第10話:盗賊
「着いたー! 音楽の街、グランドベル!」
グランドベルは初任務で訪れたレイヴェルよりも都市部よりの街だ。音楽の街と言われるだけあって、路上演奏や民家の窓などいたる所から音楽が聞こえてくる、活気がありつつも華やかな印象だった。
本当にこの街で楽器や魔導車――貯蔵した魔力で動く大きな乗り物が盗難にあっているなど思えない。
「建物キレーイ! あっちでなんか演奏してる!あっあれ何かな? どこも気になる!」
「そんなアルマちゃんに、ボク特製グランドベル観光ガイドがあるッス!」
任務だというのに観光気分ではしゃいでいるアルマに、ラルフがお手製の観光ガイドを勧める。お手製にしては完成度が高い。
「え、欲しい!」
「お値段は300ソル、でも今ならなんと半額の150ソルでご提供ッス!」
「お金取るのかーい! 買った!」
「毎度ありッス〜!」
パン一個が大体150ソルなので、観光ガイドが一冊買えるのはまあ安いと言えば安いだろう。値下げに何の意味があるのか分からないが。そんなコントのようなやり取りをする二人を横目に、レインとムサシは任務の相談をしていた。
「人通りも多いグランドベルで、楽器はともかく魔導車まで盗めるのは人じゃなくて悪魔か?」
「うん、そうだろうね。物を盗んでいく悪魔もいるし、犯人は悪魔でいいと思うよ」
「なら、結構大型だな」
「そうだね。でも、オレが知ってる魔導車を盗める悪魔は、トランペットやヴァイオリンよりも違う物を盗んで行きそうなんだけどな」
レインの指摘にムサシは頷くが、少し引っ掛かる部分があるらしい。悪魔の特定には時間がかかりそうだ。
「特定するためにも、聞き込みや情報収集が必要だな」
「お、じゃあふた手に別れるッスか」
ひとまず情報収集することにまとまったところで、ラルフがちょうどよく提案をしてきた。
レインも特に異論はないので、レインとアルマ、ラルフとムサシのペア同士でそれぞれ情報収集を行うことになった。
「とりあえず一時間後にこの広場に集合しよう」
「了解ッス!」
そうして、ふた手に別れて一時間の聞き込みを行う。
聞き込みでレインとアルマが手に入れた情報は以下の通り。
一人目:青果店の店主
『最近の盗難について?ああ、俺の店もやられたよ。楽器とか魔導車の方が目立ってるけどな』
盗まれた時の状況などを聞くと、店主は詳しく教えてくれた。
『盗まれたのは……野菜と果物両方だな。人参やリンゴを持っていきやがった。姿は見てない。店じまいして誰もいない店から盗んでいった。盗人を捕まえてくれよ。頼むぜ、魔法使いさん』
二人目:楽器屋の店主
『私も楽器屋だから、凄く怖いわよぉ。仲良い子のお店がやられちゃってね』
口調からは想像つかないほど鍛え上げられた肉体、そして野太い声をしながら、店主はため息をつく。
『犯人の姿は……暗かったからよく見えなかったけど、子供くらいの大きさだったって言ってたわ。大っきな耳と尻尾があって、動物みたいだったって。でも変なのよ』
そこで一旦区切り、内緒話をするように小声でレインとアルマに話す。
『動物がいた場所にあった楽器がなくなってたけど、その動物は何も持ってなかったみたいよ。不思議よねぇ』
三人目:バーの従業員
『ああ、僕も噂程度は知ってます。置いてあった魔導車が忽然と消えたとか、魔導車の持ち主が飼ってたペットも行方不明とか。あとは――』
従業員はそこで記憶を探るように上に視線を向ける。すぐに思い出したようで、あくまで噂だと前置きしてから続きを話す。
『盗まれた魔導車の持ち主の家を警備していた人が、犯人に襲われて重症だと聞きました。客の噂なので本当かどうかは分かりませんが』
三人目の話を聞いたところで、約束の時間になったので聞き込みを切り上げた。
聞き込みではアルマの明るさによってどの人も快く答えてくれた。魔法使いという肩書の補正もあるかもしれないが、人に警戒心を与えない雰囲気だろうか。つい喋りたくなってしまう、人たらし的な何かがアルマにはあるとレインは思う。
魔導車のことは噂程度のことしか聞けなかったが、悪魔の手がかりとしてはまずまずの成果だ。
広場で合流し、情報共有を行おう。




