第四十六話=蠢く闇
夜、戦の疲れがまだ取れずにいる。そのためか、今日の夜が余計に長く感じる。
姫様の部屋に来た。そこには当然のように横たわっている姫様と、俯いて眠っているラルフがいる。
あんまり戦っていなかったとはいえ、彼にとってはもう十分疲れたんだろう。
「……」
静かに、自分の外套を被ってやった。こいつは相変わらず、ただただサポートしていたが、それでも十分な力を消耗するだろう。いくら気に入らなくても、ここはさすがに労ってやらないと。
「ふぅ……」
小さな吐息をする。静かな寝息を聞いて、改めて彼もただの男の子だとわかった。疲れもするし、恐怖にも負ける。こんな彼にヤキモチ焼くなんて、さすがに大人げなかったのかも。
「姫様……」
小さな声でつぶやいた。姫様の体のあちこちには傷こそないものの、というよりなくなったものの、服がさっきと同じでボロボロだ。何があって姫様がああなってしまったのかはわからない、そもそもわかりようがない。だから今はただ……
しかし、やはり情けない。私一人だけでは姫様を救うことはできなかったんだろう。ラルフの力もないと、それに……夢の中に貰った、ユウシャさんの力もなければ、本当に、私は今頃あの世に居たんだろう。
体の中をめぐる、私の本来の力も今となっては全部消え去っていた。あれだけでは勝てなかった、すなわち私だけでは……
「……ッ!」
一粒の涙がこぼれ落ちた。やはり悔しい、勝ったとはいえ、やはり悔しい、すごく、ものすごく悔しい!
私だけの手で姫様を救いたかった。私だけの手で、力で、すべてを……!私が大事にするすべてを!守りたい!
「……」
窓の外に、何かがいる。何かがこちらを覗いている。
「何者だ。」
姫様やラルフが寝ているけれど、それに構えるはずもない。もしかしたら、その影は……姫様が眠っているときを狙っているのかもしれないから。
シャーンと、剣を抜いた。今度こそ、守ってやる。姫様だけでなく、ラルフも!
「グっ!!」
しかし、そう簡単にいかなかった。背後から、何かに撃たれたような感覚がした。首の付け根を狙われた。急いで背後に居るものの顔を確認しようとした。するとそこに居るのは……
(ケリ、ス……さん……!?)
声を出さなかった。出してはいけないと思っていた。
そして、私が再び目を覚ますと……私の体には傷らしい傷が一つもなかった代わりに。
「姫様、姫様!?」
急いで起きて姫様の安否を確認した。姫様は大丈夫のようだったけれど、隣で姫様の看病をしていたラルフは……
「ラルフが……まさか!?」
もしかしたら、攫われたのかもしれない。
………………
…………
……
「首尾は?」
「はい、完璧でございます。」
「ならいい。ラルフを取り戻したことを誉めてやろう。しかし、それだけでは足りなかったんだが。」
「例の、女性のことですか。」
「プリスティン=エリハイア、彼女の体に傷一つすら負えずに帰ってくるとは……どういうつもりだ。」
「そ、それが……彼女の体が、鉛のように重くて、鋼のように硬かったためでございます。」
「ほう、それは興味深い。だが……まぁ、今度のことは許してやろう。」
「はっ!あり難き幸せ!」
「もう通信を切るぞ、ケリス。」
「畏まりました、カルカッサ様。」
「ラルフが、連れてこられてしまった……!?どういうことだ、カルカッサ!オマエは、一体、何を考えてやがる!」
(つづく)
闇に紛れ、一人の男性が攫われた。
そして同時に、闇に紛れ、一人の女性が......




