第四十七話=約束を破る
「カルカッサ様……少々、お聞きしたいことがございますが、よろしいでしょうか。」
「あぁ、さっきケリスと話した事、だな。」
「……はい、正しく。」
「なぁに、ラルフのやつを捕まえただけだ。そのあとの処置を、知りたくないか?」
「彼に……何を?」
「そうだな……死んでもらうんだよ。」
「――!」
「ハハッ!いいねいいね、その顔!それが見たかったんだよ!」
「カルカッサ……お前は、どうしてそこまでして……!」
「王にならねばならないんだよ。俺様が、俺様がこのアリアを支配しないといけねぇんだよ!」
「王になるためなら、たとえ魂を……『神』という得体のしれないものに売るのですか!?」
「あぁ、そうだよ。それに、得体のしれないものだなんて……なんと無礼な……!」
「あんなやつの言葉なんぞ信じてたまるものですか!あれのせいで……あの『狂神』のせいで……!!」
「口を慎め、レイチェル!我らが神を侮辱しようとするのなら、たとえお前であっても……」
「いい加減にしろ!あんなやつを妄信するなら、ワタクシはこれより……あなたの命を狙う、たった一人の姉として、あなたを……!」
「ふっ、やはりか……」
突然に、後ろから風が吹き始めた。風が、強い。
「あぁ、神よ。此度は何のご用でこちらへ?」
「そうだな……」
「あなたが狂神、ですね……」
「狂神?あぁ、そういえばその名前で呼ばれていたな。たぶんそうじゃない?」
「狂神『アマドリ=スー』……あなたをここで、倒す!」
………………
…………
……
「なんだって!?ラルフが!?」
姫様はいまだに眠っている、そして私は今、チェレス軍と再び作戦会議を開いている。
しかし、予想通りだった。ケリスさんも居なくなってしまったらしい。ケリスさんを逃がした人が……まだこのキャンプに残っているかもしれません。キャンプの外には捕まえた敵兵を閉じ込めるテントがあったが、今回は誰も居れることはできなかったから、そこにケリスさんを入れる予定になっていたみたいだが、途中で……もしくは閉じ込めたところを誰かが救出した……
「しかし、ラルフを攫って、そしてケリスも逃がす……そんな奴が、このキャンプに居るのだろうか。」
「もしくは……ケリスが自分の力を使って、転移の魔法を?」
「いいや、それはありえん。そこにはアタイの力ですら遮断できる魔法の障壁が展開されている。そう簡単に抜け出されるはずが……」
思考に落ちるチェレスさん。誰だ、ケリスさんを助けたやつ。そしてラルフを攫った犯人……
うん?いや、え?おかしいのでは?そもそも最初にラルフを攫ったのは姫様であって、彼らにとってはただ元魔王を取り戻しただけなのでは?
……いや、そういうわけじゃないんだ、きっと。それに、今の状況だと、ラルフが攫われたらされることは一つしかない。
斬首されてしまう。
何とかして防げないと、何とかしてラルフを取り戻さないと、姫様に向ける顔がない!
