表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫様!魔王様!  作者: 煌黒星
アリア王位奪纂
60/68

第五十六話=散らされた正義

 周りを響きまわった女性の声、それはまさしく姫様の声だった。そしてその声は、その方はチェレスさんに向けて姉さんと呼んだ……いや、違う、きっとアレはラルフの声だったんだ、きっとそうだ。実際ラルフの声はちょっと女々しいので、その可能性はないとも言い切れない。

  「ほう、チェレス『姉さん』、とな~?」

 剣をチェレスさんの体から抜く。いつの間に剣を抜いて突き刺したのはわからない、そもそもアイツは元々剣を持っていなかった。なのに今、抜かれた剣は目の前にある。その上についている血はピタピタと地面に垂れ流している。どういうことだ、一体……!

  「プリスティン、アンタもう?」

  「思い出せねぇんだよ!昔のことなんざ!ただ、昔は、昔は……!」

 頭を抱えて後ろへ下がる姫様。やはり、さっきの声は……

  「昔はアイツのことを、姉さんって呼んでた。それしか……!」

  「うん、今度は素直ですね!せっかくだから、ご褒美を上げようか?」

  「ふざけるんじゃねぇ!姉さんを、姉さんを返せ!」

 剣を握りしめる、今すぐにでも狂いだしてしまいそうな姫様。だが、一方であの狂神は……

  「ご褒美に、アンタの記憶、戻してあげようか?」

  「いらねぇ!思い出したくねぇ!これ以上思い出したくねぇ!!」

  「ははっ、いいね、いいねぇ!その目、その憎悪に満ちた目!」

 剣を構えた。今すぐにでも襲い掛かりそうな姫様。そして同時に隣から剣を抜いた音がした。今、まだ剣を抜かなかった人と言ったら……師匠だけだ。

  「その憎悪を忘れるな、そして……」

 剣を完全に抜いた、すると同時にチェレスさんの体がやっと支えをなくして、倒れてしまった。

 階段を転がり落ちたチェレスさんを、姫様が支えに行った。玉座の前に居るラルフはいまだに我に返っていない、放心状態のままだ。

  「姉さん、姉さん……!」

 顔に目線を当てる、視線を合わせた。チェレスさんは、まだ、生きているようだ。だがその目はすでに虚ろになっている。

  「は……姉さん、ねぇ……」

  「姉さん、声が……!」

 声が戻った?それとも、返された?

  「アタイのこと、姉さんと、呼んで、くれるとは……ねぇ……」

  「もういい、これ以上しゃべるな!おいラルフ!早く姉さんを、姉さんを癒せ!早く!!!」

 まったくもって緊張を、恐慌を隠していない姫様。それだけチェレスさんが大事なんだろう。ならば今、私がやるべきことはたった一つ。黙っていることだ。

 しかし、いくら姫様が騒ごうとも、嘆こうとも、涙を流そうとも、ラルフは玉座の前から降りてこない、チェレスさんの血も流れ止まらない、そして誰もチェレスさんを救おうとしない……そもそも、出来るものなんて、果たしているのだろうか

  「ラルフ、早く!!」

  「ああ、あああああ……」

 虚ろな目でチェレスさんを見るラルフ、だが一向に動く姿勢は見られない、助けに来ようとしない。

 その同時に、彼女は今もなお血を流し続いている……だめだ、これ以上血を流させたら……!!

  「姫様、ちょっと失礼します。」

 しかし、ククレスさんは今どこで何をしているんだ!貴方の主が今にでも命を絶ってしまいそうになっているんだぞ!?それも、ここに居る存在達でなら、あの狂神に勝てる存在はいなく、貴方だけが頼りだぞ!

 なのにどうして、ここにいないんだ!

  「触るんじゃねぇ!俺の姉さんに触れるんじゃねぇ!」

  「――!」

 涙を流す姫様。チェレスさんに応急手当をしようとした私が、姫様の阻まれてしまった。

  「しかし、急いで応急措置をしなければ……!」

  「そ、そうだった……だから、早くこっちにこい、ラルフ!ラルフ!!」

 しかし、相変わらずラルフに応急手当を、求めようとする。こっちに来ようともしないラルフに助けを求むなんて、姫様、もっと冷静になって!

  「無駄ですよ、ゆうしゃ君。」

  「なに……?」

  「チェレスはもう助からないよ、それは……貴女が一番わかるんじゃない?」

 視線を姫様に合わす。どうして姫様が一番わかると思うんだ?

  「助かったとしても、傷が治ったとしても、彼女の体の中にはすでに『私の力の残滓』がある。助かったとしても、私の操り人形ですよ。」

  「ふざけたことを……そんなの、そんなことよりも、さっさと姉さんを返せ!」

 叫びながらも、チェレスさんを抱えているままの姫様。

 そして、やっとチェレスさんの声がまた響いてきた。

  「あれの言うとおりだよ、プリちゃん。」

  「姉さん……?」

 さっきまで姫様の願い通りに、静かになっていたチェレスが、まさか狂神の話に乗ってしまった。

  「アタイはもう、助からねぇ……だから、さ……」

  「な、何を言うんだ、姉さん……姉さんが助からねぇなんて、そんなの……」

  「はぁ……」

 大きくため息をする狂神。

  「残念だったね、チェレス。アンタがもし、昔のことを覚えていなければ、こうはならなかったんだろう。」

  「貴様……!」

 グギギギ、歯を噛み締める音がする。よく見ると、姫様の口から少し血が流れ出している。それだけ彼のことを恨んでいる、それだけ彼のことを死んでほしいと望んでいる。

 視線を上に移せば、目が怖ろしく開いている。そしてさっきまで流していた涙が、今や赤色になってしまっている。

  「私も悲しいよ?目の前で命が消えようとしているのは。」

  「どの口が……!!」

  「全部アンタが悪いんだぞ、チェレス。アンタがさっさと昔のことを忘れていれば、アンタは死ななかったぞ。」

  「これ以上……!!」

  「だからな、恨むなら自分を恨むんだぞ?私のことは、恨んじゃだめだぞ?」

  「コロシテヤルうぁあああああ!!!」

 一瞬、ほんの一瞬だった。

 ドタンと、地面を思いっきり蹴って前へ飛んだ音が、一瞬で二つがあった。


 カーン!パリーン!

 先に剣がぶつけた、そして次に……剣が折れてしまった。

  「なっ!?」

  攻撃を防がれた。防がれたのは姫様だった。

  「危なかったですね。」

  「しなくていいのに、まったく……」

 攻撃を防いだ。防いだのは、師匠だった。

  「どうしてだ、クリア……どうしてアイツをかばいやがった!」

  「そんなの、当たり前じゃない。」

  「……グハッ!」

 振りかざされた腕を、まずは払ってから姫様を強く蹴った。地面に叩きつかれ、また、玉座の玉から遠ざかれた。

  「神様を、御守りいたすために決まっているじゃないですか。」

 その師匠の目には、信念を貫き通す決意がある。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