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僕のルーズな日常  作者: 案山子 劣四


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4/5

アルコールは、程々にしないと

ガヤガヤと騒がしい店内で、男女が机を挟み、向かい合って座っていたのが、気が付くと交互に入り交じって座る。

いずれ紅白歌合戦も、昨今のコンプライアンス事情からこんな風に『紅組』『白組』を男女で分ける事はなるのだろうか、なんでどうでもいい事を考えるが、もしそうなったところで、僕みたいな人間はどちらでも馴染めないのだから。


「ねーえ、答えてよぉ!」


実際、こうして合コンの場でも居心地の悪さを感じているのだから。


「ごめんごめん。何の話だっけ?」


赤ら顔で絡んでくる女の子に対応しながら、向かいの席で談笑している諸悪の根源を睨みつけるが、一瞬目が合うと気まずそうに笑ってすぐに目を逸らし、隣の男子と談笑を再開した。こんな時まで周囲の空気を壊すのを嫌がるのか、ともはや感心してしまう。助け船に見捨てられた僕からすれば、たまったものではないけど。


「だからぁ、どんな女の子が好きかって話!」


少なくとも、酒を飲んで絡んでくる奴は願い下げだ、そう言いたい気持ちをグッと堪える。人口的な甘い匂いが、酷く不愉快だった。


何故こんな事になったのかというと、それは2日前まで遡る。



□■□■□■




「は?合コンに参加して欲しい?」


ある日、学食を食べている時に彼女がそう頼み込んできた。思わず大きな声が出て、周囲の生徒は一瞬顔をこちらに向く。



「そう、明後日やるんだけど、どうしても男子の面子が足りないらしくて!お願い!!」


「嫌だよ、面倒臭い。大体、僕がそういうの嫌いなのは知ってるだろ。」


再三そういう誘いを受ける事はあったが、知らない人達と会話をする事を楽しいと思えないし、そもそも僕は女の子と付き合いたいと思えない。行ったところで、誰も幸せにならない。



「大体、君もそういうの苦手だろ、根暗だし。」


「は!?根暗じゃないし!キラキラ女子だし!」


必死に否定する、そういうコンプレックス精神が君がそうでない事の証明なんだ、と言おうと思ったが辞めた。別に喧嘩をしたいわけじゃなく、ただ穏便に断る事が目的だ。



「他の人も誘ったけれど、断られちゃってさ。もう君しかあてがなくて。お願い!人助けだと思って!!今、彼女とかもいないんでしょ?」


「いや、いないけど……。」


彼氏はいる、とは死んでも言えない。いや、死ぬくらいなら言うかもしれない。とにかく、絶対言いたくない。


「ほんっとうにお願い!!来るだけでいいから!」


両手を合わせ、頭を下げる彼女に思わずたじろぐ。ここまで言われると、付き合っている人がいなければ人助けとして行ってもいいような気もしなくもないけど、いる以上は相談なしでは首を縦に振ることは出来ない。



「……一旦、考えてからでもいい?」


「全然いい!ありがとう!!」



命の恩人とでもいうように頭を下げる彼女の必死さに、ああ、さてはこれも自身の立場を気にして、というやつだな、と察した。


そんなのを気にしない方が素敵なのに。そんな事を思うが、きっとそれも彼女の一部なのだろう。


僕が男が好きなように、彼女は自分の立場を気にする。だから、僕がとやかく言ったところで変わるものでもないのかもしれない。まあ、もしかしたら変わるかもしれないけれど、積極的に変えるつもりもない。


