【第2章その3】
出口を探して洞窟の中を歩くハンキとエンドー。
するとエンドーが、2人の手持ちの懐中レト灯以外にも光を放つものがあることに気付く。
「ところで、お前のリュック、光ってないか?」
「え? ああ、充レトなしでも光るお宝を手に入れたんだよね。……こ、これは私が正当なトレージャーハントで手に入れた物だよ!」
「そうか、お前にもトレジャーハントをする度胸があるんだな」
エンドーにそう言われ、気まずそうな顔をするハンキ。
正当なトレジャーハントで手に入れたと言ってしまったが、それは真っ赤な嘘だ。これは学園のレト線のレト力を盗んで手に入れたものだ。
そして、隣に居るこの人にそれがバレたら、確実に問題視されるだろう。
ハンキは焦りで少し震え始める。
「大丈夫か? 具合が悪そうだが」
「洞窟が怖くなっちゃっただけ……」
「そ、そうなのか?」
上り坂になっていそうな道をなるべく選び、引き続き洞窟を進んでいく2人。
すると、進行方向から触角を青く光らせた大型のゴキブリがこちらに向かってきた。
「うわあ! 出た!」
「ハンキ、後ろのやつを頼む!」
ハンキが後ろを向くと、いつの間にか後ろからも大型ゴキブリが迫ってきていた。
「ひいい!」
ハンキは叫びながらも、力を溜めた射撃で、後ろから来た大型ゴキブリの動きを止める。
エンドーも容赦なく小型の射撃タイプ増幅器で連続射撃を浴びせ、正面の大型ゴキブリをみるみるうちに弱らせていく。
「しぶといな。正直、人が相手の方が楽だ」
エンドーが正面の敵を倒し、増幅器のカートリッジを交換すると、正面奥から更に2匹の大型ゴキブリがやってきた。
「おいおい……」
再び正面に向かってめげずに射撃を始めるエンドーだったが、直後、目を見開いて大声でハンキに対して叫んだ。
「脇に逃げろ!! なんだあれは!」
なんと、エンドーが攻撃していた方向の天井から、青白く光る太い柱のようなものが近づいてきたのだ。おそらく、レト念だ。
横の壁に体を張り付けるエンドー。ハンキの方を見ると、既に道の脇に回避し、かがんで頭を抱えていた。
ほどなくして、光の柱はエンドーの目の前を通り過ぎていく。
光の柱を浴びたゴキブリたちは触角の青い光が消え、ピクリとも動かなくなっていた。
そしてハンキは無事に顔を上げるが、あまりの出来事に絶句していた。
「……」
「この洞窟、本当にまずいみたいだな。一体どんな動物が居るんだ? 近くに発レト所の再建予定もあるし、学園に報告しないと」
緊張気味に再び歩き始めた2人は、その後もときおり発生する光の柱を警戒し、上手く回避しながら進んでいく。幸い、光の柱の移動速度はあまり早くなく、長年レト念への反応を鍛えたエンドーと、元々レト念への感度が高いハンキにとって、当たらないようにするのは難しくなかった。
そして進む先に居る敵たちは、大型のものは光の柱で次々に倒れていき、小型のものはエンドーが素早く片付けるので、あまり脅威にならなかった。
「なにあれ、私、さっぱり分からない……」
ハンキは情けなく呟いた。
少し前、ワレオを連れて14年生集団を離れたキララは、ゴキブリが居る場所を辿って、実戦用増幅器の力試しをしていた。
「ふふふ……少し力を込めて攻撃するだけで、簡単に倒せる……」
キララが刀型の増幅器を軽く振り下ろして正面に赤いレト念を放つ度、近くのゴキブリが動かなくなっていく。それを見たワレオが呆れたように口を開く。
「これを見せたかったの?」
「いや、そういうわけじゃ……あっ、そうだ! ワレオの攻撃も見せてよ! どうしてこの前の戦闘訓練で、わたしのバリアに対抗できたの?」
「どうしよっかな~教えてあげよっかな~。まあ、考えておく」
「な、なにそれ! 気になる」
そんな会話をしながら、キララはワレオを連れ思うままに歩みを進め、程なくして、洞窟の入り口らしきものを発見する。
「もしかしてここが発生源かな? 入ってすぐの辺りは少し明るいみたいだし、入ってみようよ」
「勝手に入って大丈夫かなあ」
「やっぱり、サボってるって思われるか心配? 後で死骸の山を先生に見せれば大丈夫だよ」
「キララって、意外と荒っぽいところがあるよね……」
少し狭いが、人が通るには十分な大きさの入り口を抜けると、入ってすぐの辺りは広々とした空間が広がっていた。天井がところどころ裂けており、上から日の光が差し込んでいる。
すると、キララが突然叫ぶ。
「ワレオ! 上!」
「うわっ!」
上を見ると、天井近くの横穴に大きなコウモリが居て、翼を青く光らせてこちらを見ていた。
2人は以前授業で習ったことを思い出した。あれは、素早い動きと翼にまとう強力なレト念が特徴で、飛び道具を放つこともある危険動物、スットビコウモリだ。
スットビコウモリは横穴から飛び出すと、2人に向かって翼を振り下ろしながら急降下してきた。
