第四十八話=深淵の淵にて
チュバルを離れたところ、一人の魔族が、少年の魔族を抱えながら走っている。
すぐそこにはカルカッサ軍の領地がある、しかし、その前に……
「なっ!?あれは、レジスタンス……!?」
遠いところから目に浮かんだのは、レジスタンスの旗だった。そして、レジスタンスは今、カルカッサ軍と戦っている。レジスタンスにとっては、これが最後の戦いになるのであろうと、全力を、死力を尽くそうとしている。
「亡くなられったリクリーム様の仇を!!」
遠方から届くのは、その叫び声だった。リクリームが息を絶ったからは、すでに何週か経過している。それなのに、彼らはいまだに怒れている。リーダーの仇を、もしくは本来なら王になるものの仇を取ろうとしている。
「まずい……!どうにかして味方に話付けないと……!」
その時に思い出したのは、通信魔法だった。さっそく位置座標を測定し、魔法を使った。
「聞こえますか、こちら、元チュバル奪還作戦参謀総長、ケリス。」
「はっはい!話を伺っております。しかし、今は……」
「あぁ、わかっている。レジスタンスのやつらと戦っているな。」
「そうです、だから、もし可能であれば……迂回していただけませんか。」
「構わん、後ろで合おう。」
「はい!畏まりました。」
ここで、通信を断った。後ろへ回って、ラルフをカルカッサ軍に渡せば自分の役目は終わる。しばらくは休息をとれるはずだ。
しかし、彼は知らなかった。レジスタンスが戦う目的はただ、リクリームの遺命で戦っているわけではない。ラルフの討伐も、含めている。
「おい、そこで何をやっている!?」
草原にて、レジスタンスとカルカッサ軍の戦場を通わずに、後ろへ迂回しようとしたケリスを、潜行して基地に入ろうとするレジスタンスが発見した。
「ッ!?まずい、逃げないと……!」
今ここで戦ったら、まず人数的に絶対に勝てない。それに、もし騒ぎを起こしたら、最悪ラルフが起こって逃げ出すかもしれない。
「あれは……!?ラルフ?お、王の仇を!!」
「な、なんだと!?」
逃げるケリスを、血眼になっているカルカッサ軍が追いかける。騒ぎを起こされた。しかし逃げ続けるケリス。その騒ぎを嗅ぎ付けるのはカルカッサ軍の人でした。
「これはこれは!」
「ご安心召されよ、ケリス殿。我が護衛致そう。」
剣を抜いた魔族、彼もまた、前線に配備される将軍の一人。実力こそ魔将軍に匹敵できないけれど、それほどの実力を有している。このような兵士の群れなら、彼一人で片づけれるだろう。
「助かる。後ろの兵士にラルフの運送を頼めますか?」
「ええ。おい、お前!背中に乗っかてるやつをアリアに連れていけ!」
すぐそこに兵士が来て、ラルフを受け取った。そして重荷を下ろしたケリスは、息を整えながら杖を持ちだした。
「アリア第一魔法研究所所長、ケリス=アツァレア!ワタシに敵う者なら、容赦はしない!」
そう声を高く上げ、将軍と肩を並べて戦いに挑んだ。
………………
…………
……
「ねぇ、今回も行けると思う?」
夢の中で、二人の少年が会話をしている。
「い、いける、でしょう!ボクの、ボクの仲間たちがいるし……」
弱気な少年が声を震わせながら話している。
「でも、やはり怖いんだろ?」
強気な少年が目をまっすぐに見て、彼方にある光に視線を集めている。
「……うん。」
「だろうな。」
強気な少年、そして弱気な少年。見た目は一緒ではあるものの、中身がまったく別。彼らは……彼は、今もまだ怯えている。それは強気な彼でも、弱気な彼でも。
「あなたは、怖くないのですか?」
「そんなまさか、ボクも怖く感じているよ。」
「だ、だったら!」
「でも、ボクの出る幕はない、そうでしょ?」
「……うん、そうかも。」
「ならば、見守っているしかできないでしょ?あなたは昔からそう、ずっと弱気なままだ。」
「それを比べたら、あなただって……昔からずっと、ずっとずっーと、勇気を持っている。」
「それはどうなのかな。」
「え?」
強気な彼が手を差し出した。弱気な彼に自分の手を見せた。
「今もまだ震えているよ、ボクも。」
それを見た弱気な彼は、自然と自分の手も差し出した。
「ボクも、だよ……」
二人とも怖がっている。けれど、どうしようもない。
今の彼らにできることはあるのだろうか。体は昏睡の魔法を施され、特に強い振動や、キーワードを言われないと絶対に起きれない。
その強い振動は、たとえ地面に落ちてもまだ足りず、大砲に撃たなければほどの大きい振動である。そしてそのキーワードを知っているものは、ケリスしかいない。だからこそ、彼はしばらく起きることはないだろう。
「ボクに任せば、そんな魔法なんてすぐに解けるのに。」
「だ、ダメ!それでもダメ!」
「わかっていますよ、そう心配しないで。」
そして近づく。
「体を、取り戻されたくないからね、あなたは。」
そしてまた、離れた。
外のことが今どうなっているのか、そしてこれからどうなっていくか、彼はただじっと見ているしかなかった。
今の彼は、抗う術を持ってないせいで。
(つづく)
深淵の淵にて、少年は語っている。
自分の無力さに、痛感している彼が、彼と話し合っている。




