放出してしまった。
その結果、魔力を一気に使い果たし、レインはもう魔法を使えない。
魔力切れとなった体は力が入らず、膝をついてしまう。
「ウィンドショット! ――レインくん、無事ッスか!ムサシ、悪魔を頼むッス!」
「ああ!」
「俺のことはいい! 悪魔を!」
ラルフが魔法を撃って牽制しながらレインの方へ駆け寄ろうとするが、それを制する。
「アルマ、絶対に人間に戻るなよ! 今の俺でも盾になれる!」
今の状況で一番まずいのはアルマが攻撃されることだ。
マギアであるレインなら、魔力が尽きても多少は耐えられる。
だが、アルマはワンドだ。攻撃されれば、ひとたまりもない。
「ううん、今しかないよ」
「アルマ⁉」
アルマは変身を解き、ムサシとバンデットルーの間に割って入った。
ワンド――悪魔にとって格好のエサが現れことで、バンデットルーは一瞬、戦闘中だということを忘れ、アルマに意識を奪われる。
「あなたの大切な人を人質にとってごめんなさい。
次は悪魔じゃなく、一緒にいられるといいね」
「マインドライブ――"ウィンドバースト"!」
バンデットルーの無防備な体を、ムサシが一陣の風となって貫いた。
マインドライブ――上級魔法、簡単に言えば必殺技の総称。魔力の消費は桁違いだが、そのぶん威力も絶大だ。
ムサシはためらいなくそれを放った。ためらう理由など、どこにもなかった。
「……グ、グォ……ォ……!」
両断されたバンデットルーは、尚も戦おうと体を動かそうとするが、動けず、やがて力尽きて消滅した。
「はあああ〜……き、緊張したあ〜……!」
「アルマ! 怪我はないか!? なんであんな無茶をしたんだ!」
バンデットルーが消滅した直後、アルマは安堵してその場にへたり込んだ。
「だってあのままレインが狙われたらやられちゃってたし、隙を作ればラルフとムサシがなんとかしてくれるかなーって」
「お前はワンドなんだぞ! あんな危険なことはしなくていいんだ!」
その言葉にアルマは目を吊り上げてレインを睨む。そして感情に逆らわず、思いの丈をレインにぶつけた。
「わたしたちは魔法使いだよ!? パートナーなの! わたしだって守られるんじゃなくて守りたいの!」
「う、だが……でも――」
「魔法使いは二人で一つでしょ!」
アルマの真っ直ぐな言葉と目に、レインはなにも言えなくなってしまった。
アルマは間違ったことは一つも言ってない。
『魔法使いは二人で一つ』
間違っていたのは、ワンドであるアルマを"守るべき存在"だと思い込んでいたレインだった。
「分かった……。だが、もうあんな無茶はしないでくれ。心配で寿命が縮んだ」
「あんなこともう起こらないよ。今度からは二人で戦うんだもん」
「ああ……そうだな。起こらせない」
魔法使いは一人ではなれない。そんな当たり前のことを忘れてしまっていた。
だが、アルマが思い出させてくれた。共に戦うために、レインはもう忘れないと心に誓う。
「ウシシ、レインくんはアルマちゃんに敵わないッスね〜」
「みんなが無事でよかったよ……はあ……」
ラルフは面白いものを見たと言わんばかりの表情で、ムサシは全員の無事を喜んではいるが浮かない表情で近づいて来る。
「すまない、みっともないところを見せたな」
「ムサシ、どうしたの? なんか悲しい顔してるよ?」
「どうしてだって……? そりゃあ決まってるよ……!」
ムサシはもう耐えられないと崩れ落ち、四つん這いになってしまう。
「シーフワラビーが最後の力を振り絞って番を守ったんだよ!? なんて悲劇的で感動的なんだ! そんな愛で結ばれている二体に、オレはなんてひどいことをしてしまったんだ……!」
「ムサシはいつもあんな感じなのか?」
「あ〜、まあそうッスね。でも、仕事はきっちりやるから大丈夫ッスよ」
レインの質問に、ラルフは気まずげに答える。魔法使いが悪魔に同情し、倒すことを後悔するのはよく思わない人もいるのだろう。
