逃走中
まずは今後の身の振り方について考える必要がありそうだ。
微かに聞こえたあの声。あれは人と話す時の声じゃない。
切羽詰まっていて、街に危機が迫っていたり、お尋ね者が出た時の情報を拡散する時の声の出し方だ。
今回の場合は後者だろう。
俺の額を一筋の汗が伝う。
大した財産もないが、さっさと荷物をまとめてこの街を出た方がいいな。
そう考えて、俺は人目を気にしながら裏路地を迷いなく進んでいく。
少しして、レンガ造りの建物と木製の建物の間に見慣れた地下へと続く通路を見つける。
少し降りると扉があり、その扉を開けると手狭な一つの部屋へと繋がっていた。
少々埃臭く、ジメッとしているが、物を置く奥には十分なスペースがある。
中にはテーブルや棚、それに、辺りには雑多に物が置かれ、床には幾つかの布が転がっていた。
俺は慣れた手つきで壁にかかったオイルランプに火を灯し、床に転がっている布のうち一つを拾い上げ、テーブルの上へと広げた。
それはこの街、オーラの簡易的な地図だった。
「ちくしょう。色々調べたってのにあれもこれも全部無駄になっちまったじゃねぇか」
俺はそう呟きながらオーラの地図を眺めた。
オーラは巨大な円形の壁に囲まれた都市で、東西南北にそれぞれ、門と検問所が設置されている。
門はざっくりとだが朝には開き、夜には閉まる。
それに、併設された検問所には何人かの兵士が駐在している。
なので、オーラを正規の方法で出るなら、必ずいずれかにある門と検問所、それに、兵士の前を通る必要がある。
それ以外で出る方法もあるにはあるが、その殆どは違法であり、金がかかるし、リスクだって高い。
そこで俺は、一つの案を思いついた。
商人の積荷に紛れるのだ。
それも、賄賂をたっぷり渡してそうな悪どい商人の積荷に。
それならば積荷を検査されることはまずないだろう。
いや待てよ、馬車の積荷や身分を確認されるのは街に入る時だけだ。
街を出る際の検問はそこまで厳しくはない。
それに、どれが誰の馬車かなんて一目見ただけでは分からない。
そこまで考えた後、情報整理を兼ねて少しの間休むことにした。
一度冷静になったと思っていたが、こんな簡単な事に気づかないほど自分が慌てていたとは思わなかった。
そこらに転がる布を除けて、床に寝っ転がる。
嗅ぎなれた埃の匂いを嗅ぎ、ゆらゆらと燃えるオイルランプの火を眺める。
あの時聞こえたのは、白髪、そしてガキ。
登録はせず、適正調査のみだったから名前や年齢なんかはバレてはいないはずだ。
もっとも、俺の容姿は一目見て子供だと分かる程小さいし、白髪はこの街じゃ珍しいから、誤魔化すなら身長、髪色、見られたであろう顔だな。
幸いにも、日が沈むまでまだ時間はある。
今から急いで準備をすれば、門が閉まる前にこの街を出れるだろう。
そう考えをまとめ、俺は起き上がり、体を伸ばすと早速偽装の準備に取り掛かった。
筆記道具代わりの炭を砕き、髪に満遍なく塗り、靴の中にありったけの布を詰め込んだ。
雑多に置かれた物の中から、古くなった外套とフードを取り出して、体のシルエットが大きく見えるように身につける。
これで少しは誤魔化せた、後はどこに逃げるかだ。
そう考えながら、引っ張り出したカバンの中に火打ち石や、食料、水筒や硬貨等を詰め込んでいく。
カバンの横にナイフを二本取り付け、あらかた準備が
終わったところで、机に広げられているオーラの地図へと向き直った。
出るなら東門だ、あそこは野草の採取で頻繁に行っていたし、地形だってわかりやすい。
それに、近くには体や服を洗うのに使っていた川がある。
それに沿って進めば確か、魔法の盛んなマギアという国に行き着くはずだ。
マギアはその突出した魔法技術を盾に独立した魔法国家で、この街オーラや、それを擁する国家ポースともあまり表立った交流はないはずだ。
それに、あの時の彼女の反応が少し気になる。
俺は魔法にあまり明るくはないが、あの時聞こえた単語には水属性、そして二種の特殊属性とあった。
彼女の反応を見るに、俺が他の人より才能に恵まれたことは容易に想像ができる。
水晶代や、所持金、属性、それに二度も感じたあの既視感。
色々と気になることは多いが、準備を終えた俺はマギアを目指すべく、東門へと向かうのであった。
まだまだ未熟者なので、表現や設定の矛盾、見ずらい部分等を指摘していただけると大変助かります。