2人はバリアを張って攻撃を弾く。とはいえ、キララお得意の「赤いレト念の壁」が大きさ・強度ともにワレオを大きく凌駕していて、ワレオの黄色いバリアはほとんど意味を成していないようだった。
すかさずキララがスットビコウモリの方に突進を試みるが、相手は上に飛んで逃げてしまう。
ワレオはキララのバリアから離れることを怖れ、キララの後ろを付いて回っていた。
スットビコウモリが今度は滞空しながらキララに向かってレト念の刃を飛ばしてくる。
キララは得意の前方を覆うバリアで難なくそれを防ぐ。しかし、相手が素早く飛び回るため、反撃に出る手段がない。
「攻撃が届かない! ワレオ、なんとかなる?」
「ああ、やってみるよ……」
キララのバリアに隠れてばかりでさすがに情けないと思ったワレオは、スットビコウモリに向かって実戦用増幅器を構え、得意の純レト念を混ぜた射撃を放つ。
「バリアの中から攻撃したらダメだよ!」
「ああ、そうだった!」
キララの懸念通り、ワレオが放った黄色い弾はキララのバリアに弾かれて消えてしまった。のだが、消えた地点から、大きめの青白い弾がそのまま宙に向かって飛んでいく。
スットビコウモリには避けられたが、思わぬ現象に驚くキララとワレオ。
「今のは何!?」
「あれ、もしかして……」
ワレオは増幅器の引き金を引くのをやめ、純レト念だけを放ち始める。すると、キララの「壁」を通り抜けた純レト念が、大きく、そして速くなって飛んでいく。
「キララ、この壁は出しっぱなしにしておいて」
「分かった!」
引き続き増幅器を構え、純レト念の連続射撃を放つワレオ。強力な弾がいくつもスットビコウモリに襲い掛かり、避けきれずそれに当たったスットビコウモリは大きく怯む。
「すごいよワレオ! 効いてそうだよ」
「よし、このまま……」
追撃を試みたワレオだったが、スットビコウモリは更に高く飛び上がり、天井近くの横穴の中に逃げていってしまった。
しばしの沈黙の後、キララが口を開く。
「ワレオの技は、相手の力を盗むものだったの?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。純レト念って聞いたことある?」
「ううん、無いけど……」
「光が青かったでしょ? 動物の技ってことだよ」
ワレオは増幅器を下に置いて、増幅器なしで射撃を放って見せる。
「す、すごい……! わたしにも使える?」
「才能によるけど、長く訓練すれば使えるかもね。ただ、はっきり言っておくと、これはキララみたいな優秀な人が使うものじゃないよ」
「……?」
「でも、他人のレト念と合わさって強くなるのは本当に知らなかったな(前にキララに向かって純レト念で攻撃したときはバリアに防がれてたけど、どうなってるんだろう?)」
「そうなんだ」
「まあ、見られちゃったし、いずれ詳しく話すよ……とりあえず他の人には言わないでね」
「分かった、楽しみにしてるね。それじゃあ、もっと奥に進もう?」
「えっ」
「引き返したら、入った意味がないでしょ?」
「あのスットビコウモリ、放っておいて大丈夫かなあ。すぐ先生に連絡した方が……」
「あれくらい大丈夫だよ。わたしを傷つけることもできそうになかったし。はい、懐中レト灯」
「そ、そうかなあ……」
キララに押し切られ、ワレオはキララと共に洞窟の中に進んだ。
少し進むと、途中で右に細い分かれ道があり、デコボコした床には外と比べ物にならない数のゴキブリがひしめいていた。
「うわっ! すごい数!」
「ワレオ、試しにさっきの技で倒してみてよ」
「やってみようか」
先ほどのように、キララが赤いレト念の壁を放ち、ワレオはその中から増幅器を構えて純レト念の射撃を放つ。
しかし、先ほどと違い、弾は大きくならず、更にキララのレト念の光が弱くなっていく。
「あれ? わたしのカートリッジが切れちゃったみたい。今交換するね」
増幅器のカートリッジを交換しながらキララが続けて呟く。
「おかしいな、実戦用だからって、カートリッジ効率が悪くなったりはしないはずなんだけど」
「もしかして、おれの射撃のせいかなあ……」
「やっぱり相手の力を盗む技なんだ!」
「だから違うって……多分」
カートリッジの交換を済ませたキララが再度赤い壁を放ち、ワレオが試しに一発純レト念の射撃を放つと、今度は大きな青白い弾が飛んで行った。不幸にもそれに当たったゴキブリが吹っ飛び、絶命したようだ。周りのゴキブリが危険を感じて動き回り始める。
「うわ、気持ちわる……」
少し恐怖を感じたキララが思わず強く力を込めると、壁の光が強くなり、ゴキブリを威圧して接近を阻む。
そしてワレオがもう一度純レト念の射撃を放つと、なんと、先ほどよりも更に大きな弾が飛んで行った。
