第五十三話=疑問
レイチェルさんを、後ろへ連れて行っていいの?と、ふとそう思うようになった。
私達に降ったカルカッサ軍は数多くいる。それなのに、彼らにとって元指揮者の一人であるレイチェルさんを連れて行っていいの?
そもそも、レイチェルさんがカルカッサを裏切ったとも限らない。いくらチェレスさんと裏でつながっているとはいえ、なんだか、安心できない。
「レイチェルさん。」
「どうした。」
止まって、彼女に問いかける。
「貴女は、どうして閉じ込められたのですか?」
「さっきも言っただろう、アタシにはわからない。だが……そうだな。」
ガランガランと、剣を外して、防具も外した。今ではただの女性だといわんばかりに。何を、したいの?それで私の信頼を……?
「アタシを疑うなら今ここで殺していいですよ。」
「……」
手に剣を、だが抜くことはしなかった。
「どうした。」
「いいえ、ただ……万が一、貴女以外にラルフを起こせる存在が居なかったら、と思うと……」
「そうか。」
防具と武器を拾って、私に渡した。
「ならば、これを受け取ってくれ。」
「いいんですけど、それはまた、どうして?」
「アタシの防具、そしてあの剣……どれもこれも父がくれたものだ。アタシにとっては命よりも重いもの、それをお前に託す……ただ、それだけ。」
「レイチェル、さん……」
それを受け取り、大事に抱えた。
ラルフの口からきいていた、家族は不仲だったことを。だが、それでも彼らは、彼女たちは、自分の父を一番大事だと思っていた。父が居なくなった今でこそ王位をめぐって争っているけれど、父がもしまだいるのだとしたら……
「わかりました、では、付いてきてください。」
「……」
悲しげに装備を見つめるレイチェルさん。やはり、いやだろうか。だがこうすることしか、彼女は許さないだろう。これが最も、信頼を得られる行為だと思っているはずですから。
「つきました。」
「あぁ、わかった。」
レイチェルさんを連れて後方まで来た。途中で何度かチェレス軍の兵士に止められていたが、何とか信頼を得た。それだけ、彼らもレイチェルさんのことを恐れているのだろう。
テントに入った。そしてすぐに衛生兵の方がこちらまで走ってきた。……いや、走ってこようとした。
「レイチェル、様……」
「お前か。道理で何日も見かけなかった。」
「はい、誠に、申し訳ございません……」
「いい。ラルフのところまで案内してくれ。」
「魔王様、に、ですか。」
「そうだ、姉が弟に会いたいのは、何がおかしいか?」
「い、いいえ!そんな、滅相もございません!では、こちらへ……」
恐れ恐れと、静かにレイチェルさんを導きながら奥へ進んでいった。そして、ラルフの隣に居る姫様は、レイチェルを見るなり驚いて、椅子まで蹴り倒した。
「あ、アンタは……!」
「久しいな、プリスティン。」
「何の用だ、こいつは俺の所有物だぞ。」
「まぁ、そういわずに。」
剣を抜く姫様、そして対面するのは寸鉄持たぬレイチェルさん。
「今すぐ俺の前から……!」
「たとえ、アタシの弟が起きなくてもいいなら、今すぐに消えるんだが。」
「――!!」
力を凝縮して、驚かそうとしていた姫様をたったの一言で止めさせた。
「よろしく、お願い、します……」
それを呟きながらいやいやと剣を納めた。
姫様も、早くラルフに起きてほしいわけだ。でなければここで、何としてもここから離れようとしなかった。それだけラルフが大事だろう、見ているだけで妬いてしまいそうなくらい。
しかし、二人は元から面識があったなんて驚いた。だがまぁ、王家のつながりでしょうか、いくら姫様は名分上だけ姫でしかないけど。
「……」
手をラルフの胸に当てた。小さな声何かを唱えているみたいけれど、距離が遠くて、よく聞こえなかった。
しばらくすると、どうやら何があったのかが分かったようで、目を開けて姫様に向けて口を開いた。
「心配するな、すぐ、終わらせるから。」
「これの命を終わらせるんじゃないでしょうね。」
「プリスティン……」
「ふん。」
しかし、そっぽを向く姫様。どうやら心底レイチェルさんを嫌っているみたいだ。だが、現時点では彼女以外、ラルフを救える人がいるとも思えないらしく、しぶしぶ受け入れているみたいだ。
そんな姫様を後ろに、静かにまた手をラルフの胸に当てた。今度も殺気と同じく何かを呟いているけれど、さっきとは違って今回は割と長く呟いている。でも、同じく聞こえなかった。
「――!!」
だが、どうやら隣に立っている姫様は聞こえた様子。驚く顔を隠せていなく、寧ろ自分から見せているようにも思える。それだけ驚かされている。
「……」
唇を噛み締め、流そうとする涙を自ら飲み込んでいる。これは果たして、怒っているのか?それとも、悲しんでいるのか?悔しがっているのか?
