第五十九話=絶対なる力(アブソリュートストレングス)
剣を、強く振り下ろした。力いっぱい斬りかかった。
「なっ!?」
ちゃんと体に当てた、ちゃんと体を割った。ちゃんと頭を二つに分かれてやった!
「あーらら、所詮、その程度か。」
頭は二つに分かれたのに、彼は……いや、アレは以前のように話をしている。
「なん、だと……!?アンタは、一体……!?」
割れている頭を、強引に接触させた。そしてすぐに、傷はなくなり元通りになった。
「これが、私が神たる力、言わば『絶対なる力』だよ、どうだ、強いだろ?」
若干自慢げに話した。ありえない、いくら何でもありえなさすぎる!アレは一応人族だろ!?であればさっき目の前に起きたこと、そしてアレが言っている力、完全に矛盾してますよ!
「馬鹿な!アンタは一応人族だろ!?どうして、アンタには……!」
「口を慎め。」
「――!」
強く睨まれた。そして私の体……謎の力で縛られ、動けなくなった。
「私はアンタのような人族じゃない、私は神だ、『神族』だ。二度と間違えるな。」
「ッ!!」
口答えをしたい。反論をしたい。だが、その思いが強くても、どれだけ口を動かそうとしていても動こうとしない。動かせない。
馬鹿な!この体は私の体ですよ?私が制御できない力はあっても、私が動かせることすらできないのはおかしいでしょう!?
「あぁ、そういえば、説明してなかったね。」
パチン!と指を鳴らした。その音に呼応しているかのように、また体を動かせるようになった。
「はぁ……はぁ……」
「なんだ、もう息切れしているの?何もしてないぞ?」
「アンタは、一体……!?」
「はぁ、さっきも言ったんだろ?私は神だ、そして私が使う力は、絶対なる力である。」
「絶対なる力……それは、伝説上にしか存在しないのでは?」
「つーまーりー!」
ドン!と足を鳴らす。胸を張って私に向けて言葉を発した。
「私が、その伝説であるということだ!」
一瞬、時間がまた止まったのかと思った。アレが、あんなのが伝説上にあるもので、しかも、彼こそがその伝説だということ……ありえない、けれど、実際目の前でアレが存在している。
完全に矛盾している。人族が絶対なる力を所有できるのは、出来たのは古の勇者、原初の勇者である「アマドリ=ユウシャ」だけだ!なのに、あれも……?いや、待ってよ、ユウシャ様の苗字のあれって、もしかして……!?
「あ、アンタ、古の勇者の……何ですか?」
「古の勇者?あぁ、アイツのことか。」
強く歯を噛み締める。勇者様をアイツ呼ばわりするのは許せない、許してはならない!だけど私には……!
「一応アイツの生みの親ですよ、それがどうした?」
「生みの親、だと?勇者様の親ならば、その証拠をーー!」
手を前へと伸ばし、私の彼の力の紋章を見せた。
「これでわかったんだろ。」
目をきょろきょろした。驚いた。驚愕した。こいつの紋章は、図鑑の中に記されていた勇者様の紋章と似ている。それだけでなく、さらに鮮明で、複雑である。
鮮明さは、血筋の純粋さを表している。そして複雑さは、力の強さを示している。なので信じたくはないが、こいつはもしかしたら、本当に……!?
「し、しかし!勇者様の生みの親なら、どうしてこのようなことをしたんだ!」
「クリアにも散々教えられたんだろ?世界平和のためだ。」
「ふざけるな!平和のために争うなんて根本から間違っている!」
「いいや、争わないと、世界は平和になれないんだ!」
「矛盾している!」
「矛盾している?」
反論には、反論してこなかった。
「そうだ、矛盾している!」
そして再び手を大きく開いて、大声で叫んだ。
「この世界は矛盾している!それは私でも、お前でも、プリスティンでも、クリアでも、ラルフでも!さらには空でさえも、地面でさえも、何もかもが矛盾しているんだ!」
「な、なんだと……!?」
「この世界は醜いからこそ美しい。無秩序だからこそ秩序的だ!この世界の何もかもが矛盾しているからこそ、何もかもが、なに一つも矛盾していない!」
手を握り、高く掲げた。
何を言っているんだ、こいつは……!?なに一つもわからないけれど、とにかくこいつはおかしい、頭がおかしい!狂っている、狂神の異名は本当にふさわしい。狂っている神、だからこその狂神!
「さてと、ゆうしゃ君。お前は絶対なる力を、見てみたくないか?」
「絶対なる、力を……?」
私に近づいて、話をかけた。
「例えばな。あれとか、どうかな。」
飾り鎧に指さす。
「ほら、そこに鎧があるんだろ?」
さっきの驚愕からまだ抜け出せていない中、私は何を見せられるんだろう。
「ほら、本当に、あるのかな?」
さっきまであった鎧が、急に音もたてずに消えてしまった。目は離していない、まばたきもしていない、なのに急に目の前から消えた。
「え、え?」
「そういえば、今日は寒かったね。」
思い出させられた。今日は寒い、なぜか異様なまでに寒かった。とてもじゃないが今日の日付にはふさわしくなかった。
今日はまだ……確かアリア国の暦法でいうと四月7日。すでに春も半分くらいで、これから暑くなるはずなのに、なぜかすごく寒い。
「ほら、本当に寒いのか?」
そしていきなり気温が上がった。
「あ、暑い……!鎧のせいか?暑い!」
「さらには……」
急いで鎧に手を伸ばして、外そうとしたら、外せなかった。
「なっ、あっつ!なんだ、鎧が、熱い!?は、早く外さ……!」
「それ、もしかしたら錯覚かもしれないぞ?」
額を流汗、そして急に汗が止まった。額に止まった。
「うっ!?さ、寒い、寒い寒い寒い……!!」
なんだなんだなんだ!?寒くなったぞ!?どういうことだ、どういうことだ一体!!
「ほら、これが私の力である絶対なる力の賜物ですよ。」
私から離れて、背を向けて両手を広げた。
「この世界のすべてを、何もかも、私の意のままに操られる。それは気温でも、天気でも、気候でも……さらには地盤でも、建造物でも。さらには……人、でも。」
「――!1」
悪寒がする。やはり、アレは人を操られる、師匠を操っている!
「それを知ったもなお、私に逆らうのか?逆らうつもりなら、私にお前の意思を示してくれ。」
にやりと口が上がった。その笑みからは無限な狂気を感じた。無尽蔵の悪意を感じた。
「ほう。」
しかし、私は逆らわなければならない。
立って、アレに逆らわなければならない!
「……」
勇者の名に懸けて!
そう思った私は、全身の力を振り絞って剣を持ち上げ、アレに指した。
(つづく)




