第五十話=動き出す歴史
一日中歩いた。目の前で何回か惨劇が起きた。村が魔物に襲われたり、私自身が魔物に襲われて兵士の誰かが亡くなったり、そしてカルカッサ軍の伏兵に襲撃されたり……何回か生死の狭間を行き来した。いくら防衛をとっても、いくら攻撃を防ごうとも、私たちは倒されなかった。
途中でたくさんあったけれど、私たちはやっと、今。王城の城壁の前に居る。
どうしてここまで簡単に来てこれたのかは、カルカッサ軍の旗のおかげだ、なんと皮肉なことに。
どうやらカルカッサ軍は、全員が全員ここに居る私たちは、カルカッサ軍を掲げているチェレス軍だとはわからないようだ。そのおかげでここまでこれた。
「帰還したぞ、門を開けろ!」
ククレスさんが城門の上で待機している兵士たちに向けて声を発した。すると、上から返事があった。
「はっ!ただいま門を開けさせていただきます!」
望遠鏡でここに居るククレスさんの姿を確認した後、返事をくれた。どうやら門を開けるみたいだ。
しかし、本当に妙だ……どうして彼らは知らないんだ?彼がチェレスさんの軍門に下ったって、ケリスからの伝言はあるはずだ。というより、あるべきだ。それなのに……
「では、参りましょうか、我が主よ。」
「……」
うなずく素振りも見せずに、馬を走らせた。どうやらチェレスさんも疑問に思っているみたいだ。
ズドンドンドンドンと、城門が開かれる音が辺り鳴り響く。そして、私たちの前で……
「お帰り、我が妹チェレスよ。」
「なっ!?」
目の前で信じられないことが起きている。目の前に現れている。
「おい何をするつもりだ、カルカッサ!」
武器を構える兵士、カルカッサ軍。そして後ろからもずたたたたと足音を立てている。包囲されてしまった。そしてカルカッサ本人は、剣を持ち、高台でラルフの首に当てている。
「わかっているんだろ?これから……」
空気が凍った。凍てずけられた。
「この反逆者の首を刎ねるんだよ!」
「お前ら!まだ動くんじゃねぇ!」
構えようとしたチェレス軍だが、統帥にとめられた。何をしようとしているんだ、チェレスさんは。
「何のためだ、カルカッサ。」
「おう、怖い怖い……何のためって、何のことかな?」
「なんで今にラルフの処刑を決めた!それも、民衆の目の前でではなく、アタイらの目の前で!」
「はぁ……なんだ、そんなことか。」
「アンタ……!」
堪忍袋の緒が切れそうになっている。だけど、それでも耐えている。
「てめぇらにも絶望を味わえさせるためだよ!」
「そうか……残念だったな。」
「あぁ、そうだよ。本当に、残念だったよ……」
そして、悲しむ素振りも見せずに、残念だと述べるカルカッサ。
剣を高く掲げて、日輪の光が照らす。真昼のなか、戦いの開幕を示す銅鑼が、鳴らされた。
しかし、それは一瞬のことだった。
剣を振り下ろして、ラルフの頭を刎ねようとしたカルカッサを……彼女が、止めた。ちっとも音を立てずに、いきなり身を起こして飛んでいった。
「俺の所有物に手を出してんじゃねぇ!!」
「なっ!?」
怒りに身を任せた姫様が、自分の剣を持っていないことにすら気づかずに手を振った。
「バカめ、剣を持たずに俺を止めようとしているのか?」
「あぁ、剣がなくても問題ねぇよ……」
剣をつかんだ。刃に直接当てられているのに、少しでも、たったの少しでも痛がることはしなかった。それどころか……
「う、うわ!あ、あっつ、あっつ!!」
剣を持っていない人が、前へ。そして剣を持っていたものが、後ろへ……熱いのは、おそらく、いや、絶対に、姫様の力のおかげだ。力を目いっぱい注入したのを受けて、手から熱量が伝わったんだろう。いや、それだけじゃない……よく見れば、剣が、溶けた!?
「な、何者だ、アンタは!」
「俺か?」
尻をうって倒れたカルカッサを、姫様がただ冷酷に見下ろす。
「こいつの所有者だ。」
ただそれを、言い放つ。周りに居るカルカッサ軍は目の前に起きている事態に恐れて、混乱している。ならば、今こそ……!!
「皆のもの!!気をしっかり持て!アタイらは、必ず勝つ!」
剣を高く掲げて、思いっきり叫ぶ。日輪が照らす剣は、いつもより光り輝いているように見えた。
(つづく)
目の前で、王が王を処刑しようとしている。そしてもう一人の王......いや、王女は、それを阻止した。
歴史は今日から動き出す、今日から、アリアはまた平穏な日々を送れるようになる。
そうだと、皆が信じている