「放して、放してくれ!お前ら、カルカッサ様に忠誠を誓ったのだろ!?それなのに、今は……!!」
討論が続く中、外が突然に騒がしくなった。どうやら誰かが捕まったらしい。そしてその言葉によると、おそらく……カルカッサ軍の人でしょう。
「クッ!アンタら、あとで覚えてろよ……!」
一人の魔族がテントの中に放り投げられた。彼がさっき外で騒いでいた魔族でしょう。
「ご苦労、下がってよいぞ。」
「ハッ!チェレス様!」
カルカッサ軍を連れてきた魔族の二人が、テントの外へ出た。
「アンタだな。ケリスのやつを解放し、アタイの弟を攫った犯人は。」
「ハッ!犯人とか、滅相もございません。俺はただ……王の指示に従っていただけだ。」
「王、とな……」
「俺らの王はアンタのような小娘じゃねぇ。もっと大きな、もっと強い男性の魔王だ。その名もカルカッサ=ハーモスである!アンタのような小娘が務まる訳がねぇんだよ!」
「ほう、言うね。」
傍でククレスさんが鬼の面相で兵士を睨んでいる。目が赤くなっているだけでなく、目も吊り上げている。見ているこっちが怖くなる。
「じゃあ、答えてくれよ。アンタらの王は、何をするために王になったんだ。」
「それは、もちろん!」
そしてしばらくの沈黙。彼は考えている。
「もちろん……」
「もちろん、何?」
「も、もちろん、アリアの更なる発展を目指しているに決まっている!」
「ハッ!決まっている、だとなぁ?」
椅子から降りて、兵士の目の前に来た。
「知らないなら、教えてやろうか?」
「アンタなんかに、アンタなんかに……!」
わかる分けない、と言いたそうな顔をしている。けれど、そうではないとも思っているようだ。
「アイツはな、王になるために王になったんだよ。」
「ば、バカを言うんじゃない!我らが王を侮辱するつもりか!?」
「いやいや、そういうわけじゃねぇんだよな。だってよ……」
「だって、なんだ?」
そして、手を伸ばした。その手のひらに自分の家紋を、力の象徴を示した。
「妹であるアタイが保証しよう、アイツは何も、なーんにも考えてねぇんだよ。」
「――!」
否定しようとしている。けれど、否定することもできない。その家紋を見れば彼女もハーモス家のものだとわかる。けれどそれを認めたくはない。そもそも彼らは聞いたことすらないだろう、ここにもう一人の王族がいるってことを。
「昔からそうなんだよ、アイツはいつまでもどこまでも頭が空っぽ。」
「き、貴様……!」
それでも、否定することはできない。
「その代わりに、アタイはな、ラルフに王に戻ってもらわないといけねぇんだよ。」
「ラルフ、前魔王様……?そんな子供に何ができるって言うんだよ!」
「子供ではあるが、彼にしかできないことがあるんだよ。」
ぐるりと回って、さっきまで椅子に向かって話をしていたチェレスさんは、再び兵士に面を向かった。
「狂神の相手は、アタイら家族では彼しかできない。」
「狂……神!?」
「その名前を聞いたことがあるんだろ?そいつがこれまでに攻めてこなかった理由、わからなかったのか?」
「そ、それは……攻める必要もない、から、なのでは?」
「いいや、違う。断じて違う。」
「――!」
きっぱりと言い切る。
「アタイは教えてもらったんだ。彼が狂神に争う姿を……彼が王でなければ、狂神はとうにこの国を……アタイが愛するアリアを滅ぼしたんだろう。」
「な、何を根拠に……!」
「現にカルカッサのやつは狂神の意のままに操られているんだろ?」
「へっ、誰が教えたのかは知らんが、それは大いに違っているね。」
「ほう?」
「王は、自らの頭で考えをし、自らが下した決断を、誰よりも、何よりも大事にしている。それなのに狂神の意のままだと?笑わせないでくれ。」
「では、この情報源を、教えてやろう。」
「何ッ!?」
隣に居たククレスを見た。もしかしたらククレスさんが教えたのでは?と、兵士が疑っている。しかし、ククレスさんは頷かなかった。
「レイチェル=ハーモス。この名前を聞いたことはないか?」
「レイチェル様?あの方が……あの方も内通者だったのか!?」
「それだけではないぞ?ここ最近のカルカッサは昔と違って、決断を下すのが早くなった。そして頭脳が明晰になっているって、聞いたことはないか?」
「そ、それは……!」
「まだ信じないか?ならば教えてやろう……」
手を大きく広げて、大きな声で叫んだ。
「ここに居る全員が、お前以外の全員が、カルカッサのやつの異変に気付いている。そうだろ?」
周りを見渡す。ククレスさんは頷く、そしていつの間にかテントの中に入ってきた兵士、そして数少ない小隊長たちも頷いている。
「な、なん、なな……!」
「だから、早く教えてくれ。」
「な、なにを?」
ここにきて、やっと怯える姿勢を見せた兵士。
「ラルフはどこにつれていかれる。」
「……」
ガクッと、地面に膝を付けた。
「アリアの、王宮に……」
涙何粒か落ちて、そしてやっと答えてくれた。
「そこで、カルカッサ様は……ラルフ様を処刑して、正式的に玉座に座るおつもりです。」
「でかした。皆のもの、聞いたんだろ?」
そして、手を高く上げる。
「ラルフを救い出し、今度こそ、アリアに平和を!」
周りから歓声が上がっている。
兵士の士気が、これまでにないほどに、高くなっている。
(つづく)




