ご都合主義
気を取り直して俺は、ギルド内を見渡した。
ギルド付属の酒場には、ボロボロの布切れを纏った小さな子供や、俺よりも少し大きい少年、先程の男の様に既に中年を迎えたであろう男など、一目見て分かるほどに多様な人種が集まっている。
大きな掲示板には、行方不明者の似顔絵や注意すべき魔獣の情報などが書かれた紙が雑多に貼ってある。
その近くには、荷物の運搬に始まり、薬草の納品や魔獣の討伐など、冒険者が受けるであろう依頼表が貼られていて、その所々に空きがある。
何人かの人がこの前に集まっていて、なにやら相談しているようだ。
あまり馴染みのない光景に目を惹かれるが、まずは適性調査が先決だ。
俺は、入口から正面に大きく構えられている三つの受付のうち、一番左の受付へと行く。
「こちらはギルド内サービス担当の受付です。
なにか御用でしょうか?」
カウンターには二十台ほどの女性が立っていて、彼女は近づく俺に気づくと、そう声を掛けてきた。
「適性調査をお願いします」
俺は受付にそう言い、掌に感じる硬貨特有の冷たさを名残惜しく思いながら銀貨を五枚差し出した。
正直、今の俺の懐を考慮すると、銀貨五枚は安い金額ではないが、適性調査を受けておくに越したことはないだろうと思ってのことだ。
適性調査。それは主にギルドや国に属する教育機関等で受けられる、自身の魔法の適性やその度合いについて調べることのできる調査だ。
俺が冒険者ギルドに訪れたのもこれが目的だ。
「はい、それではこちらの水晶に触れぬよう、手をかざしてください」
彼女はそう言うと、どこからか妙な文様の入った大きな水晶を取り出した。
言われた通り水晶に手をかざすと、不意に得体の知れない嫌な予感がした。
途端に水晶は青、白、黒と色を変化させながら激しく明滅し、俺の顔が様々な色の光でパッと照らされた。
「水属性に、二種の特殊属性…!?」
微かに聞こえた受付嬢の呟きと同時に、水晶はカタカタと震え、次第に耐えきれなくなったかのように
バリン、と音を立てて割れた。
昼間から賑わいを見せていた酒場や、掲示板前での
話し声がピタリと止み、静寂が辺りを支配した。
まただ、この感覚、この不快な感覚は。
既視感。
それよりも、だ。
俺は目の前にある割れた水晶に目を落とした。
これ、いくらするんだ?
調査費が銀貨五枚だろ?それにぱっとみ特殊な道具、所謂魔道具ってやつに見える。
かなり金がかかっている事は想像に難くない。
やばい、下手したら金貨どころか、王金貨にまで届きそうな代物だ。
もちろん、今の俺にそれを払えるだけの金はない。
そこまで考えて、俺は、
全力でギルドの外へと走っていた。
鼻についた酒の匂いも、周囲の喧騒も、全てを振り切るようにして全力で走っていた。
ふざけんな、あんなの速攻で借金からの奴隷落ちまっしぐらじゃねぇか!!!
てかいきなり割れるとか聞いてねぇし、そもそもあんな高そうなのがなんで簡単に壊れるんだよ!あれか?ちょっと掌触れてたとか!?
街道を一心不乱に突っ走り、横道に入り、裏路地を通り、周りに人がいない事を確認し、一息つく。
上がりきった体温と、ドクドクと鼓動する心臓をゆっくりと落ち着かせていく。
勢いで逃げてしまったが、もしかしたらあれはよくある事なのかもしれない。
それに、必ずしもあの水晶が、即奴隷落ちする程の費用がかかるものでもないのかもしれない。
よく考えると使用料込とはいえ、そんな高価な物を一般向けに使うだろうか?
それに、盗難のリスクや職員のミスで破損する場合だってあるし、あるいは経年劣化の可能性だってあるだろう。
そんな希望的観測を広げながら、俺は暫し考える。
今からでも戻った方がいいか?
俺にだって物を壊して逃げてきたことに対する、良心の呵責だってある。
そうしている内に遠くから、怒鳴り声にも似た声が微かに聞こえてきた。
耳を澄ませて聞いてみると、
「白髪のガキだ!ギルドでクレイスが絡んでたちっさいガキが逃げやがったんだ!」
俺だ、絶対に俺だ。
聞こえた単語には身に覚えしかなかった。
白髪、ガキ、それに加えて絡まれていたと来た。
しかも逃げたって?
一体どこに俺以外の白髪の絡まれ逃走ボーイが居るのだろうか。
そんな下らない事を考えながら、戻るという選択を静かに思考の中から除外するのであった。
まだまだ未熟者なので、表現や設定の矛盾、見ずらい部分等を指摘していただけると大変助かります。




