苦い記憶
俺は本を読みながら、どうにか魔力を動かそうと躍起になっていた。
本には魔力の運用について幾つかの段階に分かれて書かれていたが、俺は最初のページで数時間は止まっている。
魔力を自主的に動かし、体内を循環させることが出来る第一段階。
魔力を両手のどちらかに集め、体外に排出することが出来る第二段階。
体外に排出した魔力を、魔法として構築する事が出来る第三段階。
先程の感覚を思い出しながら、魔力を動かそうと身体中を力ませるが、魔力が動いたような感覚は一切ない。
そうして魔力の操作を続けていると、ドアが開く。
「どうだい、何か手がかりは掴めそうかな?」
部屋に戻ってきたアリシアは、力んでいる俺を見てニヤニヤと笑いながらそう言葉をかける。
「いいえ、そんな感覚は全くないですね。それより、講義はもう終わったんですか?」
「ああ。と言っても、あれからかなりの時間が経っているぞ?」
そんな彼女の言葉に、俺は立ち上がって窓に近づいて空を見る。
見れば先程よりかなり日が昇っている。
どうやら魔力の操作に夢中になって、かなりの時間をそうして過ごしていたようだ。
そんな様子の俺を見て、彼女は笑いながらこんな事を言った。
「もう昼だ、一緒にご飯でも食べに行こうか」
俺は彼女に連れられて、ある食堂に来ていた。
「ここは私の行きつけでね。誰かと食事をする時はいつもここに来るんだ。」
彼女は机に置かれたステーキを切り分け、その一切れを口へと運ぶ。
「ほらほら、キミも食べたまえよ」
彼女はナイフに刺したステーキをこちらへ差し出してくる。
「あの、自分で食べますから、そのナイフを渡してもらえますか?」
そんな俺の言葉を聞きながらも頑なにナイフを渡さない彼女を見て、観念して口を開く。
「どうだ、美味しいだろう?」
「確かに、すごく美味しいです」
そうして食事をしながら、俺は彼女に幾つかの質問を投げかける。
「そういえば、どうして私に呪いがかかっていると分かったんですか?」
彼女はサラダを取り分けながらこちらを向いて、こう答える。
「それはね、私が一般的な魔道士とは違って特殊な魔力の動かし方をしているからだ」
そう言って彼女は目を瞑り、そして目を開く。
何をしているのか分からなかったが、彼女の目をよく見てみると、薄らと紫になっているのが分かった。
「本には体内で魔力を循環させるのが第一段階だと書いてあっただろう?実はあれには続きがあるんだ」
「続き、というと?」
魔力の運用を一切できない俺は、その言葉にあまりピンと来ずにそう聞き返す。
「魔力を目へと動かすんだ。そうすると目に魔力が作用して、目に見えない魔力が可視化されるのさ」
「一般的な方法ではないからあまり普及されていないがね、出来ると色々と便利だよ」
運ばれてきた料理の一つを食べながら、俺はあの時の彼女の言葉を思い出す。
異世界の魔力の残滓。確かに彼女はそう言っていた。
おそらく彼女の目はあの暗がりの中、俺にそれを見ていたのだろう。
「では、魔法と呪いの違いって何なのですか?」
食後のデザートであろう果実のパイを食べながら、彼女はこう言う。
「これも魔力の可視化によって分かることなのだが、君の体を縛るようにそれが絡みついているのだよ」
そこで俺は、一つおかしなことに気づく。
彼女は俺に付いた魔力の残滓が異世界のものであるとどうして分かったのだろうか。
それに、空間魔法や魔力の可視化といった一般的ではない魔法についてやけに詳しい。
詳しくは分からないが、まだ何か隠している事があるのだろう。
「空間魔法の知識や魔力の可視化って、アリシアさんが独学で発見したものなのですか?」
すると彼女は一瞬目を逸らし、こう返す。
「ああ、研究の途中でたまたまな。おっと、もうそろそろ次の講義の時間が始まってしまうな」
パイの最後の一切れをこちらに渡すと、席を立つ。
「会計はこちらでしておくよ。魔力の操作で疲れただろう、今日はもう帰って休むといい」
「分かりました。ご飯、ありがとうございます」
その言葉を聞いて満足そうな笑みを浮かべた後、彼女は足早に魔法学院へと戻っていった。
やる事のなくなった俺は、言われた通りに宿に戻ることにした。
部屋に戻り荷物を確認していると、あることに気づき、財布に入った硬貨の枚数を確認する。
明日には宿代が尽きるため、明日にはまた薬草採取に行くことにしよう。
アリシアにそのことを伝えてから行かないとな。
そんなことを考えながら、俺はいつもより早く眠りにつくのであった。
まだまだ未熟者なので、表現や設定の矛盾、見ずらい部分等を指摘していただけると大変助かります。




