第六十一話=目覚め、そして継承
アリア帝国 公暦4月7日
アリアの王城の前に建てられたキャンプの中には、臨時衛生所がありました。その中では何人かのアリア国民が、元魔王カルカッサから離れてチェレス軍へと降り、ここで衛生兵をやっている。そんな方たちは、前線から送られてくる負傷兵にとっては天使であり、命の恩人である。
そしてその衛生所の奥には、一つ、大きなベッドがありました。
前までは魔王ラルフが休憩をとるベッドであったが、今、そこで眠っているのはラルフではなく、彼の姉であるレイチェルである。
の、はずだったが。
「目が……覚めた?」
ベッドで横になっている女性が目を覚めた。不思議そうに自分の手を見て、自分が本当に起きているのかを確認し、ここが現実だと悟った。
「おい、君たち!」
「な、なんでしょう、レイチェル、さま……」
怯える衛生兵。一応裏切った相手であるがため、彼女たちは怯えることを、ためらいもせず表に出している。
今は味方同士であるにも関わらずに。
「そう怯えないでくれ。今、戦況がどうなっているんだ。」
「戦況、と聞かされても……ワタクシたちはただ、後方で医療をしておりますので、前線の兵士たちからの伝令がなければ……」
「つまり……戦争はまだ、終わっていない、というわけだな。」
「はい、おそらくは……」
だが、妙だな。と、彼女は思った。
さっきまで眠っていた、けれど、あの魔法は長く続くはずだった。ラルフの体からその魔力を抽出して、自分の体にある闇の力と融合させるはずだった。その融合には早くても一週間は続くはずだった。
なのに、彼女は今、今日、この時に起きた。なぜだ?いくら何でも早すぎる。
「この前、誰が来ていなかったか?」
「はい、この前で言いますと……ついさっきほど、アマドリさんが……」
「アイツ……!」
一瞬だけ怒りに身を任しそうになった。だが、現に奴はここにいない。それだけで十分だ。
しかし、アイツは何をしに来たんだろう。もしかして自分を笑いに?それとも別に理由があった?もしくは……
いや、やめておく。彼女はここで思考を停止させた。そして、すぐに答えを出した。
「おい、護衛になれそうなやつ、どこかに居ないか?」
「護衛、ですか……どこへ何をしにいらっしゃいますか?」
やはり警戒されていると、彼女は思った。いくら自分がラルフを救ったとはいえ、こうもあっさりカルカッサを裏切られたんだ、おそらくラルフを救ったのも……と思われているだろう。
だが、今の彼女にとって、それは大したことではなかった。
「居ないならアタシ一人で行く。」
「で、ですから、どこへ!?」
「カルカッサの野郎を、ぶちのめしに行く。」
ラルフは起きていた。そして今、自分も起きた。今なら最大戦力で戦えるはずだ。
だからどうか、無事で居てくれ、ラルフ……心に、静かに祈りをささげた。
今なら、神でも、魔王でも、もしくはただの凡人でも。力になれるものなら、彼女は救いを求めるでしょう。
すべては、この国のためであれば。
………………
…………
……
玉座の間にできるだけの兵力を集めてからそこへ参る。そこには自分が元々務めていた王がいるから、おそらくそこで最終決戦を仕掛けるであろう。
だからこそ、今、ククレスは王宮の中を巡っている。一人だけでも、一人だけでも多く連れていけるなら、たとえネコでもイヌでも手を借りたいところ。
だからこそ、今もなおずっと続いている。降伏の要請を。
「君たちは何のために戦っているんだ!」
「俺らはカルカッサ様のために、最後まで、戦っていきます!」
「違う!」
パ―ン!と、剣を叩き割った音が響く。
「騎士は、国のために戦うべきだ!兵士は、国民を守るために戦うべきだ!」
「おっしゃる、とおりですけれど!俺たちが忠誠を誓ったは、カルカッサ様に対してだった。だからこそ……!!」
「国民が居なくなってしまったら、王が居ようが皇帝が居ようが意味はない!」
パリーン!と、さらに別の兵士の剣を折る。
「我々が守るべきなのは、国民だ!この国自体だ!王の意のままに操られては民の命を奪ったら、それこそが騎士失格だ!」
とか、綺麗事ばかり述べているけれど、我でさえもそれができていない。
我も彼らのことをどやかく言える訳がない、我もまた、彼らと同じで王のために戦っているですから。
違いがあれば、ただ単に彼らは間違っている方に従っていること、我は正しい方に従っていること……だが、それもまた主観的すぎる。
「国民たちは王の支配がないと生活すらままならない!」
後ろから魔弾が何発飛んできた。
「ケリス!」
「久しいな、ククレス……まさかお主がまだ生きていたとは。」
「さっきの話を続けよう。」
「……もちろん、望むところです。」
剣を構える我と、魔導書を片手に持つ彼。
再び力がぶつかり合うことがあるとは思いもしなかった。だからこそこの胸は高揚している。だからこそ戦いに没頭できる!
我が永遠なるライバルよ、また同じ戦場に立てることを、また戦いあえることを、光栄に思うぞ!
(つづく)




