一夜限りのスローライフ
日は先程よりも沈み、夕暮れへと近づいている。
裏路地を抜け、大通りへと出ると俺は真っ直ぐ東門の方へと歩き始めた。
こんなに人の視線を気にしたのは初めてだ。
日暮れが近いからと手を繋ぎ歩く親子も、馬車を忙しなく動かし、宿泊の準備をする商隊も、その全員に顔を見つめられているような気分だった。
出来れば歩きながら聞き耳を立てたかったが、そんなことを出来るほどの余裕はなかった。
背中にじんわりと汗をかくのを感じながら、俺はいつもより少し早歩きで歩いた。
暫く歩くと、目の前に大きな門が見えてきた。
横幅は馬車が四台並べるほど広く、高さは大人五人ほどあるだろうその門は、まだ開かれてはいるが、辺りは先程よりも暗く、そのせいかいつもより人の出入りも少ないように感じる。
その近くには鎧を来た兵士が何人か駐在し、人々の出入りを管理しているのが見える。
俺は遠くから兵士を眺め、その数を確認する。
表に出ているのは二人だけだ。
俺は出来るだけ平静を装い、少し胸を張って怪しまれないように東門へと歩き進める。
幸いにも、大きな商隊が前からやってきたので、それに合わせるようにして門を通れそうだ。
少しずつ門と、俺と、兵士の距離が縮まっていく。
「なんと、かのマギア魔法学院の方が…」
「ええ、それでオーラを訪ねることになったの」
狙い通り、兵士は何やら商隊と話しているようだ。
俺はこの隙を逃すまいと、横を素早く通り抜けた。
背後にある門が遠くなっていくのを感じながら、俺は先程耳にしたことを思い出す。
マギア魔法学院。
マギアの独立と魔術の発展に大いに貢献した教育機関で、世界的に知られている魔道士の殆どはマギア魔法学院の卒業生であるとも言われている。
確か入学は15歳からだ。
せっかくマギアに行くんだ、今から魔法について学べば、入学することだって出来るかもしれないな。
そんなことを考えながら、街道から外れた森の中へと続くいつもの道を進んでいく。
「流石に辺りが暗くなってきたな、 ここらで野営の準備をするか」
俺はカバンを地面に下ろすと、その横に取り付けたナイフを一本外し、火種になりそうな木を探した。
周りを見渡すと、朽ちた木が何本か見つかった。
そのうちの一本から枝を手折ると、その枝にナイフを当て、ガリガリと削り、木くずを作る。
十分な量の木くずができたら、カバンから火打石を取り出し、ナイフの峰に打ち付け、火花を散らす。
そうして木くずを火口とし、着火したら枝を放り、少しずつ火を大きくしていく。
そうして安定した焚き火の近くに、靴の中に詰めていた布を取り出して広げ、その上に座る。
辺りはすっかり暗くなり、火花の散る音を聞き、少し冷たい夜風が肌に当たるのを感じると、自然と張り詰めていた緊張が解けていった。
「そういえば、昼から何も食べてなかったな」
俺はそんな事を呟きながら、カバンの中から水筒と幾つかの干し肉を取り出した。
ここからマギアまではそう遠くない。
多く見積っても二、三日歩き続ければ着くはずだ。
食料を見ながら、まだ十分な量が残っている事を確認し、干し肉を噛みちぎり、水を飲む。
久しく届いていなかった食物に胃が反応する。
程よい塩味と水分が体に行き渡り、体の芯から力が湧いてくるように感じた。
「しかし、俺もとうとう犯罪者になっちまったか」
ギルドでの出来事をゆっくりと思い出していく。
割れた水晶、属性、それに、向けられた視線。俺は空を見るように、どさりと仰向けになった。
「まだ12歳だってのにな、なんなんだよ…」
この場には、街にはない安らぎや時間があったが、それらはまるで猛毒のように俺の体の奥深くへと染み込んでいった。
このまま目を瞑り、眠ってしまいたい衝動に耐えながら、俺は起き上がり、カバンから匂い袋を取り出した。
香料代わりにと詰め込んできた匂い袋だったが、この辺りはもう魔狼や小鬼の生息域だ。
夜中に喉元を食いちぎられぬよう、カバンから取り出しておいた方がいいだろう。
そう考え、焚き火の近くに置いた後、木の枝を幾らか集め、自身の周囲に撒いておく。
これで足音に気づくことは出来るだろう。
もっとも、起きれたとしても小鬼はともかく魔狼から
逃げ切ることは出来ないので、気休め程度の処置だ。
「やれることはやった、後は祈るだけだ」
俺はまた横になり、焚き火の爆ぜる音を聴きながら、俺はゆっくりと意識を落としていった。
まだまだ未熟者なので、表現や設定の矛盾、見ずらい部分等を指摘していただけると大変助かります。