「それにしても、改修工事の予定の礼拝堂が使えて良かったッスね〜。弁償代もかからないし、悪魔も二体で報酬アップ! 儲かったッス!」
「よくあの短時間で交渉できたな」
ムサシのことを気にしてか、ラルフは話題を作戦場所となった礼拝堂のことに変えた。
シーフワラビーを囮すると決まった後、すぐにラルフは壊してもいい場所としてこの改修工事がある礼拝堂をあげ、司祭と交渉したのだ。頻発する盗難事件に心を傷めていた司祭は、魔法使いからの要請ということもあり承諾してくれた。レインはラルフの交渉術と抜け目のなさに感心するばかりだった。
「ウィンウィンだったからッスね。こっちは人気のない場所が使えるし、あっちは魔法協会から補助金も出る。事件も解決するなら協力した方が得ッス」
「なるほど。参考になる」
レインとラルフが話している間に、アルマがムサシをなんとか元気づけようとしていた。
「ムサシ、元気出して! ほら、『立ち上がれ〜魔法使いよ〜、力を合わせ〜いざ! 悪魔を打ち倒し』……あ」
「それ悪魔を倒す歌じゃないか! うう、もっと平和的に解決できないのかなあ……」
アルマがムサシを元気づけようと歌を歌うが、歌詞が逆効果だったらしい。結果、さらにムサシを落ち込ませてしまったようだ。
「あの歌、なんの曲だ?」
「え、レインくん知らないんスか!? 昔からやってる子供向け番組の曲ッスよ!?」
「そうなのか? すまない、そういうのはあんまり見たことなくてな」
「ええー。どんな子供時代だったんスか…」
遊びよりも訓練をするような、今思うと少し寂しい子供だったかもしれない。
だが、夢のスタートラインに立てた今は、レインはとても幸せだ。
「とにかく任務完了だね! お疲れ様ー!」
「ボクもヘトヘトッスよ〜。自律型は変身してるだけで魔力持ってかれちゃうんで大変ッス」
「いいや、まだだ」
アルマとラルフの明るい声が礼拝堂に響く。だが、続いたレインの言葉に、三人が顔を向ける。
「今回の任務は、悪魔を倒して終わりじゃない」
そう、レイン達には魔法使いとして、まだやるべきことが残っている。
悪魔図鑑
小さな盗賊【シーフワラビー】影級
角が生えたワラビーの姿をした悪魔。
小柄な体型と跳躍力を活かし、建物の隙間や屋根裏など人目につかない場所を素早く移動する。
腹部の袋は大きな口になっていて、異空間と繋がり、体積を無視して物を収納可能。食料や小物だけでなく、生き物も入れることができる。袋の中の食料は腐敗が遅くなり、長期保存ができる。袋に入った生き物は、魔力で守らなければ瞬時に眠りについてしまう。
臆病だが自分より弱いと判断した相手を狙い、稀に赤子や小動物の誘拐事件を引き起こす。
単体の戦闘力は低いが、袋による誘拐能力と隠密性の高さから、影級の中では特に厄介な存在とされる。
全個体が両性具有で、最も目立つ物を盗んだ個体がモテる。繁殖期になると、番がいなければアピールとして目立つ物を盗む傾向がある。番がいれば主に食料を盗むことが多い。
強奪の悪魔【バンデットルー】獣級
シーフワラビーの成長変異体。特定の環境下(食糧が豊富な地域など)で育つことで発生する。
シーフワラビーよりも二倍以上の体格を持ち、跳躍力と破壊力が格段に増している。収納した物を口から勢いよく吐き出す攻撃もやっかい。
角はより大きく、尻尾には棘が形成されている。
シーフワラビーが小さな物品や小動物を袋に収めていたのに対し、バンデットルーは家畜や荷車、時には大人も袋に詰めて攫う。
好戦的で縄張り意識が非常に強く、侵入者や目に入った動くものを容赦なく攻撃する。
体の巨大化に伴い食欲も増し、袋に獲物を詰め込む速度も上昇したことで被害は拡大傾向にある。
両性具有で、シーフワラビーと番になることが多い。繁殖期になると、番への贈り物として目立つ物を盗む傾向がある。