「……ふぅ。」
ラルフに息を吹き込む。しかし、どうやらただの吐息でした。疲れたのだろうか、隣から見ているだけではこのことの大変さがわからないけれど、すごく大変、なのかもしれません。
「さてと、そろそろ……」
両手を胸の上に重ねた。そして、見間違いだろうか、一粒の黒玉が飛び出してきた。そして、ラルフの体内に入り込んだ。
「アンタ、今、何を……!!」
「邪魔しないでもらえるか、プリスティン。」
「自分の力をこれの体に入れて、何がしたいんだ!」
「だから……!!」
剣を抜く姫様、そして怒るレイチェルさん。目の前に起こった行動に対する疑問を持つもの、そしてその行動を邪魔されてうんざりしているもの……剣は持たないものの、威勢はすごく強い。
「ちょ、ちょっと待ってください、姫様!」
間を割ろうとした。その理由は今、ラルフの体に起きていることにある。
「――!?」
ラルフの体に入っていったはずの黒い玉が、大きくなってまた出てきた。そして、レイチェルさんはそれを受け取り、自分の体内に取り組んだ。
「アンタ……!!」
「これで大丈夫なはずだ。すぐに起きてくる。」
「アンタ、まさか……!!」
何かを察した姫様。一体、何を……?
「では……疲れたから、アタシは……」
いきなりふらふらしだすレイチェルさん。え、え?一体、何が起きたんだ?彼女は一体何をしたんだ?さっきまで元気いっぱい……とは言えないかもしれないけれど、元気だったレイチェルさんが、どうして急に眠くなったんだ?それも、黒い玉を受け取った後……?
「頼んだ、ぞ……プリスティン……」
そう言って、ふらふらしていたレイチェルさんが、ついに倒れてしまった。
ど、どうした!?一体、どうしたんだ!?
「ど、どうしましたの、レイチェルさん!?大丈夫ですか!?」
急いで支えて、地面に倒らせないようにした。ただ眠っているだけなのは見ればわかるが、耳元にでレイチェルさんの寝息も伝わってきている。だけど、一体どうして、急に?
「姫様、何かわかりますか?」
そして姫様に質問の答え、疑問の答えを求めた。すると、やはり答えが返ってきた。
「この女は、アイツにかかっている魔法を、自分の力を使って吸収した。」
「え、ええ!?そんなことが、出来るんですか!?」
「あぁ、出来る。というかできた。だから……」
つばを飲み込み、続いていった。
「しばらく、こいつは起きないだろう。さっきまでのアイツと同じく。」
たったっと、横を通る姫様。眠っているラルフの頬に手をのせて、何かを唱えた。
「そろそろ起きろ、寝坊虫。」
しかしその唱えは、私にまでは届かないと思いきや、はっきりと聞こえた。
(つづく)
そろそろ眠りから目を覚ますラルフ、そしてその代わりとなったのは......
いよいよ国が奪還されるのに、今回の主役はことごとく......




