第五十一話=止まらぬ鼓動
目の前で、たくさんの命が散っていく。
目の前で、血の流水が止まらず流れていく。
目の前で、勝利がだんだん近づいている。
しかし、その同時に……
目の前で、たくさんの味方が亡くなっていく。
目の前で、屍を抱えてなお戦うチェレス軍もいる。
目の前で、死がだんだん私に向けて歩いてきている。
それでも、私は戦う。目の前で、姫様も戦っているからだ。ならば私も、今ここで倒れてはならない。ここで負けてはならない!
「おい、勇者様!大丈夫か!?」
背後に居た敵に切りかかって、やつを倒したチェレスさんが私の心配をしてくださった。
「だ、大丈夫だ。まだ、何とか生きております。」
「それは大丈夫じゃねぇだろうが!後ろで控えておけ、アンタが倒れてしまったらあの子に顔向きできん!」
「……あぁ、そう、だな。すまない、一旦、下がらせていただきます。」
あの子とは?と、一瞬疑ったけれど、すぐに思い出した。この前出会ってたプリスティン=ハーモスという女の子だ。彼女はおそらくすでに亡くなっているが、今でも無念を晴らされていないからこの地に居るみたいだ。
そして、その子こそが、チェレスさんの妹であることを私も知っている。同時に私のことを勇者様と呼ぶ始めての存在だ、彼女の無念を、晴らさなければならない。
幸い、今は後ろは私たちの陣地で、敵が回復を邪魔にできない場所。そこでなら、小さな傷なら治療を受けられるし、休むこともできる。そう思って、私は急いで後ろへ下がった。
「前線から戻ってこられたのですか……?」
衛生兵が私に声をかけた。見た感じ、この中に居るのはほとんどが大きな傷を負って、今すぐにでも息を絶ちそうな兵士ばっかりだ。だから私を見るなり前線から?と疑うわけだ。
「はい、そうです。治療を、頼めますか。」
「は、はい!お任せください!」
若い女性の魔族、しかし彼女が携わっているのはラルフと同じく光系統の力。どうやらこの子も訳ありみたいです。というか、ここに居るすべての衛生兵は、訳ありか。みんな、光系統の魔族だ。人族なんて一人も居ない、ましてや半獣人、さらには聖霊。まぁ、アリアは昔からずっと魔族至上だったから、こうなっても仕方ないか。
閉ざされた国、そんな国が外国に対する興味を示すのも仕方ない。そして異種族と結婚し、子を産む。いくらアリアの王族が事あるごとに自国は魔族オンリーだといっても、国民はみんなわかっている。
それをわかっていないのは、王族と、他国に居る現実を知らない無知な子供だけだ。
だが、ここの奥に……
「ラルフは、まだ起きないの?」
「はい……その通りです。心配なんですか?」
「当然でしょ。仲間ですから。」
「仲間、ですか……」
治療の手が若干遅くなった。
「元魔王様と、仲間、なんですか。」
「元魔王じゃあ、ないでしょ?」
「ご、ごめんなさい、失礼いたしました。魔王様、でしたね。」
この子達はどれだけラルフに王になってほしいのだろうか。もしくは、ほしくないだろうか。
彼女たちにとって、同じく訳ありの方が魔王になれば、自分たちにも迫害をしないと思っているでしょう。
しかし、前まではラルフが王だったからわかるはずだ、彼がどれだけ王にふさわしくないのかを。
だからこそ、新たな王をほしがるでしょう。だがそれは決してカルカッサではなく、チェレスさんであることを。
「し、しかし、魔王様はいったい、どうしてしまったんでしょう。」
「睡眠魔法でも食らっちゃったのでは?」
「いや、それはわかっております。だけど、それだけではないんです。」
「それだけではない?」
「なんか、違うんです。おかしいんです。」
「どこが?」
「……ごめんなさい、上手く言えませんの……本当にごめんなさい。」
「いや、いいよ。気にしないで。」
ラルフが変?おかしい?いったいどういうこと?ほぼずっと隣に居たからわからなかったけど、何か、昔と変わったのか?
「それに……」
まだ何かあるの?
「隣に居る女性って確か……エリハイアのお姫様でしたよね。」
「そうですね、うちの姫様ですが、どうかした?」
「どうしてそのようなお方が、うちの魔王様の看病を……と思いまして。」
目を奥に居るラルフと姫様に向けた。この前看病をしていたラルフと姫様が立場を逆転したようだ。というか実際そう。
「どうして、ときかれても私も……」
でも、前は確か、姫様がラルフを攫ったって言っていたな、理由は確か……あっ、覚えてないや。
「そうですよね、申し訳ございません……」
「さっきからずっと謝っているな、君。」
「えっ!?そ、そんなにですか!?」
「あぁ、でもまぁ、大丈夫。」
「はい、ありがとう、ございます。」
しばらく治療が続いたら、衛生兵がやっと私を解放してくれた。外傷はほぼ治って、死の足音がやっと消えたようだ。
「はい、これで大丈夫です。」
「あぁ、ありがとう、助かった。」
「では、また、前線へ?」
「……いや、少し、まだ少しここに居る。」
私の視線の先に目を向けた。すると彼女も何かを悟ったようで、静かに頷いたらほかの負傷者へと走っていった。
そして私は、姫様の隣へ近づいた。
「ラルフの様子は?」
「あん?見てもわからんのか、このグズ。」
姫様に罵られた。だが、仕方ないことだ、だって、私のせいでラルフが攫われたのと同じだ。私のせいでラルフが今、昏睡しているのと同じだ。
「ラルフの件は、大変申し訳ございませんでした。」
「はぁ!?いまさら謝れば済むことだと思ってんのか!?」
ガラン!ドタン!と、大きな音を立てながら周りにおいてあるものを、そして椅子を私に向けて投げかけてきた。当然、私は避けようともしなかった。
「な、何をなさって……!」
「いい、気にするな。」
こちらの異変に気づいて、姫様を止めようとした子を逆に私が止めた。
「こいつにかかっている魔法が何か、知っているか?」
「まことに申し訳ございませんが、存じておりません。」
「ならば、教えてやろう!」
そして涙をこらえながら、鼻水をすすった姫様が続けていった。
「これは、至天なる漆黒の魔法で、今の俺が、俺ですら解けられない魔法だぞ!おのれ、あのケリスとかいうくそったれが……!!」
至天なる(ケルサス)レベルの!?もしかしたらそんな方が居るかもしれないと思っていたら、本当に居たとは……
「心臓はまだ動いている、鼓動はまだ伝わってきている。だから……」
シャーと、剣を抜いた。
「てめぇが責任を持て、こいつの魔法を解けろ!」
私に向けて、私に剣を指して、私に解決しろと命じた。
(つづく)
ラルフはまだ生きている。しかし、覚めさせないように魔法をかけられている。
そんな彼を救うことを命じられたのは、ゆうしゃであった。しかし、そもそも命令がなくても、彼はおそらく......いや、きっと救うことを決めるでしょう。




