【第2章その2】
光るレト線ケーブルを繋げながら洞窟を進んでいくハンキとレック。
ときどき現れる動物をレックが素早く倒しながら、片腕に抱えたケーブルが無くなる度に、台車のところまで戻ることを繰り返す。
しかし、苦労して灯りを設置した分、道の見やすさは抜群で、2人の心に余裕を生んでいた。
「ところどころ分かれ道もあったけど、どうする? ハンキ?」
「まずは行きやすい道に灯りを伸ばしていこう。分かれ道の探索が必要になったら、後日ケーブルの分岐器を持ってきて、そっちにも灯りを伸ばしていけばいい」
「なるほど! 拡張性もあって、意外と良い案だな。今まで洞窟探索に手を出すことは少なかったけど、ちょっと面倒な準備をすれば楽しくできるものなんだね。今後は選択肢が広がりそうだよ」
「フフッ、役に立てたなら嬉しいよ」
2人が洞窟に入って1時間ほど経った頃だろうか、狭い道が続いていたが、突然広い空間に出た。
「なんか、雰囲気が変わったなあ」
期待と不安が混ざるハンキ。
レックが懐中レト灯で奥の方を照らすと、青い宝箱が見えた。
「おー宝箱あったあった! 変な道に入らずとも見つかってラッキーだ!」
レックが喜び勇んで宝箱の方に近づいていく。
「あっ、待って! ちゃんともう少しそっちに灯りを伸ばしてから…… ああああああ!!!」
ハンキが宝箱とレックの方を見ながら叫ぶ。
なんと、宝箱の更に向こうにある壁にいくつかある隙間から、人の大きさほどある大型ゴキブリが4匹、それより一回り小さい中型ゴキブリが10匹ほどわらわらと出てきて、触角を青く光らせながらこちらに向かってきたのだ。
「全部倒すぞ! 行け行けゴーゴーゴー!」
レックはハンキのところに戻りつつ、一番近い大型ゴキブリに向かってカートリッジを使い切る勢いで全力の連続射撃。
黄色い弾がほとんど線になって頭に命中し、その大型はひっくり返って動かなくなる。
「ハンキ、右のデカいやつを足止め!」
レックがリュックのサイドポケットから取り出したカートリッジを素早く増幅器に装填しながら、あたふたしているハンキに指示を出す。
「うわあ、マジか!」
ハンキは右奥から近づいてくる大型に向かって、力を溜めてから手を振り払い、緑色の大きめの弾を1つ飛ばす。それに当たった大型は衝撃で少し押し返された。
しばらく力を溜めてからの強力な一撃はハンキの得意技の1つだった。しかし、力を溜めている間は他の攻撃ができない上に、連発することもできないので、戦闘訓練のような相手が素早く動いたり射撃したりしてくるまともな対人戦では相手を困らせた試しがない。
「その調子だ! 動きはそんなに早くないみたいだから、近づけるな!」
レックは左奥から近づいてくる2匹の大型に向かって交互に射撃をしている。射撃は的確に頭に当たり、相手が近づいてくるのを拒んでいる。
こうしてしばらく持ちこたえる2人。ハンキは相手を押し返すのに必死になっていたが、途中から時折大きな動物の足音のような物騒な音が、すごく近くから聞こえてくる。ハンキが不安になって少し周りを見ると、近づいてきていた中型ゴキブリをレックが左手で地面に叩きつけている音だった。叩きつけられたゴキブリは潰れ……ているのではなく、体の4分の3ほどが地面に埋まって身動きがとれなくなっている。
「ハンキ、バリアの準備を! 右のやつは今とどめを刺す!」
「わ、分かった!」
レックは右に狙いを変え、カートリッジの残りの増幅用レト念を全て使い切って連続射撃をし、ハンキの攻撃で少し弱っていた大型を倒しきった。
「来るぞ!」
レックが一時的に対処を諦めた2匹の大型ゴキブリの青く光る触角が、2人に襲い掛かる。
寸前でハンキの緑色の球形バリアが張られ、大型2匹の動きを止める。触角とバリアの接点からスパーク音が鳴り響いている。
レックは素早くカートリッジの装填を済ませると、バリアとのせめぎ合いで少し体が浮いていた大型1匹の下に潜り込み、腹に向かって連続射撃を叩きこんだ。レックに撃たれた大型はたまらず絶命する。
しかし、ハンキのバリアが限界を迎え、残りの大型1匹にハンキが吹っ飛ばされてしまう。ちなみに、吹っ飛ぶことですぐに追撃を食らわずに済ませているのは、ハンキの純レト念技術の賜物だったりもする。
吹っ飛ばしたハンキに向かって更に突進する大型。ハンキは力を大幅に使ったばかりで、再び純レト念を使うことができない。
「うわああああ!!」
ハンキは情けない叫び声を上げていた。
「こっちだ馬鹿野郎!」
すかさずレックが大型1匹に向かって射撃して怯ませる。その後、レックとハンキの挟み撃ちによって、最後の大型も倒れた。
「大丈夫か!」
