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姫様!魔王様!  作者: 煌黒星
アリア王位奪纂
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第五十八話=別れ

  「ゆうしゃ君、本当に、残念でしたね。」

 剣をぶつかりあいながら、斬りあいながら、私は師匠の説得をしようとした。

  「師匠……!」

 だが、それらが全部無駄であることを、思い知らされてしまいました。

 師匠が受けた洗脳に近い教育、それは彼女がスカイランドにいたときに受けられてしまったものだった。いくら楽園と呼ばれていても、外人には容赦はしなかった。そのせいで師匠が完全に狂わされてしまいました。

  「どうして師匠を洗脳した!」

 その問いに答えることをしない狂神。

  「さっきから言っているだろ?洗脳なんてしていないし、世界の真実を教えたあげたまでに過ぎない。」

  「その偽りの真実のせいで師匠が完全に狂わされてしまったんだぞ!」

  「偽りも何もないのに……ひどいいわれようだ。」

 キン!カン!再びぶつけ合う剣。だが、ぶつけ合うというより、私はただひたすらに防御をしているだけかも。

 師匠に切りかかるなんてできない。それは私が師匠のことをかわいそうだとか、切りかかりたくないとか、そういうのじゃない。

  「防御しているだけではアタシに勝てないよ!」

 単純に師匠が強すぎたからだ。攻め入る隙がない、完全に、完璧に。

  「師匠に勝てなくていいです、ただ、元の師匠に戻ってほしいだけです!」

  「はぁ……」

 強くため息をこぼす。というよりも、ため息を吐いた。

  「あのな、ゆうしゃ君。アタシは完全に自分の意思で、自ら神様についているだけですよ?」

  「いいえ、そんなわけはございません!師匠はきっと何かに取りつかれているだけです!」

  「あのさぁ……」

 剣を再び構える、そしてさっきよりも強い闘気を放ってくる。

  「アタシは、心から神様を信じているんですよ。」

 殺気。体中の鳥肌が立ってきた。寒い、師匠の殺気の影響で周りが寒く感じる。それだけでなく、汗もダラダラ流れてきた。

 師匠を敵に回すのは怖い。師匠の敵になるのが怖い。師匠が切りかかってくるのが怖い。師匠に切りかかれないのが怖い。

 そして何よりも……

 師匠とともに過ごした日々が、泡のように消え去ってしまうのが何よりも怖い。

  「じゃあ、教えてくださいよ!」

 心が壊れそうになった。そのおかげでやっと聞ける。

  「その神は、どうやって世界を平和にするんだ!」

  「――!」

 驚く師匠。そして横目で狂神を見る。

  「アタシには……教えてくれなかったんです!」

  「っ!?なら、どうして信じているんですか!」

  「か、神様だから!」

  「じゃあ、その神は、貴女を信じて自分の計画を教えてくれなかったその神は、貴女にとって何が信じられるんですか!」

  「……!!」

  「彼は貴女に計画の遂行を強要した!それなのに、そのくせに、計画の主旨を貴女に伝えなかった!ならば彼が貴女にとっては『神』という理由のほかに、どこに信用して、自分の身を投げ出せる理由があるんですか!!」

 それを聞いた師匠は、ただ、静かに目を閉じた。


  「はぁ、信用ないねぇ、私も。」

 戦っていた私たちのいる下へ、神が降りてきた。ぱさっ、ぱさっと。素足で絨毯を踏む音が、異様なまでに響いた。

 ラルフは恐怖のままに、隅っこで丸く丸まっている。姫様は今すぐにでも爆発しそうでこちらを見ている。いや、それだけではない。何かを、叩いている。けれど閉じ込められたようにも見えない……透明の壁がそこにある?

 そしてチェレスさんからはまだ、微かな力を感じ取れる。まだ息はあるようだ。

 周りを見渡せば、兵士たちはすでに居なくなっている。どこへ消えた?ククレスさんに救援を求めに行ったのか?

  「言ってはだめですから言ってないだけなのに、信じていないだなんて……」

  「そ、そうですか、神様……アタシのことを信じていないわけではないのですね?」

  「当たり前でしょ、仮にもスカイランドの住民だったからね、信じていないわけがないよ。」

  「で、ですよね!アタシのことを、信じているのですよね!」

  「ならどうして言えないのか、この場ではっきりしてくれ。でないと……師匠もアンタを信用できないでしょう。」

 今度は横目で師匠を見た。さっきと違って、今回はすぐに止めに入ってこなかった。どうやら間違いないようだ。

  「まったくもう……言ってはならないって言ったのに。」

 はぁとため息をこぼす。そしてまたやれやれと首を横に振る。そして、最後に堂々として、師匠に顔を向いた。何かを言おうとしているが、こちらには聞こえてほしくないようだ。

  「……」

 口がパクパクしている。話しているみたいだ……けれど、私にはまったくもって聞こえようとしない。本当に話しているの?

  「ど、どうして、ですか……?」

 だが、師匠にはちゃんと届いたようだ。そしてその答えを聞いた師匠は、目を赤くして今にでも泣きそうになってきた。

  「師匠、彼はいったいなにを……?」

  「神様、そんなことをしてしまっては参りません!どうか、アタシたちのことを……!」

  「あぁ、考えていたよ。」

  「ならば、どうしてそのようなことを……!!どうして自らーー!!」

 え!?さっきまで聞こえていたのに、急に聞こえなくなった!?どうして?どうしてだ!?まさか、あいつの力か?あいつが悪さをしているのか!?

  「ちょっと、アンタは一体何を企んでいるんだ!」

 大きな声で狂神に吼える。届いてはいるけれど、どうやら答えてはくれなさそうだ。

  「アンタには知られたくないね。うん?」

 言い終えると、急に外に視線を移った。

  「時間か。じゃあ、私はそろそろ帰るから、ここまで付き合ってくれたお礼に、一回だけ切りかからせてあげようか?」

  「いけません、神様!」

  「は?」

 私は今、何を、聴かされたんだ?一回だけ切りかからせてあげようって、え?どういうこと?

  「どういう意味だ。」

  「そのままの意味だけど?私はここで動かないから、勝手に決めちゃっていいですよ。」

  「……どういうつもりだ!」

  「別に?ただ、やらせたら気が済むんじゃないかな?と思っただけさ。」

  「……本当に、いいんだな。」

  「あぁ、問題ない。」

 静かに、剣を握り締めて前へ歩く。一方で師匠は何かに阻まれたようで、必死に壁を叩いていて止めようとしている。必死に泣き喚いているが、私のところには届いてこない。

 師匠が必死に訴えようとしていること、それはどんなことなのかはわからないけれど、師匠がここまで泣き散らす、何が何でもやめてほしいこと……まぁ、彼女の神の命を奪わないでってことはわかるけど、そこまで?

 それにしても、これから私に心臓を突き刺されるのに、ちっとも心配しないこいつもどうかと思う。どうしてそんなに自分の命を大事にしないんだ?

  「本当に、いいんだな?」

  「あぁ、でも、頼むから首を切ってもらえますか?私、痛いの嫌いなんでさっさと済ませてくれよ。」

  「……いいだろう。」

 目の前に来た。首を切ってって、こいつは一体何を考えている!?

 ……いや、もしかしたら罠だったかもしれない。ならば、首を切らずに、頭をかちわろう。

  「はぁ!!」

 剣を掲げて、そして力いっぱいに振り下ろした。剣が届く前に最後に見たのは、彼の満面の笑顔だった。


(つづく)

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