「もしかしてキララ、今、力を強く込めてた?」
「え、そうだけど」
「もしよかったら、全力でいつもの壁を張ってみてくれない?」
「分かった」
キララは言われた通り、全力を込めて赤いレト念の壁を放ち始める。光と独特のうなり音が強くなり、キララの増幅器に付いているカートリッジの残量メーターが示す長さが、目に見えて少しずつ減っていく。
そしてワレオが純レト念の射撃を放つと……
「ゴウッ」
妙な音と共に、大規模な青白い弾が一瞬だけ放たれて消えた。それは弾というよりもはや光の柱だった。
「わあ、ワレオ、すごい!」
「ほう、これは……」
ワレオが今度は連続で純レト念の射撃を放つ。すると、光の柱も出っぱなしになる。
ワレオはそのまま増幅器の狙いをずらしていき、床のゴキブリたちに対して掃除機をかけるように光の柱をゆっくり薙ぎ払っていく。
光の柱が通り過ぎた後の場所には、ゴキブリの死骸が転がっていた。
予想外の大規模攻撃を見たキララは目を輝かせる。
「ねえ、もう1回やってよ。あっちの方にまだ的があるみたいだよ」
キララが近くの床を指さす。更に奥は崩れていて穴のようになっていたが、その手前までは進めそうだった。
「いいけど、またキララのカートリッジが切れそうだよ?」
「えっ!?」
キララが増幅器を見ると、残量メーターがほとんど空になっていた。全力を込めてはいたが、それにしても空になるのが異様に早い。どうやら光の柱攻撃は、カートリッジの増幅用レト念の消費量がとんでもなく多いようだ。
「まだ予備はあるから大丈夫」
「あんまり使いすぎない方が……でも、正直おれももっと試してみたいんだよね」
ワレオとキララは好奇心のままに、少し場所を変えて光の柱攻撃を床のゴキブリたちに向かって放つことを繰り返す。あまりの規模で床をすり抜けた攻撃が下に居る2人の男を驚かせていることは知らずに……
「あっ、もう予備のカートリッジがあと1個しかない……この増幅器を使い始めてから、こんなの初めてだよ」
攻撃を1回放つごとにキララは贅沢にカートリッジを交換していた。
ワレオが返事をする。
「じゃあ、そろそろ先生たちのところに戻ろうか」
「うん、そうだね……ねえワレオ、この攻撃のことはわたしたちだけの秘密にしておかない?」
「それも良いかもね。おれも賛成」
「ふふふ」
その後、2人は来た道を戻り、洞窟を出て行く。道中、キララは普段よりも楽しそうな表情をしていた。
その頃、洞窟の少し下層では、ハンキとエンドーが引き続き出口を探して歩いていた。
「順調に上っていってはいるな。光の柱も出てこなくなったみたいだ。ハンキ、大丈夫か?」
「ダイジョウブ」
「そうか、ではもう少し頑張ろう(少し無茶をしてる雰囲気だな……早く外に出してやらないと)」
もちろん、エンドーの心配をよそに、ハンキはレト線ケーブルがエンドーや学園の人間に見つかることを気にしていた。
更にしばらく歩くと、ハンキにとって見覚えのある分かれ道に出る。
「(ここ、レックと来たときに通ったぞ! 前回入らなかった道のどっかから今出てきたってことか!)」
それと同時にハンキの焦りがピークに達する。
「(ってことは、ケーブルがばっちりあるはずじゃん! やばい! あった!)」
完全に通った覚えのある地形。当然、昨日配置したレト線ケーブルが見えた。しかし、今は光っていないため、それなりに存在感が薄い。
「(黙ってスルーしよう……エンドーが気づきませんように!)」
既に出口の方向が分かったハンキは、先ほどまでとは打って変わって自信満々に先陣を切って歩き出す。
「おい、そっちでいいのか?」
「ああ、ここは通ったことがあるから。出口はもうすぐだよ……」
「そうか、やっと出られそうだな」
その後、気持ちレト線ケーブルから離れた場所を、エンドーを連れて進んでいくハンキ。
横目でチラチラとケーブルを気にしながらしばらく歩くと、なぜか途中からケーブルが切れて無くなっていた。
「(あれ!? ま、まあ、道は覚えてるし、今は無事に脱出することを考えるか)」
更に歩くと、もっと記憶に新しい景色が見えてくる。
洞窟に入ってすぐの辺りの広々とした空間。天井がところどころ裂けており、上から日の光が差し込んでいる。
嫌なことを思い出したハンキが小声で話し始める。
「上に気を付けたほうが……」
「来るぞ!」
エンドーが叫んだ直後、どこからともなく青いレト念の刃が2人に向かって飛んできた。
弾けるような音が鳴り、エンドーの強力な黄色いバリアが2人を守る。
すぐさまエンドーが攻撃が飛んできた方に射撃タイプ増幅器を向けると、翼が青く光る大きなコウモリが飛びながらこちらを見ていた。
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