ハンキに向かって走り出すレック。ハンキの周りには残った数匹の中型ゴキブリが近づいてきていて、ハンキは右手の先から緑色のムチを出し、それを苦しそうに振り払っていた。
レックは地面に居る中型を射撃で難なく倒し、ハンキの体に引っ付いていた最後の1匹を掴んで地面に叩きつけた。そしてハンキに語りかける。
「ね? 全部倒せたでしょ? お宝を諦めちゃいけない」
「まあ、いつもの感じだったね……」
レックが宝箱を開けると、中には独りでに青白い光を放つ、手のひらサイズの球体が十数個入っていた。
「これは! これこそ充レトを気にしなくていい灯りってやつじゃない?」
後ろから見ていたハンキも感心したように呟く。
「洞窟探索して、洞窟探索に便利な物が手に入ったってことか……」
「いいねえ。こういうおあつらえ向きな物が手に入ったことは広めないでおこう。洞窟探索は危険で不人気だから、そのままで居てもらって、洞窟のお宝は俺たちで独占するんだ」
「異論はないけど、そう都合よく行くかな?」
「ハンキ、もっと楽しそうにしなよ。それはそうと、この洞窟はまだまだ何かありそうだよね?」
「そうだね、言ってた通り、蓄レト装置の出力だけ切っておいて、ケーブルはそのままにして、また来よう」
「承知した!」
2人は謎のお宝を分け合い、レト車駅に帰って行った。
その日の夕方、ハンキはいつものように学園の小屋でワレオとウニと適当に喋っていた。
「ってことがあって、私はマットゥー先生が苦手なわけ。オシテー先生とはそもそもあんまり話したことないね」
「アハハハハ!」
「ああ、もうこんな時間。おれ、そろそろ帰りますね。そうだ、明日は授業の方が忙しくて来れないかも知れません」
「ああ、そうなんだ。なんの授業?」
「なんか、学園外でやる特別な授業みたいです。近くに新しい発レト所の再建予定地があるらしいんですけど、やたらゴキブリが多いらしくて、14年生の一部が研修がてらある程度駆除することになったんですよね」
「お~それは面白そうな授業だねワレオちゃん」
ワレオが続けて話す。
「質のいい草が育つ場所だから、発レト用の家畜を飼うのに向いてるみたいで、だいぶ前に発レト所が稼働してたみたいです。明日はそれぞれが普段使ってる増幅器の実戦用を貸してもらえるって言うんで、張り切ってる人も居ましたよ」
「ヘエ、ソウナンダ~、タイヘンソウダネ。ガンバッテネワレオクン(えっ? まさか今日レックと行ったあの場所のこと!? レト線が配置しっぱなしなんだけど! 学園の団体が来るなら見つかる可能性大なんだけど!)」
返事をしながら、ハンキの頭の中が一気に焦りで覆いつくされる。
「では、ハンキさん、お邪魔しました~。ウニさんもまた!」
「じゃあね~」
ワレオが小屋を出て行ったあと、ハンキがウニに話しかける。
「私、今日ちょっと疲れちゃったから、早めに寝る準備するね……(今から行っても暗くて危ないし、疲れてるのは本当だ。明日の朝早く、またあの洞窟に向かおう……)」
「泊まっていっちゃだめ? 料理も作れるよ?」
「ウルセエ! カエレー!」
「キャー!」
裏声で冗談っぽくウニを小屋から追い出したハンキはその後、軽く食事や入浴等を済ませ、早めに就寝した。
次の日の早朝、目立つであろう洞窟の入り口近くのケーブルや蓄レト装置を持ち帰るため、ハンキは1人で洞窟へ向かっていた。
「(これは私の責任だから、レックを巻き込むわけにはいかないしな)」
ハンキが洞窟に入ってすぐの広めの空間に到着すると、昨日出たときと変わらず、蓄レト装置と今は光っていない光るレト線ケーブルが配置してあり、近くに台車が放置されていた。
まずは目立つ蓄レト装置を台車に載せて運び始める。
その時、上の方に嫌な気配を感じた。ハンキがおそるおそる上を見上げると、天井の暗がりに、大きな動物の陰のようなものが見える。直後、黒い影の一部が青く光り、ハンキに向かって急降下してきた。
そのまま黒い影がハンキにつっこむ。ハンキはバリアでダメージを避けたが、衝撃で蓄レト装置と共に転げ倒れる。
ハンキが上体を起こすと、そこにはハンキよりも大きなコウモリが洞窟の出口を塞ぐように鎮座していた。
「(やばいやばい! 昨日はこんなの居なかったのに!)」
立ち上がるハンキに対し、翼を薙ぎ払って青いレト念の刃を飛ばしてくる大コウモリ。
「おわーっ!」
ハンキはバリアを張るが、大コウモリの攻撃に一撃で割られてしまう。
再び転げた後、危機感によりすぐに立ち上がり、全速力で洞窟の内部に向かって逃げ始めるハンキ。大コウモリは飛び上がってハンキを追いかける。
大コウモリが再び翼にレト念をまとって急降下攻撃を繰り出す。ハンキは洞窟の奥へと続く道に逃げ込み、なんとか攻撃を回避した。