兎にも角にも、それからすぐに彼女は授業に向かい、入れ違いで彼が学食に来た。ちょうどいいタイミングだと思い、僕は『その話を聞いたか?』と訊いてみる事にしてみた。


「ああ。言われたけど、断った。そのバイトあるし。」


「へえ、そうなんだ。」


僕より先に彼を誘っていたという事は、きっと本当に最終手段で僕を誘ったのだろう。そうなると、いよいよ断りづらい。少なくとも、表向きは断る理由が無いのも困る。


「で、それがどうしたんだよ。」


カレーをスプーンで掬いながら、いつもより低いテンションで興味なさげに言った。カレーを食べていて、テンションが低い。この感じは間違いなく二日酔いだろうな。


「いや、僕も誘われてさ。まあ、それだけなんだけど。」


「ふうん。」


それだけ言った彼に、メッセージを送ると、スマホを指差して、『メッセージを見て』とジェスチャーを送る。


彼は面倒臭そうにため息を吐いて、スマホのアプリを開くと、僕が送ったメッセージを目にした。



『実は、行こうか迷ってる。相当困ってるみたいだから。もちろん、君が嫌なら絶対に行かないけど。』


一瞬彼の目が少し揺れて、すぐに僕の顔を見る。彼が動揺した事に優越感みたいなのを覚えなくはないけど、別に彼を試す意図はない。


僕の顔をまじまじと見て、呆れたように顔を落としてスマホに顔を向け、彼は文字を打ちだした。


『まあ、いんじゃね?まさか、異性を漁る場に同性狙いの奴が2人いるとも思えないし。』


『え、いいの?本当に嫌とかじゃない?』


『その辺は信じてる。』


信じている、と言われたのが嬉しくて顔をあげると、一瞬彼と目が合って、すぐに顔を逸らされた。けれど、その耳は珍しく赤くなっている。


彼と2人だったら、堂々と抱き締められたのに。そんな惚気は置いておいて、そういった経緯で、僕は合コンに参加する事になった。




■□■□■□




「いやぁ、笑顔が素敵な女の子かな。」


「全然おもんない!お酒足りてないんじゃない!?」


で、参加しなければよかったと後悔している。どうやらこの子のターゲットにされたらしいが、生憎僕は彼女がタイプでないどころか、そもそも女性がタイプでない。


どれだけ好かれても正直迷惑なだけだし、かといって空気を壊すわけにもいかないから適当にのらりくらりと躱していたら、酔いが回った彼女の声と態度は段々と大きくなっていき、かつ周りもそれなりに出来上がり、それぞれ個別に会話をするような状況になったので、それをさして気にしていない、という現状が生まれた。



「いや、でも本心だから。」


「もっとあるじゃん!おっぱいが大きいとか、脚が綺麗とか!」


大分最低な酔い方をされている。思わず目の前の諸悪の根源が引き攣った顔でこっちに目を向けるが、助け舟を出す様子はない。


確か、僕の隣にいる子が彼女の友達だったか。それなら、この最低な酔い方をされている方を、立場を気にする彼女なら止められないな、と妙に冷静に納得した。酔いはとっくに冷めていた。


「ねえ、私と話してて楽しくないの!?」


キンキンと高い声は、20歳になった僕には聞き取りづらい程高いヒステリックなものだった。


「いや、楽しいよ。あまりの楽しさに、アマテラスも天岩戸から顔を出しかねないくらい。」


「何言ってるかわかんない!」


まあ、確かにこれは酔っ払いに言った所でしょうがない冗談かもしれない。


その後も彼女のボルテージと比例して声は甲高いものとなって僕を攻めたてる。めいめいで話し合っていた他の6人もその様子の異常さにこちらに視線を向けるが、酔っ払っているからか、彼女のヒステリックと責め立てられる僕が一種のコンテンツのようになり、彼女が何かを言って、僕が適当に謝る度に場が湧くようになる。


遂に諸悪の根源が見かねて静止をしようとするが、それは隣の男子に阻まれた。


そんな風になったせいで、僕も喜んでいると錯覚したのか、段々と彼女の調子は上がっていき、最初は駄々をこねるようだった罵声も遂には僕の人格を否定するものや、謂れのない誹謗中傷に近いものとなっていく。


スサノオの暴れっぷりに悲しむアマテラスはこんな気持ちだったのかもしれない、と冷静に罵声をはいはい、と聞き流し、とりあえずあと数十分耐え切ろう、と覚悟を決めた位で、遂に、その言葉が放たれた。


「私と話していて楽しくないとか、本当はホモなんじゃない!?」


わっ、と場が沸いたのとは裏腹に、僕の胃に冷たい何かが落ちたかのように身体が冷えた。本当にそう思っている訳では無いのは分かっている。


けれど、自分の属性に向けられた、無意識な悪意が、僕はたまらなく怖かった。



「い、いや、そんなわけないよ。」


「お、動揺した!!」


思わず見せた動揺に、誰かがそう目ざとく気が付く。酔っ払っているのだから、これくらい見逃してくれてもいいのに。こういう時、神様というのは意地悪だ。


「え、マジでそうなの?」


「だから違うって。」


「なんか必死に否定するところも怪しいよね。」


「めっちゃ分かる!」


ああ、これは嫌な流れだ。同調圧力で、僕を『こいつはホモだ』と揶揄う流れになっている。僕を下げてよく見られたい男と、それに合わせてよく見られたい女。


僕が否定しようが肯定しようが、何をしてもそれは、薪をくべる行為にしかならない。


「マジでホモなの?キモっ。」


辛辣な一言に、再び場が沸く。「ちょ、ちょっと、言い過ぎだよ!」と言う彼女の一言なんて、誰の耳にも届いていない。



「っ!いや、だから違うって……!」


目が潤み、声が出なくなる。それを悟られたら、そこにまた付け込まれる。無理して浮かべた引き攣った笑顔は、泣いてしまった方が楽だと思える程、心の何かを深くえぐった。


「てか、大学でもいっつも男と一緒にいるよな。」


彼女の横に座っている男が、へらへらと笑いながらそう言った。えー、マジで?そんな声がどこからか聞こえると、その男は優越感に浸るような顔を見せる。同じ大学だったのか、こいつ。



「誰だっけ、確かーーー」


こんな事で、彼の迷惑になるなんて。どうしよう、僕が焦っていると、「いい加減にしてよ!!」と、大きな声がした。


居酒屋が、一瞬静寂に包まれる。誰よりも周りを気にする彼女が、この空気を壊した。

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