第四十九話=闇を蠢く者
「ほう、貴女でしたか、私の知らないところでうようよしている人……」
「神様……貴方は、神様なんですね!」
「ほう?その声は……」
「アタシです、覚えておりませんか?」
「ふーん……確か、昔、あのおっさんとともに私を討伐しようとしていた子供、だったかな。」
「そう、そうです!あの時の子供がアタシなんです!」
「で?確かあのときに一旦スカイランドに連れて込んでいたけど、そこを抜け出した貴女はどうしてまた私の目の前に現れた?」
「はい!申し訳ございません……!ただ、友たちにスカイランドの素晴らしさを教えようとしておりましたが、なかなか外との連絡が取れずに逃げてしまいました。どうか、お許しを……」
「なるほど。で?その友たちって言うのは、誰のこと?」
「はい、名前は……」
「プリスティン、でしょ?」
「は、はい!その通りです!プリちゃんもスカイランドに連れて行きたかったんです!」
「それなら大丈夫だよ、彼女なら最初から知っていたから。」
「そ、それは、どういうことですか?」
「まぁ、すぐにわかるだろう。」
「あっ、ど、どちらへ向かわれるのですか、神様!どうか、お待ちください!」
「いいよ、無理して追いかけようとしなくても。」
「そ、そんな!無理なんてしておりません!あの日から、あの時から、ずっと、ずっとお会いしたかったですもの!」
「はぁ……こんな狂信者を、誰が作ったのやら……」
「何を、仰っておりますの?」
「いや、なんでもない。とにかく、貴女はさっさとゆうしゃのやつらのところに戻ってくれ。」
「そ、それは構いませんけれど、どうして、ですか?」
「どうしても何も、今の私には……いや、違うな。」
「うん?」
「今の彼らとともに行動してほしいの。王宮に着いたら、また指示をあげるから、そこまで我慢しておいてね。」
「は、はい!!畏まりました!」
「では、いってらっしゃい。彼らとはぐれない様にな。」
「畏まりました。すべては、神様の仰せのままに。」
「さてと、作戦は上手くいくだろうけど、途中で何かしらのアクシデントがほしいですねぇ。」
「まったく、お前ってやつは……さっきの子って、昔うちにいた子だったよな。」
「あぁ、そうだけど?彼女のことが気になるのか、ケンさん?」
「うちにいたのにもかかわらず、成長はした……それはどういう意味か知っているよな。」
「大丈夫、彼女はスカイランドに受け入れられなかったという意味だろ?」
「だが、その妄信は……」
「元から頭弱い子だったんだよ、そこは気にしないであげてくれ。」
「やれやれ……」
「ところで、さ。アクシデント、用意してくれる?」
「チッ。自分の手で作り出せ、そのアクシデントってやつを。」
「ちぇー冷たいなーケンさんは……」
「冷たくて結構。俺様はアンタと違って、命を無駄に散らせたくないんでな。」
「それでも魔王か~?昔はあんなに残酷だったのによぉ~?」
「前も言ったはずだが、アンタのほうがよっぽど魔王に似てるわ。」
「あっはは、そりゃあどうも!伊達に光明魔王で名乗ってないですー」
「ふん。こんなやつが、この世界を支配する神とはな、なんとも皮肉なことだ。」
「いいや?違うよ。この世界を支配しているのは私じゃなくて……」
「聖神帝が支配しているとでも?まったく、あれほど自分の過ちをほかの存在に押し付けるなといっていただろ。」
「でもさ、実際私を主宰できる存在は、聖神帝しかいないから、あながち間違っていないと思うぞ。」
「ふん。どうぞご勝手に。」
「はいはーい、では……そろそろ、ですかね。アクシデントを……ぐふふふふ……ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
「汚らわしい笑い声をするな、まったく……」
………………
…………
……
「どうした、あれは……!?」
ラルフの向かう場所を知った私たちは、急いでチュバルを発った。途中で何度も何度も師匠に連絡を取ろうとしていたけど、まず座標も知らないし、探知できる範囲にもいない。力の増幅はすでに解けていて探知の範囲自体狭いのも原因のひとつではあるけど。
しかし、師匠はいったいどこへいらっしゃったのやら……
そして、今、目の前に起きていることに、私たち全員困惑を隠せない状態になった。
「おい、急いで救出へ……!」
「待て、勝手な行動をするな。」
目の前で、進行路線から少しずれたところにある小さな村が、魔物に襲われている。それを、チェレスさんは見捨てようとしている。
「構うな、引き続きアリアへ直行しろ。」
「畏まりました。」
「――!貴女、それでも……!」
「今、何が一番大事か、よく考えてから行動しろ。」
「なっ!」
ラルフの命が一番大事に決まっている。しかし、目の前で魔物が村を襲っている。魔物の爪と牙によって命が奪われている。それを、見て見ぬふりをしろというのか?
私に、できるわけが……!
「今、あの村を助けてみろ。万が一ラルフが命を絶ってしまったら、次は国全体がそうなってしまうぞ。」
「――!!」
「しかも今度は魔物の手による略奪ではない、同族による殺戮であるぞ。」
「……ッ。」
悔しい、けれど、私は……
「ならば、私一人だけで……!」
「できるものならやってみなよ、ざっと計算したみたが、少なくとも三十匹は居るぞ。それをアンタ一人で?笑わせるな。」
私一人では、到底できるようなことじゃないのはわかっている。わかりきっている。だけど、それでも、私は……!
「わかり、ました……」
私一人ではどうにでもならない、かといって兵を貸してほしいともいえない。仮に貸してくれたとしても、兵士に負傷させることは必然だ。そうすれば戦力は削られてしまう。それに、今はただでさえ兵力が少ないだけでなく、この前姫様と戦っていて負傷した兵士も結構居る。
だけど、だけど……!
「何事も、完璧にこなせるわけではないですよ。」
「え?」
それを呟いたのは、ククレスさんだった。そして彼の横に居るチェレスさんを見る。彼女も、すごく、悩んでいる。さっきからずっと眉をひそめている。
「……はい、仕方、ありませんね……」
「ご了承を下さって、まことに、ありがとうございます。」
静かに、唇をかみ締める。だが、私にはわかる。私よりも、むしろチェレスさんのほうが、よっぽど苦しんでいる。目の前の残況を目にしても、それを対処できることはなく、むしろ、黙って見ているしかやれることはない。
「た、助けてくれえええ!!」
耳に入るのは、村人の叫び声。
「そ、そこに誰かが、通ろうとしているぞ、彼らに助けを求めましょう!」
そして入るのは、助けを求める声。
「なぁ、頼むから、おらの村、助けてくれへんか?」
やがて、村の横を通ろうとするときに、村人が助けを求めにきた。さすがにこれを見ると心が痛むだけでなく、目までも涙を流しそうになっている。
「なぁ、頼むから、なぁ!?」
「うるせぇんだよ!アタイらは急いでんだよ!」
そして村人を一蹴するチェレスさん。その目から、何粒の涙が零れ落ちている。
「恨むなら……この旗を恨め!」
そして掲げられたのは、カルカッサ軍の軍旗だった。
(つづく)
闇をうごめいて、あれらはまた、何かを企んでいる。それはいったい何かを、今はまだ誰もわからない。
もしかしたら、起こるまでは、誰も推測できないかもしれない......