ハンキが進んだ先の天井は低く、大コウモリが飛ぶのには適していなかったが、大コウモリは地を這って依然として追いかけてくる。
懐中レト灯を点けて走り続けるハンキ。追いつかれそうになり、たまらず右の細い脇道に逃げ込む。そして足下がゴキブリだらけなのも気にせず走り抜ける。
床の凹凸を避けるようにジャンプし、着地。しかし、着地点の傾斜が思ったより大きく、派手に転ぶハンキ。するとその衝撃で床の一部が崩れ、どこに繋がっているかも分からない急な坂に落とされて滑り落ち始めてしまった。
「これ帰れるのかなあああああ!!!」
数分後、例の発レト所跡を目指して、近くを歩いている男が居た。エンドーだ。
「(見えてきた。懐かしいな。あれが建て直されるのか)」
少し遠くに見える発レト所跡を見つめるエンドー。すると、かすかに人が叫ぶような声が聞こえてくる。
「誰か~~~ 助けて~~~」
「(ん!? なんだ!?)」
エンドーは耳を澄ませ、声の元を探る。
声の聞こえる方向に進むと、地面に大きめの亀裂ができている場所があり、どうやら声はその中から聞こえているようだ。
亀裂はかなり深く、底の方が暗くてよく見えない。エンドーは亀裂に向かって大声で叫ぶ。
「誰か居るんですか!? 落ちたんですか!?」
すると、亀裂の中から返事らしき声が聞こえてくる。
「そうです~~~ 落ちたんです~~~」
「今ロープを探してくるから、そこで待っててください!」
倉庫にロープがあるかも知れないと踏んで、エンドーは発レト所跡に急いで向かった。
程なくして発レト所跡の倉庫に到着するエンドー。鍵は開いていた上に、狙い通り様々なロープが置いてあり、エンドーは自分の運の良さを確信した。
束ねられた長めのロープを抱え、声が聞こえた亀裂の方に戻っていく。
一方で、近くではワレオやキララを含む20人ほどの14年生集団が特別授業を受けていた。
オシテー先生の監督のもと、学園からそれぞれ持ってきた、実戦用の増幅器を試用を済ませたところだ。
「では、しばらく自由にゴキブリ駆除をしてくれ。自信がない者が居たら、俺が見ていてやる」
オシテー先生がそう言うと、14年生たちは慣れない実戦用増幅器を持って恐る恐る行動を開始する。
しばらくすると、突然キララがワレオに話しかけてきた。
「ねえワレオ、少し離れたところを探索してみない? さっき、あっちの方に虫がちらほら居るのが見えたんだよね。ここで皆と一緒にチマチマやるよりも面白そうだから、一緒に行ってみようよ」
「なんでおれが……」
「どうせ真面目さをアピールするつもりなんてないでしょ? もし怒られたら、一緒に怒られて」
「勝手に離れて大丈夫かなあ」
「やっぱり、サボってるって思われるか心配? 後で死骸の山を先生に見せれば大丈夫だよ」
「キララって、意外と荒っぽいところがあるよね……」
ワレオはキララに連れられ、その場を離れて行った。
その頃、ロープを抱えて、助けを求める声が聞こえた亀裂に戻ってきたエンドー。
近くの木にくくりつけたロープを伝って、亀裂を下りていく。
しばらく下りると、下には広めの空間が広がっていて、底に下りるにはロープの長さが足りなかった。しかし、底で助ける人の姿は見えてきた。
「ここです~ここ~」
なんと、助けを求めていたのはハンキだった。
「ハンキか! なんでこんなところ……いや、何でもない。ロープの長さが足りないから、一旦戻ってなんとかする!」
そう言って、ロープを上り始めるエンドー。それを見たハンキが大声で呟く。
「いや、もっと長いのがあったとしても、私、こんなの上れないよ~」
「何を言って……ハッ!」
洞窟の暗がりから、エンドーに向かって、翼が青く光るコウモリが5匹飛んでくる。
片手でロープを掴みながら、ナイフ型増幅器で応戦するエンドー。1匹倒すが、残りのコウモリから翼による集中攻撃を食らい、バリアが割られ、下に落ちてしまった。
転がって受け身を取り、射撃タイプ増幅器を構え、近づいてくるコウモリ4匹を順に全て倒すエンドー。
服から取り出した懐中レト灯を点けて、上を見つめると、光が差し込む亀裂から垂れたロープが、届きそうにない高い場所で虚しく揺れていた。そして近くに居るハンキの方を見て、渋い顔をする。
同じく渋い顔をしたハンキが口を開く。
「ダイダンエン本部に救助は頼めないの……?」
「連絡してみるが、正確な場所をどうやって伝えれば…… クソッ、連絡機のレト波が届かない。レト板も……だめだな」
「……」
「歩いて行ける出口を目指すしかないな。大丈夫、ダイダンエンの人間として、俺はお前のような善良な人間を必ず守る」
「モエルンダ家の言いなりになっちゃうダイダンエンの人も居るけどね……」
「それは耳が痛い話だな」
こうして2人は歩いて洞窟の出口を探し始めた。




