第六十二話=明星消滅
ケリスの戦いを、見事に勝利に収めた。周りに居るカルカッサ軍は降伏し、ケリスも鹵獲した。それに、さっきの力の波動……まぎれもなく、カルカッサ様が命を絶った時に放たれたものに違いないはずだ。
だから、急いで……
「うっ!」
「ど、どうしたのですか、ククレス様!」
突然の眩暈に襲われた。どうしたんだ、我は……この眩暈はどこからだ?
「なんともない、急ごう。」
「はっ!畏まりました!」
剣を納めて、歩調を上げた。急がないといけない、急ぐ必要がある。なぜだか、心の底からそう思っている。
角をまげれば、そこにあるのは玉座の間である。あとちょっとで着く。あとちょっとで主の元へ戻れる。だが……
「なんだ、この壁は!?」
目の前に見えない壁があった。なぜだ?この壁を貼ったのは誰だ?カルカッサ様はすでに亡くなっている、お言葉ですがチェレス様もこの壁を作れるほどの力は持ち合わせていない。となると、一体誰だ?
もしかして、アイツか……?あの狂神か!?
「クソ!クソ!!」
壁を叩く。だがそれだけで砕けるほど壁はもろくなかった。
そして後ろには、一人の女性が立っていた。
「何者だ!」
急いで剣を構えて振り向いた。そうしたら後ろに居る女性の正体が……
「レイチェル、さん……?」
レイチェルさんだった。
「何を焦っているんだ、ククレス。アタシはもうアンタらの仲間だぞ。」
剣を構える我に、彼女は止めた。剣を携えていないし、鎧も付けていない。今の彼女は、肉身の女性でしかない。そして彼女が持っている力も、我より弱く、とても我に争える力の持ち主ではない。
そして、ついさっき伝令の方が我に伝えた話によると、昏睡をされていたようだが……であれば、目の前に居る彼女は一体……?
「貴女、昏睡していたはずなのでは?」
「あぁ、それならさっき目が覚めた。本当に、ついさっきな。」
「……」
疑わしい、けれど、今は彼女と争う理由もない。
「ところで、この壁の向こうにあるのは……」
そっと壁に手を伸ばす。その向こうにあるのは、玉座の間への唯一の道である。それなのに、ここを封鎖されてしまった。
「ご存じの通り、玉座の間でございます。」
「だろうな。」
そして静かに目を閉じた。口がパクパクしているのは、おそらく何かの呪文を唱えているのだろう。しかしやはり、聞こえようとしない。だが、こういうのもなんですけれど、いつもと同じで少しだけ安心感を感じた。
いつも通りわけのわからない呪文を唱えるし、いつも通り上から目線で語ってくるし、いつも通り頭が逝かれているようで……そこは本当に頼もしく思えてくる。
「……だめだ、アタシにどうにかできるような壁じゃない。」
「でしょうね。」
特に何も考えずに、その言葉が自然と口から出てしまった。
「……どうするものか。」
しかし、我の無礼さに気分を削がれなくてよかった。こう見えても、彼女も王族の一人だったから、怒らせたらこの後は大変になるだろうな。
「……」
そして静かに目を閉じた。今回もさっきと同じく、何か変な呪文を唱えているようだった。しかし、今やろうとしていることはいったい……?さっきのは壁を壊そうとしていたのは間違いないとして、今は……?まさか、視界透視?それを使って玉座の間で起きていることを覗こうとしているのだろうか。
「……まずいな、これは。」
「なにが、どうなさいましたか?」
「チェレスがーー」
「チェレス様がどうなさいましたか!?」
「……」
そして冷たい目で見られてしまう。
「申し訳ない、つい……」
「いい、かまわん。お前は昔からそうだったから。」
やれやれと、首を振った後に彼女は言い続けた。
「心配しなくていいかと、まだ生きているから。」
「と、いうことは……」
「あぁ、今はまだ、生きている。」
「……」
今度、黙り込んでしまったのは我であった。
「と、いいますが。傷をつけた相手はまだ、現場におられますか?」
「……いるかも知れんな、現に、アタシの視界透視でも見えない存在が、ひとつ現場にいるので。」
「やはり、あの存在は……」
「アイツで間違いなさそうだ。そいつが……うん?」
「どうか、なさったのですか?」
「……」
静かに手を伸ばす、そして……手は、壁がある、もとい、あったところを容易に通過した。
「急ごう。」
「はい、わかりました!」
急ぎ足で走る。
やっと玉座の間にたどり着いた暁に、目の前で信じられないことが起きていた。
チェレス様が、自分の心臓に向けて剣を刺した。
(つづく)




