第五十五話=本当の勝利?
ブスリと、剣が貫いた。
ガラランと、剣が落ちた。
そして貫かれてしまった者、カルカッサも続いて倒れようとした。応じるのように、剣を引き抜かれて、地面にドタン!と、倒れてしまった。
「あっ、ああ、あああ……!!」
目の前で、兄が転がっていく。兄の屍が転がっていく。それなのに、それを止めることのできない自分に対して、ひどい憎悪を感じる。
「兄上ええええ!!!」
「いい加減にしろ、ラルフ。」
ズン、カン!と、剣を強く地面に突き刺さる。「兄上」を支えに行こうとするラルフを、チェレスが止めた。
「ど、どうしてですか、チェレス姉さん!」
「どうしても何も、『アレ』はさっき、アンタを殺そうとしたんだぞ!」
「それでもいいの!ボクが死ねば皆が仲良く……!!」
「できるわけがねぇよ!!」
パッ!ラルフの顔に、大きな手印が付いてしまった。彼を、彼の頬を、平手で打った。
「アンタがいないと、父様の継承者であるアンタがいないと!!」
それを聞いて、ラルフの目が大きく開いた。
父様、ということは……元魔王、ダーリク=ハーモスでしょう。しかし、彼女がその呼び方をするのは……私にとっては初めてだ。
「そうだよ、アンタがいないと、ダメだぞ。」
ぴたっと、急に後ろから声がした。振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。元々はどこにいたのか、そしてどうして今姿を現したのか、それを教えてくれそうにない……そんな存在だった。
「アマドリ……!」
剣を抜く。それは私だけでなく、姫様も、チェレスさんも。そして周りに居る兵士全員も、ただ、一人だけ剣を抜いていない。
「……」
師匠だった。
「何をしに来た、アマドリ!」
「いや?戦に勝ったから、お祝いに来ただけですよ。」
タッタッタッと、前へと歩く。歩きながら、手を叩いている。なんとも腹立つことでしょう。
今回の事件も、エリハイアで起きたことも、彼が首謀者であることは誰しもわかっていることで、そんなやつが今、ここでお祝い?ふざけてる!
「どの口が……!」
「いやーしかし、怖いですね、皆して私に剣を向けるなんて。」
「このような待遇を受けるようなことをしていただけでしょう。」
「そう、かもしれませんね。」
はっはっはっと、大笑いをした後、彼は冷たい表情で言い始めた。
「私の計画を順調に進んでくれて、ありがとうな、チェレス。」
「はぁ?なんのことやら。」
「貴女なら、やってくれると思っていましたよ、そして、貴女ならこの国をまとめられると思いましたよ。」
「……何のことだ、さっぱりだが。」
「だが、残念だったね。」
「何がだ。」
「貴女は、昔のことを覚えているようだね。」
「昔の、こと?」
……どうした?チェレスさんの様子が、おかしい?怒っている?いや、そうじゃない、困惑を、している?
「あぁ、そうだ。昔ね、貴女の家、ハーモス家の双子に関することだがな。」
「――!!」
目を大きく開いた。心当たりはあるようだ。だが、どういうことだ?ハーモス家は、そうじゃなかったんだろ?
私が知っている限りでは、男児は三人、カルカッサ、リクリーム、ラルフ。そして女児が二人、チェレスとレイチェル。そのほかに誰かがいるとしたら……あの子か?あの「プリスティン=ハーモス」って子か?
「残念ながら、今それをばらされたら計画がズレてしまうのでね。」
「貴様……!ラルフ、早く、君のーー!!」
話がまだ終わらぬというのに、チェレスさんが口を閉ざした……いや、違う。声が聞こえなくなった?周りに動いているものの音や声ははっきりと聞こえるけれど、チェレスさんの声が……!?
何かを伝えようと必死だけど、それが叶わぬままに必死に口をパクパクしている。
「いけませんねぇ、秘密をバラそうだなんて……悪い子だね、チェレス。」
いつの間にか、とうとうチェレスさんの目の前にたどり着いたアマドリ。さっきまで彼は結構離れていたのに、どうしてこんなに早く……!?彼は、一体、何者だ!?
「貴女はいろいろと知りすぎていますよ、だからね、罰を、与えなければいけませんね。」
迸る威圧。周りの空気が静寂に沈んで、恐れをもせずに、彼はそうつぶやいた。彼は何をしようとしている?それと、何かを、企んでいる?
すべてを知ることはできないだろう、だけど今、確実にわかっていることは一つある。
彼は、チェレスさんの命を奪おうとしているということを。
「チェレス、計画に手伝ってくれて、ありがとうな。だが、さよならだ。」
「――!!」
急いで剣を抜いて、反撃を仕掛けようとするチェレスさんだが……
「あの世で、また会おう。」
キーン!カランカラン……それが無駄だってことを、彼が証明してくれた。
「チェレス姉さああああああん!!!!」
周りを満たした声は、女性の声だった。
(つづく)




