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僕のルーズな日常  作者: 案山子 劣四


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5/5

気持ちは、酔いと共に

「い、いや、冗談じゃん。何マジになってんの?」


「そ、そうだよ。らしくなくない?」



先程まで、僕をからかう事を楽しんでいた皆は、唐突に冷水を浴びせられた事に動揺しながらも、何とかそれを冗談に出来ないか、といった風にそんな事を言う。


僕も彼女らしくないな、と目を丸くしているが、彼女の勢いは止まらなかった。



「は!?さっきからウチ、『辞めろ』って言ったよね?大体、人の友達寄ってたかって悪く言われて、何で大人しく黙ってなきゃいけないの?てか!男同士付き合う事は別にキモくないから!」



結局そこに落ち着くのか、と思わず吹き出したのを咳き込んで誤魔化す。幸い周りは呆気にとられているようで、彼女の発言を理解するよりも、困惑が勝っているようだった。


「ほら、出よ!」


「え、あ、うん。」


困惑しながらも差し出された手を取り、立ち上がる。机を挟んでいて、彼女が出口側にいたので、机を跨ぐことを考えたが、お酒や食べ物を倒すのが怖くて机を回って彼女の元に向かった。どこか間抜けな事をしている間、彼女は財布を漁り、机の上にバン、と1万円札を置いた。


「じゃあ、私たち帰るから!」


脱いでいた靴を急いで履いて、早足の彼女に追い縋るようについていく。一度振り返ったが、ぽかんとした顔で僕らを見つめていて、少し痛快だった。


カツカツと、珍しく細いヒールの彼女の足音は、お店を出てしばらくは、それはそれは勇ましいものだった。けれど段々その音は細くなり、音の感覚は広がっていき、反対に進む速度は遅くなる。



そうして人混みの中で遂に止まってから、振り向いた彼女は、泣きそうな顔で叫んだ。


「あー!!やっちゃった!!どうしよう、ねえどうしよう!?私明日からどうすればいいと思う!?」


さっきまでの勇ましさはどこへやら、半分べそをかいた表情の彼女は、いつもの数倍情けなくて、さっきの数倍格好良い。


「ねえ、私明日からハブられちゃうかも!!あー、本当に最悪!!」



「ふふっ、ふふふふ……っ。」


僕は堪えきれなくなった。遂に笑いを堪えきれなくなり、大声で笑う。周りの人は、泣きそうな顔の彼女と爆笑する僕を怪訝な顔で迷惑そうに見るが、一向に構わなかった。笑い崩れてしゃがみ込むと、目からこぼれた涙を拭った。


「ちょ、ちょっと!!笑い事じゃないって!!」


彼女の憤慨する声で、僕は顔を上げる。笑い泣きか、安堵の涙か、きっと分からなかっただろう。


「ごめんごめん。助かったよ。珍しく格好良かった。」


「え!?いや、なら良かったけど……。」



動揺した様子で、髪を指先で遊ばせながら彼女は顔を逸らす。アルコールのせいか、いつもより顔が赤い。



「うん、本当に助かった。ありがとう。」


「……うん。」


立ち上がり、僕が前を歩くと、その後ろを彼女がついて歩く。どうやら、少し落ち着いたようで、さっきみたいに騒いだりすることはなかった。


「それにしても、助けてくれるとは、思ってなかった。なんていうか、君は周りに気を遣うタイプだから。」


「まあ、そうだけどさ。流石に、……友達があんな風に言われてたら、黙ってられないよ。ほら、こう見えて友達思いだから。」



おどけながらそんな事を言う彼女と、辛い思いから助けてくれた事、それとアルコールのせいで僕の心は緩んでいて、思わずこんな事を思ってしまった。



彼女になら、僕の秘密を言ってもいいかもしれないと。



「てか、そもそもウチのせいであんな目にあったんだよね、本当にごめん!」


思い出したかのように手を合わせ、申し訳なさそうにな声を出す。言われてみれば、確かにその通りで、マッチポンプな救済劇とも言えなくはないけど、それでも嬉しかったのには確かだし、勇気を振り絞ってくれたのには間違いない。


「まあ、貴重な経験ができて良かった、と思うようにするよ。知らない人に責め立てられるのも、女の子に守られるのも。人生でそう経験出来ることじゃないし。」


冗談めかしてそう答えると、彼女が返答に困ったような苦笑いを浮かべ、また歩みが緩やかになりだしたので、僕は続けた。



「あと、君の事をまた一つ知る事が出来たしね。『やっぱり、男同士の恋愛が否定されると怒るんだ』って。」


「あれはそういうのじゃないってば!当然、2人がそういう関係だったらウチは嬉しいけどさ!!」


いつもの調子を取り戻そうとしているのか、無理に明るい口調で言うその声を聞いて、言うなら今しかない、そう思った僕は、唾を飲み込み、ゆっくり震える唇を開いた。



「本当にそうだったら、どうする?」



案の定、声も震えて、冗談めかした言い方をしようと思っていたのに、真剣な言い方になってしまった。


心臓は先程よりも早く鼓動を打つ。けれど、振り絞った勇気の勢いのまま、振り返って彼女の顔を見た。



「え……?」



僕は、馬鹿だった。彼女が、そのまま喜んでくれると、そうでなくても、『へえ、そうなんだ。』と当たり前のように受け入れてくれると思っていた。『まあ、そういう時代だよね』と。


そんな希望は、打ち砕かれた。唖然とした表情で、分かりやすく困惑した彼女から、少なくとも好意的なものは見えなかった。


「いや、冗談だって!そんなわけないだろ!!」


再び僕は、仮面を被った。笑顔で、からかうように言うと、安堵したように彼女は笑う。


「だ、だよね!あんまり本気の言い方だからびっくりしちゃった。でも、もし本当でもちゃんと言ってよね?ウチは応援するから!」


「はいはい、ありがとう。」


そう言って笑った僕の心は、自分勝手なまでに乾ききっていた。そうだと思ったから、言ったのに。君が動揺をするから、僕はまた、冗談だと言うことにするしか無かった。

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