第25話「上へ」
真っ白な空間だった。
上下も、前後も分からない。
ただ、白だけが広がっている。
リィン「……ヘイム?」
自分の声だけが、虚しく響く。
だが――
手元には何もなかった。
銃も、気配もない。
リィン「……?」
そのとき。
??「あと少しじゃ」
不意に、声が響いた。
リィン「……誰?」
周囲を見渡す。
だが、何も見えない。
??「我々が出会うにはまだ早い」
次の瞬間。
白い空間が、ゆっくりと黒く染まり始める。
リィン「……ねぇ。誰なの!」
黒が迫る。
足元から、空間ごと飲み込むように。
返事はなかった。
そのまま、リィンは黒に染まっていった。
リィンは飛び起きた。
リィン「っ……!」
息が荒くし、全身に汗がにじんでいた。
ヘイム『悪い目覚めだな』
リィンはすぐに視線を向ける。
そこに、ヘイムがあった。
リィン「……」
小さく、息を吐く。
周囲を見渡した。宿の部屋だった。
リィンは少し安心した。
そのとき、ドタドタと足音が響く。
扉が勢いよく開いた。
ロレッタ「目覚めましたのね!」
そのまま、リィンに抱きつく。
リィン「……っ」
ロレッタ「離しませんわ!」
リィン「…ロレッタ…痛い」
ガルド「こりゃ!休ませんか!」
バシン!
ガルドの手刀がロレッタに落ちる。
ロレッタ「いたっ!」
ガルドが腕を組みながら、リィンを見る。
ガルド「大丈夫か?」
リィンはゆっくりと頷く。
リィン「……うん」
ガルド「大丈夫なら、下に降りてこい。飯があるからの」
リィンが着替えて、下に降りる。
食堂の扉を開けると
グルマ「お!英雄様」
アリス「リィンちゃん!よかったわー」
リィン「……英雄?」
違和感のある言葉だった。
グルマ「外を見てみろ」
そのとき、カイルがゆっくりと扉を開けた。
外の光が差し込む。
その先には街の人々が立っていた。
「ありがとう!」
「リィンちゃん!良くなってよかった!」
声が重なる。
一斉に、リィンへ向けられる。
ガルド「みんな、お主にお礼言いたいそうだ」
ヘイム『すごいな』
リィンは、何も言えなかった。
ただ、少しだけ目を細める。
イシュタルが宿に入ってきた。
イシュタル「よくやってくれたな。無事で何よりだ。」
静かな声。
イシュタルはリィンを連れて宿屋の外に出た。
イシュタル「聞いてもらいたい。」
宿屋の前は静寂が広がる。
イシュタル「今回のゴブリンキングの討伐を讃え、リィンをBランクとする。」
ざわめきが広がる。
ロレッタ「Bランク!?」
カイル「す、すごい……」
ガルドは酒を飲みながらイシュタルにの肩に手を乗せる。
ガルドが酒を片手に言う。
ガルド「そんなんどうでもええわ」
そして、大きく笑う。
ガルド「宴じゃあ!」
その一声で、空気が変わる。
「おおお!!」
「待ってました!」
歓声が上がる。
料理が運ばれ、酒が注がれる。
街の人々が、順にリィンを祝福する。
「ありがとう!」
「助かったよ!」
「本当にすごかった!」
子供がちかづいてくる。
「お姉ちゃん!ありがとう!」
リィンは、ただ静かに受け止めていた。
宴は夜まで続いた。
笑い声と灯りが、街を包む。
やがて、リィンは静かに席を立った。
誰にも気づかれないようにそのまま、部屋へ戻る。
扉を閉めた。
静寂。
リィン「……ふぅ」
ヘイムが意地悪そうに言う。
ヘイム『それでこれからどうするんだ?』
リィン「……決めてない」
ヘイム『なら街をでよう』
リィン「……え?」
ヘイム『お前の目標はSランクだ。王都でデカい仕事をやるべきだ』
リィン「……」
視線を落とす。
何も言わない。
――別の場所。
夜の酒場の隅。
ガルドとイシュタルが、静かに酒を飲んでいた。
ガルド「……ワシは運命からは逃れられんようじゃ」
イシュタル「“無”か……」
短い言葉。
だが重い。
ガルド「ワシは帝国へ行く」
イシュタル「死ぬつもりか!」
イシュタルは声を荒げる。
ガルドはゆっくりと酒を飲み干す。
ガルド「全てを終わらせねばならん」
その目は、すでに決まっていた。
ガルド「そして、贖罪もな」
イシュタルは不満そうな顔でゆっくりと椅子に座った。
夜は、静かに更けていく。
それぞれが、“上”を見始めていた。
次の日の朝
リィンはゆっくりと顔を洗い、宿屋の一階に降りる。
そこにはカイルとロレッタが食事をとっていた。
ロレッタ「おはよう!」
カイル「…おはようございます」
リィン「……おはよう」
ロレッタ「それで?今日は何の依頼を受ける?」
カイル「簡単なものにしましょうよ…」
リィン「……ねぇ」
リィンを2人は見る。
リィン「……マルクスが言ってた」
リィン「この銃は狙われるって」
リィンはヘイムを握りしめる。
リィン「もっと強くなりたい…」
少し静かになる。
リィン「…王都に行こう」
ロレッタとカイルは驚いた表情をする。
ロレッタは笑う。
ロレッタ「…賛成ですわ!」
カイルは涙目になる。
カイル「地道にやりましょうよぉ」
リィン「私の目標はSランク」
リィン「でも、私だけではなれないから…」
ロレッタがリィンの手を掴む。
ロレッタ「いくらでもお手伝い致しますわ」
カイル「…僕も行かないとダメな空気じゃないですかぁ…」
ロレッタは笑った。
ヘイム『良い仲間を持ったな』
リィンは聞こえないくらいの声で話す
リィン「…………ありがと」
ガルド「若いってのはええのう」
ガルドが机の近くに立っていた。
ガルド「ならワシとはお別れじゃのう」
全員が驚く。
ロレッタ「師匠!一緒に王都に行きましょう!」
ガルド「ワシにはやらねばならんことがある。」
ガルドはリィンの頭を撫でる。
ガルド「必ずまた会えるじゃろう」
ガルドは宿の扉に歩いていく。
ガルド「“灰狼の牙”の活躍を楽しみにしとるからの」
ガルドはそのまま、宿屋を出て行った。
リィンは、しばらく扉を見つめていた。
そして――
リィン「……行こう」
その一言で、全てが決まった。
“灰狼の牙”は、次の戦場へ向かう。
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